今回は前々から書きたかった話を書いてみました
一応、フォーク海峡海戦の一連の流れが終わったこのタイミングしか捩じ込めないと思ったので…
──中央歴1642年5月15日午後2時、グラ・バルカス帝国工業都市ガルバリ──
グラ・バルカス帝国第二の都市にして、多くの工業製品が作り出される工業都市ガルバリの一角。
何処にでもあるような工場では、作業服を着た技術者達が祈るように両手を合わせていくつもの太いパイプを組み合わせた機械らしき物へ視線を注いでいた。
「えー…それでは第32回、新型エンジン稼働実験を開始致します。では、社長…」
「うむ」
しきりにメガネの位置を変えながら書類に書かれた内容を読み上げる技術者の言葉に応え、一人の老技術者が一歩前に出て謎の機械に繋がれた航空機用エンジンのスターターの前に立つ。
「諸君、今日こそこの新型エンジン…過給排気エンジン稼働の記念日としよう!」
老技術者が必死に祈る技術者達へ自信に満ち溢れた言葉を投げかける。
彼の名はアーザン・チャージャー、航空機用エンジン等に搭載する為の過給器で圧倒的シェアを誇る『チャージャー圧縮機製造』の代表取締役社長であり、主任技術者である。
彼はもう引退してもおかしくない年齢ながら若手技術者に混ざって日夜研究開発に没頭し、近年ではエンジン排気を利用した新型過給器も開発して最新鋭超大型爆撃機の実用に大きな貢献を果たしており、それに満足せずこれまでのエンジンとは一線を画す新型エンジンの開発を行っていた。
「よし、では…エンジン始動!」
──キュル…キュルキュルキュル!ドルンッ!ドルンッ!ドルンッドルンッドルンッ!
アーザンがスタータースイッチを押し、セルモーターが回転してエンジンが稼働する。
するとエンジンの回転がクランクシャフトを介して新型エンジンの内部に置かれた羽根車を回し、羽根車が回転する甲高い音を伴って周囲の空気を吸い込みながら圧縮してゆく。
──キィィィィィィィン!
「過給圧縮エンジン、燃料供給開始!」
「はいっ!燃料コック開放!」
アーザンの指示を受け、やや離れた位置に置かれた燃料タンクの側で待機していた技術者が燃料コックを開放し、新型エンジンへ燃料を送り込む。
──ボフッ!ボフッ!ボボボボボッ!
羽根車により圧縮され高熱を帯びた空気は、送り込まれた燃料といくつもの筒を束ねたような部分…燃焼室で混ぜ合わさり、点火プラグによって点火され、燃焼室後方にある排気口からバーナーのような炎となって噴出する。
──キィィィィィィィィィンッ!
──ゴォォォォォォォォォォッ!
「よしっ!動いたぞ!」
暫く不安定な挙動を見せていた新型エンジンだったが徐々に安定した動きとなって、最終的には羽根車の甲高い音と高速で吐き出される排気の轟音が工場内に響き渡った。
「やった!やっと動いた!」
「すごい音だ…見ろ、エンジンマウントが少しずつ動いてるぞ!1トンはあるのに…」
「これぞ新世代のエンジン…私がこんな歴史的な瞬間に立ち会えるなんて…!」
エンジンの轟音にも負けぬ歓声をあげるアーザンであるが、彼の部下である技術者達もそれに負けず劣らずな喜びようである。
ある者は飛び跳ね、ある者は感動に打ち震え、ある者は眼尻に涙を浮べていた。
──バスンッ!バスンッ!ボフッ…!ボンッ…
しかし、それも長くは続かなかった。
順調に見えたエンジンの稼働は徐々に途切れ途切れとなり、とうとう黒煙を吐いて停止してしまった。
「むっ…これは…?」
「社長、燃料切れです…。100リットルもあったのに、あっという間に無くなってしまいました…」
眉間にシワを寄せるアーザンへ、燃料タンクに付き添っていた技術者が燃料計を指差しながら声をかける。
「ふむ…予想はしていたが、やはり燃料消費は従来のエンジンの比ではないな…。しかし、あの調子であれば燃料が無くならなければ問題は無かっただろう。解決すべき課題が一つ増えたな」
エンジン停止の原因がガス欠だと分かった為か、アーザンは胸を撫で下ろしながらどう燃料消費量を抑えるかに関して思考を巡らせる。
そんな時、彼の助手である中堅技術者が声をかけてきた。
「社長、新型エンジンの稼働実験は成功と見て良いでしょう。それにしても、社長の発想力は素晴らしい!過給されて熱せられた空気を利用して燃料を燃焼させ、膨張させた排気を後方に排出して推力を得るなんて…」
過給器という物は空気を圧縮する事でエンジンへより濃い空気を送り込んで馬力上昇や、高高度での馬力低下を防ぐ為の物だ。
しかし、空気という物は圧縮すると温度が上昇し、そのまま高温の空気をエンジンへ送り込んでしまうと異常燃焼を起こす原因となり、馬力上昇どころか大幅な馬力低下を引き起こしてしまう。
それ故、高温の圧縮空気を冷却する為のインタークーラーや水噴射装置が必要となるのだが、アーザンは高温の空気に燃料を噴射して燃焼させ、その排気を後方に排出するという正に逆転の発想でそれを解決しようとしていた。
