──中央歴1642年10月6日午後5時、神聖ミリシアル帝国ゴールドホーン国際空港──
──ヒィィィィィィィィィ…
神聖ミリシアル帝国最大の港町であるカルトアルパスの郊外、西側の海沿いある巨大空港『ゴールドホーン国際空港』に一機の旅客機が甲高いタービン音を響かせながら着陸しようとしていた。
上から見れば頂点が突き出た二等辺三角形のようであり、その底辺の中ほどからは突撃槍を思わせる尻尾のような物が伸びている。
いわばテールコーンを持った後退角のキツイ無尾翼デルタ機であり、その動力であるエンジンは2基を纏めた四角のポッドが一つずつ両翼下に取り付けられていた。
そして何よりも特徴的なのは、着陸態勢に入った瞬間に折れ曲がった鋭い機首だ。
その姿は、折れ曲がった機首と機体自体のシルエットから巨大な鳥のように見えなくもない。
「ふぅ…サモアを出発したのは昼過ぎだったのに、夕方に到着してしまった。これが超音速の旅…いやはや、帝国の旅客機を全てこの『コンコルド』にしてもらいたいものだね」
ハガキ程の大きさしかない小さな窓から外を窺いながら感心したように呟くのは、便乗してミリシアルへ帰国したメテオスだ。
「ふん、こんな物は道楽でしかない。旅客機ないし輸送機はある程度の速度があれば十分、あとは燃費と積載力を追い求めるべきであろう」
そんなメテオスの隣で呆れたように述べるのは、空になったワイングラスを手持ち無沙汰に揺らすテュポーンである。
彼女の言う通り、正直言ってコンコルドのような超音速旅客機は無用の長物と言っても過言では無い。
読者諸兄はご存知であろうが、現実世界のコンコルドは維持コストの高さや、超音速飛行時の騒音、航続距離の短さから嫌厭され、鳴り物入りでデビューしたものの結局は早期退役と相成ってしまったのである。
しかしそれは現実世界での話、この異世界では事情が異なる。
「テュポーンの言う通りだ。メンテナンスには時間もコストも必要だし、燃料はバカみたいに飲み干すし、機外は頭がおかしくなりそうなほど煩いが…こういう使い方ならメリットは大ありだ」
テュポーンの苦言に苦笑しながら応える指揮官。
というのもこの世界におけるコンコルドは文明圏間航路、つまり第四文明圏のサモアあるいはロデニウス連邦から、第三文明圏最寄りのアルタラス、中央世界のミリシアル、第二文明圏のムーを最速で繋ぐ航路で運用される予定である。
その航路はほとんどが海上である為に騒音問題は少なく、文明圏間を最短半日で繋ぐとなれば多少運賃が高くとも利用者は一定数確保出来るという試算が出ている為、商業利用可能と判断されたのだ。
「そしてKAN-SENとしての能力を使えば遠隔地へと迅速に大艦隊を展開出来る…と」
「えぇ、メテオス殿の仰る通りです」
そう言って機内を見渡し、指揮官に指名されて同乗した見目麗しい美女、美少女の姿を確認するメテオス
彼が言う通り、KAN-SENを利用すれば世界中に24時間以内に100隻を超える大艦隊を展開する事も出来る。
この世界の地理とKAN-SENの存在…それこそがコンコルドが就役出来た理由なのだ。
「つくづくKAN-SENとは度し難い存在だ。魔帝が復活すれば間違いなく解剖実験されるだろう」
「そうならない為に力を磨いているのさ」
「ふん」
指揮官からの言葉にテュポーンは鼻を鳴らすと、タキシングを終えて停止したコンコルドから、タラップ車を待つことなくハッチからヒョイッと飛び降りて一足先にターミナルビルへと向かって行った。
「申し訳ない。彼女は相変わらず協調性が…」
「メテオス殿」
そっけない態度を崩さないテュポーンに、メテオスが代わりに謝罪するが、それを指揮官が遮った。
「ご同僚の事は残念でした。しかし、決して復讐に囚われてはなりませんよ」
そんな忠告にメテオスはふっ…微かに笑って見せた。
「あの件はワールマンの慢心と油断が生んだもの…いわば奴の自業自得です。ただ…敵討ちぐらいは許されるでしょう?」
「そう言えるのなら大丈夫でしょう。次会う時は…戦場でしょうかね?」
「かもしれません、では…」
タラップ車が接続されたのを確認して、メテオス達ミリシアルの面々がゾロゾロと機内から名残惜しそうに降りて行く。
予定では彼らが降りた後、指揮官達は待機させている別のコンコルドに乗り換える予定なのだが、メテオス達に続いて降りる一団がある。
「では指揮官殿、我々はここで…」
それはヴィスカー社の技術陣であった。
というのも今回の対グ帝戦においてアズールレーン、ロデニウス連邦軍がミリシアル国内の空港、港を最優先で使用出来る事と引き換えに、ミリシアルへの技術提供を行う事としたのだが、その一環として彼らがミリシアルへと派遣される運びとなった。
「あぁ、気を付けて。ここでは何をするんだったか?」
「はい。ミリシアルでは超音速迎撃機や、超音速低空侵攻攻撃機といった航空機や、装甲車両、戦闘艦艇の技術協力を行う事になっています」
「ミリシアルも科学技術を取り入れる方向に舵を切った…って訳か」
「まあ、ガワだけですがね。燃料や火薬類は魔導技術由来の物です」
そう言ってヴィスカーの技術者が向けた視線の先には、滑走路の脇で駐機する10機程度の双発ジェット爆撃機の姿があった。
葉巻型の胴体に幅広のテーパー翼、その主翼には左右1基ずつエンジンが埋め込まれている。
ヴィスカー社製の『キャンベラ』だ。
「それでも俺達の影響力が増すのはいい事だ。その調子でミリシアルでも頑張ってくれ」
「はっ、ご意向のままに…」
──中央歴1642年10月7日午前9時、ムー大陸北東海域海ワイバーン島──
ムー大陸の北東海域、そこにはムー大陸がこの世界に転移する以前から小さな島があった。
現実世界で言えば一部では有名な『青ヶ島』程度のサイズであり、島の外周は断崖絶壁、地表は低木が疎らに生えているだけの岩場が殆どだ。
それだけでも人が住むには適していないのだが、それ以上にこの島への居住を困難とする要因があった。
それこそが島の名前『海ワイバーン島』の由来ともなっている『海ワイバーン』の存在だ。
彼らはこの島の固有種であり生物学的には通常のワイバーンの亜種であるが、青灰色の鱗を持ち魚介類を主食とする海辺での生息に特化した種族なのである。
そして通常種ワイバーンと比べて気性が荒く乗りこなせるものではない為、島の環境も相まって各国はこの島と海ワイバーン達を領有する事なく放置しているのだ。
しかし、そんな海ワイバーン達の楽園にこの日、惨劇が襲いかかった。
──ヒュウゥゥゥゥゥゥゥ……ドゴォォォンッ!
「ギャアッ!?」
「ギャアッ!ギャアッ!」
「ゴォォォォォッ!」
空から落ちてきた黒い塊が地面に触れた瞬間、凄まじい衝撃と轟音、ドス黒く熱い煙と凄まじい速さの礫が辺り一面に撒き散らされ、近くにいた同族が次々とそれを食らって絶命した。
彼らにとって運悪く今はちょうど朝の狩りを終えて休憩している所であった為、密集していた所に"それ"が降ってきたのだから一度に30以上の同族が命を落とし、少し離れていた者達も大なり小なり傷を負っている。
「ギャアッ!ギャアッ!」
群れのリーダーが危険を知らせる鳴き声を響かせ、それを聴いた海ワイバーン達は我が子を促して空へ飛ぼうとする。
しかし、それは遅々として進まない。
というのも春に産まれた子ワイバーン達はようやく飛び方を教わり始めた段階であり、殆どが地上で翼をバタつかせながら走る事しか出来ない。
そんな我が子を親ワイバーンは焦りを滲ませた表情で見守るが、"それ"は無慈悲にも子ワイバーン達にも牙を剥いた。
──ヒュゥゥゥゥ…ドンッ!ドンッ!ドンッ!
先程より小さな黒い塊が幾つも降り注ぎ、炎と礫で子ワイバーンを無惨な骸へと変える。
──手塩に掛けて育てた我が子を殺したのは誰だ!
憎しみを宿した瞳で空を見上げれば、遥か上空にいくつかの影が見える。
──奴か!奴が下手人か!
