異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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ZERO零様より評価9を、ガガギゴ様より評価1を頂きました!

今回も、ゲーム的な要素と下手な例え話が含まれます














よろしいですね?


30.縁を手繰り

KAN-SENは『伝承再現』俗に『スキル』と呼ばれる力を持っている。

以前、KAN-SENという存在を映画に例えた(12.ロイヤル伝説を参照)、それに準えれば伝承再現は映画のクライマックスにあたるだろう。

KAN-SENの元になった『艦船』、それらが持つ様々な生い立ちや戦歴、逸話をモデルにした超常の力を、キューブを励起させる事により発生したエネルギーを使い発動させる。

例えば、プリンツ・オイゲンという重巡洋艦のKAN-SENが居る。

彼女は優れた防御性能を持ち、『特殊爆弾』の攻撃に2度耐えた逸話を持っているため『破られぬ盾』という伝承再現を持つ。これは、自身の周囲に青い透明なシールドを展開させ砲撃を防ぐというものだ。

普通の艦船では有り得ない、時に物理法則すらネジ曲げる力…もはや魔法ともいうべき力がKAN-SENをKAN-SEN足らしめているのだ。

 

だが、それはKAN-SENのみで発動出来る訳ではない

『KAN-SEN』という映写機が、『艤装』というレンズを通して『カンレキ』というフィルムを、『戦場』というスクリーン投影し『弾薬』という活動弁士がストーリーを補完するだけでは映画の上映は叶わない。

そう『観客』が必要であり、その観客こそが『キューブ適性』と呼ばれる才能を持った人間…つまり、指揮官なのだ。

指揮官という観客が、映画を観ない限りはどのような映画が上映されているかは分からない。

実際は悲恋を描いた映画を上映していても、実際に観ない事には筋肉モリモリマッチョマンの変態が大暴れする映画である可能性もある。

そのKAN-SENという映画を視聴するためのチケットこそ、キューブ適性なのだ。

だからこそ、指揮官によってKAN-SENが正しく観測されなければKAN-SENは曖昧な存在となり、十全の力を発揮出来ない。

 

 

──中央暦1638年12月1日午後7時頃、サモア基地・ウポル島内ホテル──

 

「と、いう事でマイラス殿…貴方にはキューブ適性がある。そのKAN-SEN、ラ・ツマサを建造出来た事がその証拠です。」

 

母港近くにあるホテル内のレストランにて、指揮官がステーキをナイフで切りながら話す。

そんな指揮官の対面の席で話を聞いていた二人、マイラスとラッサンはポカンと…特にマイラスには戸惑いも見られる。

そんな二人を他所に、指揮官がマイラスの背後に控えているKAN-SEN…ラ・ツマサに問いかける。

 

「ラ・ツマサ、お前は別世界のムーでマイラス殿によって設計された戦艦…でいいんだな?」

 

その言葉にラ・ツマサは頷く。

 

「そう、私は"主"の手により設計された次世代戦艦のテストベッド。私を使って様々な技術の実証実験を行う予定だった。例えば、艦首形状や小口径高初速砲、それを搭載した三連装砲や自動装填装置、高出力ディーゼルエンジン等…ムーの技術の粋を集めたのが、この私。」

 

「なるほど…ドイッチュラント級に似てるな…」

 

ラ・ツマサの言葉に指揮官が納得したように頷く。

だが、そんなやり取りにラッサンが待ったをかけた。

 

「いやいやいや…ラ・ツマサって確か、予算不足で構想だけで計画は凍結されたはずです。……だよな、マイラス?」

 

「あ……あぁ、ラッサンの言う通りです。ラ・ツマサは確かにラ・カサミ級をベースに、次世代戦艦に使う新技術の実証実験を行う戦艦として開発される予定でしたが…予算不足で設計図すら存在しません。あるのは、どのような戦艦にするかのメモ書き程度で…」

 

ラッサンの言葉に、マイラスが同意しながら説明する。

だが、それに対しての指揮官の答えは二人には理解し難いものだった。

 

「だから、別世界です。ラ・ツマサに予算が付いて建造され、就役した…我々が存在している世界とよく似ている…ですが少しだけ違う世界。これを我々はパラレルワールドと呼称しています。」

 

「そんな…非科学的な…」

 

「我々も、貴国も別の世界から転移してきたのですよ?ならば、他の世界…そして、この世界によく似た世界があっても何ら不思議ではありません。」

 

「それは……」

 

ラッサンが指揮官の言葉に反論するが、ある意味納得せざるおえない理屈で返された。

そんな中、マイラスがラ・ツマサに問いかける。

 

「えっと…ラ・ツマサ…さん?あー…なぜ私を主と?」

 

「私は主により設計され、主と共に最初で最後の航海を行ったのです。謂わば、主は私の父であり艦長…そして、私の"指揮官"でもあります。ですが、此方には既に指揮官がいらっしゃいますので…」

 

ラ・ツマサが指揮官を示しながら言葉を続ける。

 

「ですので、貴方様を主と呼ばせて頂きます。……ご不満でしたか?」

 

「あっ…いや、そうじゃない…んですけど…」

 

「いや、待て。マイラス、今その…ラ・ツマサさんはお前を艦長って言ったぞ?」

 

「間違いではありません。主は私の艦長でした。」

 

「技術士官であるマイラス殿が艦長…それは、ムーを救ってくれ。という話に関係が?」

 

「あぁ、その通りだ。」

 

すると、ラ・ツマサは語り始めた。

 

──私は、ムーの期待を背負って就役した最新鋭戦艦。ラ・カサミ級戦艦…姉上達から国土防衛を引き継ぐ妹達の為に様々なデータを収集する為に生まれた。

だが…それは叶わなかった…

 

グラ・バルカス帝国…レイフォルを滅ぼした悪しき帝国がムーに侵攻してきた。

レイフォル国境より侵攻したグラ・バルカス帝国陸軍は電撃的に各都市を掌握、ムー陸軍必死の抵抗も虚しく徐々に東へ追い詰められて行った…

遂にはオタハイトにまで空襲されるようになり、神聖ミリシアル帝国へ市民を疎開させる事となった。

そう、ムーは滅びた。多くの人々が命を落とし、姉上達も海底に没した。

 

最後の避難船…それから目を逸らす為の囮が私の最初で最後の航海となった。

多くの将兵が戦死し、軍としての機能の大半を失ったムー統括軍が行った最後の作戦…寄せ集めの乗組員…その中で、私を良く知る者…主が私の艦長となった。

艦載機による空襲、数多の砲撃…多くの損傷を受けながら私は、敵艦3隻を撃沈。

だが…最後はあの…"あの忌まわしき戦艦"に…!──

 

悲しげな…だが、唇を噛み締めるように語る。

その端整な顔が悲しみと憎しみにより歪む。

そんな様子をマイラスとラッサンは息を飲んで、指揮官はステーキを咀嚼しながら見ていた。

 

「ふむ……つまり、グラ・バルカス帝国とやらからムーを守ってくれと?」

 

「そうだ、私が建造された世界にこのロデニウス連邦…いや、サモアは存在しなかった。加えて、私がこのような形で建造されたのも初めてだ。おそらく…いや、間違い無く貴方達が鍵だ。……どの世界でもムーは滅びた。この世界でムーを救っても、私の世界のムーが救われる訳ではない。だが…それでも…!」

 

「……」

 

ラ・ツマサの慟哭のような言葉を、指揮官は軽く頷きながら聞いている。

マイラスとラッサンは戸惑いながらも考えていた。ラ・ツマサの言葉…戯れ言というには余りにも彼女は真剣だった。

そして、グラ・バルカス帝国…その名を持つ国家は事実、レイフォルを占領しムーに威嚇している。

荒唐無稽とは言えない、リアリティーのある話…もし、本当ならば遠からずムーは滅びる。

 

「…ラ・ツマサさん、もし…もしも…ロデニウス連邦から兵器を輸入出来れば…ムーの滅びは回避出来るんですか?」

 

ラッサンが意を決したようにラ・ツマサに問いかける。

だが、ラ・ツマサは首を横に振った。

 

「分からない、サモアのような要素がある世界は初めてだから。だけど…何もしないよりは可能性がある。」

 

次に、マイラスが問いかける。

 

「それが…叶わなければ…?」

 

「間違いなく滅びるでしょう。これだけは、はっきりと言えます。」

 

ラ・ツマサに断言されてマイラスは指揮官に目を向ける。

 

「条件が気になりますか?」

 

「……えぇ、祖国の危機を救える可能性があるのなら。」

 

マイラスの言葉に、指揮官は肩を竦めた。

そして、指をパチンッと鳴らしてキュラソーを呼んだ。

 

「本来は貴国の首脳部に見て頂きたかったのですが…まあ、気になりすぎてこの後の視察に支障が出たら大変ですからね。」

 

そう言って、キュラソーが差し出した書状を受け取りテーブルの上で開く。

 

「これは…っ!」

 

驚愕の声を発したのはマイラスかラッサンか…定かではない。

しかし、二人して目を見開いていた事は間違いない。




ラ・ツマサ(SSR)

スキル1(黄)・科学の寵児
ムー所属艦の装填・幸運以外のステータスを40%アップ

スキル2(青)・ムーに捧ぐ鎮魂歌
自身が受けるダメージを25%減少する

スキル3(赤)・憤怒の咆哮
グラ・バルカス帝国所属艦に与えるダメージが30%アップ

スキル4(赤)・全弾発射-ラ・ツマサⅠ
主砲発射時50%で特殊弾幕を発動する(BIG SEVEN桜型弾幕)

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