異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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そう言えばこの作品も5年書いてるんですよね
書き始めた頃はここまで続くなんて全く考えていませんでした
どうにか完結まで行きたいですね


302.Operation: Golden Fleece Ⅴ

──中央歴1643年1月16日午前10時、バルクルス基地上空──

 

《なんだ!?なんだコイツらは!?振り切れな…》

 

空で赤と黒の爆炎が咲き、火の玉が地上へ堕ちる。

これで何度目か…次は一体誰がやられるのか…

 

「はぁー…はぁー…はぁー…」

 

冷や汗で濡れた肌着の不快感も忘れてしまう程に周囲への警戒を続ける『ケネス・ダーヴィック』。

彼は近衛兵団航空隊の戦闘機パイロットであり、最新鋭機である『アトリア型陸上戦闘機』を与えられた上に、皇太子専用機護衛を任されている程のエリートだ。

故に不測の事態においても取り乱す事は無く、奇襲を受けたとしても冷静に迎撃出来る優秀なパイロットである。

しかし、今この時ばかりはそんな冷静さなぞ微塵も感じさせない有様であった。

 

「落ち着け…落ち着け…っ!私はバルカス民族…世界の宝たる優等民族!劣等人種如きに負ける訳が…!」

 

必死に自分に言い聞かせるが、操縦桿を握る手は小さく震えている。

彼が駆るアトリア戦闘機は近衛兵団がカルスライン社と共に開発した最新鋭戦闘機だ。

2000馬力級の空冷星形エンジンに、そのエンジンパワーを受け止められる機体剛性、アンタレスに匹敵する格闘戦能力を得る事が出来る自動空戦フラップ…更には燃料タンクに自動防漏ゴムを貼り、対13mm級の防弾板を各所に備え、武装は機首に13mm機銃が2門と翼内に20mm機銃が2門と言う軽戦闘機並みの運動性と、重戦闘機並みの火力と防御力を持った正に帝国最強の戦闘機と呼ぶに相応しい戦闘機である。

 

──ゴォォォォォォォ!

 

「ひぃっ!?」

 

しかし、彼らが相対する敵機はそれを遥かに上回っていた。

 

「くっ…来るな!」

 

スロットルを全開にし、機体を加速させる。

2000馬力級のエンジンと近衛兵団専用に納入されている高オクタン価ガソリンと化学合成エンジンオイル、高品質スパークプラグは空力的に優れたアトリア自体の設計も合間って700km/hもの速度を発揮する。

しかし、それでも敵機はグングンと迫る。

その様は余裕が無い中で見ていた、既に撃墜された味方と同じ状況だ。

敵機は最高速度を出していたであろうアトリアに容易く追い付き、または首尾よく後ろに回り込んでも余裕で振り切った挙句反転し、どう見ても追尾してくるロケット弾のような兵器を放ってくる…次は自分もそうなる。

 

「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!私は!優等民族だぞ!?我々にはこの世界の劣等種共を導き、バルカス人の楽園の礎としてやる義務があるのだ!」

 

不気味な轟音を響かせながら迫る敵機から発される牙を剥いた獣が如き殺気を感じながらも、民族主義を主張する様はある意味で天晴れなものだ。

しかし、残念ながら彼が思っている程バルカス人という民族は優れていないし、異世界人も劣っている訳ではない。

 

「劣等種共に殺されてたまるかぁぁぁぁ!」

 

──シュゥゥゥゥゥゥッ!

 

だが彼自身はどうやら人一倍、野生の勘、或いは悪運に優れていたようだ。

恐怖に駆られるまま操縦桿を倒し、機体を急降下させた瞬間に頭上を2本の白煙が駆け抜けた。

 

「は…ははっ!どうだ、劣等種!お前達の子供騙しなぞ、こんなものだ!」

 

同僚を死に至らしめた追尾するロケット弾を回避出来た事に調子付いたのか、ケネスはコンソールに取り付けられたプラスチックカバーを開け、中にある赤いスイッチを倒す。

 

──ガロロロロロロロォンッ!!

 

「うおぉぉぉぉぉっ!?」

 

それは凍結防止メタノールを混合した水を過給機内に噴霧する事でエンジン出力を向上させる緊急出力のスイッチであった。

これを使用する事でアトリアのエンジン出力は50%向上、最高速度750km/hを発揮出来るようになるという代物だ。

ただしその代償としてエンジンのオーバーホールと、機体の総点検が必要となり、整備班からは嫌味を言われるだろうが、それでもケネスは同胞を死なせた劣等種を嬲り殺しにしてやるべくスイッチを入れたのである。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!」

 

ちょうど自機を追い越した敵機を下方から突き上げる形で急上昇させる。

腹を晒す敵機は正しくいい的だ。

ケネスの脳裏には数多の弾丸を叩き込まれ、火だるまとなって堕ちる敵機の姿が既に浮かんでいたが…

 

──ヒュゴッ!

 

「なっ…!?」

 

敵機は急激に機首を上げ、急減速したかと思えばそのまま機尾を軸に宙返りをし、ケネス機の背後に着いた。

 

「バ……」

 

──ダダダダダダダッ!!

 

バカな、そう吐き出す前に彼は機体ごとズタズタに引き裂かれ、同僚の後を追う事になったのであった。

 

 

──同日、同空域──

 

「……ふぅ」

 

炎に包まれて堕ちて行く敵機を確認し、赤城はF-4Kのコックピット内で一息ついた。

 

「まったく…耳が良いのも考えものですわ。連中の聴くに耐えない汚言を嫌でも聴く羽目になりますもの」

 

赤城を始めとした一部重桜KAN-SENは『言霊』を感知する能力があり、ある程度離れた所に居ても相手が何をどのような感情で発言したかを知る事が出来る。

故にケネスが喚き散らしていた過激かつ歪んだ民族主義は全て彼女の知るところだ。

 

《赤城、それで護衛は最後だ》

 

「グレイゴースト、この誘導弾…貴方のところで開発されたものでしたわよね?あまり当たらなかったわ」

 

《それは仕方ない。このミサイルは今回の交戦規定では全力を発揮出来ないんだ》

 

赤城からの苦言にエンタープライズが苦笑しながら応える。

本作戦で彼女達が操るF-4KはAIM-7E-2という現状最新型のスパローを搭載していた。

これは従来品より想定交戦距離をより近くまで広げた、つまり目視距離での運用も想定したタイプだが、やはりそれでも格闘戦で使うには鈍重と言わざるを得ない。

本来なら目視外、敵から察知されない距離で発射し、十分に速度が乗った状態が好ましいのだが、本作戦においては皇太子専用機を誤射しては不味いため、目標を目視してから攻撃する事を指揮官から厳命されていた。

 

「次の出撃では誘導弾ではなく機銃をもっと装備しますわ。まだ誘導弾は信頼出来る段階ではありませんもの」

 

《それは耳が痛いな…しかし、こんな制限された作戦はそうそう無いさ。次はスパローの性能を遺憾無く発揮出来ると思う》

 

「だといいですわね。…あれね」

 

エンタープライズ機と合流し、西の空に目を向ける赤城。

そこには全力で逃げようとする双発旅客機の姿があった。

 

「私達の零式輸送機に似ていますわね。さっきの戦闘機も四式に似ていた…おかしな事があるものねぇ」

 

どことなく味方を攻撃するような気分を苦々しく思いつつ、赤城は自機を皇太子専用機の真横に着ける。

それを受けて専用機は更にエンジン出力を上げて逃げようとするが、残念ながら相手はマッハ2級のジェット戦闘機だ。

逃れられる訳が無い。

 

「こちらアズールレーン所属の空母『赤城』ですわ。そちらはグラ・バルカス帝国の皇太子殿下を乗せた専用機でしょう?とぼけても無駄ですわよ」

 

《同じくアズールレーン所属の空母『エンタープライズ』だ。貴機の護衛は全機撃墜した。大人しくこちらの誘導に従え。さもなくば撃墜する》

 

反対側にエンタープライズ機が回り込み、専用機を挟み込む形となる。

もはや逃れられない。

専用機に残された道は二つ…大人しく従うか、抵抗して撃墜されるかだけである。




ゴールデン・フリース作戦もクライマックス!

…というわけではありません!
もう一波乱ありますよ
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