異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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皆さんも熱中症には気をつけて下さいね


189.欺瞞作戦

──中央暦1642年4月24日午前10時、神聖ミリシアル帝国カルトアルパス──

 

参加国の代表団が指定された席に着き、いよいよ本日の会議が始まるという頃、開会を宣言する為に議長が登壇した。

 

「皆様、本日は実務者協議の予定でしたが急遽予定を変更させて頂きます」

 

司会者の発言に場がざわめく。

 

「昨日、我が国の西にあるマグドラ群島がグラ・バルカス帝国所属と見られる艦隊によって奇襲攻撃を受け、"地方隊"が被害を受けました」

 

ざわめきは一層大きなものとなり、会場全体が動揺の渦に飲み込まれているのが良く分かる。

そんな中、議長はあくまでも冷静に言葉を続けた。

 

「テロ対策としてこのカルトアルパスには魔導巡洋艦8隻が警備に就いておりますし、周辺の空軍基地に所属する天の浮舟部隊が上空を警戒するので問題はありません。しかし、グラ・バルカス帝国がこの地にも奇襲を仕掛ける可能性がある以上、我が国はホスト国として皆様の安全を確約する必要があります。ですので、本日の夕方までに護衛艦隊と代表団の皆様は東海岸の都市『カン・ブリッド』への移動をお願い致します」

 

各国代表団にはそう説明しているが、実際は異なる。

各国へはあくまでも"地方隊が被害を受けた為、万が一を考えて場所を移そう"と説明しているが、実際は"第零式魔導艦隊が全滅させた相手が来るかもしれないから即効逃げろ"である。

ホスト国として虚偽の情報を伝えるのは如何なものかと思われるだろうが、"世界最強"という看板を背負っているミリシアルとしてはそれ相応のメンツを保たねば国家戦略に関わってくるのだ。

しかし、何も伝えずに各国の護衛艦隊や代表団が被害を受ければ、それこそ面目丸潰れである。

そういった事情から、ミリシアルはこのような説明を行い、各国に避難するように求めたのだ。

 

「何を言うか」

 

各国代表団がどうするかを内輪で話し合っていると、大柄な人影が立ち上がりながら怒りを含んだ低い声で発言した。

エモール王国代表のモーリアウルだ。

 

「あの無礼な新参者が攻撃して来たから尻尾を巻いて逃げる…だと?我々は世界に名だたる強国であるのだぞ。堂々としていればよい。それに、この場には各国の最新鋭の艦船を含んだ精鋭の護衛艦隊が居るではないか。連中が襲ってきたとしても、皆で返り討ちにすればよい。我が国は陸路で来ているため艦隊は無いが、控えの風竜騎士22騎を投入しても構わぬ」

 

「おぉ…」

 

エモール王国の風竜と言えばこの世界屈指の航空戦力だ。

500km/hにも及ぶ速度と、不可視の圧縮空気弾による攻撃、更には視覚に依らぬ特殊な探知能力を持つ事からその戦闘力はミリシアルの天の浮舟にも匹敵するとまで謳われている。

そんな風竜騎士団がミリシアル空軍と戦列を並べると表明しているのだ。この時点でカルトアルパスの空は何人たりとも犯せぬ聖域になったも同然だ。

 

「わ、我が国も無礼なグラ・バルカス帝国を罰する為ならば、喜んで手を貸しますぞ!風竜騎士団に比べれば微力でありましょうが、最新鋭の戦列艦7隻。この戦力があれば奇襲でもされない限りは負けますまい!」

 

中央世界に属するトルキア王国もエモール王国に賛同する。

尤も、トルキア王国はエモール王国と同盟を組んでいる為、同国のこうした行動は当然の事だろう。

 

「我が国としてもエモール王国、トルキア王国、両国の考えに賛成です。我が国が属する第二文明圏ではグラ・バルカス帝国が我が物顔で暴れ回っております。調子に乗っている連中は痛い目を見ねば増長したままでしょう…我が国の艦隊もグラ・バルカス帝国懲罰の為に参戦致しましょう」

 

第二文明圏国の一つであるマギカライヒ共同体も参戦を表明した。

それに続いて同じく第二文明圏国であるニグラート連合もそれに続く。

 

「我々も、もちろん参戦致します。連中は以前より上から目線で我々に対して不平等条約を押し付けようとしているのです!連中の鼻っ柱をへし折る為なら、喜んで艦隊を出しますよ!ところで…自由フィシャヌス帝国と、ロデニウス連邦は如何されるおつもりで?」

 

期待感に…正確には列強国であるパーパルディア皇国を下したロデニウス連邦に対する期待感を抱いた視線を向けるニグラート連合の代表。

 

「皆様もご存知の通り、我が国は前身であるパーパルディア皇国とロデニウス連邦・アズールレーンとの戦争により多くの戦力を失った状態です。現在はロデニウス連邦からの支援により国土防衛に必要な戦力こそ確保出来ていますが、積極的に他国と矛を交える余力はありません。故に、ホスト国であるミリシアルの指示に従い、我々はカン・ブリッドへ移動しようと思います」

 

挙手しながら発言したのは、自由フィシャヌス帝国代表として参加していたエルトであった。

ホスト国の要請に従うという姿勢は一般的には正しい行動であろう。

しかし、この場においてはそうではなかった。

 

「ふん…敗北を知って牙を抜かれたか。まあ、良い。少なくとも私は貴国に期待していない。問題は…ロデニウス連邦、貴国は如何する?」

 

エルトに対して失望したような目を向けたモーリアウルは、続いてロデニウス連邦代表であるリンスイに目を向けた。

 

「此度派遣された護衛艦隊は我が国の海軍ではなく、第四文明圏防衛軍アズールレーンが務めております。我々が要請しても艦隊司令の戦略・戦術判断により、参戦を見送る可能性がありますが…」

 

「その必要はありませんよ」

 

国際社会からの目と自国の世論の事を考え、慎重に言葉を選びつつ発言していたリンスイの言葉を遮るように、別の男の声が議場に響いた。

代表団達が一斉にその声の方向を向く。

そこに居たのは、紺色のカッチリとした軍服を着用した大柄な人族の男性であった。

 

「皆様はミリシアルの指示に従い、即効カン・ブリッドへ移動すべきです」

 

「な…何ですか、貴方は?」

 

軍人らしき男の言葉に対して戸惑ったような言葉を放つニグラート連合の代表。

それに対し男は軽く頷くと、ロデニウス連邦代表団の席の傍らに控えた。

 

「申し遅れました。私はロデニウス連邦国防軍上級大将にして、第四文明圏防衛軍アズールレーンの総指揮官を務めております、クリストファー・フレッツァと申します。以後、お見知りおきを」

 

そう名乗った男…指揮官に人々の視線が再度集まる。

 

「あれがパーパルディアを滅ぼした組織の…」

「若い…まだ30にも届いてないんじゃないか?」

「あんな艦隊を引き連れているのに、何と弱腰なんだ」

 

次々に指揮官に対しての印象を小さく口にする各国代表団。

 

──ダンッ!

 

ざわめく議場の中でも一際大きく響いた音…それはモーリアウルが机に掌を叩き付けた音であった。

人々は間違いなく、モーリアウルが怒っていると思った。

グラ・バルカス帝国の代表からは亜人と罵られ、そんな連中を罰してやろうという雰囲気になりつつあったのにポッと出の若造から逃げるべきだと忠告された…もはや彼の苛つきは頂点に達していてもおかしくは無い。

そう思ったからこそ、人々は今から落ちるであろう雷に備えて体を縮こまらせたのだが…

 

「何をしている!さっさとカン・ブリッドへ向かうぞ!」

 

「「「「え…?えぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」

 

ミリシアルの要請を受け入れなかったというのに、若造の言う事をあっさりと受け入れたモーリアウルに参加者全員が驚愕の言葉と共にズッコケた。

 

「いやいや!今、皆でグラ・バルカス帝国を罰するという雰囲気でしたよね!?」

「というか、モーリアウル殿が言いだしっぺでしょう!?」

「お労しや…モーリアウル様…」

 

「えぇい、クドいぞ!グズグズするな!」

 

対グラ・バルカス帝国戦への参戦を表明していた国々の代表団がモーリアウルに詰め寄るが、彼はそれを封殺するように荷物を纏め始めた。

無論、モーリアウルとて自分と同族を侮辱した連中をギャフンと言わせたい気持ちはあるが…

 

「……」

 

「…?」

 

無言でチラチラと指揮官に視線を送る。

それに対して指揮官は頭に疑問符を浮かべる事しか出来ない。

何故モーリアウルがそのような行動をしているのか?それは外交官失格な個人的事情から来るものだが、それは彼の名誉の為に伏すべきであろう。

 

「ふむ…フレッツァ殿。何故、これだけの戦力がありながら退避を推奨するのか…理由をお聞かせ頂けますかな?」

 

混沌とした様相を呈してきた議場の中で、冷静さを保っていたムー代表オーディグスが問いかける。

その問いに指揮官は頷きながら答えた。

 

「はい、実は私がグラ・バルカス帝国艦隊が襲撃してくる可能性があるという情報を手にしたのはつい先程…ミリシアルの軍関係者から伝えられたのです。その際、その方は"とある作戦"に協力して欲しいと…」

 

「"とある作戦"?」

 

首を傾げるオーディグス。

そんな彼に指揮官が歩み寄る。

 

「はい。その作戦の肝は適材適所…つまり、グラ・バルカス帝国艦隊の襲撃を万全な状態で迎え撃つ為に、各国の艦隊の利点を活かした布陣を敷くのです」

 

そう言うと指揮官は、手帳を取り出してページを一枚破って机に置いた。

 

「先ず、護衛艦隊の中で最も数が多い戦列艦は多数の大砲を一斉射する為に戦列を整える必要があります」

 

破ったページに緩やかな弧を描き、それに戦列艦隊と書き加えた。

 

「対して我々やムー、ミリシアルが保有する艦船は回転砲塔を搭載している為、戦列を組まずともある程度の火力を発揮する事が出来ます。簡単に言えば、その場で堂々と構えて敵を圧倒する要塞が戦列艦隊、獲物を追い立てて弱らせる猟犬が回転砲塔艦です」

 

続いて描いた緩やかな弧の内側に真っ直ぐな線を引いて、回転砲塔艦と書き込んだ。

 

「なるほど…つまり、戦列艦が待ち構え、そこへ我々や貴殿らの艦隊が敵艦隊を追い込むと…?」

 

「理解が早くて助かります。それにしてもこの作戦を考えたミリシアルの方は素晴らしい。我々の艦隊に追い立てられた先に多数の砲門を備えた戦列艦があったら、連中は腰を抜かしてしまうでしょう。あ…もしや、この作戦がグラ・バルカス側に漏れないような処置を取っていたり…しましたか?」

 

心底感心したような言葉の後に、ハッとしたような表情を浮かべて議長に目を向ける指揮官。

それに対し議長は、数秒程思考した後に何度も小さく頷いた。

 

「あ…あぁ、フレッツァ殿。それは構いませぬ。上からは各国が交戦の意思を示した際には、その作戦を伝えよと指示されていましたから。ははは…」

 

ぎこちなく笑みを浮かべる議長だが、その表情はどことなくホッとしているようだ

そう、これは各国護衛艦隊を退避させる為に指揮官が考えた方便だ。

確かにミリシアルの軍関係者からグラ・バルカス帝国艦隊の情報は伝えられており、ムーのラ・ツマサが経験した並行世界の情報と照らし合わせ、かの国が襲撃してくるというのは間違いないと判断した。

しかし、そうなると問題なのが各国護衛艦隊だ。

確かにこの世界においては間違いなく屈指の戦力が揃ってはいるが、如何せん技術レベルや戦術ドクトリンが違い過ぎて協調する事は不可能と言っても良い。

それならばいっそあらゆる面で劣る戦列艦を離脱させ、比較的似通った性能の艦船で統一した方が合理的である。

しかもそういった戦列艦の被害を無くせばグラ・バルカス帝国の、「各国の精鋭を完膚無きまでに撃滅する事で、各国と会議ホスト国であり世界最強国であるミリシアルのメンツを潰す」という目論見を外す事も出来るのだ。

 

「な…なるほど…」

「確かに後ろからミリシアルの艦隊に追い回され、その先に我々の艦隊が待ち伏せをすれば…」

「連中、馬鹿な事をしたと後悔するでしょうね」

 

「うむ、やはりフレッツァ殿とミリシアルの言葉に従うべきだろう。我々は堂々と待ち受け、あの無礼な野蛮人に目に物見せてやろうではないか!」

 

各国代表団は指揮官によってでっち上げられた"作戦"に乗り気らしい。

特にモーリアウルは満足気に何度も頷いていた。

 

「よし…では、皆様。そうと決まれば一刻も早くカン・ブリッドへ向かい、どの艦隊がどの海域を担当するかを話し合うべきではありませんか?」

 

そんな指揮官の言葉を聞いた各国代表団は直ぐ様荷物をまとめ、自国の艦隊へと連絡を入れたのであった。




本当にそれでいいのか、モーリアウル

今後、お色気シーンは…

  • 今より増やせ
  • このぐらいでいい
  • もう少し減らしていい
  • もっと減らして
  • 無くていい
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