異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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五里様より評価10、雲外鏡様より評価9を頂きました!

島風イベントも今日までですが、皆様は島風…手に入りました?
私は勿論手に入れましたし、シーズンパスも買ってMETA扶桑も手に入れました

シーズンパス…オススメですよ

というかナンバリングで200話到達しましたね


200.哀戦士達

──中央暦1642年4月25日、カルトアルパス上空──

 

煉瓦やコンクリートで造られた建物が建ち並ぶ区画整理された街並みを、屋根を掠める程の低空を何機かのプロペラ機が飛行している。

よく見ればプロペラ機は単葉機と複葉機の2機種が存在し、その内の単葉機は複葉機から追跡されている形だ。

 

「クバン、トーゴ、テレジア。敵機は8機、おそらくは対地攻撃用の爆弾を搭載した雷撃機だ。1人辺り2機を墜とすぞ。…やれるか?」

 

前方を飛行するグラ・バルカス帝国の『リゲル型雷撃機』の尻を睨み付けながら、それを追う形となっている4機の『ディープ・マリン』から構成される第一航空小隊の隊長であるアックタが無線機を通して隊員達に問いかけた。

 

《もちろんですとも、大佐。我らがやらねばミリシアルの子供達が連中に殺されますからね。体当たりしてでも止めてみせますよ!》

 

アックタの言葉に最初に応えたのは、副隊長でありアックタの同期であるクバンである。

彼は長距離飛行の記録を持ち、エンジントラブルに陥った際も上昇気流を利用して空港まで辿り着いた腕前の持ち主だ。

 

《…無論》

 

次に短い言葉で応えたのは、元郵便機パイロットであるトーゴだ。

彼はかつて郵便機を操縦している際に、レイフォルの脱走兵で組織された盗賊のワイバーンから襲撃された事があるが、機体の限界ギリギリを見極めた機動で非武装の郵便機でワイバーンをマニューバキルするという逸話の持ち主である。

 

《はんっ!アタシの孫ぐらいのガキンチョが居るんだってね!そんな事聞いて、黙ってられるかってんだ!》

 

最後に応えたのは、ムー唯一の女性パイロットであるテレジア。

先程紹介したトーゴが操縦する郵便機を襲った盗賊の討伐で活躍した経歴を持ち、ムーでは数少ない撃墜記録の持ち主だ。

 

「血気盛んでよろしい。だが、あえて言うが…死ぬなよ!」

 

《了解!》

 

ムー航空隊のベテランが揃ったドリームチームとも言うべき第一航空小隊の士気は非常に高い。

異国の民間人相手であっても、力無き者を守る為なら彼らは命を賭ける事も惜しまないだろう。

そんな頼もしい部下にアックタは激励の言葉をかけ、その言葉に3人は更に奮起したようだ。

 

「っ!回避!」

 

──ダダダダダッ!

 

前方のリゲルを注視していたアックタの目は、リゲルのキャノピー後端が瞬いたのを見逃さなかった。

防御用の機銃だ。

それを察知した彼は部下達へと回避を指示するが、彼らはやや食い気味に回避行動へ移っていた。

 

「ふんっ!」

 

勿論、アックタも回避する。

プロペラの反トルクを利用して機体を左側へロールさせれば、先程まで自機が居た場所に曳光弾による光のラインが引かれた。

もし、気付かなければ真正面から鉛玉を喰らっていただろう。

その様を想像するだけでゾッとする。

だが、アックタは同時に一種の高揚感も覚えていた。

 

(この感覚…久方ぶりだ…!)

 

異世界から転移してきたムーにはワイバーンや火喰い鳥と言った生物は居らず、長年侵略者達が駆るそれらに苦しめられてきた。

そんなムーが自分達が持つ優れた科学技術を以て空を目指すのは当然の帰結であり、アックタ自身もテストパイロットとして危険な目に遭いながらも無辜の民を守る為に尽力したという自負がある。

それ故か彼は危険が増す程に"燃える"性分であり、一歩間違えば死が待ち受けるこの状況を何処か楽しんでいるかのようだ。

 

「これが…我が最後の奉公!不遜なる者よ、受け取れ!」

 

機体を安定させ、トリガーを引く。

 

──ダダダダダダダダッ!

 

機首に装備された2門の12.7mm機銃が火を吹き、吸い込まれるようにして敵機へ曳光弾の光が伸びてゆく。

 

《うわぁぁぁぁっ!来るな!来るなぁぁぁっ!》

 

混線した無線から断末魔の悲鳴が聴こえる。

恐らくはアックタが狙った敵機のものだろう。

多少の防弾こそあるが、ディープ・マリンの低速性能と小回りを活かした張り付くような銃撃の前では余りにも心許ない。

アックタ機はリゲルの背後にピッタリと張り付き、苦し紛れの機銃をクルクルと避けながら主翼を執拗に狙い続ける。

 

《がっ……ザーー…》

 

短い悲鳴の後にノイズが聴こえたかと思えば、リゲルの主翼がもげるように脱落し、それを追うように胴体もカルトアルパスの通りへと堕ちていった。

 

「よしっ!次は…」

 

《えぇい!しっかりしな!このポンコツめ!》

 

次なる目標へ向かおうとしたアックタの目に映ったのは、黒煙を吐きながらヨロヨロと飛んでいるディープ・マリン…垂直尾翼にジャガイモの花を描いたテレジア機だ。

 

「テレジア!?」

 

《クソッ!やられちまったよ!ガソリンが漏れて酷い臭いだ!》

 

しゃがれた声で応えるテレジアだが、アックタは彼女の僅かな違和感に気付いた。

 

「テレジア、苦しそうだが…」

 

《あぁ…気付かれちまったかい。…腹わたが出ちまってんだよ。クソッタレめ…せっかく墜としたのに、最後っ屁をかまして…》

 

よく見れば、テレジア機からはガソリンと共に赤い液体が漏れ出している。

おそらく、敵機に致命傷を与えたものの生き残った機銃手が彼女を道連れにするために放った弾丸がガソリンタンクと彼女を穿ったのだろう。

 

「テレジア!今すぐに降りれそうな場所を探し…」

 

《バカな事言うんじゃないよ…こんなんで着陸なんて…ゴボッ!ゴボッ!》

 

無線機越しに水っぽい咳が聴こえる。

彼女自身、気付いているのだろう。

もう助からない…このまま着陸場所を探そうにも、その途中で息絶えてしまうだろう。

そうなれば、主を失った機は何処に墜ちるか分からない。

 

《…行きな。こんな棺桶に片脚突っ込んだババアの死に目に遭いたくはないだろ?》

 

「…すまん」

 

テレジア機の進行方向にはちょっとした広場があった。

滑走距離が短いディープ・マリンですら着陸は不可能な程の面積だが、幸いにも周囲の建物は頑丈そうなコンクリート造りだった。

それが何を意味するか理解したアックタは、唇を噛み締めながらムー航空隊の紅一点へ別れを告げた。




そういえば急な仕様変更でアズレンが荒れてましたが、牧場をやっていない私はあまり実感がありませんね…
ただ、確かに仕様変更するなら前もって予告はしてほしいものです

まあ、毎週燃料が4000と色々貰えるようになるので、それはありがたいですね

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