ムー編に入ります
とは言っても3~4話になると思いますが
20.第二列強・ムー
──中央暦1638年11月22日午前9時、ムー国アイナンク空港──
すっかり寒くなってきた外を眺めながら、技術士官マイラスは空港の小会議室で待機していた。
(しかし、わざわざ空港に呼び出すとは何事だ?)
滑走路上でタキシングしている『ラ・カオス』を眺めながら思考を巡らせていると、不意に扉が開かれた。
三人の男性…一人は軍服を着たマイラスの上司である情報通信部部長で、残り二人は服装からして外交官だろう。
「待たせたな、マイラス君。…彼が技術士官マイラス君です。彼は、最年少で第一種総合技将の資格を取得した新進気鋭の逸材なのですよ。」
部長が外交官の男性二人にマイラスを紹介する。
その紹介を、やや気恥ずかしく思いながらも外交官に一礼する。
「初めまして、技術士官のマイラスです。」
「うむ、よろしく頼む。」
外交官と握手を交わすと、手で着席を促されたためソファーに腰掛ける。
「さて…何と説明しようか。今回、君を呼び出したのは正体不明の国の技術水準を探って欲しいのだよ。」
「グラ・バルカス帝国ですか?」
正体不明の国と聞いて思い付いたのは、『第八帝国』或いは『グラ・バルカス帝国』と名乗る国家であった。
ムーの隣国、第五列強レイフォルを"たった一隻の戦艦で滅ぼした"とされる目下、危険視されている国家だ。
「いや、違う。」
もう一人の外交官が否定した。
「話によれば、第三文明圏外…東の果てにある『ロデニウス連邦』という国家らしい。」
「ロデニウス連邦…聞いた事がありませんね。」
「うむ、私も初めて聞く名だったのだが…10日程前に我が国の東の海上に現れた船を海軍が臨検した所、乗船していた特使がそのように名乗り新たに国交を開設したいと言ってきたんだ。」
マイラスは首を傾げた。
列強国の中では比較的温厚なムーと国交を開きたい、という国家は少なくない。
わざわざ、技術士官である自分を呼び出すような用件であるとは思えない。
すると外交官は、マイラスの疑問に答えるように話を続けた。
「その船がな…"機械動力船"だったのだよ。魔力探知も反応しなかったし、もちろん帆も無かった。」
「機械…動力船ですか?第三文明圏外に?」
「驚くべき点はまだある。我が国の技術力を示す為にここ…アイナンク空港を指定したのだが…彼らは"飛行許可"を願い出てきたんだ。」
「ワイバーンで来たのですか?」
外交官が首を振り、否定する。
「我々も初めは、そう思った。だが、違ったのだよ…彼らは"飛行機械"で飛んできたのだよ。」
「飛行機械!?そっ……それは、どんな!」
「落ち着きなさい、マイラス君。」
驚愕で思わず立ち上がるマイラスを宥める部長。それに気付いたマイラスが、気不味そうに座り直す。
「も…申し訳ありません…」
「いや、構わない。私も初めて聞いた時は驚いたさ。」
外交官が気にしていないとジェスチャーで示す。
「それで本題だが、君には彼らの案内役を勤めてほしい。」
「つまり…彼らに我が国の技術を見せて反応を見ると共に、彼らの技術に探りを入れろ…と?」
「その通りだ。我々は外交官、技術の事は畑違い…しかし、私も彼らの飛行機械を見たのだが、ラ・カオスよりも洗練されているように見えた。君も見てみるといい、空港の東側に置いてあるからな。」
「分かりました。案内役の任、全力をもって勤めさせて頂きます。」
そう言って、再び外交官と握手を交わした。
それから10分後、空港東側。
マイラスは、目の前にある飛行機械を見て立ち尽くしていた。
全長は20mを越える程度でラ・カオスと同じぐらいであろう。だが、幅は40mはあるのではないか?
巨大なエンジンに、スマートな胴体、機体の上下には二つずつコブのようなものがあり金属の筒…明らかに機銃の銃身らしき物が生えている。
「あれはおそらく、防御用の機銃だな…口径20mmはありそうだ。防御機銃があるという事は軍用機だな。それにしても、洗練された機体だ…かなり計算されて作られたのだろうな。」
マイラスが飛行機械…Me264の回りを彷徨きながら、ぶつぶつ呟いているのを野次馬が怪訝な目で見ていた。
──同日午前10時頃、アイナンク空港応接室──
──コンコン
マイラスが応接室の扉をノックする。
「はい。」
扉の向こうから低い声がする。
扉を開けると…二人、若い男女が居た。
男性の方は外交官というより、武官と言った方が正しいのかもしれない。
女性の方は、長い灰色の髪に鋭い目付き、両腕には籠手のような物を着用しており、座っていたソファーには華麗な装飾が施された細身の剣が立て掛けられている。
「初めまして、マイラスと申します。今回の会談までの5日間、ムーをご案内致します。」
笑顔を浮かべながら、手を差し出しつつ挨拶をする。
すると、男性の方が同じく手を差し出し握手をしつつ自己紹介をした。
「初めまして、クリストファー・フレッツァと申します。ロデニウス連邦にて外交官と指揮官を兼任しております。」
マイラスは、自らの手を握り返した手の力強さに少し驚きつつ彼…指揮官の人物像を推測する。
(若いのに外交官と指揮官か…指揮官って、軍の指揮官か?陸海空どの指揮官だ?)
マイラスが考えていると、指揮官が傍らの女性を紹介した。
「こちらは同じくロデニウス連邦より参りました、私の部下の『ダンケルク』です。」
「初めまして、紹介に預りましたダンケルクと申します。以後、お見知りおきを。」
紹介された女性…ダンケルクが右手を胸に当てて一礼する。
(ダンケルクさんか…すごい美人だ。部下とは言うが…外交官としての部下じゃないな。剣を持ってるなら、軍の指揮官としての部下か…)
一頻り思考を終えたマイラスは、二人に此からの予定を告げる。
「それでは、ムー国内の案内は明日からにして本日はホテルにご案内します。ですが、その前に是非ともお見せしたい物がありますので、ご案内致します。」
大型機では負けてるかもしれない。
だが、小型機…つまり、戦闘機なら負けてはいないだろう。そう考えたマイラスは二人を格納庫に案内するのだった。
──この後、彼の…ムーの自信が打ち砕かれるというのに。
四連装はロマン