異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

19 / 253
今後、登場する兵器の予告みたいなもんです
テキトーに読み流して下さい


18.合同会議

──中央暦1638年5月20日午前9時、サモア・ウポル島、工業地区──

 

「それじゃあ、第…何回か忘れたけど科学技術部・企業合同会議を始めるにゃ」

 

工業地区の片隅にある、無駄な箱物筆頭の『工業地区集会所』の会議室で緑色の髪に猫耳を持った小柄なKAN-SEN、明石が会議の開始を宣言する。

通称、合同会議。それはサモア基地直轄の科学技術部と、民間企業がお互いにアイデアを出し合い、それを実現する為に技術を持ち寄ると言ったものである。

 

「今回の議題は……これにゃ!」

 

明石がリモコンを操作する。すると、スクリーンにプロジェクターでスライドを投影した。

『対ロウリア戦における兵器運用の問題点と、対パーパルディア皇国を想定した兵器の開発方針について。』

と表示された。

 

「みんなも知っている通り、対ロウリア戦でクワ・トイネに提供した兵器を実戦使用したら色々な問題が出たにゃ。指揮官はこれを、仮想敵に定めているパーパルディア皇国との戦闘の前には解決したいと考えているみたいだにゃ。」

 

次のスライドを投影する。

 

『以下の問題点を確認。

・威力過剰

スコープドッグに搭載している30mmヘヴィマシンガンでは、歩兵に対してオーバーキルである。

よって、7.62mmあるいは12.7mmの対人機銃を開発の必要があると考える。

 

2.陸戦兵器の不足

陸戦兵器はスコープドッグ、装甲列車が主でありコンパクトかつ柔軟性のある陸戦兵器が必要である。

具体的には、戦車や装甲車等。

 

3.対地攻撃機の拡充

対ロウリア戦では使用しなかったが、B-25では過剰火力かつ柔軟性に欠ける。

その為、単発攻撃機あるいは爆撃機が必要である。

 

4.長距離進出が可能な航空機

戦略爆撃機としてだけではなく、旅客機や哨戒機として使用可能な大型航空機が必要と考える。

 

5.外洋艦隊の設立

巡洋艦、空母、戦艦を配備した外洋艦隊をもってシーレーン防衛に充てる。

また、将来的には潜水艦の配備も想定する。

 

といった内容である。

 

「色々、細かい問題や要求はあるけど、大まかに分けるとこんな感じにゃ。誰か意見はあるかにゃ?」

 

明石の言葉に手が挙がる。

黒髪に同じく黒い狐耳に、薄い緑色の着物を着たKAN-SEN…夕張だ。明石と同じく、サモア基地の科学技術部に所属している技術者だ。

 

「1についてだけど…12.7mmM2重機関銃を補強し、冷却設備を追加する程度でいいんじゃないかな?新しく設計するよりも、ヘヴィマシンガンの外装を流用して機関部や銃身を替える程度の方がコスト的にも安上がりになる。」

 

夕張の言葉に出席者が頷く。

 

「夕張の意見に賛成かにゃ?それじゃあ、次の問題点に移るにゃ。」

 

明石がレーザーポインターで、『2.陸戦兵器の不足』を指す。

 

「これは由々しき問題にゃ。今まで対セイレーン戦を前提としてきたサモアには戦車の数が少ないにゃ。今後、ロデニウス大陸を守るには大口径火砲と重装甲を備えた機動兵力と、それに歩兵を追随させる戦闘車両…つまり各種装甲車両の開発が急務にゃ。誰か、アイデアはあるかにゃ?」

 

明石が問いかけると、皆一斉に端末を操作する。

今、彼らが操作している端末はとあるデータベースに接続されている。

 

──人類技術保全情報群…かつての戦争により、全人類の90%が死亡した世界にて生き残った人類の希望となったデータベースである。

戦争以前のあらゆる技術、文化、情報が記録されたマイクロフィルムや文書は荒廃した世界を復興させる最大の要因となった。

結果、人類は驚くべきスピードで復興を成し遂げた。だが、記録されていた技術は平和的な物ばかりではなかった…

 

そう、データベースにはあらゆる兵器が記録されていた。

古くは投石機から、最新鋭のステルス戦闘機まで…あらゆる兵器の製造法やスペックが事細かに記されていた。

本来、最高機密である筈の最新鋭兵器の詳細がなぜ記録されているのか?疑問は尽きねど、一つだけ分かる事があった。

『この兵器達を復活させる事は危険だ』と…

故に、軍事技術は慎重に復興された。

だからこそ、サモアが元々あった世界は歪んだ世界だった。

携帯電話を持って話す警官はサーベルを腰に帯び、人々がスマートフォンを使って撮影する対象は前弩級戦艦であるなど、技術体系に歪みのある世界だった。

 

そのように軍事技術開発に様々な制限が掛けられていた為、データベースには特殊なプロテクトが施されており、限られた技術のみが閲覧出来る状態となっていた。──

 

そんな状態であるため、技術者達は閲覧出来るデータベースから様々な技術を掘り起こし、組み合わせながら要求に則した兵器をこの場で作り出そうとしているのだ。

因みに、データベースに施されたプロテクトは目下ハッキング中であるが状況は芳しくないようだ。

 

「それにしても、強固なプロテクトだにゃ…四大勢力の上層部は余程、かつての兵器を恐れているみたいだにゃ…」

 

「それは仕方ない話だぞ、明石。噂によれば、国一つ滅ぼす程の特殊爆弾の存在があったそうだから。」

 

「データサーバーはあるのに、手出し出来ないのは焦らされてる気分にゃ…」

 

マイクロフィルムや文書をデータ化した物を納めたサーバー自体は、サモアを始めとした各基地に設置されていた。

しかし、プロテクト解除は厳重に管理されており四大勢力の上層部が、それぞれ保有する電子キーによってのみ解除出来るとされている。

 

「スコープドッグだって作業用機械という名目で配備が許されていたんだぞ?あれより、先進的な兵器の情報を得るのは難しい…むむむ…」

 

明石と夕張がデータベースの厳重過ぎるプロテクトについて頭を抱えていると、各企業の技術者間による検索と、話し合いの結果が出たようだ。

一人のユニオンの技術者…どちらかと言えば科学者チックな白衣の男性が立ち上がる

 

「一先ずは、データベースにあった『M4中戦車シャーマン』と『M3ハーフトラック』を提案します。シャーマンは戦車としては勿論、車体を流用し自走榴弾砲に改装された実績もあるので生産ラインを一元化出来ます。また、ハーフトラックは戦車部隊に歩兵を随伴させるには十分な性能だと考えられるのでこちらにしました。」

 

「分かったにゃ。後で詳しく纏めて指揮官に送り付ければいいにゃ。」

 

会議というには余りにも大雑把だが、あくまでも基本方針を定めるのみであるため、詳細は時間をかけて煮詰めていくのだ。

 

「次は…3の単発攻撃機は九九艦爆でいいだろ?って指揮官が言ってたにゃ。下手に生産ラインを増やさずに済むなら、これが一番だと思うにゃ。」

 

明石の言葉に同意する参加者一同。

 

「次は4の…」

 

「それは私にお任せあれ。」

 

食い気味にヘソ出しルックに白衣、レンズが左右それぞれ3つも付いた珍妙な眼鏡を掛けた長身の男…通称、ドクと呼ばれる鉄血の科学者が立ち上がる。

 

「『Me264』!これは凄いですよ!航続距離15,000km、爆弾搭載量3,000kg!どうですか、これなら指揮官殿のお眼鏡にもかなうでしょう!」

 

「あ…あの…航続距離は及びませんが、爆弾搭載量10,000kgの『ランカスター』も…」

 

ドクのテンションに気圧されながらも、ロイヤルの女性技術者(メイド)が遠慮がちに提案する。

 

「わ…分かったにゃ。ともかく、指揮官への…」

 

「お任せあれ!」

 

明石の言葉を聴き終わる前にユニオンの技術者…タービン関連専門の技術者の襟首を掴んで、走りって行くドク。

 

「鉄血人はキャラが濃いにゃ…」

 

「我々、重桜も人の事は言えないぞ?」

 

「主に愛が重い勢のせいにゃ…それじゃあ、5は…」

 

明石が会場を見渡すと、一人の男性が手を挙げた。

着崩した着物にサラシ、無精髭とゴツゴツした手…刀匠にしか見えない重桜の技術者だった。

 

「巡洋艦と空母は船体を流用出来るユニオンの、『クリーブランド級』と『インディペンデンス級』で良いだろう。戦艦は…『金剛型』でどうだろうか?少なくとも35.6cmの主砲があれば十分な戦力だろう」

 

「分かったにゃ、とりあえず一通り意見が出たから…」

 

明石が、その長い袖から電卓を取り出す。

 

「予算配分の草案を作るにゃ!」

 

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」

 

先ほどまでの、緩い会議はどこへやら。さっさと終わった兵器開発の話はそっちのけで、予算会議は深夜遅くまで続いたという…




ちょっと忙しいので次回の投稿遅れます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。