怒りの炎が燃え盛る爛々とした双眸を向け、真っ直ぐ影に向かって飛ぶ。
しかし、追いつけない。
彼らより高い場所を、彼らより速く飛んでいる影はまるで糞のような物を落とし、落ちた場所では子供達が断末魔を上げて死ぬ。
──ブゥゥゥゥゥゥンッ!ダダダダダダ!
「ギャアッ!?」
限界高度ギリギリで藻掻いている海ワイバーン達に襲い掛かる奇妙なワイバーン。
羽ばたかず、鼻先がグルグルと高速で回っているそれはこれまた奇妙な鳴き声と共に小さなブレスを吐いて一頭を穴だらけにした。
「ギャオォォォォッ!」
「ギャオッ!ギャオッ!」
「ゴァァァァァァ!」
そしてその穴だらけになったのは群れのリーダーであった。
最も強く、最も賢いリーダーを失った海ワイバーン達は統率を失い、バラバラに逃げたり、奇妙なワイバーンへ立ち向かって行くが…その殆どはリーダーの後を追う事となった。
──同日、ムー大陸北東海域海ワイバーン島沖合──
海ワイバーン島の沖合。
そこは普段なら海ワイバーンを刺激しない為に近付く船は無いのだが、黒鉄の船体を持つ軍艦による艦隊が悠々と航行していた。
その艦隊の中心に位置するのは航空母艦…グラ・バルカス帝国のペガスス級航空母艦『シェアト』だ。
その傍らにはオリオン級戦艦の『メイサ』が居り、それを囲むようにして軽空母1隻、重巡洋艦3隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦12隻、補給艦3隻が展開していた。
「何匹殺った?」
「5匹だよ。お前は?」
「4匹だ。負けちまったぜ」
シェアトの甲板で談笑するパイロット達は下衆な笑みを浮かべ、海ワイバーンの返り血を浴びた愛機を自慢気に見つめている。
そう、彼らこそ海ワイバーン島を襲った張本人であるグラ・バルカス帝国海軍第52地方艦隊、別名『死神イシュタム』である。
その仰々しい二つ名が示す通り、彼らは植民地警備の際に反乱が起きれば虐殺や暴行を躊躇いなく行う事で知られており、配属されているのは残虐非道かつ品性下劣なサディストばかりだ。
「ふん、トカゲ風情が生意気な…まあ、ちょうどいい予行練習になりましたよ」
そんな甲板の様子を艦橋から見下ろすのは、イシュタムの艦隊司令『メイナード・メイロー』だ。
何故彼らが海ワイバーン島を襲撃したのか…それは単に彼らの怒りを買ったからである。
というのもイシュタムはムーの主要都市であるオタハイトとマイカルを襲撃する為にレイフォルから出撃し、北回りで向かっていたのだが、その途中で島に近付き過ぎたため数頭の海ワイバーンからの襲撃を受けたのだ。
とは言っても対空砲火によって海ワイバーンは全て撃墜され、イシュタムに被害は無かったが、サディストである彼らは歯向かってきた海ワイバーン達に一方的な怒りを募らせ、"ムー襲撃の予行練習"と称して海ワイバーン島への空爆を行ったのである。
「司令!メイサ以下、他艦から入電ですぜ!俺達にも撃たせろって言ってます!」
「よろしい。せっかくなら艦砲射撃の練習もやっておきましょう」
「ですけど…本当にいいんですかい?ムーに到着するのが2〜3日は遅れるかもしれませんぜ」
シェアトの艦長が懸念する。
確かに彼が言う通り、ここで弾薬を消耗すれば補給艦から弾薬を各艦へ運び込むのに2日はかかるだろう。
「構いませんよ。ムーの艦隊や航空機なぞ所詮は旧式…現状でも楽勝でしょうが、市街地への攻撃で弾が不足しては面白くない」
「アイアイサー、では思う存分撃たせてやりましょう」
青白い顔に酷薄な笑みを浮かべたメイナードに、艦長はサディスティックな笑顔で応える。
その後、海ワイバーン島へのイシュタムによる艦砲射撃が行われた。
戦艦や巡洋艦はもちろん、駆逐艦に果てはシェアトの高角砲まで動員した艦砲射撃は僅かに生き残っていた子ワイバーンや負傷して飛び立てなかったワイバーンに止めを刺し、島の地形すら変えてしまったのである。
拙作のコンコルドの機内、めっちゃイイ匂いしそうですよね
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい