──中央暦1637年1月24日未明、サモア基地・作戦司令部──
薄暗く非常灯と数々のモニターや、明滅するLEDが作戦司令部で慌ただしく動き回る人々を下方から照らしている。
作戦司令部は階段状にコンソールやデスクが設置されており、真っ正面にはサモア基地のCGマップとそこから8方向に伸びた先端に矢印のようなシンボルのある点線が巨大なモニターに映し出されていた。
「フレッツァ准将。タスクフォース5、旗艦シャングリラ殿より入電が。」
一人の男性通信技師がピンッと頭に垂直に生えた犬耳をピクピクと動かして振り返る。
振り返った先、階段状の作戦司令部の一番高い位置に設置されたデスクに両肘を着き、神妙な面持ちで巨大モニターを見ていた20代半ばの男性が答える。
癖のある金髪に肌は白く、彫りが深い顔立ちは世間一般ではイケメンの部類だろう。また、190cm近い身長とストイックに鍛えられた肉体は前線に立つ兵士のようである。
彼こそがサモア基地の指揮官、クリストファー・フレッツァ准将である。因みに、サディア系ユニオン人だ。
「繋いでくれ。」
短く返すと男性通信技師は頷き、コンソールを操作する。
すると、小さなノイズが作戦司令部のスピーカーから発せられ通信が繋がれる。
《タスクフォース5、旗艦シャングリラ。ご報告があります。画像データを送信致しますのでご確認を。》
「了解、確認する。」
デスクに置かれている端末を操作し、通信の相手…エセックス級航空母艦12番艦シャングリラから送られてきた画像データを巨大モニターに映し出す。
ザワッ……
作戦司令部がどよめく。
それも無理は無い、そこに映し出されていたのは翼の生えた爬虫類…そう、竜だった。しかも、その背には鐙と鞍があり人が跨がっている。
「ドラゴンか?」
「翼竜だ、プテラノドンだ!」
「違う、ワイバーンだ。脚が1対で翼が1対…間違いない。」
画像にある生物に対して議論をしている司令部要員だが、それを遮るようにパンパンと手を打ち鳴らす音が響いた。
「落ち着け、そんな分類は生物学者に任せておけばいい。今、重要な事は近くにそれなりに文明的な国家があると思われる事だ。少なくとも腰ミノで槍持って獣を追いかけ回す原始人はあんな鎧やら馬具…いや、竜具は作れん。おそらくは組織的に竜を運用していると思われる。領空、という概念があるかもしれん。」
そう言って議論を中断させるとマイクに向かって口を開いた。
「シャングリラ、相手方には領空の概念があるかもしれん。偵察機を戻して一旦基地に戻ってくれ。」
《了解しまし…水上レーダーが何かを捉えました!》
「……そのワイバーンが所属する国家なり、組織の艦船かもしれん。」
《どうしましょう?》
「問答無用で襲ってくるなら逃げろ。だが、臨検を求めるようなら素直に応じて我々の目的を正直に答えてくれ。下手な手を打ったらトラブルに繋がる。」
《了解しました。では、この位置で待機します。》
「了解、くれぐれも慎重にな。」
シャングリラとのやり取りを終えると、マイクが繋がれている端末を操作し再び口を開いた。
「司令部より全タスクフォースへ。タスクフォース5が現地住民を発見、もう間もなく接触すると思われる。タスクフォース5以外は速やかに帰還せよ。」
スピーカーから順番に了解の言葉が鳴り響くと満足そうに頷き、再び巨大モニターを見据えた。
──同日、クワ・トイネ公国・政治会議場──
「──以上が本日、マイハーク沖にて臨検した超巨大船の乗員より聴取した情報です。」
外交部の若手幹部が今一、理解が出来ていないような表情で締め括る。
そして、それはクワ・トイネ公国首脳部も同じ事だ。
なんでも200m以上の超巨大船に、たった一人だけ乗っていたシャングリラと名乗る女性の話では
・我々は人類海路保全組織"アズールレーン"のサモア基地である。
・我々は何らかのトラブルにより、突如としてこの世界に転移してきた。
・そのため、状況把握の為に哨戒活動を行っていたが、意図せず貴国の領空を侵犯した事については深く謝罪する。
・公式に謝罪するためにクワ・トイネ公国との会談を行いたい。
と要約すればこの通りだ。
むぅ…、と外務卿のリンスイが苦い顔で口を開く。
「領空侵犯をしておきながら謝罪だと?常識が無いにも程がある!」
吐き捨てるようなリンスイの言葉であったが、それをフォローするように首相のカナタが穏やかに告げた
「まあ、向こうも意図的では無いと言っている。転移云々や何とか保全組織はさておき、それ以外は筋が通っているじゃないか。それに、我々に対して攻撃するつもりなら話に聞く鉄竜を使ってとっくに攻撃しているのではないかな?」
リンスイに確固たる意思を伝えるように向き直り
「もし、彼らと友好関係を築く事が出来れば鉄竜…確かムーでは飛行機械と言うんだったか?…ともかく、それらを輸入する事も期待出来る。少なくとも損はしないと思うのだが?」
「…首相がそう仰るのであれば従いましょう」
それでも不信感を拭えていないであろうリンスイを見てカナタは、苦笑して若手幹部に目を向ける。
「サモア基地の方に会談を受け入れると伝えてくれ。それと…貴国を知る為に視察団を送りたいとも。あのような飛行機械や200mを超える船を持っている所だ、出来れば同盟も視野に入れたい。」
それは、マイハーク沖にて待機していたシャングリラに伝えられ2週間後にサモア基地代表がクワ・トイネ公国を訪問、会談を行った後クワ・トイネ公国視察団をサモア基地に送り届ける事となった
3話は独自設定・理論、盛りだくさんになると思います