異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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やっぱり空戦の描写って難しいですねぇ…
某とある飛空士クロスの描写を見習いたいものです


194.カルトアルパス沖空戦【2】

──中央暦1642年4月25日、カルトアルパス沖──

 

「第7制空戦闘団、応答せよ。…繰り返す。第7制空戦闘団、応答せよ」

 

第7制空戦闘団の上空を先行するムー航空隊に混ざって飛ぶ『ジグラント3』のコックピットで、パイロットであるオメガが魔信に向かって呼びかけていた。

 

《ブツッ…ブツッ…ブツッ…》

 

しかし、返ってくるのは通信拒否を示す小さなクリック音のみだ。

 

「…随分と嫌われたな。だが、こういう時ぐらいは聞いて欲しいものだ」

 

呆れたように呟くオメガの視線は広がる青空ではなく、コンソールに取り付けられた小さなレーダー画面に向けられている。

そこに映るのは幾つもの光点…低空に展開している攻撃隊を狙う者を奇襲する為に高空に展開しているグラ・バルカス戦闘機部隊を捉えたものだ。

 

「確かエルペシオ3にはレーダーは搭載されていなかった筈…おそらくは気付いていないのだろうな。仕方ない…」

 

肩を竦め、魔信に取り付けられたダイヤルを切り替えて無線モードにする。

 

「此方、神聖ミリシアル帝国離島防衛隊航空隊長オメガ・アルパだ。ムー航空隊、応答せよ」

 

《此方ムー海軍コルセア隊隊長、ヤンマイ・エーカーだ。オメガ殿、話は前方の敵機についてか?》

 

「ヤンマイ殿、その通りだ。恥ずかしい話だが、我が国の天の浮舟にレーダーは搭載されていない。おそらく、下に居る第7制空戦闘団は気付いていないだろう。それに加え、私の通信も届いていない」

 

《いや、寧ろ当たり前のように機上レーダーを開発・量産しているロデニウスがおかしい。その件については我が国も貴国をとやかく言う権利は無い。だが、貴殿の通信を無視するとは…貴国も色々とあるようだな》

 

「面目ない」

 

苦笑しながらチラッとキャノピー越しにやや離れた位置を飛ぶムーのコルセア隊に目を向けるオメガ。

曲がった主翼と長い機首が特徴的な48機のコルセアだが、その内の6機は右翼に楕円形の膨らみを持っている。

夜間レーダーポッドを装備した夜間迎撃型だ。

本来はその名の通り、夜間攻撃を仕掛けてくる敵機を迎撃する為のものだが、ムーでは簡易的な艦載早期警戒機として運用しているのだ。

 

《では、どうする?》

 

「貴殿らはそのまま敵編隊に攻撃してくれ。私は第7制空戦闘団を狙う敵機を攻撃する。…よろしいか?」

 

《構わない。貴殿の機体は我々の機体よりも優速だ。そうする方が良いだろう。何より、彼らには敵対艦攻撃隊を撃ち落としてもらわねばならないからな》

 

「感謝する。では、また後で」

 

《武運を祈る》

 

通信を終わらせ、青空の彼方に見えるゴマ粒のような無数の黒点を睨み付ける。

その黒点の幾つかが、まるで零れ落ちるように低空へと降下して行く。

 

「やらせるか!」

 

──キィィィィィン…ゴォォォッ!

 

スロットルを開き、速度を上げる。

評価試験の為に何度か乗った事はあるが、やはりジグラント3の加速性はジグラント2はもちろん、エルペシオ3よりも優れている。

それを実感したオメガの口角は思わず吊り上がってしまう。

 

「っ…!いかんな…浮かれている場合では…ない!」

 

己に喝を入れ、照準器に映し出されたレチクルを敵機の未来位置に合わせて操縦桿に取り付けられたトリガーを引く。

 

──ドドドドッ!

 

機首下面に内蔵された3門の25mm魔光砲がカラフルなマズルフラッシュと共に爆裂魔法を封じ込めた砲弾を吐き出す。

一撃必殺の力を持つそれは、これまたカラフルな光の尾を引き…

 

──バキャァンッ!

 

第7制空戦闘団の無防備な背中に襲いかかるべく降下する敵編隊へ吸い込まれるように飛翔し、その内の1機の左翼をもぎ取った。

 

「まずは1機…」

 

僚機が撃墜された事に驚いたのか散開し、二手に分かれる敵編隊。

凡そ5機程がオメガの元へ殺意満々で迫ってくる。

 

「くっ…多勢に無勢か…誘導弾があれば良かったが…」

 

ミリシアル初の誘導兵器である『メリッソス』はまだ十分な数が行き渡っておらず、都市防衛隊の基地にも配備されていなかった。

それ故、魔光砲で対処せねばならない。

 

「第7制空戦闘団…なるべく持ち堪えてくれよ…っ!」

 

流石に5機もの敵機を引き連れたまま、第7制空戦闘団を襲撃する敵編隊を攻撃する事は出来ない。

一応、ムー航空隊にも目を向けたが彼らは既に敵本隊との戦闘に突入していた。

つまり、オメガ1人でどうにかしなければならないという事だ。

 

──ゴォォォッ!

 

操縦桿を引いて機首を上げ、急上昇に転じる。

敵機もそれと同時に機首を上げてオメガ機を追いかけるべく上昇して来た。

 

「ぬぅぅぅぅっ…!」

 

シートの背もたれに体が押し付けられ、肺から空気が絞り出される。

いくら酸素マスクをしているとはいえ、息苦しさに思わず顔を顰めるオメガであるが、勢いよくカウントアップする高度計が10000mを指した辺りで操縦桿を引き切って宙返りをして反転する。

 

「そこっ!」

 

──ダダダダダッ!

 

反転し、敵機と相対する形となったオメガの目に映ったのはヨタヨタと上昇する敵機…それを見逃す筈もない。

トリガーを引いて魔光砲を発砲する。

 

──ボンッ!ボンッ!

 

敵部隊の真正面にばら撒かれた砲弾は2機の敵機に直撃し、その爆裂魔法の力を以てジュラルミンの機体をズタズタに引き裂いてガソリンの誘爆を引き起こさせた。

 

「ふんっ!」

 

高高度の薄い空気のせいで思うように機動出来ない敵機を尻目に、そのまま敵部隊下方で宙返りして再び急上昇へ転じる。

 

「やはり、プロペラ機は高高度が苦手なようだ…なっ!」

 

──ダダダッ!ダダダッ!

 

無防備な背後に向かって発砲すれば、不得意な高高度での格闘戦に持ち込まれた敵機はロクに回避する事も出来ずに、空に爆炎の花を咲かせる事となった。

 

「よし…第7制空戦闘団は…?」

 

一先ず自らに対する危機を脱したオメガは首を捻って、第7制空戦闘団の安否を確認する。

 

「くっ…」

 

しかし、オメガの目に映ったのは爆散するエルペシオ3の姿だった。

 

「クソっ…!また、間に合わなかった…!」

 

奥歯が砕けそうな程に食い縛り、全身をワナワナと震わせて無力な己に憤るオメガ。

だが、そんな彼の視界の隅に何やら白い物が映った。

 

「…ん?あれは…」

 

群青の海に映える白い円形は物体…それは、パラシュートだった。

おそらく誰かが脱出に成功したのだろう。

 

「良かった…誰かは分からんが、生きていれば次がある」

 

絶望的な戦況に僅かな希望を見出したオメガは、ムー航空隊を掩護すべく主戦場へと機首を向けた。




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