資金もキューブもたんまりあるので、これは勝ったなガハハハ
──中央歴1642年12月23日午前9時、グラ・バルカス帝国帝都ラグナ──
「父上!」
グラ・バルカス帝国の最高権力者たる皇帝グラ・ルークスが公務を行うためのオフィスに、やたらと大きな声が響き渡った。
「…カバルよ、騒々しいぞ」
声の主を嗜めるグラ・ルークス。
普段ならばそのような不躾な輩は警備の兵士から摘み出される筈だが、あいにく彼はグラ・カバル…グラ・ルークスの一人息子であり、未来の皇帝たる皇太子なのだからグラ・ルークス以外に文句を言える訳がない。
「それより父上、参謀本部で立ち聞きしたのですが、どうやらムー大陸において我が軍は停滞しているそうではありませんか」
「立ち聞きをして余計な事に首を突っ込むのはお前の悪いクセだ。お前は私の跡を継ぐ為の勉学に励んでいれば…」
「いえ、私はこの現状を放ってはおけませんっ!」
面倒くさそうに嘆息するグラ・ルークスであるが、カバルは何処までも愚直な男…平たく言えば英才教育を受けたバカであり、国を良くするためならば何処までも突っ走る。
「兵達はおそらく長い間、故郷に帰っていないので士気が落ちているのでしょう。そこで、私自ら兵の慰問を行おうと思うのです」
「やめろ。確かにお前が言う通りムー大陸における我が軍は停滞している。しかし、それは万全の態勢を整え、一気呵成にムーを制圧するためだ。お前が心配するような事では無いし、何より曲がりなりにも現地は戦地だ。万が一が…」
「ならば尚更です!異世界を征服する偉業を成す帝国、その尖兵たる兵達を労い、鼓舞する事こそが今の私に出来る最大の貢献ではありませんか!多少の危険はありましょうが、精強無比なる我が軍と大叔父様の兵の前では異世界軍なぞ取るに足りませんっ!」
こうなったカバルは止められない事は実の父としてよく理解している。
しかし、グラ・ルークスも手立てが無い訳ではない。
「…分かった。だがムー大陸に行くとなればお前一人でどうこうなる話ではない。関係省庁と協議せねばなるまい」
「はいっ!では吉報をお待ちしてます!」
既にムー行きが決まったかのような笑顔で頭を下げると、小躍りしそうな足取りで退室するカバル。
その足音が聴こえなくなった頃、グラ・ルークスは各省庁直通の電話機を取って、外務省に繋げた。
「余だ。カバルの件で……」
ムー大陸に渡るとなれば専用機を使う事となるし、警備の為の人員配置や謁見する省庁職員の都合もある。
今のうちから根回しをして、ムー大陸では受け入れ態勢が整っていないと口裏合わせすればカバルの目論見を潰す事は容易な事であるはずだ。
ただし、余計な仕事が増えたグラ・ルークスの心労は別である。
──同日、高級料亭『ミルトコウモ』──
カバルが自身のムー行きを希望した日の夜、ミルトコウモには常連の二人が密会をしていた。
「ほほう…あのバカ皇子がムーへ…」
「ええ、陛下はそれを止めたいようなのですが…」
カルスライン社役員エルチルゴと帝王府副長官オルダイカ、二人の話題はカバルの動向であった。
「これは…中々に使えそうですな」
「ほほう…エルチルゴ殿はこれをどうお使いに?」
ニヤリ、と悪どい笑みを浮かべたエルチルゴへオルダイカはそう問いかける。
「現在、帝国軍は異世界軍からの抵抗によって想定外の損害を出しておりますな?」
「えぇ、その損害を補填し戦力を増強する為に御社へ軍用機の大量発注が成されているのでしょう?そのお陰で御社の利益は過去最高、ゲールズ社の買収に始まり、今ではカマー重工とリヒテル発動機の買収にも乗り出しているそうではありませんか」
「よくご存じで」
ホクホク顔のエルチルゴだが、カルスライン社による他企業買収にはオルダイカも一枚噛んでおり、その見返りとしてエルチルゴから多額の賄賂を受け取っていた。
「このまま行けば我が社は帝国の空と陸を統べる軍需企業となりましょう。そしてムー大陸やミリシエント大陸…この世界を征服するにはより多くの航空機と戦車が求められ、我が社はそれを納入してより利益を得られます。もちろん、我が社躍進の立役者であるオルダイカ殿にも相応の"謝礼"は致しますよ」
「ありがとうございます。それで、エルチルゴ殿はカバルをどう使うおつもりで?」
「思い出して下さい、オルダイカ殿。パガンダ王国によってハイラスが処刑された時…帝国はどうなりましたか?」
「…なるほど。エルチルゴ殿、貴殿も悪ですなぁ」
「いえいえ、オルダイカ殿ほどでは…」
パガンダ王国の手によってハイラスが処刑された時、帝国内は同国に対する報復で一色に染まり、軍も近衛兵団も世論に応えるべく急速な軍備増強を行い、軍需企業各社は莫大な利益を得た。
皇族の一人でそうなのだから、もし時期皇帝が…臣民からの人気もある皇太子カバルが異世界国家の手によって殺害されたとなればどうなるか?
異世界国家の抵抗によって足踏みする軍は報復を唱える世論に押されて多少の無理をしてでも積極的な攻勢に出る事になるだろうし、近衛兵団は軍に負けじと高価な高性能兵器を多数導入するだろう。
そして軍が被害を受け、近衛兵団が軍拡を続ければ最終的に儲かるのはカルスライン社のような軍需企業であり、彼らから賄賂を受け取っているオルダイカのような官僚と議員である。
謂わば彼らは未来の皇帝を謀殺し、自身の私腹を肥そうとしているのだ。
「そうなれば関係省庁に根回しをしましょう。おそらく陛下はカバルのムー行きを止める筈ですから、それを帝王府の権限で撤回してしまえば良い」
「ありがとうございます。では先に謝礼を」
そうして懐から小さな包みを取り出すエルチルゴ。
それを受け取ったオルダイカは包みの重さにほくそ笑むと、自身の懐に仕舞って早速陰謀の実現の為に離席するのであった。
──中央歴1642年12月26日午前4時、アズールレーン第二文明圏派遣軍総司令部──
──コンコンッ
「朝早くに申し訳ありません、指揮官さま。至急お耳に入れたい事がございます」
まだ辺りが暗い早朝、指揮官が寝泊まりしている部屋のドアをロイヤルメイド隊の『デヴォンシャー』がノックした。
昨夜はクリスマスパーティー─とは言っても戦時下であるため最低限だった─が行われたため指揮官をこんな朝早くに起こすのは心苦しいが、それでも彼女が伝えるべき情報はそれだけの価値があった。
「あぁ…大丈夫だ。どうした?」
Tシャツにトランクという出立ちでドアを開けた指揮官はデヴォンシャーを招き入れると、窓辺の椅子に腰掛けた。
「諜報部からの通達がございます。グラ・バルカス帝国外務省の暗号通信を傍受・解析したところ、年明け間も無くに同国の皇太子がムー大陸戦線へ訪問する事が判明しました」
「間違いないのか?」
「はい。こちらはグ帝外務省のみならず各省庁及び軍関係者に発信されており、詳しい日程等も傍受出来ました」
そう言ってデヴォンシャーは指揮官へ傍受した通信内容が書き記された書類を差し出した。
「……いくら暗号化したとはいえ不用心過ぎる。罠かもしれんな」
「私もそう考えていますが、これが事実ならまたとない機会です。彼の国の重要人物を捕らえたとなれば、士気高揚と外交交渉にて有利になる事でしょう」
「だな。…その皇太子はムー大陸の各地を巡って、最終的にムーとの国境の基地、奴らが言うところのバルクルス基地に向かうようだな」
通信内容には皇太子がレイフォリアに到着する日時と、その後の行動がざっくりとだが書き記されている。
要人の行動予定を電波に乗せて発信するとは不用心にも程があるが、それは彼らが使う暗号機が今までどの国も解読出来なかったという自信のせいだ。
「指揮官さま、ここはギリギリまで相手方の動向を探ってはいかがでしょう?通信傍受はもちろん、諜報員による情報収集にて皇太子の動向を把握し、本当にバルクルス基地に向かったのならば…」
「俺もそう考えていた。どのみち相手の支配領域の奥地まで入り込むのはリスクがある。行動するなら可能な限りこちらに近付いてからだな」
「はい。では諜報部にはそのように…ところで指揮官さま」
恭しくカーテシーをして頭を下げたデヴォンシャーはチラッとベッドの方を見る。
そこは部屋の主である指揮官が居ないのならば当然無人…ではなかった。
「うぅん…」
「はひぅ…ぅ…」
「指揮官ちゃ〜ん…」
乱れに乱れたベッドにはユニオンの『ボルチモア』『ブレマートン』『ピッツバーグ』があられも無い姿で横たわっており、うわ言のように甘ったるく喘いでいた。
「…あざとかわいいモード─ON「んもうっ、指揮官さまったらっ。私という者がありながらどういうつもりなのかしら?これは罰として私とイチャイチャの刑よっ♡」…戦力に差し支えないように、ほどほどにお願い致します」
「分かったよ…さあ、もう目も冴えたし仕事するか」
デヴォンシャーからの非難がましい視線に耐えかねて指揮官は立ち上がり、シャワーを浴びに向かうのであった。
子供が生まれたら忙しくて執筆出来ないかもしれませんからね
できれば原作に追い付きたいところです
あと指揮官、やってる事は安全な後方で美女を侍らせている典型的なクソ将軍ですね
あ、あとアンケートは締め切りますね