異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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今回は思いっきりとある映画をオマージュしてます


293.被害妄想

──中央歴1642年12月23日午前8時、サモア諸島母港地下──

 

アズールレーンの本拠地であり世界最大の軍事施設である母港。

その地下に広がる地下壕の一角に存在する一際厳重な扉の先…そこには一人の男が椅子に縛り付けられていた。

 

「おいっ!優等民族の一人である私にこんな仕打ちをして許されると思うなよ!今すぐ解放し、平伏しろ!この劣等人種共が!」

 

喚き散らしているのはグ帝近衛兵団の潜水艦アバンデスの艦長、ロッズ・シャクデンその人であった。

彼はアルタラス沖で降伏した後、他の乗組員と共にロデニウス連邦へと移送されたのだが、彼だけは艦長だという事でサモアへと再び移送されたのである。

 

「聞いているのか!?早くこの拘束を解け!」

 

だが、移送されてからずっとこの調子である。

護送や尋問を行う兵士に向かって劣等人種や野蛮人などという侮辱の言葉を吐き続け、自身が属する民族の素晴らしさを延々と語り続ける…彼に関わった兵士達の忍耐力には脱帽だ。

 

「はぁ〜…」

 

そんな彼をマジックミラー越しに見て、尋問官は深いため息をつく。

アズールレーンは原則として捕虜に対する拷問を禁じており、尋問前にそれをロッズに伝えた事で彼を増長させてしまった。

その事に対する後悔と、屈辱的な言葉を吐き散らすロッズから情報を引き出さねばならない憂鬱さで胃まで痛む。

 

「ごきげんよう、尋問官さん。随分とお疲れのようね」 

 

「ん?……っ!く、クレマンソー殿!」

 

背後からかけられた女性の声に尋問官は怪訝な表情を浮かべ振り返るが、声の主の正体を知るや否や椅子から飛び上がって敬礼した。

そこに居たのはヴィシア聖座の暗部組織『審判廷』の代表である『クレマンソー』だった。

 

「楽にしてていいわよ、疲れているのでしょう?それより…何か聞き出せたかしら?」

 

「いえ、それが全く…口を開けば民族主義者のお手本のような事ばかりですよ。それに尋問前に我々の規定を話したら…」

 

「そう。だからあんなに余裕があるのね」

 

「申し訳ありません…」

 

「いえ、貴方は悪くないわ。…彼への尋問は私が行いましょう。貴方は休憩しなさい」

 

「…分かりました。お気遣い、感謝します」

 

実際問題、数々の罵声を浴びて疲弊しきっていた尋問官はクレマンソーからの提案を断る余裕も無かったようだ。

どこか肩の荷が下りたかのような、しかしながら重い足取りで部屋を後にした。

 

「さて…居るんでしょう?マルコ・ポーロ」

 

「あら、やっぱりバレてた?」

 

クレマンソーの言葉に応えるように山積みにされていた段ボールの裏からヒョコッと顔を出したのは、サディア帝国の計画艦『マルコ・ポーロ』だ。

クレマンソーとは"ある意味"親友な彼女は、時折こうやってクレマンソーの仕事の様子を見に来るのである。

 

「大丈夫よ、別にあなたに見られても構わないから。ただし、この場の事は二人の秘密よ」

 

「もちろんよ♪なんだか面白そうだし、せっかくなら付き合うわ♪」

 

やれやれ…と言うような態度で尋問室へ続く扉を開けるクレマンソーと、そんな親友の後を楽しげな様子で着いて行くマルコ・ポーロ。

二人はロッズの前に立つと、クレマンソーが恭しく頭を下げた。

 

「ご機嫌よう、ロッズ・シャクデン殿。私はクレマンソー、先程までの彼に代わって今後は私が貴方の取り調べを担当致します」

 

「同じくマルコ・ポーロよ。よろしく〜」

 

対照的にヒラヒラと手を振り、軽く挨拶するマルコ・ポーロ。

そんな二人を見てロッズは驚いたような表情を浮かべるが、直ぐにニヤニヤとした下劣な笑みを見せた。

 

「なるほど、次は色仕掛けという訳か。だが残念だったな。私は貴様らのような見た目だけの劣等人種に欲情するほど軽くはない!私のような優等種が肌を重ねるのは、同じ優等種の女性だけだ!」

 

「そう、別に色仕掛けするつもりはなかったんだけど…それより貴方達は近衛兵団とか言う組織よね?手始めに構成員数と主要な拠点…後は代表者の氏名と所在地を教えてくれないかしら?」

 

「貴様…アホか?そう言われて素直に教えるバカが何処に居る!その無駄に目立つ乳に吸われて脳に栄養が行ってないのか!はっはっはっはっはっ!」

 

「あんたねぇ…!」

 

親友をバカにされ、マルコ・ポーロがギリッと奥歯を噛み締める。

しかし、クレマンソーは彼女に落ち着くようにジェスチャーすると、わざとらしく困ったような態度を見せた。

 

「ふぅ…となると困ったわね。こちらの質問に答えてくれないのは、とても困るわ」

 

「貴様らは拷問を禁じているのだろう?バカな事だ…自身の手で情報を得る手段を封じるなぞ…このまま私が何も言わなければ、必ずや同胞が貴様らを叩き潰し、救助に…」

 

──ガチャッ

 

どこか勝ち誇ったようにつらつらと語るロッズだったが、その言葉は扉を開けて入ってきた人物によって途切れる事となった。

 

「……は?」

 

先程の尋問官が戻ってきたのだろう。

そう思っていたロッズの視界に映ったのは、全くの別人であった。

黒い肌に2mはあろうかという長身、二の腕がクレマンソーやマルコ・ポーロの腰よりも太いという筋肉量…それだけを見るとどこぞの格闘家のようだが、頭にはツバが広く背が高い帽子を被り、ぴったりとしたブーメランパンツ一丁という出で立ちである。

 

──ブォンッ…バシィィンッ!

 

「ぶばぁっ!?」

 

変態、とした言い様のない男の姿に呆気にとられるロッズだったが、その変態は腕を振りかぶって強烈な平手打ちを彼の頬に見舞った。

その事で更なる困惑がロッズに襲いかかるが、彼がそれを言葉にする前に件の変態は入ってきた扉から出ていってしまった。

 

「なっ…!?なぁっ!?な、なっ…?なぁぁ!?」

 

「貴方の組織の人員数と主要拠点、代表者の氏名と所在は?」

 

「待て待て待て待てぇ!今のは誰だ!?い、いやそれより今暴力を振るったな!?貴様らは拷問はしないと…」

 

質問を繰り返すクレマンソーに半ばパニックになりながらもロッズは質問を返す。

だが、それはクレマンソーからの再びの質問によって遮られた。

 

「暴力…?では質問するけど、貴方に暴力を振るったのは誰かしら?風貌や格好は?」

 

「はぁ!?貴様らも見ていただろう!黒い肌で大柄で、大きな帽子を被ってパンツだけを履いたあの変態だ!」

 

「ぷっ…あーはっはっはっ!あんた何を言ってるの?ここは軍事基地なのよ。そんな変態が入ってくる訳ないじゃない」

 

ロッズの言葉にマルコ・ポーロはおかしそうに、そして意地悪そうな笑顔を浮かべて嘲笑混じりに告げた。

 

「なっ…!貴様…」

 

──ガチャッ

 

マルコ・ポーロに食ってかかろうとするロッズだが、再び件の変態が入室する。

 

「コイツだ!おい!コイツを見ろ!見えてるんだろ!?なぁ!な…」

 

──バシィィンッ!!

 

「っーっ…!!ぐ…ぅぅぅっ!!」

 

再び平手打ちを食らうロッズ。

どうやら頬の内側を切ってしまったらしく、口角からは血液が混ざったヨダレが垂れている。

 

「それで…貴方の組織の人員数と主要拠点、代表者の氏名と所在は?」

 

口内に広がる血の味と頬に広がる熱さに似た痛みに顔を顰めるロッズを他所に、変態は退出し、クレマンソーは同じ質問を繰り返す。

アズールレーンとその参加国は原則として捕虜への拷問や虐待は禁じている。

しかし、拷問したとて被害者の証言が明らかに虚言だと分かったら…例えばテンガロンハットにパンツ一丁の変態が平手打ちしてきたと証言したら、裁判員もそれを虚言だと判断するだろう。

 

「貴様ら…私にこんな事…!」

 

──ガチャッ…バシィィンッ!!

 

「がぁぁっ!!」

 

「貴方の組織の人員数と主要拠点、代表者の氏名と所在は?」

 

「だから…!」

 

──ガチャッ…バシィィンッ!!

 

「おごぉっ!!」

 

「貴方の組織の人員数と主要拠点、代表者の氏名と所在は?」

 

そう、これは尋問に心が折れたロッズが情報を吐いた自身を正当化する為に生み出した妄想…卑劣なアズールレーンの手によって違法な拷問を受けたという妄想なのだ。

 

──ガチャッ…バシィィンッ!!

 

扉を開ける音と鋭い衝撃音。

それは太陽が水平線に沈むまで続けられた。




私事ですが、今月の21日は誕生日&結婚記念日です
何だかんだ言って結婚して1年になるんですねぇ…

今後、お色気シーンは…

  • 今より増やせ
  • このぐらいでいい
  • もう少し減らしていい
  • もっと減らして
  • 無くていい
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