異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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この話には、「いや…そうはならんやろ…」となる描写が含まれます
苦手な方は読まなくても大丈夫な内容です

あくまでもこの作品は、娯楽作品です
日本国召喚二次創作の先駆者の方々のような本格的な戦記物ではありません













よろしいですね?


24.緊急派遣案件

──中央暦1638年11月25日午前8時、ムー政治部会──

 

「それでは、緊急会議を初めます。」

 

ムーにおける政治の中枢にて、外務省の幹部が緊急会議の開始を宣言する。

今回の会議の議題、それは参加者に配られた冊子の表紙に書いてあった。

 

『ロデニウス連邦に対する視察団派遣について』

 

である。

本来、まだ国交開設の会談も行っていない国家に対する視察団派遣を前提とした会議を開くなぞ、あり得ない事だ。

だが、今回は特例中の特例だ。

 

「今回、我が国との国交開設を求めて来た国家…ロデニウス連邦ですが。信じがたい事に、我が国に匹敵…あるいは凌駕する技術力を持っていると思われます。そのような結論に至った理由は、表紙を捲って頂ければ理解して頂けると思います。」

 

紙の擦れる音がして、一斉にページが捲られる。

表紙を捲った1ページ目と2ページ目の見開きに、Me264とダンケルクの写真が張り付けられていた。

 

「まさか第三文明圏外に、これ程の技術を持つ国が現れるとは…」

「我が国と同じく、転移国家だという話…眉唾ではなかったようだ。」

「しかも、取り残されたサウ・ムー・アーだとか。」

 

会議室がざわつく。

確かに信じがたい話だ。だが彼らが飛行機で飛来し、ラ・カサミを凌駕する戦艦を持っている事は事実だ。

ここで、情報通信部部長…つまり、マイラスの上司が手を挙げた。

 

「今回、ロデニウス連邦から訪れた特使の案内を務めた私の部下の話では特使から、直ぐに視察団を送るというなら彼方の飛行機に便乗しても構わない…との申し出を受けている。これは、チャンスです。彼らの飛行機に搭乗し、直接技術力を探れるのですから。」

 

部長の言葉に頷く者と、首を振る者…半々と言ったところか。

グラ・バルカス帝国の脅威がある以上、同じ科学文明であるロデニウス連邦の技術を可能な限り吸収すべき、と考えている者。

視察団に万が一の事があれば、貴重な人材を失う事になる、と考えている慎重派。

 

「もし…視察団を派遣するなら誰を派遣すべきか?」

 

派遣するかどうかは棚上げし、もし派遣するなら誰を派遣すべきかを検討する事となった。

すると、海軍参謀が手を挙げた。

 

「戦術士官のラッサンはどうでしょう?もし、彼らが我々ですら知らない新兵器を保有していた場合、どのような戦術を実行するのか…という事を分析する必要がある、そう考えます。」

 

海軍参謀の言葉に大半が頷く。

 

「だが、やはり技術士官が必要だ。技術士官と言えば…」

 

言葉を続けた海軍参謀がチラリと、情報通信部部長を見る。

新進気鋭の技術士官、マイラスなら適任だと思ったが故だ。だが、部長は首を振った。

 

「いや、マイラス君は精神をやられて…」

 

──バタンッ!ガタンッ!

「駄目ですよ!そんな状態で退院するなんて!」

「いや、彼らの技術をこの目で見極めなければ!」

「兵隊さん、その人止めて下さい!」

「任せ…うぉぉぉぉ!?なんだ、技官のくせになんて力だ!」

 

会議室の外で、何やら騒ぎが起きた。

会議の出席者が顔を見合わせていると、ノックも無しに扉が開かれた。

 

「私を…私をロデニウス連邦への視察団に加えて下さい!」

 

そこに居たのは、目の下に濃い隈を作ったマイラスだった。その手には大量の書類が握られており、腰には警備の兵士がしがみついていた。

 

「マイラス君…君はロデニウス連邦の兵器を目の当たりにして精神が…」

 