そして、その発想は現代を生きる我々なら何か理解出来るだろう。
そう、これは正しく遠心式ジェットエンジン…その中でも黎明期に開発された、圧縮機を外部動力により駆動させる『モータージェット』である。
「いやいや、これはまだ未完成だよ。これでは重量が嵩む従来型エンジンが必要となり、2つのエンジンを駆動させる為に大量の燃料が必要となる」
「しかし…圧縮機を動かす為には動力が必要となります。こうやって別のエンジンで動かさなければ…」
「簡単な事だよ、君。排気口に圧縮機と繋がったタービンを付けてやれば良いのだ。そうすれば一度動き出せば、燃料切れまで自力で動き続ける事が出来る」
確かにこの新型エンジンはまだ洗練されておらず無駄が多い為、従来型エンジンに勝る点は少ないだろう。
だがアーザンの脳内には既に様々な改善策が浮かんでおり、それらが実現すれば新型エンジンは従来型を置き去りにする高性能な物となる筈だ。
「なるほど!…しかし、高温の排気に曝されながら高速回転するタービンとなれば、今までの素材では強度が足りないでしょう。鉄やアルミではなく、より強固で可能な限り軽い素材が必要です」
「私もそれが悩みの種なのだよ。知り合いの伝手を辿って良い素材が無いか探しているのだが…」
「社長!社長宛に荷物が届いています!」
アーザンと中堅技術者が今後の課題について話していると、事務所で電話番をしていた女性事務員が大きな木箱を載せた台車をゆっくりと押してアーザンの元へ向かって来ている。
「む…君、大丈夫かね?重い荷物が届いたら誰かを呼べと…」
「あはは…皆さん忙しそうだったので…。えーっと…『トモズーミ金属加工』様からの荷物ですね」
「トモズーミ?聞いた事が無い会社だな…」
「ふーむ…よほど小さな会社なのだろう。まあ、昔馴染みの伝手まで使ったのだから無名の会社は幾つも出てくるものだ。だが、そういった小さな会社が意外と良い物を作るのだよ」
きっと何処かの会社がアーザンが新素材を求めていると聞いてサンプルを送ってくれたのだろう。
そう考えたアーザンは、釘が打ち込まれた木箱の角をバールで抉じ開けにかかる。
「ふぅー…ふんっ!」
──バキッ!
僅かな隙間にバールを挿し込み、テコの原理を利用して気合いと共に抉じ開ける。
──カチッ…
乾いた木材が割れる音に紛れ込むように聴こえる小さなクリック音…それを不可思議に思う暇はアーザンにも、他の技術者達にも無かった。
「なっ…!?」
木箱の隙間から閃光が迸り、それはアーザン達の視界を奪う程に大きなものとなり、強い衝撃と熱が工場内を埋め尽くし…アーザン達と新型エンジンをバラバラにしてしまった。
──中央歴1642年5月16日午前9時、帝都ラグナ、カルスライン社本社ビル──
「んふっふっふっ…」
今日も今日とてスモッグで霞む帝都ラグナの中心部に聳え立つカルスライン社の本社ビル。
その上層階にある役員室では、エルチルゴが新聞の一面を読みながらニヤニヤとした気味の悪い笑みを浮かべていた。
彼が読んでいる新聞の見出しには『帝国第二の都ガルバリにて爆発発生!原因はチャージャー圧縮機製造と思われる』と、読者の目を引くようなフォントでそんな事が書かれている。
「中小企業の分際で、帝国屈指の大企業である我が社から特許料をとるからこうなるのだよ。ふっふっふっ…」
もう察せられると思うが、チャージャー圧縮機製造で発生した爆発の原因はエルチルゴである。
というのもチャージャー圧縮機製造は過給器に関する特許を多数保有しており、航空機が主力商品であるカルスライン社は過給器を装備した航空機を製造する毎に一定の特許料をチャージャー圧縮機製造へ支払う契約になっているのだ。
無論、その契約自体はグラ・バルカス帝国の法律に基づいたものである為、決して不当なものではない。
しかし、カルスライン社としては大量生産する軍用機から得られる利益の一部を他社に横取りされているように感じられ、一部の役員はそれに腹立たしさを覚えていた。
そして、"一部の役員"の筆頭であるエルチルゴは"取引相手"であるオルダイカから紹介された暗殺者を使い、チャージャー圧縮機製造へ爆弾を送り付けてアーザン社長を始めとする主力技術者を殺害して同社を死に体まで追い込む事に成功したのだ。
「あとは、チャージャー圧縮機製造を買収すれば特許料は払わずに済む。そうなれば我が社が得る利益はより大きなものとなるだろう…ふっふっふっ…ふはははははは!」
自らの愚行により次世代の芽を潰してしまった事なぞ露知らず、エルチルゴはスモッグが渦巻く帝都を眼下に眺めながら高笑いをするのであった。
活動報告に拙作の設定に関するお知らせがございます
まあ、以前にお知らせした内容とほぼ同じですがね
要は、日本国召喚二次創作をされる方を微力ながら応援したいから拙作の設定は好きに使っていいぜ!
という内容です
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい