──中央歴1642年10月6日午前10時、サモア基地──
「そういえば、ラ・ツマサ君はどこに居るんだ?」
祖国を護り抜く事をラ・カサミと誓い合ったミニラルだったが、CICから艦橋へ向かっている途中でふと気付いたようにマイラスへ問いかけた。
平行世界のムーで建造された戦艦にして、ムー初のKAN-SENである彼女は、平行世界での経験やキューブ適性によりマイラスにべったり…というか恋人を通り越して伴侶を自認するほど常に付き従っていたのだが、今回どころか最近はマイラスの側に居ない。
「あー…ミニラル艦長、実はラ・ツマサなんですが…居ます。というか…来ました」
「居る?どこに…」
「あ!る!じ〜っ!」
気不味そうに苦笑いしながら答えたマイラスだが、ミニラルはいまいち理解出来なかった。
再び問いかけようとした瞬間、艦橋の外から聞き慣れた声が聴こえてきた。
──ザッ!
「うおわっ!?」
艦橋の外側に張り巡らされたキャットウォークに飛び乗る人影…腰まである長い茶髪と、スラリとしたスマートな体つきはラ・カサミに似てはいるが、全体的にやや幼い印象を受ける。
そしてミニラルはその人物に見覚えがあった。
「あっ…ミニラル艦長、驚かせてしまって申し訳ありません!」
「い、いや大丈夫だ。しかし…見ない間に随分と成長したな…」
キャットウォークに繋がる小さな扉から艦橋内へ入ってきたラ・ツマサはすっかり大人びていた。
身長は平均的なムー人体型であるマイラスより頭半分程高く、手足はモデルのようにスラリと伸びている。
ただ残念な事に彼女自身が最も成長を望んだ"女らしい部分"は微増程度に収まっていた。
《ラ・ツマサ、あなた自分から跳んできたわね?ダメよ、もう少し落ち着きなさい》
「はぁぁぁぁんっ♡ラ・カサミ姉様ぁ♡本日も素敵ですぅ♡」
艦橋に虚像として現れたラ・カサミに嗜められるが、あいにくラ・ツマサは憧れの姉が不完全とはいえ自身と同じ姿で接してくれるという事に舞い上がっているらしく、猫撫で声を発しながらクネクネと喜ぶだけだ。
「ラ・ツマサはラ・カサミKAN-SEN化の作業中にラ・カサミの人格を形成する工程の手伝いをしてもらったのですよ。我々が保有する"計画艦"という特殊なKAN-SENの手法を真似したのですが、上手くいきました」
「ははぁ、つまりラ・ツマサ君は我々より先にラ・カサミに出会っていたと…」
「はい、申し訳ありません。主、ミニラル艦長。KAN-SEN化作業は機密らしく、こうしてお披露目出来るまでは秘密だと指揮官から…」
「そういう事なら仕方ないよ。この技術が敵対国に渡ったら大変だしね。しかし…今更気付いたけど、ラ・カサミの艦…スゴイ事になっていないかい?」
岸壁に居た時には見慣れない艦があるなぁ…としか思えなかったが、それがラ・ツマサの艤装であると知った上で、ラ・カサミの艦橋から見て見ると彼女の艤装も負けず劣らず原型を留めていない。
「ふふ〜ん、スゴイですよね♪詳しくは指揮官からお願い」
「はいはい」
ラ・ツマサから促され、指揮官は窓辺に歩み寄る。
「まず艦体はラ・カサミと同様に元の艦体に延長と拡幅を行い、前部にはラ・カサミと同型の50口径長31cm連装砲を2基装備し、AK630機関砲は装備されていません。後は艦橋周辺にVADS対空機関砲と、艦橋前後にターターミサイルを発射可能なMk.11 GMLSを1基ずつ装備してある点は変わりませんが…ラ・ツマサはラ・カサミに装備されている長10cm連装砲4基に代わって、『Mk.16 GMLS』を2基連結した物を装備しています」
「Mk.16 GMLS…名前からするにまさか…?」
「流石マイラス殿、察しがいい。そう、このMk.16はミサイル発射機です。元々は8連装発射機なので、それを2基連結した物が4基ですから、合計64発の対空ミサイルを連続発射出来ます。Mk.11は最大で4連発が可能ですが、弾薬庫からミサイルを引き揚げて装填する手間がありますからね…瞬間火力のMk.16、継戦力のMk.11という感じでしょうか?」
「ふむ…ではMk.16とやらに搭載出来る誘導弾は如何なるものなのですか?」
ミニラルの質問に、指揮官はタブレット端末を確認しながら答えた。
「搭載ミサイルは『RIM-7E シースパロー』で8kmの射程を持ちます。ターターより射程は短いですが、その分取り回しがいいので、遠距離はターター、それより近ければシースパロー、更に近ければVADSを使う三重の防空が可能です」
「なるほど…それは心強い。ですが一番気になるのは…」
感心しながらもマイラスの視線が向いたのは、後部甲板だ。
ラ・カサミの場合は主砲が1基と対艦ミサイルランチャーがズラっと並べられていたが、ラ・ツマサの場合にはそれらが一切無い。
代わりに後部は前部に比べて幅広くなっており、艦橋の横までハの字に伸びた甲板は僅かに上側に反り返っている。
その姿は、ロデニウス連邦やアズールレーンの大型空母に採用されている『アングルドデッキ』を左右に伸ばしたようだ。
「まるで空母だな…確かアズールレーンの伊勢殿や扶桑殿がこのような姿をしていたが…」
「ミニラル艦長のご察しの通りです。ラ・ツマサはただの戦艦ではありません…
「航空…戦艦…!」
ムーの造船史において戦艦と空母を組み合わせた航空戦艦の構想は幾度か立ち上がったが、それはムーの技術では不可能だった。
しかし、そんな不可能だと思われた艦が目の前にあるとなれば技術オタクの血が騒ぐというものだ。
「しかし、フレッツァ閣下。お言葉ですが航空戦艦は中途半端だと聞き及んでいます。航空機の射程で戦うには主砲は無用の長物となり、主砲の射程で戦えば火力不足と飛行甲板の損傷に悩まされる…故に伊勢殿のような航空戦艦は回転翼機を搭載し、上陸作戦支援を主としたとか…」
確かにミニラルの言う通りだ。
現にアズールレーンの『伊勢型』や『扶桑型』といった航空戦艦達は海軍から海兵隊に転属し、上陸作戦時の艦砲射撃やヘリコプターによる輸送任務を行う事となっている。
「それは承知の上で本人とも話し合った結果、このような姿となりました。この先々、ムー大陸からグ帝を叩き出すとなれば陸上からばかりではなく、レイフォル海岸線への上陸作戦も行う必要があります。ラ・ツマサはそれを見越して航空戦艦への改造を承諾したのです」
それに…と指揮官は言葉を続ける。
「確かに戦艦としては使い難い面もあるかもしれませんが、近接戦闘能力がある空母として見れば中々のものですよ。速力を活かして接近する敵駆逐艦や巡洋艦を主砲の射程と威力を以て圧倒出来ますし…それに艦載機は大盤振る舞いしましたよ」
「艦載機…いったいどんな…?」
「ラ・ツマサ」
「はーい。主、ミニラル艦長、姉上!ご覧下さい!これが…ラ・ツマサの新たな力ですっ!」
ラ・ツマサが右手を振り上げ、頭上で指を鳴らす。
するとラ・ツマサの飛行甲板の一部が下り、暫くしてから再び上がってきた。
そこにはマイラスとミニラルが初めて見る航空機の姿があった。
灰色でシャープなフォルムは正に鏃を思わせ、操縦席を覆うキャノピーは大きく見晴らしがよさそうだ。
「海兵隊所属の航空戦艦、軽空母、揚陸艦向けに開発していた垂直離着陸ジェット戦闘攻撃機、『ハリアー』です。最高速度1100km/hと超音速機ではありませんが、各種兵装を搭載する事によって機銃による制空戦闘から、爆弾やロケット弾を用いた対地対艦攻撃が可能です」
「あれが垂直離着陸機…開発していると聞いてはいたが、まさか我々に!?」
「ええ、ミニラル艦長。生産分から2小隊分8機をラ・ツマサの艦載機としました。残念ながら魚雷の搭載は不可能ですが、最大で500kg爆弾を3発搭載出来るので、対艦攻撃での威力は侮れません」
指揮官が解説している横でラ・ツマサが虚空で指を踊らせる。
するとハリアーは飛行甲板を滑走し、可変ノズルと甲板の反りを利用して驚くほど短い距離で飛び立った。
「注意していただきたいのは、垂直離着陸機と言っても完全な垂直離陸は不可能です。ああやってある程度は滑走しなければ必要な武装や燃料を搭載しての離陸は出来ません」
「なるほど…もしラ・ツマサ以外の艦にも搭載されるようになれば、あのジャンプ台のような甲板が必要となりますね…」
「だがマイラス君、数は少ないとはいえこれは強力な戦力だ。話によれば今まさにグラ・バルカス帝国の艦隊がムーに迫っているそうじゃないか。今すぐにでも出発しなければ宝の持ち腐れだ」
グラ・バルカス帝国の艦隊がムーに向かっていると言う事はミニラル達にも伝えられている。
しかし、サモアからムーまでは1万5千kmは離れている。
20ノットで向かったとしても燃料補給などを考えれば20日はかかってしまう。
間違いなく間に合わないが、それでも動かないわけにはいかない。
「大丈夫ですよ。確かに急いだ方がいいですが、グ帝の連中がムーに辿り着く前にあなた方を送り届ける事が出来ます」
「ど、どうするつもりですか?飛行機でも二日近くかかるのに…」
戸惑うマイラスを前に、指揮官は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「秘密裏に開発していた旅客機があります。ヴィスカー社が開発した
「まっ…マッハ2!?ムーまで8時間とは…」
「スゴイな…サモアを中心に世界が縮まっているようだ…」
あんぐりと口を開け、驚愕するマイラスとミニラル。
そんな二人を見て、ラ・ツマサとラ・カサミは困ったように笑うのであった。
──中央歴1642年10月6日午前11時、サモア基地機密区画──
ムーへ出発するのは昼食後、そうミニラル達に伝えた指揮官は開いた時間を利用してサモア基地の地下にある機密区画へと足を運んでいた。
機密区画は新兵器の開発や情報分析など重要度の高い作業が行われているのだが、今回指揮官が訪れたのはインクの匂いと輪転機の駆動音で満ちた『印刷所』だった。
「これはこれは指揮官殿、お疲れ様です」
「おう、どんな感じだ?」
指揮官の姿に気付いて声をかけてきたのは、印刷所の責任者である重桜の技師だ。
「はい…こちらを…」
別に誰かに見られている訳でもないのに小声で応えながら、技師は一枚の紙幣を指揮官を渡した。
やや古ぼけたなんでも無い紙幣であるが、その正体を知れば技師の態度も分かるだろう。
「ほう…これがグ帝の金か。"オリジナル"か?」
「"コピー"でございます。オリジナルはこちらに…」
そう言って技師が取り出した紙幣は指揮官が持つ物と瓜二つ…シャッフルしてしまえばもう分からない程に似ていた。
そう、これはグラ・バルカス帝国の紙幣である『グラン札』の贋札なのだ。
「こりゃ凄い。苦労しただろう?」
本物と贋札を見比べながら感嘆する指揮官。
彼らは知らないが、このグラン札はユグドにおいては"最も偽造が難しい紙幣"として有名なのだ。
精密な幾何学模様に透かし、虫眼鏡で見てようやく分かるマイクロ文字に、帝国の発展に尽力した偉人の精緻な肖像画、一見すると印刷ミスや掠れに見えるデザインに、微妙な手触りの違いが判別出来る手漉き紙等々…様々な偽造防止技術により偽造自体の難しさはもちろん、贋札の製造コストを上げる事で偽造を防ぐというものだ。
事実、グラン札の贋札が見つかったのはここ10年で僅か2例であり、その実績からグラン札は世界一信用出来る通貨として持て囃されていた。
「えぇ、多少手こずりましたが…しかし重桜の紙幣に比べれば楽なものです。捕虜に没収品を返却する際にこの贋札を混ぜてみましたが、誰も気付きませんでしたよ。穴が開きそうな程に見ていたのに…ふふっ」
技師の言う通り重桜の紙幣は先述の偽造防止技術はもちろん、見る角度によって色や模様が変わるパールインクにホログラム印刷や紫外線を当てると光る特殊発光インク、より小さいマイクロ文字等多種多様な偽造防止技術が使われているため、過去30年での贋札事件は未遂が1件だけである。
そして、その未遂事件をやらかしたのが、この技師だ。
「いくら出来てる?」
「捕虜からの話でグ帝の経済状況は大体分かりました。それ鑑みると…ざっと首都の一等地に大豪邸が建てれる程には。しかし、まだ使えません。今ある分は印刷したてで全てがピン札です。違和感無く使うには人の手で触ったり、汚したりして使用感を出す必要があります」
「分かった。とにかく贋札を刷りまくれ、最低でも今の10倍は欲しい。それと…」
指揮官が目を向けたのは、印刷所の片隅に置かれた紙の束であった。
「アレは?」
「これは…出来損ないです」
技師が紙の束を広げる。
それは切り離す前のグラン札であった。
「んー…?よく出来ているじゃないか」
「いえ、原材料の配合を間違ったせいで手触りが微妙に違うのです。人々は紙幣のデザインなんて額面しか見ていませんが、手触りは意外と覚えているのですぐに贋札だと分かってしまいます」
確かに触ってみれば出来損ないと言われた方は若干だが紙っぽさがあり、一方オリジナルは布っぽい手触りになっている。
確かに毎日触る者からすれば直ぐに気付いてしまうだろう。
「捨てるのか?」
「いえ、再利用します。水で繊維を解して漂白し、配合を見直せば作り直せるので」
「いや、待て。これはこれで取っておけ。少しだけでいいから、このクオリティの贋札を作っておくんだ」
「はぁ…?」
何故わざわざバレるような贋札を作らせるのか…技師には理解出来なかったが、指揮官は口角を吊り上げたいやらしい笑みを浮かべるだけであった。
次次回ぐらいにはラ・カサミとラ・ツマサの大暴れが書けると思います
多分
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい