異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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215.死してなお輝く

──中央歴1642年6月5日午前10時、神聖ミリシアル帝国カルトアルパス──

 

先進11ヶ国会議の最中、グラ・バルカス帝国による宣戦布告と間髪入れずに行われた奇襲を経験した港町カルトアルパス。

そのやや内陸部には、神聖ミリシアル帝国の未来を担う子供達が通う『カルトアルパス幼年学院』が置かれている。

 

「大佐…」

 

幼年学院の敷地内、正門から入って直ぐの前庭にはもともと高名な彫刻家の手により作られた噴水があったのだが今は移設され、別の像が建っている。

 

「貴方の分までムーの為に戦います。ですので、どうか安らかに…」

 

その像の前に歩み寄った男…礼服を着用したムー軍人のヤンマイ・エーカーが青い花を像の前の台に置き、敬礼を捧げる。

彼が敬礼を捧げた像…それはマリンを模した物であり、台座にはアックタ・ローメルを始めとする第一航空小隊の面々や、他の戦死したムー軍人の名前が彫り込まれている。

そう、これは『フォーク海峡海戦』と呼ばれる一連の戦いで戦死したムー軍人へ敬意を払う為にミリシアル側が建立した慰霊碑なのだ。

特に第一航空小隊の面々は、ミリシアルの未来を担う子供達を命を賭して救ったとして、外国人に与えられる最上級の勲章である『帝国蒼珠金糸勲章』を授与されていた。

 

「おや…?貴殿は…」

 

「ん?」

 

今までアックタ大佐と共に過ごした日々を想い起こしていたヤンマイへ、青い花を持った男が声をかける。

 

「もしや、ムーのヤンマイ・エーカー殿か?私はオメガ・アルパと言うのだが…」

 

「あぁ、あのロデニウスのジェット機に乗っていたオメガ殿か。こうして直接会うのは初めてだな」

 

ヤンマイへ声をかけたのは、フォーク海峡海戦の前哨戦にあたる航空戦で轡を並べたオメガ・アルパであった。

 

「うむ、その節は世話になった。ところで、私も良いか?」

 

「む…失礼」

 

オメガが青い花を軽く揺らすと、ヤンマイも彼が何をしようとしているのか察して像の前から数歩下がる。

 

「…まったく、彼らは厄介な事をしてくれた」

 

「厄介?」

 

献花し敬礼を捧げたオメガは、やや呆れたようにそう述べる。

それに対しヤンマイは怪訝な表情を浮かべたが、彼が抱いた疑問は続くオメガの言葉により氷解した。

 

「軍の士官クラスの者達が次々に辞表を出している。ムーへ…貴国へ義勇兵として赴くつもりらしい。対グラ・バルカス帝国におけるムーとの協調をどうするか決めかねている我が国の姿勢に痺れを切らせたんだろうな」

 

「そんな事が…」

 

実を言うとアックタ達が護った幼年学院の卒業生にはミリシアル帝国軍の高官や士官が多数居り、彼らはムー軍人の英雄的な行いに感動し、それに報いる為に自らのキャリアを捨ててでも義勇兵としてムーへ渡ろうとしていた。

そしてその風潮は一般市民にも広がり、ムーへ援軍を送るべきだという世論が形成されつつあるのだ。

それを示すように慰霊碑の前に置かれた献花台には青い花─ミリシアルでは尊敬する人物に贈る風習がある花─が何百本と捧げられている。

 

「そのせいで軍の人事部は…いや、上層部も政府の中枢も大混乱らしい。まったく…一時の感情に身を任せてキャリアを捨てるなぞ、実に愚かだな。…まあ、私も人の事は言えないがね」

 

「まさか…貴殿も?」

 

オメガもこの幼年学院の卒業生であり、ムーへ渡る為に人事部へ辞表を提出してきたばかりだった。

 

「いや、人事部も流石に受理するかは保留しているらしい。末端の一兵卒ならともかく、士官ともなれば容易に辞めさせる訳にはいかないようだな。…だが、このままだと不満が増大し、脱走してでもムーへ行く者が出てくるだろう。そうなる前に、政府には早いところ方針を決めてほしいのだがな…」

 

「ははっ、貴国も大変だな」

 

「誰のせいだと…」

 

異国の戦友と言葉を交わしつつ、ヤンマイは自らの師の行いが正しいものであったと確信する事が出来た。

 

 

──同日、フォーク海峡──

 

空の戦士達が言葉を交わしている頃、カルトアルパスを象徴する長い2本の岬に挟まれた海域フォーク海峡では、異形の"フネ"が傷付いた"艦"へ寄り添うような形で何やら作業していた。

 

──ギィィィィ…ガゴンッ!

