異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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サン・ルイ、良かったなぁ!念願のスキンだぞ!しかもL2D!
今回のドレスシリーズも全部買ってしまいました…財布がまた軽くなりましたよ


136.地上の太陽

──中央暦1640年6月24日午後7時、旧クイラ王国『ザラーフ・クレーター兵器実験場』──

 

砂漠地帯の只中に位置する直径85kmにも及ぶ巨大クレーター。

周囲の環境も相まって居住には適さない地域ではあるが、今は多数の住宅や低階層ビルが幾つも立ち並んでいた。

まるでコピー&ペーストを繰り返したかのような同じ造りの建物ばかりだが規模自体はかなりの物で、主要都市郊外に広がる住宅街にも匹敵する程だ。

しかしそんな街並みには人影は一切無く、通りの所々に明らかに通行の邪魔になるであろう半球形のコンクリート塊が置かれているのみだ。

 

「なんと…こんな街並みを砂漠のど真ん中に造るとは…」

 

クレーターから凡そ30km離れた地下に作られた分厚い鉄筋コンクリート製シェルターの中に設置されたモニターを見ながら、フィアームは驚嘆したように呟いた。

ベニヤ板を組み合わせて造ったハリボテではなく、ちゃんとした建材を用いて建設されたのであろう街並みは住む事も可能であろう。

 

「これを…今から破壊するのですか?」

 

「もったいないでしょう?ですが、何もない荒野や簡単に倒壊するハリボテでは意味がありません。市街地で使用した場合の破壊力を検証する為には、こうするのが一番なんですよ」

 

確認するようなフィアームの言葉に、指揮官が苦笑しながら応える。

実を言えば魔石爆弾『トラペゾヘドロン』の実験を行う為にクレーター内に市街地を建設したのだが、彼女達使節団が来訪する事が決定したため先延ばしになっていた。

しかしながら標的も爆弾も直ぐに使える状態であった為、今回の急な実験にも対応出来たのだ。

 

「ですが、災害時の仮設住宅建設の訓練にもなりますし、第四文明圏参加国の建築技術向上の為の研修にもなります。あとは市街地戦の訓練にも使えるので決して無駄ではありません」

 

「なるほど…」

 

その言葉を聞いたフィアームはますます感心した。

どうやら彼らアズールレーンはただの暴力装置ではなく、人命救助や生活水準向上にも貢献しているようだ。

 

「随分とカメラの画角が狭い。周囲の状況が見辛いのはいただけないね」

 

「おそらくは、円筒形の強化ガラスを嵌め込んだシェルターの中にカメラを設置しているのだろう」

 

そんなやり取りをする二人の側にあるモニターの前にはメテオスとテュポーンが座っていた。

メテオスはモニターと共に置かれたジョイスティックを前後左右に動かし、ズームしたり別視点のカメラに切り替えたりしている。

 

「はい…はい…指揮官。爆撃機が空域に到達しました。現在はクレーター上空にて旋回して待機、いつでも投下可能だそうです」

 

「例の試作型戦略爆撃機だな?ランカスターやMe264をも上回る性能…まさか、通常爆弾より先に特殊爆弾を抱える事になるとはな」

 

シェルターの片隅に置かれた電話の受話器を耳に当てて話していたケルンが、受話器を置いて指揮官にそう伝える。

その言葉を聞いた指揮官は、ジョイスティックに手を伸ばしてカメラを上空を撮影している物に切り替えた。

 

「…よく見えないな」

 

ポツリとメテオスが呟く。

日も殆ど沈み、暗い空に黒っぽい機体色も相まってその姿をはっきりと覗う事は出来ない。

しかし、旋回している機体を見ていると僅かな夕陽に照らされて幾つかの特徴を捉える事が出来た。

細長い胴体に、後退角の付いた長大な翼。その翼には、まるで双眼鏡のような物が左右合わせて4基吊り下がっている。

 

「あれは…」

 

「かなりの大きさだ。一瞬見えた窓の大きさから推測するに、全長は50m近く、幅はそれより長い。そして翼に吊り下がっている物はエンジンだな…空気の揺らめきが見えた。おそらく2基を一纏めにしている。我の見立てが正しければ、あれは8発の超大型機だな」

 

「50m!?しかも8発機!?」

 

目を細めどうにか爆撃機の姿を観察しようとするメテオスの横でテュポーンが腕を組んで自らの見解を口にし、フィアームが目を丸くして驚く。

 

「よし、投下準備。投下したら全速力で退避するように」

 

三人を横目に、壁に掛けられている無線機のマイクを取って爆撃機に向かって呼びかける指揮官。

 

《ピヨッ!》

 

指示を受けた爆撃機のテストパイロット…饅頭がヒヨコのような鳴き声で応える。

 

「さて…ではご覧下さい、メテオス殿。これこそが貴方が知りたかった真実…今更、目を逸らすのは無しですよ」

 

「…覚悟の上です」

 

謎の魔力波…その正体を目の当たりにする事となり、額に冷や汗が浮かぶ。

しかし、自分は魔帝に対抗する神聖ミリシアル帝国の技術者…魔帝に対抗する為の手段となり得るかどうか、それを見極めるのも彼の仕事だ。今更、恐れても仕方ない。

 

「よろしい。…間もなく投下です」

 

指揮官の言葉に、皆が一様に空を映し出したモニターに目を向ける。

先程までクレーターの外周に沿うように旋回していた爆撃機は進路を変更し、クレーターを一文字に切り裂くように真っ直ぐに飛んでいた。

 

