──中央歴1642年7月4日午前9時、グラ・バルカス帝国領レイフォリア──
レイフォリアに置かれたグラ・バルカス帝国ムー大陸方面軍総合指令基地『ラルス・フィルマイナ』。
帝国による世界征服の橋頭堡であるこの基地はかつてレイフォルと呼ばれた領域の各地に置かれた軍事基地の中でも格別の規模を誇り、最大の脅威と目される神聖ミリシアル帝国の反撃を跳ね除ける為に基地そのものの頑強さは勿論、周囲には予備も含めた8基の対空レーダーを備え、多数の高射砲陣地やトーチカを配置した正に難攻不落の要塞である。
「ふぁ〜…あ〜…」
物々しい雰囲気が漂う要塞であるが、そこに配備された兵士は何とも呑気に欠伸をしていた。
「おい、気を抜くんじゃない。帝国は本格的に全世界に対して宣戦布告したんだ。いつ現地人が奇襲を仕掛けてもおかしくない状況なんだぞ」
欠伸をした兵士に対して、別の兵士が注意する。
しかし、注意された兵士は特に悪びれる事もなく、目の前に置かれたレーダー画面を指差しながら応えた。
「そんな事言ってもなぁ…。このラルス・フィルマイナはムーとの国境からかなり離れてるし、この辺りの国が持ってる航空戦力なんてワイバーン、良くてムーのオンボロだぞ?そんな連中なんて、ここに来るまでに撃墜されちまうさ」
確かに彼の言う通り、帝国に敵対する事を選んだ国家群が奇襲を仕掛けて来ようが道中の基地により阻まれ、ラルス・フィルマイナまで辿り着く事はまず不可能であるだろう。
「だが、噂によれば神聖ミリシアル帝国の港町を襲撃した東征艦隊がかなりの被害を受けたそうじゃないか。しかも、航空隊もほぼ壊滅だって…」
「お前はまーた、そんな与太話を信じてるのか?確かに東征艦隊は被害を受けたらしいが、それは神聖ミリシアル帝国の最精鋭艦隊と戦ったからで、航空隊は激しい低気圧に巻き込まれたせいで壊滅したって話だろ?確かに神聖ミリシアル帝国はそれなりに強いみたいだが、それ以外は雑魚だよ」
何とも楽観的であるが、実はカルトアルパスで被った被害に関しては箝口令が敷かれており、参加した将兵やパガンダ島の泊地で損傷した艦船を修理した者達も口を揃えて"艦船の被害はミリシアルの精鋭に、航空隊の被害は低気圧が引き起こした異常気象によるもの"と言わざるおえない状況なのだ。
例え処罰を恐れずに親しい人物に真実を伝えたとしても、帝国軍の常勝神話に染まりきった人々は与太話として全く取り合わない有様である。
「むぅ…しかし…」
「そんな事よりタバコないか?最近、売店に入ってこなくてな…」
憮然とした様子の同僚へ、タバコを強請る兵士。
彼の手には空っぽになったタバコの箱があり、レーダー画面の前に置かれた灰皿には吸い殻が山盛りになっていた。
「悪いがこっちも無い…というより、持ってる奴の方が少ないんじゃないか?話によれば、専売公社が『ルクセリア』に優先してタバコやら酒やらを卸しているらしい」
「はぁ〜…また近衛兵団絡みかよ…。軍が反乱を起こしたのなんて、もう随分前の話じゃないか…」
「まあ、近衛兵団連中は帝国軍を監視するって役目を陛下から直々に賜っているからな。ああいうプライドの高い奴が自分の権力を簡単に手放す訳ないわな。それに、ルクセリアはグラ・カバル皇太子殿下直々に都市設計を行われた都市だ。将来的にはムー大陸統治の中心は、このレイフォリアからルクセリアに変わるらしい」
グラ・バルカス帝国は現在、レイフォリアの北方に新たな都市を建造中である。
その名も『ルクセリア』…現皇帝グラ・ルークスから名を取り、皇太子であるグラ・カバル設計という正に帝国の、更には優等民族バルカス人の優秀な能力の象徴となるような都市であるとされている。
無論、そこには帝国の民族主義を体現した近衛兵団のムー大陸方面総督府が置かれ、現地のレイフォル人を都市建設に駆り出し、文字通り"死ぬまで"働かせているのだ。
「まったく、俺達の仕事がどんどん近衛兵団に奪われてるな…。このままじゃ、いつか帝国軍もなくなって俺達もクビかもな。そうなったらどうしよ…ん?」
「どうした?」
常に高圧的に接してくるのみならず、嗜好品まで奪ってくる近衛兵団に対する愚痴をこぼしていた兵士だったが、彼の目がレーダー画面に向く。
