寒いのはどうも好きになれません
──中央歴1643年1月16日午前8時、キールセキ駐屯地飛行場──
第77電波戦闘部隊からの通信を受け発せられた作戦開始の号令…それによりキールセキ駐屯地に併設された飛行場では兵士達が慌ただしく動いていた。
「回せぇーっ!」
地上作業員の号令と共にスターター車から送り込まれた圧縮空気がジェットエンジンのコンプレッサーを回し、回転数が一定に達した瞬間に燃焼室に燃料を送り込むと共に点火する。
──ボッ!ボッ!ボッ!ボォォォォォッ!
間欠的に炎が吹き出し、次第にバーナーのような炎が吹き出して安定稼働状態となった事を確認した作業員は、エアインテークに吸い込まれないように注意しながらランディングギアのタイヤに噛ませていた輪止めとピトー管のカバーを外し、それを頭上に掲げてパイロットに見せる。
それを確認したパイロットは作業員に敬礼すると、機体をタキシングさせて駐機場から誘導路を通り、滑走路へと移動させる。
その際もランディングギアのブレーキや動翼の動きを確認し、各種計機にも異常が無いかの最終チェックも行う。
「オーライ!オーライ!オーライ!ストップ!」
滑走路に辿り着くと誘導員が滑走開始地点まで誘導し、所定の位置に留まるように誘導棒を水平に掲げ、それを見たパイロットはエンジンをアイドリング状態にしてランディングギアのブレーキをかけて暫し待機する。
するとすぐさま別の作業員がやって来て、機体の下に潜り込むと搭載されていた兵装の安全ピンを抜き、それにくくり付けられている赤いリボンをパイロットへ見せた。
エンジンも始動し、機体も問題なく、兵装も使えるようになった…あとは飛び立ち、敵を叩くだけだ。
「こちらアマゾニアリーダー。いいか、グ帝人は一人も逃すな!特に黒服連中…奴らは一人残らず殺せ!」
そうして出撃準備を終えた機体、ロイヤル製の低空侵攻爆撃機『バッカニアS.50』のコックピットでグ帝への殺意を隠す事なく部下達へ呼び掛けているのは、ロデニウス連邦空軍軽爆撃隊アマゾニアの隊長『オルカ・ホエイル』であった。
彼女は元々空軍指揮下にある野良ワイバーン対策部隊で武装軽飛行機を操っていたのだが、齢50近くでありながら半年前から血の滲むような猛訓練を詰み、本作戦が計画された際には真っ先に参戦を希望したのである。
何が彼女を突き動かすのか…それは彼女の姓と半年前というワードから察せられるだろう。
そう、彼女はグ帝近衛兵団の手によって戦死、虐殺されたロデニウス連邦沿岸警備隊長官マッコー・ホエイルの妻であり、警備船ロマネス船長ザトー・ホエイルの母なのである。
「旦那と倅の仇打ち、って訳ですかい?まったく…古風っすね〜。まっ、嫌いじゃありませんよ」
気の弱い者なら中てられて失神してしまいそうな程に殺気を滲ませるオルカへ物怖じせずに軽口を叩くのは、航法士席に座った『ニータ・ホエイル』である。
彼女もまたホエイル姓であるが、ホエイル夫妻のどちらかと血縁という訳ではない。
実を言うとオルカが指揮するアマゾニアは元々はロウリア西岸を荒らし回っていた女海賊団であり、彼女達は義姉妹の契りを交わしているのである。
故に彼女達の絆は下手な血縁よりも強く、更にはオルカに一目惚れしたマッコーが自身の立場が危うくなるにも関わらず彼女達を纏めて引き取り、所領の防衛隊に起用した事に深い恩を感じているため、本作戦において彼女達はどの部隊よりも高い士気を持っていた。
《総員、聴こえるか?本作戦の指揮を執るアズールレーン総指揮官、クリストファー・フレッツァだ》
出撃の時を今か今かと待っていたオルカ達だったが、無線から指揮官の声が響いてきた。
《事前のブリーフィングで説明したが、本作戦の要は隠密行動とタイミングだ。もし敵に編隊が見つかれば目標は引き返してしまうし、タイミングが早くても同じ、タイミングが遅ければ地上戦によってグ帝皇太子を捕えるしかないが…それはあまりにもリスクが高い。よって、本作戦によって乗機ごと捕えるのが最善だ》
アマゾニア所属のバッカニア、全12機が滑走路に6機ずつの2列で並び、出撃の時を待つ。
胴体内の爆弾倉には4発の1000ポンド爆弾…そしてオルカ機とその直属小隊機には未だ試作段階にある特殊爆弾が4発装備され、敵地に投下されるのを待ちわびている。
《諸君らの中には愛する者を奪われた事に対する復讐だと捉えている者も居るかもしれないが、本作戦はあくまでもこの戦争の行く末を左右する戦略的価値の高いものである。私情を挟んではならないが…これだけは忘れないでほしい》
誘導員が誘導棒を垂直に立て左右に振ると、足早に滑走路から立ち去る。
《グ帝の野望を打ち砕く事、それこそが死に逝った者達への最大の弔いであり、グ帝に対する復讐となるのだ!》
「アマゾニアリーダー、行くよ!」
指揮官の締めの言葉と共にスロットルを全開にし、ブレーキを離す。
大出力の『スペイ』ターボファンエンジン2基が発生する推力は機体をグングンと加速させ、主翼に備えられた吹き出し式前後縁フラップはエンジンから抽出された空気を主翼とフラップ自身に吹きかけ強い揚力を発生させた。
──ゴォォォォォォォォ!
12機のバッカニアが次々と離陸してゆく。
バッカニアは元来低空侵攻爆撃用に開発された機体だ。
無論、本作戦の初撃を担うのは彼女達である。
《こちらVF-92、エンタープライズ。離陸準備完了》
《グレイゴースト、今回はあなたに従うわ。せいぜいこの赤城を上手く使いなさい》
《それは責任重大だな。あの一航戦を上手く使えなければ笑われてしまうよ》
続いて滑走路に来たのは、エンタープライズ搭載のF-4Kだ。
今回はスパローを4発と胴体下に20mmガンポッド1基、主翼下に増槽を2本装備した制空装備機を8機、エンタープライズ自身と赤城の2人で運用する事となっている。
《低空飛行は私に一日の長がありますわ。先に行きますわよ、グレイゴースト》
《それじゃあ頼む》
赤城を始めとした重桜空母航空隊の低空飛行技能はエンタープライズも認める程だ。
彼女ならばジェット機のパワーに振り回されて地形に激突する事も無いだろう。
──ゴォォォォォォォォ!
バッカニアの後を追うように次々と離陸する8機のF-4K。
そのアフターバーナーの熱が残る滑走路に次に来たのは、ムー空軍第32戦術戦闘攻撃隊のアクアホーク、16機だ。
マイカル防衛戦時には実戦投入出来るだけの練度を持つパイロットが8人しか居なかったが、今では続々と機種転換訓練を修了したパイロットが各部隊に配置されており、同隊にも新たに2個小隊分のパイロットと機体が配属されたのである。
《こちら32戦攻隊、全機出撃準備完了。出撃する》
隊長であるスードリの機体が離陸し、それに続いて他の機体も矢継ぎ早に離陸していく。
32戦攻隊のアクアホークは対空兵器排除が任務であり、装備するのは誘導爆弾ウォールアイはもちろん、無誘導爆弾やロケット弾、果ては大口径機関砲ガンポッドを装備した機体まである辺り、パイロットが各々得意な兵装を装備しているようだ。
そうして空にはアズールレーン・ロデニウス連邦・ムーの3空軍連合、計36機のジェット機が展開し、駐屯地上空を旋回した後に西へと向かってゆく。
《各機へ。これより無線封鎖並びに高度200m以下を維持し、目標空域100km手前より高度100m以下を維持せよ。目標空域に到達次第、無線封鎖を解除し、各々の作戦目標に取り掛かれ。以上、諸君らが義務を果たす事を期待する》
身を切るような寒さの中、亜音速の鉄竜は地を這うように飛んで行く。
何も知らずに狩り場へとやって来る、羊を捕らえる為に。
話の都合上、オリキャラをバンバン出していますが、この広げた風呂敷を畳める自信はありません