──ゴクッ…

 

誰かが生唾を飲み込む音が静かなシェルター内に響いた。

その瞬間、何かが爆撃機から投下された。

暫く重力に従い落下していたが、それは後端から黄昏の空に映える純白のパラシュートを繰り出し、一気に減速する。

 

「ほう…」

 

テュポーンの感心したような声。

モニターが捉えている落下物は、卵型の胴体に短い円筒形の安定翼が付いた鈍色の爆弾だ。

パラシュートによりゆっくりと落下して行く爆弾…それを尻目に全速力で安全圏までの離脱を行う爆撃機。

静寂の中、緩慢に落下する爆弾を見守る…永遠に続くと思われた時間は不意に終わりを告げた。

 

──プツンッ…

 

全てのモニターが真っ白になり、その内側の幾つかが砂嵐に切り替わった。

それはクレーター中心部から半径6kmの範囲に置かれたカメラから送信される映像を映し出した物だった。

 

──ズゥゥゥゥゥゥゥン……

 

そして静寂が支配していたシェルター内に響く地響き。しかし、その地響きに反応した者は居なかった。

何故なら、全員が一つのモニター…クレーター外縁部に設置されたカメラの映像を映し出しているものに釘付けだったからだ。

 

「あ…れは…」

 

顔を真っ青にし、冷や汗を滝のように流しながら唇を震わせるフィアーム。

彼女の目に映るのは、まるで大災害でも発生したかのように損傷した街並み…それはクレーターの中心に近付くにつれてより激しい損傷となり、火の海となっていた。

 

「なんだ…あの雲は…?何故だが…酷く…おぞましい物に見える…」

 

ワナワナと震えるメテオスが見ているのは、空高く聳えるまるでキノコのような形の雲。

しかし、そんな二人よりも深刻な状態だったのがテュポーンだ。

 

──ドサッ…

 

「グッ…なるほど…こうなるか…」

 

「テュポーン…?だ、大丈夫かね?」

 

片膝をつき、こめかみを押さえるテュポーンを心配するメテオス。

それを見た指揮官は頷きながら、しゃがみこんだテュポーンに目線を合わせるようにしゃがんだ。

 

「あれこそ、我々が開発した魔石爆弾『トラペゾヘドロン』。高純度の魔石が一定の密度に達した際に発生する熱と光を利用した兵器です」

 

「はぁ…はぁ…それだけでは…ないだろう?」

 

まるで貧血にでもなったかのように息を荒くしながらも、椅子に掴まってフラフラと立ち上がるテュポーン。

それに頷きながら指揮官は説明を続けた。

 

「破壊力はご覧の通り…高熱によりプラズマ化した大気が一気に膨張し、熱線と爆風…それに伴う火災と破片が大破壊を巻き起こします。ですが、それとは別に副次効果も存在します」

 

「副次…効果ですか…?」

 

恐る恐る問いかけるフィアームに頷く。

 

「"周囲の魔力を吸い取ってしまう"のです。おそらくは爆心地の魔力すらも反応し燃え尽きてしまう事により、謂わば真空状態のようになってしまう為だと言われていますが…まだ全ての実験や検証が済んだ訳ではないので何とも言えませんが」

 

そこまで説明すると、テュポーンの方に目を向ける。

彼女は、メテオスの手を借りながらどうにか椅子に座ってぐったりとしている。

 

「テュポーンがこうなったのもそのせいです。おそらく彼女は人間とは比べ物にならない魔力を有し、それを動力としているのでしょう。爆心地から十分離れていても魔力を吸い取られてしまい、こうなったのかもしれません。人間で言えば、大量出血したようなものです」

 

「ふん…まさか『コア魔法』よりも質が悪い代物だったとはな…」

 

顔色を悪くしながらも、楽しげな笑みを浮かべるテュポーン。

彼女からすれば、新しい技術を目の当たりにした事が嬉しいのだろう。

しかし、そんな中でフィアームは心底驚愕していた。

 

(なっ…!魔力を吸い取ってしまうだと!?そうなれば我が国の軍事力はおろか、ライフラインすらマトモに動かなくなってしまう!)

 

そう、神聖ミリシアル帝国は車両や航空機の動力は勿論、発電所や水道設備に至るまで魔法技術を用いている。

もしこの魔石爆弾がミリシアル国内に投下されれば最期、ムーから輸入した僅かな科学技術製品を除いた全てが止まる事になってしまう。

そうなればミリシアルは世界最強国家から転落し、文明圏外国と変わらぬ程度まで落ちてしまうだろう。

 

(た、確かに魔帝に対しては凄まじく効果的だろう…しかし、この兵器は我が国に対しても効果的だ!いかん…この兵器をチラつかせて恫喝でもされれば…)

 

祖国が新興国に恫喝されるという屈辱的な未来を予想するフィアーム。

しかし、彼女の考えはとある言葉により掻き消された。

 

「そうですね…研究用に3発で如何でしょう?」

 

「…はい?」

 

何の脈絡もない指揮官の言葉に、思わず間の抜けた声が出てしまった。

 

「何の事…ですか?」

 

怪訝な表情で指揮官に問いかけるメテオス。

それに対する答えは余りにも予想外過ぎるものだった。

 

「今、ご覧頂いた魔石爆弾ですが…3発、貴国に差し上げます。流石に無料で、とは行きませんが…どうです?」




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