それは対空目標の高度を測定する為のAスコープであるのだが…
「なぁ、コレ何だと思う?」
「あー…それ、ノイズかなんかだろ。たまに風でアンテナにゴミが付いたり、小規模な磁気嵐で変なモノが映り込むんだよな。…気にしなくてもいいな。少なくとも高度15000m以上を飛べる飛行出来る物なんて、この世界の現地国家が持ってるわけがない」
「んー…そうか。まあ、それもそう…あ、消えた。やっぱりノイズか」
確かに画面上に表示された飛行物体を示す光点は目盛りの上限を超えた位置…つまり、高度15000m以上を飛行している事が分かる。
だが、少なくとも帝国の航空機ではそんな高度を巡航出来る物は無く、遥かに劣る技術しか持たぬ現地国家がそのような物を持っている訳がない。
そう考えた彼らは、その反応をノイズと判断して特に報告する事もなく、再び退屈な警戒任務へ戻った。
──同日、レイフォリア上空──
──ゴォォォ…
微かに聞こえるエンジン音、それ以外には自らの呼吸音しか聴こえない。
目の前に広がるのは薄ら青く光る大気の靄に覆われた大きく弧を描く地平線。
見上げれば青空は無く、星の瞬く漆黒の夜空が広がっていた。
ここは高度24000m…大気密度も気温も地表と比べれば極めて低く、通常の航空機では到達する事なぞ不可能である。
そんな遥か高空の不可侵領域を独占するように、或いは孤独に突き進むのは黒い十字架のような航空機だ。
全幅30m以上にも及ぶ長大な翼を持つそれは、アズールレーンにて開発された戦略偵察『U-2』を大型化させ、燃料及び機材搭載量を向上させた『U-2R』である。
最新鋭の機体に最新鋭の機材を積み込んだ漆黒の怪鳥は、地上で警戒にあたるグラ・バルカス帝国軍を嘲笑うように悠々と巡航しながら、飛行経路に存在する帝国軍の拠点を撮影していた。
「…キレイ」
ロデニウス大陸より飛び立ち、空中給油を駆使して着陸することなくムー大陸まで進出した4機のU-2Rによる長距離偵察部隊『ブラックキャット』の隊長機に搭乗するパイロットが、手が届きそうな程に近い夜空を上目遣いで見上げながら感嘆したように呟いた。
本機専用のパイロットスーツは潜水服、もしくは宇宙服のようになっている関係で上下方向へ自由に首を動かす事が出来ない。
その為、上方を確認するためにはこうして上目遣いにならざるおえないのだ。
「ルミエス殿下にも是非見ていただきたいのですが…流石に殿下にこのような厳しいフライトをして頂くのは無理でしょうね…」
ヘルメットの内側で残念そうに告げるパイロット…彼女の名はリルセイド、アルタラス王国の王女であるルミエスお付きの騎士である。
普段からルミエスの側で彼女の護衛をしている彼女が何故、こんな事をしているのかと言えば実は彼女、アズールレーンにスカウトされてこの偵察部隊を任されているのだ。
というのも、彼女はサモア基地で受けたパイロット教育の最中、長距離の高高度飛行に耐えうる才能があると判明し、特別教育を受けた後にアズールレーンで新設された戦略軍に編入されていた。
「ん…これは…レイフォリアですね。まるでロデニウス連邦の都市のような造り…停泊しているのは軍艦でしょうか?…ともかく、これは重要な情報で間違いないでしょう」
旧レイフォル各地を偵察する為に別行動をとっている部下達がどのような情報を得られたかを気にしていたリルセイドだったが、コンソールの中央部に埋め込まれた円形のモニターに映し出された近代的な都市に気付くと、操縦桿に取り付けられたシャッターボタンを押して街並みと、港に停泊する数々の艦船を撮影した。
「さて、残りの燃料的にそろそろ戻らねばなりませんね。今回の任務はかなりハードでしたし、王国に戻ったら長期休暇を申請して…殿下がオススメされてたフルーツパーラーにでも行ってみますか」
一頻り撮影を終えたリルセイドは機体を僅かにバンクさせながらゆっくりと旋回し、ムーの領空まで一直線で引き返して行った。
いい加減Skeb依頼品を書き上げなければならないので、次回は遅れるかもしれません
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい