異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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今回から久々の陸戦です!
かなり久しぶりなので上手く書けるかちょっと不安ですね…


282.アルー、鉄の嵐!【1】

──中央歴1642年11月29日午前7時、ムー・レイフォル国境上空──

 

冬も本番に突入しつつあるムー大陸の中部は非常に冷え込み、朝方ともなれば凍てつくような寒さが身に染みる。

それが上空ともなれば尚のことだ。

 

「ふぃー…寒い寒い。もう帰りてぇよ」

 

「バカ言うんじゃない。まだ上がったばかりだろ」

 

冬の寒さに悪態をつきながら操縦桿を握り、銃手から咎められるのはグラ・バルカス陸軍航空隊のパイロットだ。

彼が操るのは『ミザール艦上爆撃機』と呼ばれる急降下爆撃機である。

本機は陸海両軍の主力急降下爆撃機であるシリウスの前任機であり、謂わば旧型だ。

しかし、固定脚を始めとした頑丈な機体構造や、急降下爆撃機ならではの戦闘機並みの運動性を買われ、海軍では練習機に、陸軍では歩兵部隊への支援や弾着観測、果ては簡易的な防空戦力として未だに新造されて使われているのである。

そして彼らが寒空の下を飛行している理由こそが、ムーの国境の街『アルー』侵攻を目論む部隊の動きを覗こうとする敵偵察機を警戒する事なのだ。

 

「うー…寒い寒い…手がかじかんで仕方ない…」

 

火に焚べたレンガを布で包んで作ったカイロを摩って指先を温めるパイロットへ、背中合わせの銃手が声をかける。

 

「なあ、あれ…敵の偵察機じゃないか?」

 

「ん?……かもしれない。行くぞ」

 

ムーの過給機が無い航空機を想定して飛行していた彼らの高度は現在5000m程度だ。

しかし、銃手が見つけた機影はその倍以上高い空を飛んでいるように見える。

ムーの航空機があんなに高い場所を飛べるとは思えないが、それでも正体が何か分からない以上は見て見ぬふりは出来ない。

そう考えたパイロットは愛機を螺旋階段を登るように旋回させながら上昇させる。

 

「……バカな。いったい何mを飛んでいる?」

 

10分以上かけて高度9000mというミザールの限界近くまで上がってきたが、敵機はそれよりも高い空を飛んでおり、とてもじゃないが追い付けない。

 

「見えた、アレはムーの国籍識別章だ。ウソだろ…ムーがあんな飛行機を持っているだなんて聞いた事無いぞ!」

 

彼らが知るムーの航空機と言えば過給機が付いていない複葉機であり、速度はせいぜい400km/h未満、限界高度は4000m程度の低性能機だ。

しかし彼らより高く飛んでいる飛行機は単葉機であり、滑らかなシルエットと主翼にエンジンを1基ずつ搭載した双発機である。

ムーの戦闘機マリンとも輸送機ラ・カオスとも違う。

 

「クソ…ダメだ、追い付けん!高いだけではなく早いぞ!」

 

もし偵察機なら写真撮影の為に高度を落とすだろう。

そう考えたパイロットは高度を落とした瞬間を狙う為に敵機を追尾しようと考えたが、グングンと距離を離されている。

ミザールは430km/hもの速度を誇るが、スロットル全開でも距離を離されている所を見るに、600km/hは出ているかもしれない。

高度1万m以上を600km/hで飛行する機体となると彼らにはどうする事も出来ない。

こうなれば基地から戦闘機を上げてもらうしかない…そう考えたパイロットは無線に手を伸ばした。

 

「バルクルス基地、こちら警戒飛行隊4番機。ムー所属らしき偵察機が1機、砲兵陣地の方向に向かっている。ミザールでは追い付けない速さと高さだ。アンタレスでなければ迎撃は不可能だと思われる」

 

《4番機、そちらの反応は基地のレーダーで捉えているが、敵機の反応が捉えられない。間違いなく存在するのか?》

 

基地からの返答にパイロットは怪訝な表情を浮かべる。

敵機は間違いなく目視確認しているし、双発機であるためミザールよりもレーダーに映りやすいはずだ。

なのにレーダーに映らないとはどういう事だろうか?

考えても仕方ない。

 

「バルクルス基地、敵機は間違いなく存在している。高度1万m以上を600km/h程の速度で……クソッ、見えなくなった!」

 

距離を離されながらも追尾していたが、敵機はとうとう薄雲に紛れて見えなくなってしまった。

 

《4番機、念のために迎撃機を上げる。そちらは燃料に余裕があるようなら、他の敵偵察機が飛来しないか警戒してくれ》

 

「4番機、了解。……ふぅ」

 

「お疲れさん。しかし…ムーがあんな飛行機を持っているなんてなぁ…」

 

「そうだな…嫌な予感がするよ」

 

そう銃手と言葉を交わしたパイロットは敵機が消えた薄雲を横目に旋回し、再び哨戒飛行に戻るのであった。

 


 

──中央歴1642年11月29日午前10時、ムー陸軍アルー防衛隊司令部──

 

「大佐!偵察機が撮影した写真を現像しました!」

 

「よーし、出来栄えはどうだ?」

 

「バッチリですよ!」

 

国境の街アルーの東側に置かれたアルー防衛隊の司令部テント。

そこでは防衛隊の中核となる『第24任務部隊』の隊長である『アーネスト・プルーフ』大佐が麾下の『第11偵察部隊』所属の『ケイネス・ハイルデン』軍曹が広げた巨大な写真を前にして目を輝かせる。

 

「おぉっ、これはスゴい!敵兵力の何から何まで丸わかりではないか!」

 

アーネストが感嘆するのは、グ帝が国境付近に展開した部隊を空撮したものであった。

長い砲身を持った大砲が横一列に並んでいる姿も、その前に並ぶ戦車も、それらの後方に停まっているトラックも全てが鮮明に写し出されている。

おそらくは1週間以内には国境を越え、アルーへと侵攻して来るであろう。

 

「敵地の真上を飛ぶなんてアルタラス人はとんでもない度胸の持ち主です。きっと鋼の金玉を持っているに違いありません」

 

そう言ってテントの窓から外を見るケイネス。

司令部の近くには鉄板を敷いた滑走路を持つ野戦飛行場が整備されており、そこには1機の双発機が羽を休めていた。

それはアルタラス王国空軍所属の『モスキートPR Mk. 32』だ。

本機は2段2速過給器を持ち、原型機よりも延長された翼、そして与圧キャビンを持つ高高度偵察型であり、高度1万2千mを700km/h近い速度で飛行し、グ帝の迎撃が届かぬ位置から空撮をしたのである。

更に本機は大部分がレーダー反射が少ない木製であり、バルクルス基地に設置しているレーダーでは捉えられず、グ帝は本機に対する有効な迎撃行動を行えなかったのだ。

 

「失礼な事を言うんじゃないぞ、ケイネス軍曹。彼女達はアズールレーンからの支援として我々の指揮下に加わっているだけだ」

 

「……彼女達?」

 

「知らんのか?アレに乗っているのは、アルタラス王国の王女殿下の護衛を務める女騎士団の団員だ」

 

「それは…失礼な事を言ってしまいました」

 

アーネストが言う通りよく見ればモスキートの周囲にはパイロットスーツを着用した女性が数人屯しており、ジャケットにはアズールレーンの識別章とアルタラス王国の識別章が刺繍されている。

彼女達はアズールレーンの協定に基づき、本格的な戦力派遣までの繋ぎとして派遣されたアルタラス王国空軍『第1偵察飛行騎士団』だ。

アルタラス王国は島国であるため防衛の際には敵艦隊及び航空隊をいち早く発見し、早期迎撃する事が重要である為、多数の偵察機や哨戒機を配備しているのだが、今回ムー支援の為に精鋭の写真偵察部隊を派遣しているのである。

 

「失礼します!砲兵中隊のアーツ・ライナー一等兵です!」

 

気まずそうに頭を搔くケイネスにアーネストが笑いかけていると、砲兵の『アーツ・ライナー』一等兵が敬礼しながらテントの入口から呼びかけてきた。

 

「アーツ一等兵、どうした?」

 

「はっ!アルー住人の避難ですが、現在9割が完了致しました。残りは老人世帯とアルーの市長を務めるカラブレーゼ伯爵家の方々だけです」

 

「大佐、やはり国王陛下の勅命の力は凄まじいものがありますね」

 

アルーは対グ帝が決定的となったタイミングで戦火に巻き込まれる可能性が高いとされ、ムー政府から住人への避難指示が出されていた。

しかし、アルーの住人は「列強である我が国に本気で攻めてくるなんてありえない」と一蹴し、避難を拒んでいたのだ。

しかし、戦時体制に移りラ・ムーへ全権が移譲されるとラ・ムーは国王勅命としてアルーからの避難を命じたのだが、すると住人は打って変わって「国王陛下からの命令ならば仕方ない」と言って続々と避難を始めたのである。

