異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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29.未知との遭遇

──中央暦1638年12月1日午後2時、サモア基地・ウポル島西側母港内『東煌飯店』──

 

母港には出撃や哨戒、演習を終えたKAN-SEN達が利用する為の施設が存在する。

汗を流す為のシャワールームや、食事を提供するファストフード店や喫茶店等だ。

そんな中にある赤を基調とした東煌料理を出す店の店内、その一角にある円卓を囲むように傍らにキュラソーを控えさせた指揮官とマイラス、ラッサンが座っていた。

結局、あの後ノースカロライナとワシントンへの質問時間が長引き、さらにはワシントンが経験した戦艦同士による夜間戦闘の話に熱が入ってしまった為、昼食を食いそびれてしまった。

そのため、東煌の軽食とお茶…つまり飲茶を昼食代わりにするためにこの店に来たのだ。

 

「皆様、お待たせいたしましたわ。当店自慢の小籠包です。こちらのフェン産茶葉の鉄観音と共にお召し上がり下さい。」

 

蒸籠と茶器を乗せたカートを押して来た切り揃えられた長い黒髪に、短いチャイナドレスのKAN-SEN…逸仙が円卓に蒸籠と茶器を配膳して行く。

蒸籠の蓋を開けると、鶏ガラスープの香りがする湯気が漂い、逸仙が淹れる鉄観音茶の甘いキンモクセイのような香りと相まってマイラスの腹の虫が思わず鳴いてしまう。

 

「申し訳ありませんね。ワシントンは自分の武勇伝になると話が長くなる癖があって。」

 

「いえいえ、とんでもない。実に有意義なお話でしたよ。」

 

マイラスの腹の虫を聴いた指揮官の言葉に、マイラスは苦笑しながら返す。

レーダーを用いた夜間戦闘…ムーでは、レーダーの理論自体はあるのだが技術的に実現していない。

 

(戦車開発のトランスミッション、戦闘機の大出力エンジン、レーダー…色々と開発する必要があるな…だが、ロデニウス連邦から輸入やライセンス生産が許可されれば…だが、"条件"ってなんだ?)

 

考えつつも、指揮官がしているように陶器製のスプーン…レンゲに小籠包を乗せて口に運ぶ。

薄くモチモチとした皮が破れると、熱々のスープが溢れ出してきた。鶏ガラから作られたスープはあっさりしているが、餡に使われている豚肉から出た肉汁と混ざり複雑で奥行きのある深い味わいになっている。

餡も、歯ごたえがありながらも噛めばホロリと崩れる豚挽肉にコリコリとした食感のキクラゲ、シャキシャキのタケノコが混ぜ込んであり退屈しない食感だ。

 

「あふっ……!ほふっ!美味っ…!」

 

熱々のスープに驚きながらも、どうにか咀嚼し飲み込む。

次は、鉄観音茶に手を付ける。

黄金色の水面から立ち昇る甘い香りを含んだ湯気が鼻腔を擽る。一口飲む。

フルーティーで芳醇、後味はほのかに甘くさっぱりしている。雑味や苦味は殆ど無く、口の中がリセットされたかのようだ。

 

「美味い……」

 

一息ついたマイラス、しかし彼の隣に座るラッサンはそれどころではないようだ。

 

「ラッサンさん、熱いので気を付けて下さいね?」

 

「は…ははは、大丈夫ですよ!自分、熱い食べ物好きなんで!」

 

逸仙に心配されながらも小籠包を食べていた。

この店に入ってから…正確には、出迎えた逸仙を見てからずっとこんな調子だ。

なんだかソワソワしているし、逸仙の姿が見えるとチラチラとそっちを見ている。

これは、間違いなく…

 

(惚れたな…間違いない。)

 

ラッサンは学生時代からの友人だった。

そんな付き合いのあるマイラスは、ラッサンの好みの女性を知っていた。そう、その好みの女性…それが当てはまるのが逸仙だ。

 

(こりゃあ…大変そうだな。)

 

どこか、他人事のように…まあ、実際他人事であるが…考えながら小籠包を口に入れた。

 

 

──中央暦1638年12月1日午後3時、サモア基地・ウポル島西側造船ドック──

 

「これが、ロデニウス連邦防衛軍の巡洋艦、マイハーク級巡洋艦です。防空能力を重視したもので、先程のノースカロライナ級戦艦にも採用されていた12.7cm両用砲を多数搭載しています。」

 

何人もの人間や機材、作業用に改造されたスコープドッグが行き交う中で指揮官が紹介した。

そこには、船台に横たわる重厚な船…クリーブランド級をベースにしたマイハーク級軽巡洋艦があった。

まだ、艤装を施していないため寂しい印象を受けるが、それでも完成すればムーの巡洋艦を突き放す性能になるであろうと予想出来た。

 

「リベットがありませんね?」

 

「電気溶接ですよ。ほら…あそこにいる工員が溶接作業中です。」

 

そう言って指揮官が、手元が目映く光っている工員を示す。

 

「電気溶接ですか…こんな巨大艦に採用しても大丈夫なのですか?」

 

「最初の頃は色々な問題があったそうですけど、今は技術が進んだので問題はありません。」

 

「なるほど…」

 

マイラスが感心している隣で、ラッサンがぼんやりしている。

時折、「逸仙さん……」と小さく呟いている。もう、ラッサンはダメだ。役に立たない。

 

「これは、通常の建造ドックです。次は、KAN-SENの建造ドックを見学しましょう。」

 

「よろしいのですか?」

 

「大丈夫ですよ。我々も詳しいメカニズムは分かりませんから。」

 

そんな物使って大丈夫なのか?と思いつつ、呆けているラッサンの手を引いて歩き出した指揮官の後を追う。

凡そ、5分ぐらいたっただろうか?

たどり着いたKAN-SEN建造ドックでかつてクワ・トイネの視察団にしたような説明(6.締結を参照)、をした。

 

「この立方体が…」

 

「キューブ」

 

「……キューブがKAN-SENになるなんて、信じがたいですね…」

 

いつぞややったようなやり取りも挟みながら、興味津々といった様子でキューブを観察する。

 

「触ってみても?」

 

「どうぞ。」

 

マイラスの方に差し出された指揮官の手、そこに乗っている青い立方体…キューブにマイラスの指先が触れた。

 

 

──中央暦16■■年■月■日、???????──

 

燃える都市、崩れる建物、転がる死体…港街だろうか?崩壊したその地から逃れるように人を満載した船が出航する。

ここは…知っている。

あの、崩れてしまっているが僅かに残ったドーム状の屋根を持つ建物……ムー中央銀行のオタハイト支店だ。

 

 

──中央暦16■■年■月■日、???????──

 

次は、揺れる船の甲板に居た。

三連装砲が轟音と共に火を噴く、機銃が天に向かって咆哮する。

鉄が軋み、乗組員が呻く。

遠くに見える規格外の超巨大戦艦…それが火を噴き、恐るべき破壊がこの船にやってくる。

 

(避けられないな…)

 

冷静に判断した。

ふと、艦橋を見上げる。一人、誰か立っていた。

 

「避難船はミリシアルに辿り着けるだろうか……?」

 

悲しげに呟く。

艦橋の手摺に手を置き、優しく撫でる。

 

「ごめんな、処女航海でこんな事になって…」

 

最大限の懺悔と、自らへの侮蔑を含んだ声だった。

 

「……お前は、誰がなんと言おうと……世界一の船だよ。」

 

あぁ……あれは……

閃光と爆音が全てを掻き消す。

 

「…さようなら。」

 

"私だ"

 

 

──中央暦1638年12月1日午後3時頃、サモア基地・ウポル島西側造船ドック──

 

「……殿!マイラス殿!」

 

「大丈夫か、マイラス!?」

 

ラッサンに肩を揺さぶられていた。

その背中を指揮官が叩いて、マイラスに呼び掛けている。

 

「え……?あ…あぁ…大丈夫だ。」

 

「本当か?さっき、スゲー顔色だったぞ?」

 

「大丈夫ですか?病院行きますか?」

 

「いえ、大丈夫です。……驚き過ぎて疲れたかな?」

 

ラッサンと指揮官からの心配の声を苦笑しながら受け流す。

 

「…では、建造を見学した後はホテルへ送ります。夕食は部屋に届けるように伝えておきます。」

 

そう、指揮官が言うとKAN-SEN建造ドックに取り付けられた丸い皿の様なもの…キューブを励起させる為の電磁波を発生させる発振機が稼働する。

普段なら、電磁波によりキューブが増殖するのだが……

 

──ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

「なんだ!?」

 

キューブが目映く光輝き始めた。

その光は次第に強くなって行く。

 

《指揮官!建造ドックで何をしているにゃ!?異常なエネルギーパルスが検知されてるにゃ!》

 

「俺にも分からん!お前か夕張が弄ったんじゃないのか!?」

 

《明石も夕張も弄ってないにゃ!》

 

指揮官が通信機で誰かと話している。

そんな事をしていると、光は遂に三人が建造ドックを見ている部屋の窓まで照らし始めた。

 

「これ、大丈夫ですか!?」

 

「建造ドックから光が逆流する……っ!うぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

ラッサンと指揮官の叫びと光が満ちる部屋の中、マイラスは別の声が聴こえた。

 

──やっと…やっと、会えました

 

物悲しげな、掠れた優しい声。

それが聴こえた後、光は次第に収まりキューブがあった場所に収束した。

 

「な……あれは……」

 

指揮官の戸惑う声がする。

光が粒子状に散り、一人の少女が姿を現す。

セミロングの明るい茶髪に、やや幼いながらも『三笠』に似た顔…目は閉じている。

そのスレンダーな体を簡素なノースリーブのシャツと、これまた簡素なスカートで包み、その上に精緻な刺繍を施した帯を右肩から斜めに、一度腰に巻いて背中から左肩に掛けるという見慣れない格好をしている。

だが、マイラスとラッサンには見覚えがあった。

 

「なんで…ムーの伝統装束が…」

 

ラッサンが口にする。

そう最早、厳粛な式典でしか着用する機会の無い1万2千年以上前から伝わるムーの民族衣装だ。

少女が口を開く。

 

「縁を巡り…漸く、辿り着いた。」

 

少女が目を開く。

息を飲む程、美しい緑色の瞳。

その背負った黒鉄…艤装の重みを噛み締めるように言葉を続ける

 

「改ラ・カサミ級戦艦一番艦ラ・ツマサ。指揮官、厚かましい願いだろうが…どうか、姉上と多くの人々の無念を晴らすため……ムーを救ってくれ。」




重桜特効スキルってグ帝相手でも発動するんだろうか?

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