 

「チッ…船底が岩礁に食い込んでいるな…」

 

異形のフネの甲板上に立つのは、オパールのように光の反射によって色が変わる長い銀髪を潮風に靡かせる魔帝KAN-SEN『テュポーン』だ。

彼女は今、フォーク海峡海戦にて被弾して座礁したムーの戦艦『ラ・カサミ』の離礁作業を行っている所である。

 

「テュポーン、困難かもしれないが出来るだけ損傷を拡げないでくれたまえよ?この作業はムーからの依頼であり、ミリシアル8世陛下の勅命の下で…」

 

「くどい。貴様、さっきから口を開けばそれしか言わんな。我の手に全て委ねると言ったのも、あの街エルフであるのだぞ」

 

自らの艦体を操りながら作業を進めるテュポーンに注意したのは、彼女が建造されるトリガーとなったメテオスであった。

しかし、テュポーンは眉根を寄せて溜め息混じりにそう返すだけだ。

 

「君が陛下から直接お言葉を賜ったのは聞いているとも。しかし、君は中々に強引な所があるからね…」

 

同じく溜め息混じりに述べながらメテオスは、自らが搭乗するテュポーンの艦体を甲板上で見渡す。

対角線の長さが100m程ある六角形の本体に、合計6本の太い"脚"がそれぞれの頂点に取り付けられている姿はメテオスが知る艦船の姿とは全く異なる。

一見すると海底油田のプラットフォームのようだが、テュポーン曰くこれは工作艦として理想的な姿らしい。

事実、彼女は事故により大きな損傷を受けたミリシアル海軍の巡洋艦をその"脚"で抱きかかえるようにして跨ぎ、本体の下面から多数のアームを繰り出して短期間の内に修復してしまった事でそれを証明してみせた。

 

《こらー!姉上の玉体を大切に扱いなさい!》

 

「っ!…相変わらず騒々しい奴だな。我らと同じ姿を持っているならともかく、ただの鉄塊を姉とは…」

 

通信機から鳴り響く幼気な怒号に顔を顰め、西側の岬に目を向けるテュポーン。

西側の岬には艦長であるミニラルを始めとしたラ・カサミの乗組員達は勿論、ムーのKAN-SENラ・ツマサと彼女の保護者(?)であるマイラスが離礁作業を見守っていた。

 

「…それにしても意外だ」

 

「何がだ?」

 

《もっとやんわりと、羽毛を扱うかのよ…ブツッ…》

 

細かい注文をつけるラ・ツマサからの通信を切断しながら、テュポーンはメテオスへ不機嫌そうな目を向ける。

 

「君なら、"こんな物をわざわざ修理するなぞ愚行、さっさと解体して金属資源にでもすべきだ"とか言いそうだと思っていたんだがね」

 

メテオスの言う通りテュポーンはリアリストであり、普段の彼女ならメテオスの想像通りの発言をした事だろう。

しかし、彼女はラ・カサミの離礁作業を指示された際、多少の皮肉を言ったもののこうして作業をしている。

 

「…ここでどのような戦いがあったのかは報告書で知っている。この艦がどう戦い、このような姿となったのかをな…」

 

──ギィィィィ…

 

テュポーンの艦体から伸びる"脚"に装備されたアジマススラスターが細かく角度を変え、ゆっくりとラ・カサミの艦体を引いて徐々に動かしてゆく。

 

「こやつの働きはお世辞にも華々しいものとは言えなかった。…物言わぬ兵器とて、自らの役割も果たせぬまま屑鉄になるのは悲しかろう」

 

その言葉はきっと彼女自身の…生み出されながらも勝手な理由で打ち捨てられたカンレキからのものだろう。

何時もの尊大で自信に満ち溢れた態度は身を潜め、どこか悲しくも慈悲深い一面を覗かせた。

 

「ふぅん…君もそんな顔が出来るのだね。普段からそれぐらい謙虚なら、もっと私も楽なんだが…」

 

「はっ…ぬかしおる。我は貴様らに尻尾なぞ振らん。もし、我が貴様らの言葉に従う時が来るとしたら…」

 

──ゴォォォォンッ…

 

ラ・カサミの艦体が暗礁から引き出され、重く鈍い音を立てる。

 

「貴様らが魔帝を超えた時だ」

 

腹の底に響く重低音は、ラ・カサミなりの礼であったのかもしれない。

 




連続更新してると前書きと後書きのネタが無くなるんですよ…
まあ、次の更新は生放送の後になるのでネタが出来ますね

今後、お色気シーンは…

  • 今より増やせ
  • このぐらいでいい
  • もう少し減らしていい
  • もっと減らして
  • 無くていい
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