 

「そうだな、やはり国王陛下は国民皆に愛されているからな。…よし、老人世帯の避難を支援する為に輸送中隊を出そう。ある程度戦闘準備は終わっているから、トラックを出しても問題はなかろう。アーツ一等兵、すまないが輸送中隊に伝えてくれないか」 

 

「はっ、かしこまりました!それとお客様がいらっしゃってます」

 

「分かった、通してくれ」

 

「どうぞ!」

 

アーツが敬礼をして案内したのは、色黒の壮年の男性であった。

かっちり着込んだ軍服には少将を表す階級章とアズールレーン、トーパ王国陸軍の識別章パッチが縫い付けられている。

 

「トーパ王国陸軍第3混成師団長、アジズ・コルイック少将です。アズールレーン参謀本部からの要請により、貴国支援の為に貴官の指揮下に入ります」

 

「初めまして、アーネスト・プルーフ大佐です。アズールレーンから大規模な砲兵部隊が支援に来るとは聞いていましたが…まさか師団が来るとは思いませんでした」

 

互いに敬礼を交わし、自己紹介するアーネストとアジズ。

今回トーパ王国もアルタラス王国と同じくムー支援の為に精鋭である、第3混成師団を派遣していた。

この第3混成師団は砲兵師団と機甲師団を統合したものであり、砲兵による火力支援と戦車部隊による機動戦を行える大火力師団なのだ。

 

「階級では私が上ですが、どうかお気になさらず命令して下さい」

 

「お気遣い感謝します。それではどれほどの戦力を派遣したのか教えていただけますか?」

 

「はい。まず砲兵戦力ですが、『D-20 152mm榴弾砲』が60門、『BM-21 多連装ロケット砲』が50門、弾薬運搬車が150台となっております」

 

「それぞれの射程は?」

 

「D-20は通常砲弾であれば17km、ロケット補助弾ならば24km。BM-21は20km程の射程があります。敵火砲の有効射程は20km付近だと推測されているので、凡そ同等の能力だと言えますね」

 

「なるほど…しかし、砲の数はこちらが有利ですな。敵火砲の数は確認出来るだけで30門、こちらの半分しかありません」

 

机に置かれた大判写真に目を落とし満足そうに述べるアーネスト。

しかしアジズはそれに対して首を横に振った。

 

「確かに数の上では我々が有利かもしれません。しかし、我々は精鋭と持て囃されてますが創設されて間もない上に、このような兵器を扱う事に慣れていません。もちろん血の滲むような訓練を詰み、演習では優秀な成績を収めています。しかし、それは敵も同じでしょう」

 

「なるほど…練度の差ですか」

 

「えぇ、ですので我々が持つもう一つの砲兵戦力を活用します」

 

「多連装ロケット砲ですね?」

 

アーネストの言葉にアジズは頷く。

 

「多連装ロケット砲は精度では通常の榴弾砲や野砲には敵いません。しかし、このBM-21は発射準備に3分程しかかかりませんし、40発のロケット弾を打ち切るのに20秒程度しかかかりません。正にロケット弾の矢雨です。精度が悪くとも一帯を焼き払えば問題はありません」

 

「なるほど…つまり、こちらから打って出るのですね?多連装ロケット砲を前進させ、痛烈な初撃を加えると」

 

「ええ、BM-21は言ってしまえばロケット弾発射機を搭載したトラックです。幸いこの辺りは街道から離れた地面でも硬く、車両の走行が容易なので夜間に移動し夜明けと共にロケット弾による一斉砲撃を仕掛けます」

 

そう言いながらアジズは写真上のグ帝砲兵隊を指先で小突く。

 

「そうして慌てて前進してきた敵を榴弾砲や戦車で迎撃すると…」

 

「ええ、概ねその通りです。決行は…」

 

「失礼します!」

 

背後に気配を感じたアジズがテントの出入り口に目を向けると再びアーツが敬礼していた。

 

「輸送中隊が市内各地の老人世帯の避難支援を開始しました。午後3時までには避難が完了するとの事です」

 

「ありがとう。ならば…」

 

「ええ、今夜にでもロケット砲兵を移動させ、明朝に攻撃を開始しましょう」




計画艦が続々発表されてますね
私は今のところナポリが刺さってます

今後、お色気シーンは…

  • 今より増やせ
  • このぐらいでいい
  • もう少し減らしていい
  • もっと減らして
  • 無くていい
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