Xから怒られたばかりなのになんて覚悟だ…
──中央歴1642年10月9日正午、マイカル東方沖──
空母シェアトから次々とアンタレス艦上戦闘機が飛び立つ。
如何に舐め腐っているとはいえ、敵迎撃機が飛び回る中に過積載の爆撃機や攻撃機を飛ばす事はしない。
先ずは制空権を確保すべく、18機のアンタレスがマイカルに向かって飛んでいった。
「くくく…ご自慢の複葉機が撃墜される様を見せつけてやれば、劣等種共はどんな顔をするのでしょうかね。直接見れないのが残念で仕方ありませんよ」
張り付いたような笑顔でそう述べるメイナード。
ムーの迎撃戦力が如何ほどかは分からないが、マリンとかいう複葉機相手ならアンタレスにかかれば10倍の数が来ても楽勝だろう。
それに、マリンは過給機を備えていないため4000m程しか上がれないという事も分かっている。
低空で囲まれても急上昇してしまえば何の問題もない。
「……ん?なんだ?」
「おぅ、どうした」
タバコを吹かしていたレーダー手が真っ白になった画面に首を傾げ、艦長が問いかける。
「いえ、レーダーが映らなくなりました。故障かな?」
「チッ、整備班め…他の艦はどうだ?」
「……無線が通じません。見張りに手旗信号で交信するように伝えます」
整備不良でレーダーが故障したと考えた艦長は通信士に他艦への交信を命ずるが、無線機も雑音を流すばかりで通じない。
「これは…磁気嵐でしょう。何度かありましたが、ここまで大規模なものは初めてです」
面倒臭そうに吐き捨てるメイナード。
グ帝がこの世界に転移してから、似たような状況に何度か出会した事がある。
この惑星の地磁気の乱れによってレーダーや無線の使用が出来なくなるという現象だが、この状況はある意味好都合だ。
「……見張りからです。やはり他艦もレーダー、通信共に使用不能となっているようです」
「ならばやはり磁気嵐ですね。これなら制空権を確保する必要はありません。敵は我々の爆撃隊をレーダーで探知出来なくなっている筈ですから、敵飛行場を爆撃させましょう」
「はっ、では待機させている艦爆と艦攻を全機発艦させます」
こちらのレーダーが使えなくなっているとなれば、より劣る性能のレーダーしか持たないムーも同じ状況となっている事だろう。
この状況を利用すれば、敵迎撃機が飛び立つ前に飛行場を爆撃すればより有利に事を運べるはずだ。
「くくく…面倒な事になったと思いましたが、何事も使いようです。むしろこれは天が我々に味方していると言っても良いでしょう」
先程とはうって変わって上機嫌になるメイナード。
そんな彼の気分を盛り上げるように、シリウス艦上爆撃機が胴体下に500kg爆弾、翼下に50kg爆弾を2発搭載して次々と発艦してゆく。
その数30機、マイカルの人口密集地に爆撃すれば何千という命を奪う事だろう。
「見張りより報告。西方より飛来する航空機あり、数は8…まさかムーの?」
「馬鹿言え。ムーだってレーダーが使えないし、運良く勘付いても先行したアンタレスが全部撃墜している筈だ」
「艦長の言う通りでしょう。おそらくそれは味方、おおかた機体のトラブルで帰ってきたんでしょうね。しかし、リゲルの発艦準備中だというのにタイミングが悪い…アンタレスは着水させて、そのまま廃棄したほうがいいかもしれません。どのみちもうじき耐用限界だったので、ちょうどいいでしょう」
甲板上には800kg爆弾と同じ形をした焼夷クラスター弾を搭載したリゲル雷撃機の姿があり、着艦スペースにまで発艦を待つ機が寿司詰めとなっている。
この状況でトラブルを起こした機体を着艦させるには一旦リゲルを格納庫に収める必要があるのだが、メイナードはアンタレスを不時着水させる事とした。
どのみちイシュタムに配備されている機材は中央艦隊で使い古した物を修繕したものだ。
パイロットが無事なら捨てても惜しくはない。
「しょうがありませんなぁ。おい、手旗信号でパイロットに着水するように見張りに…」
「見張りからです!機影、アンタレスにあらず!繰り返す、アンタレスにあらず!」
通信士からの言葉に全員が慌ただしく動き始める。
「なんだと!まさかアンタレスを掻い潜って来たのか!?」
「分かりません!しかし…あ、アレでは?」
目を丸くする艦長が狼狽しながらも通信士が指差した方向に双眼鏡を向け、メイナードもそれに続く。
「……まだ遠い」
レーダーも使えない上に今日は雲一つ無い青空だ。
比較する物が無いため未確認機の距離や高度がイマイチ分からない。
メイナードはこれまでの経験から30km程度離れていると推測したが、この距離では高角砲は届かない。
もっとも、敵も攻撃出来る距離ではないから恐れる必要は無いのだが。
「……お、何となく姿が見えて来やしたぜ。ん〜?プロペラが…ない?ミリシアルの戦闘機?」
艦長が見た物はメイナードにも見えていた。
鏃を思わせる三角形のシルエットはアンタレスやムーのマリンとは似ても似つかないし、何より推進力を生み出すプロペラが無い事はミリシアルの戦闘機に似ている。
「ミリシアルがムーに戦闘機の部隊を展開したという情報はありません。義勇兵が居る話は聞きましたが…」
「ならばアズールレーンとか言う連中ですかい?」
「いえ、アズールレーンの本拠地はここから離れた第三文明圏の更に先…ムーに展開するには時間が…おや、あの機体にはムーの認識章が……?」
艦長と話していたメイナードだが、とある違和感を覚えた。
というのも先程まではシルエットしか識別出来なかった未確認機の姿が、今では三角形の主翼に大きく描かれたムーの国籍識別章や、主翼と胴体下に円筒形の物体を吊り下げている様子まで視認出来るようになっていた。
「速い!対空射撃急げ!未確認機はムー機!爆弾らしき物を抱えていますよ!」
そう、未確認機ことムー機は速かった。
メイナードの目測では500km/h以上は出ていると判断出来、もしかしたらそれ以上出ているかもしれない。
それが爆弾らしき物を抱えて艦隊上空に来ようとしているのだ。
今までのように振る舞っている訳にはいかない。
「敵機、投弾!」
「投弾!?水平爆撃だと!?」
そのまま艦隊上空で急降下し、爆弾を投下すると思われた敵機だが、何を思ったのか艦隊の10km程手前で半数の4機が爆弾を投下すると、そのまま引き返してしまった。
「ふぅー…なんだ、ビビらせんなよ」
「まあ、この艦隊を見て諦めたんだろ」
「やっぱりムーは腰抜けの劣等種だな!」
敵機の不可解な動きを都合よく解釈した乗組員達がムーへの嘲笑を口にする。
「一応の用心はしておきましょう。取舵を。水平爆撃なら少し進路を変えれば当たりません」
そんな中、メイナードは取舵を命じた。
優秀な照準器と腕利きの爆撃航法士が居れば水平爆撃でもそれなりに高い命中率を叩き出せるが、それは建物のような固定目標ならの話だ。
移動目標ならそうはいかないし、少し進路を変更すればよほど運が悪くない限り当たりはしない。
「まったく…抵抗なぞ止めて、帝国の軍門に降れば良いのに……」
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ……
緩く左に曲がるシェアト。
メイナードは爆弾が落ちる風切り音を聴き流しながら嘆息していた。
「……?」
こんな話がある。
陸軍の、歩兵の話だが、ベテランの兵士は自分に当たる弾が音で分かるそうだ。
──ヒュウゥゥゥゥゥゥゥ!
「っ!取舵いっぱい!当たるぞ!」
「は…?」
「貸せ!」
戸惑う艦長を尻目に、メイナードは操舵手を突き飛ばして操舵輪を全力で左へ回した。
「おわぁぁぁぁぁっ!?」
既に緩く左旋回していたシェアトは大型空母ながらも急旋回してみせ、艦体の左舷が大きく沈み込んで全体が傾く。
──ミシミシミシ…バキッ!バキッ!ギィィィィ…
傾きに耐えきれず待機していたリゲルが横滑りし、隣の機体とぶつかり、ポロポロと甲板要員諸共海に転落してゆく。
司令は気が狂ったか…滑らないように手近な物に掴まっていた艦長達がメイナードへ青い顔を向けた瞬間だった。
──ヒュゥゥゥゥゥッ!ドンッ!!
先程までシェアトがあった場所に落下する爆弾。
それは海中で炸裂し、巨大な水柱を作ってシェアトに海水の雨を浴びせた。
「はぁーっ…はぁーっ…はぁーっ…」
「し、司令…」
「被害は!?」
操舵輪に寄りかかって息を整えていたメイナードへ艦長がおずおずと話しかけるが、彼はすぐさま被害状況の確認をさせた。
「少々お待ちを……本艦自体に被害は…しかし、艦載機が…」
「艦載機はどうでもいい!他の艦は!?」
「他……っ!?」
戸惑う通信士やレーダー手が窓から辺りを見回すと、メイナードの言葉の意味が分かった。
なんと信じ難い事に、シェアトの後方に居た補給艦3隻が大炎上、或いは艦体が真っ二つになって今まさに沈んで行くではないか。
「機関全速、炎上している補給艦から離れろ!弾薬が誘爆するぞ!」
「き、機関全速!機関全速だ!」
形振り構わぬメイナードの姿に気圧されたのか、艦長はすぐさま命令を下す。
(あの爆弾…まさか…私の見間違いでなければ…)
──ドゴォォォォンッ!
炎上していた補給艦が大爆発し、轟音が鳴り響く。
そんな中でもメイナードは、ある一つの仮説にたどり着いた。
(落下中、進路を変えた…まさか、こちらを追い掛けたのか…?)
次回はムー視点です
今後、お色気シーンは…
-
今より増やせ
-
このぐらいでいい
-
もう少し減らしていい
-
もっと減らして
-
無くていい