「大丈夫です!私はムーの技術発展の為に命を懸ける覚悟です!ですから、ロデニウス連邦に視察団を派遣する際は是非…是非私を……」

 

そこまで言ってマイラスは倒れ込んだ。

それに、息を切らせて走ってきた看護婦がマイラスの脈を計ったり、口を開けさせたりする。

 

「…極度の心的・肉体的過労です。十分な睡眠が必要です。」

 

「……そうか。君、マイラス君を病院に返してきてくれないか?」

 

マイラスが倒れたと同時に、巻き込まれる形で倒れた兵士に指示すると部長がマイラスの手から書類を外す。

 

「……私は、是非ロデニウス連邦に視察団を派遣すべきだと思う。勿論、国交開設が無事に終わればの話だが。」

 

マイラスの鬼気迫る直訴に気圧されたのか、今度は結構な数の参加者が頷いた。

部長がマイラスの手から外した書類…そこには、1日と少しで書き上げられたロデニウス連邦の兵器についての技術的考察が、A4用紙20枚に渡ってびっしりと書かれていた。

 

 

──中央暦1638年11月27日、ムー──

 

この日、ロデニウス連邦とムーの間で国交が開設された。

同盟はムーが中立政策をとっているため結ばれなかったものの、ゆくゆくは兵器の共同開発を行う事を目指した非公式の会談も行われた。

 

 

──中央暦1638年11月29日午前9時、アイナンク空港──

 

国交開設から2日後、アイナンク空港の滑走路には二人のムー国人が荷物と共に立っていた。

 

「あれが、ロデニウス連邦の飛行機か…凄い大きさだな。」

 

戦術士官のラッサンが少し離れた位置に停まっている飛行機…Me264を眺めながら呟く。

 

「あれほどで驚いていたら身が持たないぞ、ラッサン。」

 

と、マイラスが何とも説得力のある言葉を返す。

暫く、死んだように寝ていたマイラスはどうにか復活出来たようだ。

 

「お前が言うと冗談に思えないな。しかし、国交開設の2日後に視察団を送るなんて…と言っても俺とお前の二人だけだが。」

 

「何せ、失われたサウ・ムー・アーにヤムートの後継国家の関係者も居るんだ。特例中の特例で人員も確保出来なかったって話だ。……それだけ、グラ・バルカス帝国の脅威を感じているんだろう。多少のリスクには目を瞑り、参考となる技術を吸収するという腹積もりみたいだ。」

 

マイラスの言う通りだ。

隣国である第五列強レイフォルがグラ・バルカス帝国によって滅ぼさた事は、明確な脅威として首脳陣も捉えているらしく、新兵器開発を強く後押ししている。

そんな中、突如として現れたロデニウス連邦というムーをも凌ぐ科学文明国…それに加えて、友好的だとすれば食い付かない訳が無かった。

 

「マイラス殿、お体は大丈夫ですか?」

 

空港から、指揮官が手を振りながら出てくる。

その半歩後ろにはダンケルクが静かに控えている。

 

「ええ、お気遣いありがとうございます。…紹介します。こちらは、今回の臨時視察団に選ばれた戦術士官のラッサンです。」

 

「初めまして、ラッサンです。」

 

「ラッサン殿ですね。よろしくお願いします。早速ですが、飛行機に搭乗しましょう。長い空の旅になりますが、ご容赦願います。」

 

指揮官とラッサンが握手を交わすと早速、タラップを昇りMe264に乗り込んだ。

 

 

──ムーより東方約1万kmの洋上──

 

ムーを発ってから丸1日以上、空の旅を続けていた。

機内の広さや、巨大なヒヨコが操縦している事に驚いたラッサンを、すっかり慣れてしまったマイラスが宥めるといった一悶着もありながら順調にロデニウス連邦へ向かっていた。

 

「そろそろ、給油を行います。シートベルトを締めて下さい。」

 

ふと、指揮官がそんな言葉を発した。

 

「給油?……ここは洋上ですが?」

 

疑問に思ったマイラスが問いかける。

そう、マイラスの言う通り周囲に陸地は見えない。

どうやって給油するつもりだろうか?そんな事を考えていると、ゆっくりと高度を落とし始めた。

ラ・カオスを圧倒する程の航続距離を持つこの機体でも、ムーからロデニウス連邦までノンストップとは行かない事に妙な安心感を覚えながらも窓から外を覗くマイラス。

 

──ブゥゥゥゥゥゥン……

 

青い影が追い抜いていった。

マイラスもラッサンも窓に張り付くようにして、その青い影を目で追った。

 

「マイラス、今の…見たか?」

 

「あぁ…なんて巨大な単発機だ…マリンの1.5倍はありそうだ。」

 

「違う!お前、見えなかったのか!?」

 

「な…何が?」

 

「……人が乗ってた。」

 

ラッサンの言葉にマイラスは疑問符を浮かべる。

確かに、今自分たちが乗っている飛行機は巨大なヒヨコが操縦している。しかし、操縦席を見る限り普通の人間が乗る事も普通に出来そうな作りだった。

ならば、あの巨大単発機に人が乗っていても不思議ではない。

 

「何を言ってるんだ、ラッサ……」

 

マイラスが最後まで言葉を続ける事は出来なかった。窓の横、主翼の端で巨大単発機が並走を始めたからだ。

無論、それだけなら飛行技術のデモンストレーションでしかない。

だが……

 

「人が……乗っている……?」

 

そう、マイラスが見たのは巨大単発機のキャノピーの前、つまり"エンジンカウルの上に仁王立ちになって乗る"人間の姿だった。

 

「……」

 

「……」

 

マイラスとラッサンが、ポカンと口を開けて呆然としていると指揮官からの説明があった。

 

「あれは、TBF…通称アヴェンジャーと呼ばれる艦上攻撃機です。デカイでしょう?」

 

「いやいやいやいや!今、人が…人が機外に立ってましたよ!?」

 

マイラスが盛大にツッコミを入れる。

ムーでもスタントマンがパフォーマンスで複葉機の翼の上に乗る事はある。

だが、明らかに300km/hは出ている飛行機の機外に立つなんて正気の沙汰じゃない。

 

「彼女は、我々が保有する空母。その名もエンタープライズです。勿論KAN-SENですよ?」

 

「え…それじゃあ、今空母が空を飛んでいると?」

 

「空母なんだから空ぐらい飛びますよ。」

 

マイラスは再び心が折れそうになった。

そんなマイラスを尻目に、アヴェンジャーからエンタープライズがMe264の翼に乗り移る。

その途中、呆けた顔を窓に向けていたマイラスとラッサンが可笑しかったのか、長い銀髪とコートを風に靡かせながら苦笑いしつつ小さく手を振る。

そんな彼女に、二人はぎこちなく手を振るしか出来なかった。

 

「それじゃあ、頼む。」

 

《まったく…こんな事、何度も出来るものじゃないぞ。》

 

「お前なら出来ると思ってな。」

 

《指揮官からの期待か…ふっ、過剰な期待には応えたくなるものだ。》

 

通信機でのやり取りを終えると、エンタープライズは主翼を伝って胴体の上まで来ると、アヴェンジャーをMe264の前方上空に向かわせる。

 

──ガコンッ!

 

アヴェンジャーの爆弾倉が開放され、同時にホースが垂れ下がってくるとエンタープライズはそれを掴み、Me264の胴体上部に設置された特設給油口に接続した。

アヴェンジャーの爆弾倉に固定された燃料タンクから燃料が送り込まれている事を確認すると、再び主翼に戻りエンジンカウルを開けて点検を始めた。

エンタープライズがそんな事をしている間も、マイラスとラッサンはポカンと呆けたままだった。

 




機外搭乗は一級空母の嗜み

因みに、空中給油は1920年代には成功してるらしいです


あと、アズレンのイベントが始まったので次回は遅れます

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