──中央歴1642年10月19日午後3時、戦時外交局──
床に広がった第52地方艦隊、通称イシュタムの軍艦旗。
それはイシュタムの旗艦であるシェアトに掲げられていたはずだが、焼け焦げ、至る所が引き裂けている様を見るに密かに盗み出したという訳ではなさそうだ。
「どうされました?本来なら戦利品として、ムーの劇的勝利の証として博物館に展示する筈だった物ですよ。ムーに頼み込んで譲り受け、貴国への贈り物にしたのですから受け取って頂かないと困ります」
言葉使いこそ丁寧だが、口調の端々から嘲笑うような態度を覗かせる指揮官。
「あらあら、指揮官。どうやらこの贈り物はお気に召して頂けなかったようです。どうしましょう…やっぱりスパムの缶詰めでも持ってくるべきだったかもしれませんね」
それに同調するようにヴァンガードも同じ様な言葉使いと口調でそんな事を述べつつ、顔に飛んだゲスタのツバを真新しいハンカチで拭いながら指揮官の側に戻る。
彼女の表情は何とも晴れかやであり、ゲスタとシエリアの次なるリアクションを期待してか何処かワクワクしているように見えた。
「なっ…ムーの都市は壊滅した筈じゃ…」
「そうだな。多分連中もそれを狙ってたんだろうが…死んだよ、全員。……いや、正確にはムーの首都オタハイトを狙った連中は20人ぐらい生き残ったって話だがな。残念ながらマイカルを狙った連中は200人ぐらい生き残ってたが…何故か野良ワイバーンに狙われて、全員殺されたよ」
顔を青くするシエリアへ、指揮官がズバリと無慈悲に応える。
しかし、そんな中ゲスタは立ち上がりながら両手でデスクを叩き、怒鳴り散らす。
「貴様ら、自分達が何をしたか分かっているのか!?貴様らのせいでバルカス人が死んだんだぞ!我々優等民族は1人で貴様ら蛮族100人の価値があるのだ!それを殺すなぞ…」
「じゃあ何でそんな優等民族とやらが俺達みてぇな蛮族にやられたんだよ。勝ってなきゃおかしいだろうが」
「それは第52地方艦隊が素行不良者を集めた植民地反乱鎮圧部隊だからだ!東征艦隊を始めとした中央艦隊なら…」
「優等民族なのに何で素行不良者が艦隊を運用出来るほど居るんだよ。なあ、ヴァンガード。俺が思う優等民族って、品行方正、頭脳明晰、眉目秀麗って感じだと思うんだが」
「全くそうじゃないわね。少なくとも反乱が起きるような統治をしている時点で品行方正とは言い難いし、そんな格下を抑え付けるような艦隊を敵国の首都攻撃に使う時点で頭悪いし…まあ、眉目秀麗かは個々人の価値観だから何とも言えないわ。少なくとも私の美的感覚だと"アレ"は無しだわ」
顔を真っ赤にしたゲスタを指差し、生ゴミでも見るような視線を彼に向けるヴァンガード。
それを受け、ゲスタは更にヒートアップする。
「貴様ぁぁぁぁ!もういい!軍門に下るつもりは無いのだな!貴様らは我が国の敵、殲滅されるべき害虫だ!もはや命乞いも意味は無いぞ!アズールレーンに加盟する全ての国を焼け野原にして、貴様の前でその小娘を穢してくれるわ!」
「おーおー、上等だよ。こっちもそのつもりだからな。ヴァンガード」
「嫌ね、こういう小物が居る職場。貴女には同情するわ」
そのまま頭の血管が切れて倒れるんじゃないか?と思う程に怒り狂うゲスタを前に、指揮官はヴァンガードに手を差し出し、彼女はそれに応えるように懐から一通の書簡を取り出しながらもシエリアに生暖かい視線を送った。
「余計なお世話だ」
「はいはい、まあこんな上司が居る職場で働いているという点があっても、貴女のしでかした事は帳消しにならないけどね。はい、指揮官」
「おう」
キッと睨み付けるシエリアを涼やかに受け流しながら、指揮官へと書簡を手渡すヴァンガード。
指揮官は受け取った書簡を手に一歩前に出た。
「では本題に移らせていただこう。そちらは我々に命乞いは無駄だと言ったが、こちらとしても自分達が一番偉いとか考えているような連中に尻尾を振るなんざ真っ平ごめんだ。そして、我々アズールレーンに加盟している国々も同様だ」
そう言って広げた書簡をゲスタに突き付ける指揮官。
そこには最初期のアズールレーン加盟国であるロデニウス連邦やトーパ王国から始まり、現状最後の加盟国であるムーの国名と各国の代表者のサインが記されており、最後にはこう記されていた。
──以上、アズールレーン全加盟国はグラ・バルカス帝国の悪逆非道を断固として非難すると共に、あらゆる手段を以ってこれを阻止する。
あらゆる手段…つまりは話し合いではなく、武力を以ってグラ・バルカス帝国の野望を阻止すると言っているのだ。
「馬鹿馬鹿しい!如何に軍事同盟と言えどその多くは槍や弓矢で戦うような旧時代の遺物!数を揃えても、量と質を両立した帝国軍の敵ではない!カルトアルパスやムーのように、局地的な勝利を収めるのが関の山だ!最終的な勝利は帝国のものだ!」
ヒステリーを起こしたように怒鳴るシエリア。
フォーク海峡でのトラウマが色濃い彼女はそうしなければ心が折れてしまいそうだった。
「何より、貴様らは誘導兵器や超音速機を使ったと絵空事のようなプロパガンダを恥ずかしげもなく新聞に書かせていたではないか!」
「オタハイト・タイムズ、中央歴1642年10月13日夕刊。13日の午後6時42分にエルシャバ駅4番乗り場の売店で路線図、時刻表、サンドイッチ、紅茶と共に購入」
「?」
シエリアの怒鳴りを一頻り聞いた指揮官が突如として発した謎の言葉にゲスタは怪訝な表情を浮かべるが、シエリアは先程まで赤くしていた顔を真っ青にした。
「エルシャバ駅から南北縦断路線の上り線特急を使い、アルダ・ノード駅、旧陸軍基地駅、サバントス駅を経由し終点で降りて海岸に隠していた手漕ぎボートで沖合に待機していた潜水艦と合流」
「な…何故それを…」
諜報を担当する情報局は誤報が多いため信用されておらず、グ帝では各機関が独自の諜報部門を持っている。
それは外務省も例外ではなく、外交諜報部を保有しているのだ。
そして外交諜報部は入手した仮想敵国・敵国の書籍や新聞などを何処で入手し、どのような経路で国内に持ち込んだかを報告する義務がある。
そして指揮官が発した言葉は、シエリアが嘲笑しながら読んでいたオタハイト・タイムズの入手経路そのままなのだ。
「安心しろ、何でも知ってる訳じゃない。知っている事だけだ。まあ、そんな事はどうでもいい。そんな事より…KAN-SENの事も読んだんだろ?」
「っ…!そ、そうだ!人間の女に変身出来る軍艦なぞあり得…な…い……」
ふと、シエリアは気付いた。
今までここに来た各国の代表者は単身か、如何にも外交官と言った官僚か、あるいは少しでもこちらを威圧しようとする為に筋骨隆々な男を連れて来ていた。
しかし、指揮官はそのどれでもない、見目麗しい少女と言っても通じるような女性を連れて来ている。
「ちょうどそこの窓からヴァンガード…戦艦が見えるだろう?よく見てな」
「は?ヴァンガード?それはその小娘の名ま…」
状況が飲み込めず狼狽えるゲスタだが、指揮官はそれに構わずにヴァンガードとアイコンタクトする。
「えぇ、分かったわ。全艦、艤装展開!」
耳元に手を当てて凛々しい声で高らかに告げるヴァンガード。
すると駆逐艦に囲まれたまま停泊している戦艦ことヴァンガードからいくつもの光の筋が飛び出した。
「なっ…なんだ…!」
「眩しいっ!目が焼ける!」
まるで太陽が落ちて来たかのような眩い光がヴァンガードを中心に迸り、レイフォリアを照らす。
それから数秒の後、光が収まって人々の目が幻惑から晴れた瞬間、レイフォリアに居た全ての者が己の目を疑った。
「残念ながら…全て事実だよ。誘導兵器も超音速機も…KAN-SENもな」
近海に現れた総勢29隻の軍艦…全てがアズールレーン軍旗とグ帝が指定した戦時外交旗を掲げていた。
「そんな…そんなバカな…」
自身の目を疑いたくなるシエリアだが、腰を抜かしているゲスタと扉の向こうから聴こえる走る足音や怒号からして、どうやら自分の目がおかしくなった訳ではないという事を確信し、震える事しか出来なかった。
1日に2本も上げるなんて連載開始当時を思い出しますねぇ
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい