異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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最近まで肌寒いぐらいだったのに、急に寒くなり過ぎじゃありませんかね…?


297.羊飼い

──中央歴1643年1月16日午前8時、ヘリルドン補給基地──

 

ムー国境より西に300kmの地点にあるヘリルドン補給基地。

この基地はレイフォリアにある『統合基地ラルス・フィルマイナ』と国境各所に置かれた各基地を繋ぐ基地であり、その名が示す通り各種物資は当基地に集積され、各基地に輸送される。

ラルス・フィルマイナやレイフォリア南部の『ダイジェネラ山要塞』に匹敵するような重要拠点であり、その重要性から当基地には多数の兵力が配備されているのだが、今日に限ってはその兵力の大部分は基地の一角にある滑走路に集まっていた。

 

「諸君、見送りご苦労!」

 

滑走路に集まった兵士達、彼らが見つめるのはタラップ上から大きく手を振る皇太子カバルであった。

 

「諸君らのような精強なる兵士が居るのであれば、我が帝国による世界征服は何の問題も無く完遂されるだろう!そして、世界征服の暁には諸君らの名は帝国の歴史に永遠に刻まれるのだ!」

 

「万歳!カバル殿下万歳!」

「カバル殿下ぁー!」

「必ずや期待に応えてみせます!」

 

カバルの言葉を聞いて熱狂する兵士達。

そんな兵士達の後ろには自動小銃を背負った近衛兵団の団員達が兵士達の動向に気を配っているが、彼らの表情は苦々しいものだ。

民族主義の権化たる近衛兵団から見れば、バルカス民族の象徴たる皇族を讃える兵士達の態度は奨励して然るべきだが、それには少々込み入った理由があった。

 

「うむ、皆元気で何より。私の心配は無用だったようだな」

 

双発汎用機『アヴィオール双発機』に大手家具ブランド『ウドゥ』が内装を手掛けた皇族専用機に乗り込み、上質なシートに座ったカバルは上機嫌にそう述べた。

 

「それは殿下の激励によるものでございましょう。兵の中には皇族方に会う機会も無く、一生を過ごす者が大多数です。ましてや皇太子殿下からの直接の視察ともなれば、マトモなバルカス民族であれば墓場から起き上がってでも駆け付けるでしょう」

 

それに応えたのは、近衛兵団皇族警備官の『フェルド・ベロキラ』であった。

皇族警備官である彼はカバル専属の護衛として幼い頃から行動を共にしており、カバルにとってはある意味父よりも親しい人物だ。

 

「そう思われるのは嬉しいが、同時に心苦しくもある。何せ帝国は彼らに報いられていない」

 

「……」

 

ドアが閉められ、機体を整備士が入念にチェックする中、フェルドは口を噤んだままカバルの言葉に耳を傾ける。

 

「兵は…今の軍部は余りにも報われていない。曽祖父の失策を憂い民の為に立ち上がったというのに、今でも赦されず国賊のような扱いを受けている。それでも兵は帝国の為に命懸けで戦っているのだ。私はそれに報いたい」

 

チェックを終え、エンジンが始動すると機体はゆっくりと所定の位置までタキシングを始めた。

 

「父上亡き後は私が帝王となる。そうすれば私は手始めに軍部と近衛兵団の格差を解消する!近衛兵団はあくまでも皇族の警護とし、現在の過剰な戦力は全て軍部に移管し、軍部への職権濫用を規制するつもりだ」

 

近衛兵団より護られてきたカバルだが、だからこそ客観的に忌憚なく近衛兵団を見る事が出来ていた。

カバルから見れば近衛兵団は明らかに本来の存在意義である皇族の警護と軍部の監視を逸脱した戦力を持ち、そして権力を振り翳している。

このまま近衛兵団を増長させればいつかは皇族すら彼らの顔色を窺わなければならない未来が来る…カバルはそれを危惧しており、いつか自らが帝位に就いた際には近衛兵団を改革しようと考えているのだ。

そんな考えを公言しているため、カバルは軍部からの支持が強いのである。

 

「…殿下のお考えはご尤もでございます。しかし、近衛兵団の中には殿下のお考えに反発する者も少なくありません。人は往々にして手にした権力は手放したくないものです。公の場でのそのような発言は控えて頂きたいと何度も申しましたでしょう」

 

身内に対する批判を受けたフェルドだが、彼は意外にも批判自体ではなくそれを公言するリスクに対する苦言をカバルに呈した。

というのも近衛兵団も一枚岩ではなく、特に彼が所属する皇族警備官は近衛兵団結成以前から存在する組織であり、近衛兵団に吸収されたという経緯を持つ。

故に皇族警備官から見れば、近衛兵団は後から出来たクセに大きな顔をする気に食わない連中、という認識なのである。

 

「はっはっはっ、心配は要らん!近衛兵団は皇族の警護が任務…今のところは警護する相手をどうこうするような矛盾する事はせんだろう!」

 

「殿下は楽観的過ぎます。もう少し慎重に…」

 

所定位置に着いた機体はエンジンの出力を上げ、滑走し始めた。

戦闘機よりもゆっくりと加速し、長い距離を滑走した機体はようやく浮かび上がり、飛び立った。

カバルを乗せたアヴィオールは空中で待機していた近衛兵団の護衛戦闘機部隊と合流すると、進路を東へと向ける。

目指すは視察の最終地点、最も国境に近いバルクルス基地だ。

 

 

──同日、ムー国境から東へ100kmの空域──

 

高度6500mをゆったりと旋回するムー空軍第77電波戦闘部隊のEC-121MA、その機内ではレーダー手が画面に釘付けとなっていた。

 

「……未確認機群、高度5000m。大型機1、小型機16。例の皇太子乗機とその護衛機で間違いないでしょう」

 

「予定より1日遅れだが許容範囲内だ。速度は?」

 

機長が問いかけると、レーダー手はレーダースキャン間隔と目標の移動距離から速度を計算した。

 

「…およそ250〜300km/h。現在高度5000m付近は東からのやや強い風が吹いているので、目標はバルクルス基地に1時間30分後を目処に到着すると思われます」

 

「分かった。作戦本部へ報告、『来年の羊毛は90頭分』、デジタル通信に切り替えるのを忘れるな」

 

本作戦は敵に勘付かれない事が重要だ。

秘匿性の高いデジタル通信を使いつつ、あらかじめ決めていた暗号の組み合わせを使い、得た情報をキールセキ駐屯地に置かれた作戦本部へ送信する。

 

「送信完了。…作戦本部より返答。『脱水機を使い乾くまで干せ。ゴミがあれば取るのを頼む』」

 

「そのまま旋回し、何かあれば速やかに報告せよ…か。燃料は?」

 

「まだ余裕があります。あと…3時間は」

 

レーダーを自身で確認するために一時離席していたコックピットに戻りつつ、操縦を任せていた副機長に問いかけつつ自身の席に戻る機長。

自身の目でも燃料計を確認すると小さく頷き、インカムで乗組員にこう述べた。

 

「今回の作戦はタイミングが重要だ。いざとなれば本機を囮にしてでも目標を空に留めるぞ」




早いもので一年も終わりに近づいてきましたね
コラボが終わったら年末イベントが楽しみです
今年こそロイヤルでアークロイヤルIIを!
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