アズレンとFGOのイベントが重なって大変です
──中央暦1638年11月30日、サモア基地・サバイイ島西側演習場──
「ムーに、戦車ってありますか?」
揺れるトラックの荷台の上で唐突に指揮官の口から出たのは、そんな質問だった。
「……え?あぁ、戦車ですか?ありますよ。」
ぼんやりしていたため、反応が遅れたマイラスが答えながら鞄を探る。
昨日の夜、このサバイイ島の飛行場に到着した一行は視察は明日からにして、ひとまずは休む事にした。
重桜艦御用達の旅館に案内されたマイラスとラッサンの二人は、
──「黒だったな。」
──「あぁ、黒だった。」
そんな言葉を交わした後、シャワーを浴びて朝まで泥のように眠っていた。
様々な要因による疲れを引きずったままだったため、ぼんやりしていた。
「これですね。我が国の戦車、『ラ・グンド』です。」
そう言ってマイラスが取り出した、軍の広報写真に写ったそれは…
──それは、戦車と言うにはあまりにも高過ぎた。
高く、四角く、短く、そして大雑把すぎた。
それは、正に鉄塊だった。
「……攻城塔?」
指揮官が思わず言葉を漏らす。
そう、そこに写っていたのは剣と弓の時代に使われていた攻城塔を思わせる物体だった。
周囲で敬礼する兵士達と比べれば3m以上は確実にあるだろう。ボディはまさしく箱形で、幾つかの棒が生えている。また、箱形の頂上には深めのスープ皿をひっくり返したような物が乗っており、そこからやや太めの棒が生えている。
足回りは、前後幅の短い履帯が備わっており、申し訳程度の戦車要素が垣間見える。
「違いますよ、これは戦車です。これは、37mm砲で車体から突き出ているのは8mm機銃です。」
指揮官の言葉にマイラスが反論しながら写真に写る物体の頂上、続いて周囲を指差す。
どうも、ムーではこれが戦車らしい。外見は、ボブ・センプル戦車に非常に似ているように思える。
「因みに、都市防衛用に配備されています。歩兵の盾や、移動砲台として防衛戦では有効だと思われます。」
マイラスの言葉に続いて、ラッサンが解説する。
確かに、このような戦車では積極的攻勢には使えない。
重心が高過ぎて横転するだろうし、履帯が短すぎて段差を乗り越えるのも難しいだろう。
──キッ…
ふと、トラックが停まった。
「ご主人様、マイラス様、ラッサン様。演習場に到着致しました。」
トラックの運転席からメイド…『カーリュー』が降りてきて、荷台のあおりを開けてその下に小型の脚立を置く。
「すまんな。」
「いえ、メイドの務めですので。」
お決まりのやり取りをしながら、指揮官が荷台から降りるのに習い、二人も降りた。
「おぉ…」
演習場を一望出来る小高い丘の上に立ったマイラスとラッサンがどちらとも無く、感嘆の声を上げる。
冷え固まった溶岩の大地に緑色の蒲鉾型の建物が規則正しく並んでおり、その一つの扉が開いて行く。
「ご覧下さい。あれが我々の主力戦車、M4シャーマンです。」
蒲鉾型の建物…格納庫から、似たような緑色をした鋼鉄の獣が姿を現す。
台形の車体に、がっちりした履帯、砲塔は逆さにしたお椀型に近いだろうか。
砲塔から伸びた砲身は、ムーのラ・グンドよりも太く長い。砲口には、幾つもの切り欠きが施されている。
ディーゼルエンジン搭載型のM4A2(76)Wである。
「あれが…戦車…?」
「しかも見ろ!速い!」
シャーマンが、格納庫の前を履帯独特の音を響かせながら走り回る。
その速度は、20km/hが限界のラ・グンドを優に越えているようにみえる。
「大体、40km/hぐらい出ますよ。主砲は76.2mm、副武装として12.7mm機銃と7.62mm機銃があります。装甲は…50mmって事にしておきましょう。」
勝てない、マイラスとラッサンの二人の頭に浮かんだのはそんな言葉だ。
ラ・グンドでは間違い無く勝てない…それどころか、76.2mmと言えばラ・カサミの単装砲と同じぐらいだ。
そんな化け物が、ラ・グンドの5倍の装甲と2倍の速度を持っているのだ。
「あ、あれも我々の主力陸戦兵器です。」
シャーマンに続いて出てきた物…それを目にした瞬間、二人の心は折れた。
