異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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勢いがあるうちに書き切りました!


250.テンペスタの影

──中央歴1642年10月3日午前6時、ニグラート連合・レイフォル海上国境付近──

 

「さあ、これを飲むんだ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

悪夢のような夜を生き残った帝国海軍の水兵達は、自分たちが置かれた状況に戸惑いを隠せずにいた。

 

「これは…夢か…?」

 

毛布に包まり、湯気の立つマグカップを持ったラジールは何度も目を擦り辺りを見回す。

しっかり整頓された木製甲板に、これまた木製ながらも随所にしっかり磨かれた真鍮製らしき装飾が施された舷側の手摺り。

それはまさに転移直後の帝国が相手したレイフォルの戦列艦を思わせる。

 

「大丈夫か?気分が悪いのか?」

 

「あ、あぁ…いや、大丈夫だ…です…」

 

海にロープを投げて漂流する水兵を引き上げながら合間合間に甲板へと引き上げられた者へ毛布と温かい飲み物を配っていた『彼女』がラジールの顔を覗き込みながら問いかける。

遠目から見ても分かる程の美貌ではあったが、こうして近くで見ると圧倒されてしまう。

それに加えて『彼女』はどこか浮世離れした…端的に言えば"人間ではない"ような雰囲気がある。

そのせいかラージルは咄嗟に敬語を使おうとして妙な言葉遣いになってしまった。

 

「そうか、なら良い。…さて、こんなものか」

 

目を細め海面を見渡した『彼女』は淡々と告げる。

損傷艦隊は護衛も含めて全滅、人員は艦と運命を共にした者や暴れ狂う触手に叩き潰された者、体力を使い果たし海底に沈んだ者と死者多数と言った有様だが、ラジールのように漂流しながらも助かったり運良くボートが破壊されなかった者といったように少なく無い数が生き残れた。

生存者無しとならなかったのは不幸中の幸いだろう。

 

「あ、あの…」

 

「ん?」

 

海風に白金の髪と金色の翼を靡かせる『彼女』に見惚れていたラジールだったが、意を決して声をかける。

 

「わ、私は艦隊の臨時司令を任されているグラ・バルカス帝国海軍のラジール・ディンクスと申します。此度は貴女の協力で多くの部下の命が助かった。代表してお礼致します」

 

漂流直後で体力も消耗しているだろうに、ラジールは起立すると『彼女』へと深々と頭を下げ、それに続いて水兵達も同じように頭を下げた。

 

「気にする事はない。元は助けるつもりなぞ無かった」

 

「はい?」

 

『彼女』の言葉に怪訝そうな表情を浮かべるラジールだが、次の瞬間にはその言葉の意味を理解する事となった。

 

「私はこの海の守り神。レイフォリアの人々により祀られし女神だ。お前達は私の信徒を殺し尽くした…その報いを受けさせてやりたい」

 

「なっ…!?」

 

普通ならそんな言葉は信じないだろう。

しかし、あの悪夢のような一夜を終わらせた『彼女』の言葉とあっては信じるしかない。

 

「本来なら私の手で信徒達の無念を晴らしてやりたいのだがな…"彼女達"が先んじていたようだ」

 

「彼女達…って…!」

 

「そうだ。お前達を襲ったあの怪物達こそ、レイフォリアの民の怨念…お前達によって生きながらに焼かれた苦しみを晴らさんとしていたのだ」

 

「まさか…そんな事が!?」

 

「あるのだ。現にお前達は見ただろう?死者達の怒れる姿を…な」

 

『彼女』の言葉にラジール達は一様に口を噤む。

非科学的と一蹴しようにも彼らの脳裏に刻まれた悪夢の記憶は決して消える事はなく、未だに強い恐怖を与えてくる。

 

「だが…彼女達の行いは目に余った。あれ以上、殺すのならばより悍ましい者になっていただろう。だから私が引導を与えたのだ」

 

「そう…でしたか…」

 

「安心しろ。今更お前達をどうこうするつもりはない。…アレをやる。ここから北西に向かえば明日にはレイフォルに辿り着くだろう」

 

怯えるラジール達を諭すように告げた『彼女』は指先をタクトのように動かすと、甲板上に置かれていたボートを宙に浮かせて海に着水させた。

 

「行け、私の気が、変わらないうちに」

 

「……ありがとうございます」

 

それだけを言ってそっぽを向いた『彼女』へラジールは礼を言うと、水兵を伴ってそそくさとボートへ乗り込んで行った。

 


 

──中央歴1642年10月3日午前11時、ニグラート連合・レイフォル海上国境付近水深100m──

 

悪夢の一夜から数時間後、海上は何事もなかったかのように凪いでいるが、海中は悪夢を思い出させるような光景であった。

艦船の残骸や積荷、死者が漂いながら海底へとゆっくりと沈んでゆく。

おそらく彼らは海底に潜む生物の貴重な食糧となり、海底の生態系を豊かにする事だろう。

そんな死と生のサイクルが始まろうとしている中、海中を進む一隻の"船"があった。

潜水艦ではない、高いマストがある帆船だ。

その帆船の船室では、数名の見目麗しい女性が卓を囲んで酒盛りに興じていた。

 

「作戦成功~♪これは敵も大損害ね♪」

 

ビールが注がれたジョッキ片手に上機嫌なのは、アズールレーンの中でも限られた者しかその存在を知らない陣営『テンペスタ』のリーダー分である『ロイヤル・フォーチュン』だ。

この海中を進む帆船こそ彼女の艤装であり、海中から大量の触手を出してグ帝の軍艦を沈めたのも彼女である。

 

「いやー、相手が損傷艦ばかりだったから君の触手も大活躍出来たね。私の演技も一役買えたかな?」

 

グラスに注いだコニャックをチビチビと飲みながらロイヤル・フォーチュンに同意するのは"幽霊船"で有名な『メアリー・セレスト』である。

彼女はそのカンレキから得た力を利用してグ帝艦隊のど真ん中に現れ、触れざる幽霊船としてグ帝艦隊を足止めしたのだ。

 

「うへぇー…やっぱりこのマスク、蒸れるよー…」

 

傍に焼け爛れた少女の顔を模したマスクを置いてダラダラとコーラを飲む『ウィダー』

 

「私はちょっと楽しかったわよ。最初は指揮官がまた変な事思いついたと思ったけど」

 

そんなウィダーの頬をむにむにと指先で突く『アドヴェンチャー・ギャレー』はシードルの水面で弾ける炭酸の気泡を何気なしに見つめながら、そう告げた。

 

「作戦とはいえ、異世界とはいえ神を騙るとは…」

 

そんな中一人、ワインに手をつけもせずに頭を抱える『サン・マルチーニョ』

そう、グ帝艦隊が味わった悪夢、それは全てアズールレーンによる差し金であった。

というのも、テンペスタの特異性を利用して指揮官はこの海域に彼女達を潜ませ、撤退するグ帝艦隊を襲撃するように指示を出していたのだ。

しかもその際に、各々に演技をするように命令しており、生き残ったグ帝水兵に「この世界には得体の知れないモノが存在する」と知らしめる事としていたのだ。

もちろん、それてグ帝の動きが止まる訳ではないだろうが、少なからず士気に影響を与える事が出来ればそれで十分だ。

 

「あれ?『ゴールデン・ハインド』、全然飲んでないじゃない」

 

「気分でも悪いのー…?」

 

ワイワイと作戦成功を祝っていたテンペスタ達であったが、メンバーの一人である『ゴールデン・ハインド』が一言も喋らず、ヴェールで顔を隠したままな事に気づいたロイヤル・フォーチュンが声をかけ、ウィダーが肩を小突く。

 

「……………」

 

「え?何?」

 

ゴールデン・ハインドが小さく、蚊の羽音が如きか細い声で何かを告げた事に気づき、ロイヤル・フォーチュンは彼女の口元に耳を近づける。

 

「……ありがとう…恨み…晴らせた…」

 

「?なにを言って…」

 

「遅れてごめんなさ〜い。少し着替えに手間取って…あら?どちら様かしらあ?」

 

怪訝な表情を浮かべたロイヤル・フォーチュンであったが、舌足らずながらも妖艶な声色の言葉を紡ぐゴールデン・ハインドがドアを開けて船室に入ってきた事に表情を凍りつかせた。

 

「だ、誰だい…?」

「まさかー…」

「ちょ、ちょっとぉ!嘘でしょ!?」

「神よ…我らを守りたまえ…!」

 

見知らぬ第三者の姿に慌ただしくなるテンペスタ達。

そんな事なぞ気にしてないかのように『彼女』は小さくもはっきりとした言葉を告げた。

 

「ありがとう…恨みを晴らせた…」

 

その言葉を最後に『彼女』は最初から居なかったかのように姿を消した。

 

「あ、あれって…」

「本物ー…?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

海中で起きた怪事件…それは報告書に記される事もなく、テンペスタ達の心の奥底へと仕舞い込まれる事となるのであった。




次回からは本筋を進めます

今後、お色気シーンは…

  • 今より増やせ
  • このぐらいでいい
  • もう少し減らしていい
  • もっと減らして
  • 無くていい
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