──中央歴1642年10月3日、サモア基地──
人気の無い大講堂。
書類や飲み物が入ったグラスがそのままになった机、床に敷かれたカーペットには飲み物を溢したらしいシミが残っていた。
──ピッ……ピッ……ピッ……
そんな中、巨大スクリーンの真正面に座る指揮官がリモコンを片手にとある1シーンを巻き戻しと再生を繰り返しながら鑑賞していた。
「……なるほど」
「指揮官、何をしているんだい?」
パイプ椅子に浅く座って一人納得したように何度も頷く指揮官へ、大講堂に入ってきたノーザンプトンが問いかける。
「お前か。いや、何…世界最強の醜態なんて滅多に見られるもんじゃないからな」
指揮官が何度も観ていたのは、パル・キマイラの撃沈シーンである。
U-2を使って遥か上空から撮影したものではあるが、放射状に広がった3本の支柱を持つリング型のパル・キマイラが、戦艦の砲撃によって中心部を撃ち抜かれている様子はよく分かる。
「冗談にしてはタチが悪いんじゃないかい?」
「おや、俺はミリシアルの醜態っては一言も言ってないぞ。魔帝だよ、魔帝。色々と言われている魔帝でも無敵の存在じゃない…大砲で倒せるなら将来の魔帝復活も案外肩透かしかもしれんな」
そう、指揮官がパル・キマイラの撃沈を繰り返し観ていたのは何もミリシアルの醜態を嘲笑う為ではない。
各国の神話に名を残し、いつの日か復活すると伝わる古の魔法帝国…彼らが持つ超兵器が既存の兵器でも破壊可能となれば、対魔帝戦略にいい影響を与えるはずだ。
「理解は出来るけど今は目の前の事を考えるべきだよ。魔帝への備えが万全でも、グラ・バルカス帝国に負けたら意味が無い」
「そりゃ仰る通りで。しかし…面倒な事になったな。グ帝の連中は大はしゃぎ、ミリシアルの連中はお通夜ムードだ」
「そうだね。あれは私もなんて言ったらいいか分からなかったよ」
大講堂にて行われていたリアルタイムでの観戦であったが、パル・キマイラ撃沈時は言葉に出来ない程の有様であった。
特にミリシアル人は腰を抜かすのはもちろん、その場で失神してしまったり、半狂乱になって飛び出したりと最早哀れというより他なかった。
「グ帝はこの事を大々的に報じるだろうな。『ミリシアルの秘密兵器、空中戦艦を撃沈!異世界国家恐るるに足らず!』ってな」
「そうなるとグ帝側に付く国も多く出てくるだろうね。第四・第三文明圏は大丈夫だろうし、中央世界はミリシアルが睨みを効かせてるから大丈夫としても…」
「第二文明圏、ムー大陸だな。ムーはもちろん、マギカライヒやニグラートみたいなそれなりの国力を持っている国ならまだしも、中小国となればグ帝側に傾くだろうな」
指揮官が懸念しているのは第二文明圏とその周辺の中小国がグ帝の軍門に降る事である。
例えばムーの国境の国がグ帝側となればそれだけ戦線が押し込まれ、グ帝から見た緩衝地帯が増える事になるし、ムー大陸東側の島国や沿岸国がそうなればそこを拠点とした通商破壊が行われるであろう。
そうなればロデニウスとアズールレーンによる対ムー支援に大きな障害となってしまう。
「だったらどうするんだい?先にこちら側に付けと言っておく気?」
「いや、パル・キマイラ撃沈の手柄と比べたらこちらの砲艦外交なんて大した事はない。下手を打って相手国と戦争状態にでもなったら、"正義の軍隊"としてのアズールレーンの大義名分を失う。そうなればこちら側からも離反者が出るだろうな」
「ままならないね…」
アズールレーンは第四・第三文明圏の防衛軍であると同時に、在りし日のパーパルディア皇国のような苛烈な帝国主義国家を打ち砕く事が存在意義であり、それに賛同する国々があるからこそ、潤沢な予算と世界的存在感を手にしているのだ。
だが、帝国主義国家を打ち砕く為と称して主権国家の選択を一方的に糾弾して軍を派遣する事は大義名分を自ら否定する事となってしまう。
そうなればアズールレーン参加国が離反する事は想像に難く無い。
「だがこのまま指を咥えて見ているのも性に合わない。ノーザンプトン、例の機体はどうなっている?」
「例って…どの例?」
「ヴィスカーの新型旅客機だ」
「あぁ、アレだね。あれならもう型式認定を受けてパイロット養成も完了しているよ。10機が運用開始セレモニーのために待機中だって」
「ならばセレモニーはキャンセルだ。代わりに歴史の教科書に掲載されるような出来事の立役者になってもらおう。とりあえず1機を回して、ミリシアルの空港に…」
──バタンッ!
「指揮官さ〜ん!大変なの〜!」
妙案を思いついた指揮官の言葉を遮るようにしてロング・アイランドが大講堂の大扉を開けて転がり込んできた。
「どうした、騒々しい」
「む、ムー大陸に展開している戦略偵察部隊から報告なの〜!グ帝の艦隊がレイフォルから北回りでムー大陸東側に向かってるって〜!」
「ノーザンプトン!」
「これだね!」
指揮官の言葉を聴くや否や、ノーザンプトンはスクリーンを操作してムー大陸の航空写真を映し出した。
「北回り…ムーの主力艦隊は今バルチスタ海域、つまりムー大陸の南側に展開しているな。グ帝艦隊の狙いは?」
「私の予想だと、首都オタハイトと経済の中心マイカルだと思う。この二都市に甚大な被害が出ればムーは戦争遂行のために必要な経済力と世論を失ってしまうね」
「だな。俺がグ帝の人間だったら間違いなくそうする。到達予想は?」
「え〜っと〜…オタハイトとマイカル近海に来るとしたら〜…おおよそ4日後かな〜」
「4日後……間に合うか?ラ・カサミの改修状況は?」
「95%、大部分は出来てるけど調整に一週間は必要だって…」
「ダメだ。2日以内で仕上げろ。それと並行してラ・カサミ乗組員全員分のVRヘッドセットとVRシュミレータープログラムを用意しろ」
「うへ〜…明石ちゃんにぼったくられるよ〜?」
「構わん。こういうときの為の戦時予算だ。ムー支援の為なら文句は言わんだろう」
「だけど指揮官、ここからムー大陸まで海路では4日じゃ行けな…あっ」
途中まで出かかった言葉だが、ノーザンプトンは先程の自身の言葉に気付いた。
「ヴィスカーの新型旅客機だ。あれなら燃料補給の為にアルタラス、ミリシアルを経由しても24時間以内にはムーに到着出来る」
「無茶苦茶だよ」
「多少の無茶をしなきゃ戦争には勝てんよ。ロング・アイランド」
「は〜い」
そうロング・アイランドへ声をかけた指揮官は手帳を取り出すと何やら書きしたため、そのページを破って彼女に差し出した。
「コイツらを明日にでも呼び出してくれ。"旅行"に行くんでな」
書かれた内容を目で追って読むロング・アイランドだったが、読み終えた頃には目を丸くしていた。
「わ〜…豪華メンバーなの〜」
「コレぐらいしておけばグ帝の連中も、屈した国も考えを改めるだろう。まあ、グ帝に関しては望み薄だがな」
そう言う指揮官の表情は、イタズラを思い付いた悪ガキのようであった。
次回からはKAN-SEN達がどんどん出てきます!
久しぶりにアズレンクロスっぽくなってきましたね!
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい