異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

243 / 253
nkte様より評価1、佐藤幸男様より評価8、SUNN様より評価9を頂きました!

最近、昼夜の寒暖差がヤバイですね
なんで自律神経って重要なくせに壊れやすいんでしょうか?


238.古の超兵器【1】

──中央歴1642年10月1日午後4時、バルチスタ海──

 

ムー航空隊による苛烈な空襲に曝されたグラ・バルカス帝国艦隊であったが、必死の抵抗が功を奏したらしく、ムー航空隊は撤収し、同艦隊は一先ず窮地を脱したと言えるだろう。

しかし、当然無傷な訳ではない。

前世界ユグドにおいても滅多になかった損害を受けた艦隊はその数とは裏腹に、何とも頼りない有様と成り果てていた。

 

「……16時となれば空襲の第二波が来る事も無いだろう。とりあえずは応急修理と、遭難者救助に集中出来る筈だ」

 

旗艦であるパルサーの艦橋内で疲労困憊と言った様子の艦隊司令カイザルが椅子に深く座り、ため息混じりに述べる。

ムー航空隊が撤収して凡そ3時間、いつ第二波攻撃が来るか気が抜けない状況であったが、この日没まで数える程しかない時間帯ともなれば空襲の恐れは無い。

それ故、帝国艦隊は対空警戒に割いていたリソースを損傷艦の応急修理や遭難者の救助に充て、どうにか体勢の建て直しを図っていた。

 

「カイザル司令、損害の大まかな集計結果が出ましたのでご報告致します」

 

「頼む」

 

目頭を揉んでいたカイザルへ、参謀が声をかけた。

 

「では、えー…まず被撃沈艦ですが、巡洋艦3、駆逐艦12。次に大破判定艦は戦艦1、空母2、巡洋艦2、駆逐艦4。中破判定艦は空母1、巡洋艦1、駆逐艦7…との事です。我が軍において中破以上の損害では応急修理したとしても戦闘行動は不可能とされていますので、艦隊は戦艦1、空母3、巡洋艦6、駆逐艦23を失った事になります」

 

「手痛い損害だ。しかも近衛兵団艦隊も離脱して戦力には数えられん。それを踏まえると…」

 

「我が方は戦艦2、空母3、巡洋艦9、駆逐艦28の損害です。それに加えて小破以下の被害艦、死傷した乗組員、撃墜・飛行不能な損傷を受けた艦載機は目下集計中でして…」

 

「つまり、被害は更に増える可能性があるという事か…」

 

キリキリと痛む胃を抑えながら出来る限り冷静な態度で告げるカイザルだが、何をどう考えても戦局は最悪だ。

特に痛いのは3隻の空母が戦力外となった事だろう。

敵がアンタレスより高性能な戦闘機を持っている以上、可能な限り多くの戦闘機が必要になるが空母3隻分の戦闘機が無くなったも同然なこの状況は余りにも心許ない。

 

「…仕方ない」

 

しかし、現状を嘆いてばかりでは問題は解決しない。

暫し目を閉じて思考を巡らせたカイザルは参謀へ向けて口を開けた、

 

「中破以上の艦は海域より離脱し、パガンダ島へ向かうようにしよう。加えて、空母は飛ばせる限りの戦闘機を出して他の空母へ着艦させるんだ」

 

「司令、それでは場合によっては空母の収容能力を超過してしまいます。甲板上に露天駐機させるにしても限りがありますし…」

 

「そうなれば致し方無いが、爆撃機か雷撃機を中破した空母に移乗させるか…或いは海没処分も止む無しだ。…とにかく戦闘機が必要だ。君も見た通り、現地国家の戦闘機はアンタレスを超える性能を持っている。艦隊の防空能力をこれ以上低下させない為には、こうするしかない」

 

「はっ!では、各艦にそう伝達致します」

 

「あぁ、あと死傷者についても余裕があれば離脱する艦に移乗させてくれないか?彼らも然るべき治療と弔いを受けるべきだ」

 

「はっ!」

 

カイザルの言葉を受け、敬礼して通信室へと向かう参謀。

 

「…しかし、ムー航空隊が来た割にはミリシアルとロデニウスは影も形も無いな。ムーに任せているのか、はたまた遅れているだけか…嫌な予感がするな」

 

この世界における最強国家と、東の果てにある得体の知れない新興国の姿が無い事に、カイザルは妙な胸騒ぎを覚えていた。

 

 

──同日、バルチスタ海北方──

 

──ゴゴゴゴゴゴゴ…

 

地鳴りのような重低音と共に、夕日で朱く染まった海に不自然なさざ波が立つ。

冬に備えてムー大陸から南方海域へ向かっていた渡り鳥達は何かを察知したように編隊を崩して四方八方へと逃げ去り、水面付近に浮かんでいた海魔は身を翻して深海へと潜って行った。

 

「艦長、間もなく日没です。光増幅式暗視映像装置を起動させます」

 

「よろしい。起動を許可する」

 

海面より高度300mを滑るように飛ぶ異形…それは現代を生きる我々にとっては、某高級自動車メーカーのエンブレムにそっくりな、円の内側に3本の支柱が放射状に広がっている航空力学を無視した姿をしている。

しかも直径260m近くもあり、そんな飛行物体と言えば最早UFOにしか思えないが、内部でそれを操っているのは宇宙人ではなくこの世界に住まう人間である。

 

「艦長、世界連合艦隊に帯同している先遣艦隊より報告があったグラ・バルカス帝国艦隊の位置と我々の位置、移動速度から算出した接敵予定時刻です」

 

「ふーむ、明日の午後までには我が国の主力艦隊と共に接敵するか…よろしい。針路、速度共にこのまま。今のうちに武装の最終調整を行うのだ。明日の今頃、撃沈したグラ・バルカス帝国艦隊を見下ろして優雅な晩餐を楽しむ為にな」

 

宇宙人でこそないが、乗組員は全員仮面を装着している。

彼らは神聖ミリシアル帝国において古の魔法帝国が遺した遺跡や発掘品を調査・複製・運用研究・管理を行う為の省庁、魔帝対策省の職員である。

 

「はい、艦長。この空中戦艦『パル・キマイラ』の力を以てすれば、下劣な科学文明の兵器なぞ渦潮に飲まれた木の葉も同然…ムーもロデニウスも我が国の圧倒的な力を再確認し、ひれ伏す事でしょう」

 

「そうだとも。"あの女"はパル・キマイラは戦闘用ではないと言っていたが…所詮、あの女は魔帝を父とする者。我々に力を着けさせない為の虚言だろう」

 

軍人ではない彼らが戦場へ向かっている理由…それこそが、空中戦艦『パル・キマイラ』を投入する為であった。

このパル・キマイラは空中戦艦と名付けられただけあって長時間の滞空能力を持ちながらも、大口径魔導砲や高性能魔光砲、更には超大型魔導爆弾の投下能力も持つ正に"古代の超兵器"と呼ぶに相応しい兵器である。

 

「あの女…あぁ、魔帝の艦が人の姿となったとか言うアレですか。しかし、アレの証言には幾つか参考に出来るものがありましたが…」

 

あの女こと魔帝KAN-SENテュポーンはミリシアルへ魔帝製兵器について多くの知見を与えたが、何しろ元は魔帝で造られたという事もあって一部の者…特にこのパル・キマイラ初号機の艦長であるワールマンと、彼の部下である運用チーム等からは常に疑いの目が向けられている。

尤も、テュポーン自身はそんな事は気にせずに同じく魔帝の超兵器である海上要塞『パルカオン』修復の片手間に、パル・キマイラがどう運用されていたのか彼らに教えていたのだが…

 

「ふん、大方程よく真実を織り交ぜる事で此方の信用を勝ち取る算段だったのだろう。こんな力を持つ兵器がただの偵察機だったなぞ…誰が信じるものか」

 

無論、彼らは信じなかった。

テュポーンは自らの記憶から、パル・キマイラは唯一魔帝に対抗出来ていた古代竜人国家『インフィドラグーン』が保有する『亜神龍』を早期に発見、制空型天の浮舟を管制して優位に制空戦を進める為の謂わば早期警戒管制機だと伝えたのだが、テュポーンに対して不信感を持つ彼らはその助言を黙殺してしまったのだ。

因みにテュポーンはワールマンらが早期警戒管制機の概念を理解出来ないだろうと判断した為、噛み砕いてレーダーを利用した高性能偵察機と手短に説明していた。

 

「しかし、艦長の友人も皇帝陛下も随分とアレに入れ込んでいるようですが…」

 

「余程口が上手いのだろうな。しかし、私は違う!あの人の形をした物の流言なぞに惑う事無く、我々こそが真実だと示してメテオスと皇帝陛下の目を覚まさせてやろうではないか!ハーッハッハッハッハッ!」

 

自らが正しいと信じて止まないワールマン達を乗せ、古の超兵器は遥か彼方の水平線へと向かって行く。




そういえば、信濃のレースクイーン…ヤバくないですか?
ログインの動きにスカートのギミック、追加されたモーション…これ、大丈夫?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。