「スコープドッグです。大体80km/hで走り回り、30mm弾を撃ちまくります。」
──キュイィィィィィィィン…ガシュゥンッ!キュイィィィィィィィン…
ローラーダッシュとターンピックを用いた急制動を披露するスコープドッグを見た二人は最早、怖じ気づいてしまった。
「戦車…戦車はいいさ…技術的にラ・グンドが進化したら、ああなるんだろう…」
「なんだあれ…なんだあれ!?」
マイラスとラッサン、二人ともorzの体勢になり頭を抱える。
確かに、ラ・グンドは不恰好とはいえ履帯と装甲と全周砲塔を備えている為、技術的にシャーマンにたどり着けそうではある。
だが、スコープドッグは違った。
二本の脚で歩き、二本の腕で武器を使う。エンジンやモーターであんな複雑な動きが出来るとは思えない。
どのような技術が使われているのか、全くもって意味不明だ。
「今から演習…と言うより、デモンストレーションを行います。」
と、指揮官が演習場の一角を指差す。そこには、コンクリートブロックで作られた簡単な小屋が幾つか乱雑に建っていた。
「あのコンクリート製の小屋に敵兵が立て籠っている、という設定で攻撃を行います。……始めろ。」
指揮官の言葉を聞いたカーリューが通信機に向かって話す。
「皆様、デモンストレーション開始のお時間です。」
そう言った次の瞬間、シャーマンの主砲が火を噴いた。
──ドンッ!……ドォォンッ!
榴弾が炸裂し、コンクリートブロックが崩壊し、瓦礫の山が出来上がる。
──キュイィィィィィィィン……ダダダダッ!……ダダダダッ!
それと同時に、スコープドッグが大回りで側面から回り込み新たに開発した12.7mm機銃…通称ミドルマシンガンでバースト射撃を加えて行く。
「砲撃で敵兵を叩き出し、スコープドッグの機動性を以て散り散りになった目標を追撃する…まあ、こんな単純に行くとは思いませんが。私の理想の戦術には程遠いですね。」
「理想の…戦術…?」
シャーマンとスコープドッグのコンビネーションを呆然と見ていた二人だが、どうにかラッサンが問いかける。
「砲撃により、敵前線から後方までを一斉攻撃。穴の開いた戦線に各種装甲戦力を用いて突撃し、戦線の穴を広げ最終的には歩兵により制圧、占領する。というものです。とんでもない量の火砲と弾薬が必要なので、そうそうは出来ませんがね。」
「そ…それは余りにも力押し過ぎるのでは…?」
「力押し、結構ではありませんか。それだけの兵力を用意し、運用出来る体制を整える事が勝利への近道ですよ。『弱軍は戦って勝ち、強軍は戦う前から勝つ』、至言ですね。」
ラッサンは衝撃を受けた。
戦術士官として様々な戦術を立案する事、それが自分の仕事だと思っていた。
緻密な作戦こそ至高だと考えていた。
だが、こんな簡単な戦術にそんな考えは打ち砕かれた。今の自分が考えうる戦術では、指揮官が考える戦術を撃ち破る事が出来ない。
(戦車だ!戦車と火砲が必要だ!その為には、どうにかしてロデニウス連邦から戦車を輸入なりしなければ!)
そう、ラッサンが決意する側でマイラスが震える声で指揮官に問いかけた。
「あの…スコープドッグとやらは、我々でも作れるでしょうか?」
「無理でしょうね。」
バッサリと切り捨てられた。
「やはり…そうですか…」
「ですが、シャーマンは割りとどうにかなるかもしれません。」
「…え?」
一旦は項垂れたマイラスが顔を上げる。
「あのシャーマンは、トラック用のディーゼルエンジンを2基搭載していますが…他のタイプは航空機用の星型エンジン、つまり貴国のマリンに搭載されているようなエンジンを搭載したものもあります。車体や砲塔は鋳造で…履帯も作れはするみたいですし、ネックはトランスミッションですね。いくらエンジンや車体が良くても、トランスミッションがダメだと全てダメになります。」
「なるほど…」
マイラスは考えた。
(マリンのエンジンが流用出来るなら…だが、履帯は作れるだろうか?いや、トランスミッションの方が重要か?……ともかく、どうにか優れたトランスミッションを開発しなければ!)
マイラスもまた、決意するのであった。
ワイバーンが居る以上、ガソリンエンジン採用は怖い…