異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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新年あけましておめでとうございます!
今年は色々忙しくなって更新が滞るかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします


308.皇太子の覚悟

──中央歴1643年1月16日正午、ムー領内上空──

 

「殿下、お体は…」

 

「……」

 

ムー領内に入ってから暫くして目を覚ましたカバルだが、先ほどからフェルドが声をかけてもぼんやりとしたままだ。

本来ならそのような覇気の無い態度は叱責すべきだが、今回ばかりは仕方ない。

何せ敵対国に専用機ごと拉致され、敵地へと飛んでいる最中なのだ、これから味わうであろう屈辱や苦痛を想像しないように思考を止めているのだろう。  

 

(殿下は…我々は処刑されるだろうな)

 

異世界軍、もといアズールレーンはカバルを始めとした乗員に危害を加えるつもりは無いと言っていた。

しかし、処刑の意思があるとしてもバカ正直に言う筈がない。

一縷の望みに賭けて信じてはみたが、それでも不安は拭えない。

 

(殿下、お労しや…これからの未来もあるというのに…いや、これも若造を抑えられなかった我々の責任か)

 

近衛兵団による捕虜虐殺の報復としてカバルは処刑されるかもしれない。

しかし、それは近衛兵団の台頭を止められなかった国と国民の責任でもあり、その為に殺されるカバルが不憫で仕方ない。

 

(いっそ私が処刑を指示したとでも言い張るか?そうすれば殿下は見逃されるかもしれない)

 

いざとなった場合の対処法を考えつつ、フェルドは窓の外に目を向ける。

もう1時間以上飛行しているが、いつ着陸するのだろうか。

そう考えていると、コックピットの方からパイロットの声が聞こえてきた。

 

「分かった、そちらの誘導に従う」

 

──ゴォォォォォ…

 

それと共に並走していた異形の戦闘機が離脱する。

もう間もなく着陸地点なのだろう。

どんな飛行場か一目見ようと地上に視線を落とすフェルドだったが…

 

「なっ…!?」

 

彼の視界に映ったのは、巨大な飛行場であった。

まず飛行場の要である滑走路はコンクリート舗装された物が2本、東から西へ伸びており、その規模は長さ3000m以上、幅は50m以上あるだろう。

そしてその滑走路の間には同じ長さの誘導路とそれに対して垂直に短く伸びた駐機場があり、まるで巨大なムカデのようだ。

さらには滑走路周りには巨大な格納庫が建ち並び、それらに向かって東から線路が何本も伸びている。

帝国に存在する最大の飛行場でも足元に及ばないほどの規模…しかも何の冗談なのかすぐ近くでは巨大な重機が忙しなく稼働し、更なる拡張を行っていた。

 

フェルドは知る由もないが、この飛行場こそムー大陸における対グ帝戦中核空軍基地『エヌビア基地』である。

キールセキ基地併設の飛行場ではムー空軍単独ならまだしも、アズールレーンを始めとする連合軍の航空戦力を運用するには手狭である為、ムー空軍がキールセキの南西に建設予定だった飛行場をアズールレーンによる支援で前倒しかつ規模を拡大して建設を始め、現在では7割程が出来上がっている状況だ。

だが、フェルドか驚愕したのはその巨大さだけではない。

 

「なんだ…あの飛行機は…」

 

フェルドが注目したのは、滑走路に挟まれた駐機場にて羽を休めている10機以上の航空機だった。

細長い胴体とこれまた細長い後退角が付いた主翼…全長翼幅どちらも滑走路の幅に匹敵するようなサイズ感は、帝国に存在するあらゆる航空機を上回るであろう。

そしてその航空機の周囲には多くの人々が働いており、中にはラックに航空爆弾を満載したフォークリフトが走っているのも見える。

 

(あんなにも巨大な飛行機…おそらくは爆撃機だろう。いったいどれほどの航続距離と搭載力があるのか…あんな物が大挙して植民地の都市部…いや、帝国本土に飛来すればどれほどの被害が…)

 

空を覆い尽くす程の数で超大型爆撃機が飛来すればどんな都市でも瓦礫の山と化すだろう。

それは決して杞憂ではない。

何故なら駐機場も格納庫も現時点で確認出来る爆撃機よりも多く、ざっと見ただけでも合わせて50は下らないだろう。

プロパガンダの為に労力を割いてわざわざこれだけの駐機場と格納庫を作るとは考え難い…つまり、異世界国家軍はそれらを埋め尽くすだけの超大型爆撃機をこの飛行場に配備するつもりなのだ。

 

(なんたる事だ…いや、しかしこれなら殿下が処刑される可能性は下がったと見るべきだろう)

 

想像を上回る技術力を生産力を持つ異世界国家に対して驚愕するフェルドであったが、同時に安堵もしていた。

というのも専用機は飛行場上空を遊覧飛行するようにゆっくりと大きく旋回している。

おそらくは飛行場からの誘導によるものだろうが、これは間違いなく自軍の優位を見せ付ける為のものだ。

これから処刑する者にわざわざそんな事をするとは考え難い…もちろん冥土の土産という線もあるが、それよりも考えられるのがカバルに自軍の力を見せつけた上で帰国させ、皇太子としての立場から帝国に厭戦気分を蔓延させるつもりなのかもしれない。

もしそうなら、少なくともカバルの命は助かる筈だ。

 

「分かった、針路を北東に変更。キールセキ飛行場に着陸地点を変更」

 

どうやらこの飛行場は本当に見せ付けるだけだったらしい。

行き先の変更を復唱したパイロットの操縦によって専用機は北東へと向かった。

 

「……フェルドよ」

 

「はっ」

 

旋回による僅かな横Gを感じる機内で、ふとカバルが口を開いた。

 

「私は覚悟を決めた。もはやここまでくれば見苦しく足掻くのは辞めだ。私は殺されるだろう…しかし、グラ・バルカス帝国の人間として堂々と最期を遂げてやろう」

 

「殿下…ご立派になられて…」

 

良くも悪くも子供っぽい面があるカバルだが、覚悟を決めた彼の顔付きはもう立派な男のそれだ。

幼い頃を知るフェルドにとってみれば正に感涙ものだが、その覚悟が無駄なものになるのが一番である。

 

「殿下、間もなく着陸致します。シートベルトを着用して下さい」

 

「うむ」

 

パイロットからの指示に従い、カバルとフェルドはシートに座り直してシートベルトを締める。

すると徐々に高度が下がって行き、間もなく着陸した。

 

──キッ…キッ…

 

僅かに機体が揺れ、ブレーキ音が響き、速度が遅くなり…ついには止まった。

それから暫しタキシングし、駐機場に着くと機外に武装した兵士が集まって来るのが窓から窺える。

 

《グラ・バルカス帝国皇太子、ならびに乗員諸君!武器を捨て、大人しく降りて来なさい!我々は君たちに危害を加えるつもりはない!》

 

機外から拡声器で呼びかけられ、フェルドとカバルは互いに顔を見合わせ、フェルドは自身の懐に隠し持っていた小型拳銃を引き抜く。

 

「開けてくれ」

 

「は、はいっ!」

 

次にフェルドは女官にドアを開けさせる。

彼女は見るからに非力な女性であるため、いきなり撃たれるような事はないだろうという判断だ。

 

「撃つな!撃つな!」

 

機外では姿を見せた女官を撃たないように何者かが兵士を抑えているようだ。

 

「では殿下、私に続いて下さい」

 

「あぁ」

 

拳銃から弾倉を引き抜くと、フェルドはドアの陰から弾倉を持った手だけを出した。

 

「武器を捨てる!撃たないでくれ!」

 

「よーし、そのままこちらに投げろ!」

 

指示に従い、手首のスナップを使って弾倉を投げ捨てた後にスライドを引いた状態にした拳銃を同じように出して見せる。

 

「そちらはスライドを戻して銃口を真下に向けて引き金を引け!その後に真下に落とせ!」

 

「分かった!」

 

──カチッ…

 

弾倉も無く、スライドも引いていたため引き金を引いてもハンマーが撃針を叩く金属音が響くだけだ。

そうして空撃ちした拳銃をポトリと真下に落とした後、フェルドは両手を上げてドアから出てくる。

 

「黒服…!」

「発砲許可を!」

「おのれ友の仇!」

 

フェルドの姿…というよりも近衛兵団の制服を見て兵士達の顔に憎悪が浮かぶ。

しかし、そんな中で一人の若い男が最前列で兵士達を抑えていた。

 

「撃つな!撃つな!ここで撃ったらあの苦労が水の泡だ!」

 

「っ!?」

 

その若い男を見てフェルドは思わずたじろぐ。

フェルドは本土に居た際に情報を得ていたにも関わらず、ヘビに睨まれたカエルのように体がこわばってしまった。

 

「フェルド…?だ、大じょ…う…ぶ……」

 

ドアから出て一歩も動かなくなったフェルドの身を案じて顔を覗かせるカバル。

そんな彼も、それこそ幽霊を見たかのように固まってしまった。

 

「そのままだ、薬室に弾薬を入れるな。安全装置もかけておけ。……ふう、失礼。やや手荒な出迎えになってしまったが…ご容赦願いたい」

 

その若い男はゆっくりとフェルドとカバルの方に歩み寄ってくると、3歩程離れた位置で立ち止まった。

 

「お初にお目にかかる。アズールレーン最高指揮官兼ロデニウス連邦参謀本部上級大将のクリストファー・フレッツァ、長い付き合いになるか、短い付き合いになるか…それはそちら次第だ」

 

 




年末イベントも終わりましたし、次は春節イベントですね
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