異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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時間があったので少し短いですが更新です


310.飛行士の明暗

──中央歴1643年1月16日午後3時、キールセキ基地── 

 

キールセキ基地の一角に置かれた陸軍病院、その一室では一人の若い男性がベッドの上で一心不乱に何やら書類に記入していた。

 

「よって、今回のような作戦においては航法士の同乗が可能な複座機が望ましいと思われる……よし」

 

彼…テレボ・ハウス准尉は救助された後、アルー防衛隊基地で応急処置を受け、その後この陸軍病院へと搬送され本格的な治療を受けたのだ。

だが幸運な事に上手く骨が割れたため外科手術の必要は無く、ギプスで固定して骨がくっつくまで安静にすればパイロットとして復帰出来ると医師からは言われている。

しかし、それでただ安静にしている訳にはいかない。

何故なら彼は今回の作戦における唯一の被撃墜者であり、アクアホークを初めて実戦で破壊してしまったパイロットだ。

その責任を追及されパイロットとしては復帰出来ない可能性が高い…それをテレボ自身も分かっているからこそ、せめて自分なりに撃墜された原因を追及し、今後に活かしてもらおうとしているのだ。

 

「……とは言っても撃墜されたパイロットの言葉を聞いてはくれんか」

 

「いや、中々に興味深い」

 

「!?」

 

自嘲するように呟いたテレボであったが、すぐ近くから聴こえてきた声にビクッと体を震わせ、声のした方に目を向けた。

 

「申し訳ない、テレボ准尉。何度か声をかけたのだが返答が無くてな」

 

「ふ…フレッツァ上級大将!?ぃ…っ!」

 

まさかの訪問者にテレボは姿勢を正して敬礼しようとするが、急に体を捻った弾みで足首の筋肉が動いてしまい、痛みに悶えてしまう。

 

「ああ、楽にしてもらって構わない。私は貴官直属の上官ではないのでね」

 

「は、はぁ…」

 

「それより、これは貴官が?」

 

「あっ…はい。そうであります」

 

指揮官が持っていたのは、先程までテレボが書いていた報告書だ。

報告書には出撃準備から目標地点への道中、攻撃開始、そして被撃墜から救助されるまでが克明に記されており、所々イラストも描かれていた。

 

「これは誰かの命令によるものか?」

 

「いえ、自分の独断であります。自分はおそらく此度の失態の責を負い、空中勤務から外されるでしょう。しかし、自分と同じ轍を他のパイロットが踏まないよう、教訓を残す為にこのような報告書を纏めた次第であります」

 

「ふむ…」

 

テレボの言葉を聞きつつ、指揮官は報告書を読み進める。

こういった報告書は弁明の為に、あるいは上層部に媚を売る為に事実が歪曲される事が往々にしてあるものだが、彼の報告書にはそういったものが殆ど無く、第三者が書いたかのようだ。

 

「つまり…貴官が撃墜されたのは機材の不適合があり、それを承知で作戦立案をした我々にも一定の責任がある…そう言いたいのだな?」

 

「い、いえっ!そのようなつもりは…」

 

「ああ、そうだ。我々に一定の責任がある訳がない。我々に全ての責任があるのだ」

 

「……え?」

 

「貴官も含めた全てのパイロット、支援部隊、救助部隊…全てが弛まぬ努力と果敢なる勇気で本作戦を成功に導いてくれた。そして我々は…いや、私はそれに報いるべく完璧な作戦立案をすべきだったのだ。貴官が撃墜され、負傷したのは無理を承知でこのような作戦立案をした私の責任だ」

 

「そんな…!」

 

思わぬ言葉、そして深々と頭を下げた指揮官にテレボは慌てふためく。

叱責される事は想定していたが、まさか謝罪されるとは思っていなかったからだ。

 

「それに、貴官は撃墜されてなお機体から重要部品を回収してくれた。そんな貴官に感謝こそすれ、責め立てる事は出来ない」

 

「重要部品…?お言葉ですが閣下、自分は何も回収していません。護身用銃も放り出してきたというのに…」

 

疑問符を浮かべるテレボに対し、指揮官は彼の胸元を指さす。

 

「航空機で最も高価で最も重要な部品はパイロットだ。貴官は敵地上空でも脱出し、救助部隊の到着まで持ち堪えた。貴官の行動は全パイロットの模範となるべきものである。故に…」

 

「指揮官、これでいいかしら?」

 

「ああ、これだ。ありがとう」

 

タイミングを見計らったかのように現れたアルヴィト。

彼女が差し出した掌サイズの木箱を受け取ると、姿勢を正して改めてテレボに向き直った。

 

「テレボ・ハウス准尉。此度の作戦は貴官の日々の努力と類稀な勇気、そして自己犠牲によって成功へと導かれた。それを讃え、貴官に『名誉戦傷勲章』を授与する」

 

「えっ…?えっ?」

 

木箱を開け、テレボに中身を見せる。

そこには青いリボンが付いた真鍮製のハート型のメダルと、青い略章がビロードのクッションに埋まって収められていた。

 

「アルヴィト」

 

「えぇ」

 

指揮官がメダルをクッションから取ると、残った略章入り木箱をアルヴィトが受け取る。

それを確認した指揮官は、手ずからテレボが着ている病院着の胸元にメダルを着けた。

 

「貴官はムーにおける初の受章者だな」

 

呆気にとられるテレボに苦笑する指揮官。

ムーのアズールレーン加盟によりアズールレーンで定める勲章をムー国民に与えられるようになったのだが、それでもパイロット引退を覚悟していたテレボにしてみれば、一転して受章者となったのだから無理もない。

 

「あの…えっと…」

 

「おそらく貴官はムーからも類似の受章があると思われる。この受章は貴官が不安になっているかと思って前倒しにしたのだが…」

 

「お、お気遣いありがとうございます!」

 

「喜んでもらえて何より。では申し訳ないが私はこれにて失礼する。この報告書は我々で共有させてもらうがよろしいか?」

 

「はいっ!もちろんであります!」

 

「ありがとう。それじゃあ」 

 

「おめでとうございます、テレボ准尉」

 

敬礼するテレボに対し、返礼して立ち去る指揮官とアルヴィト。

そんな二人の背にテレボは嬉しそうな声で呼びかけた。

 

「改めてありがとうございます!今日の事は一生忘れません!」

 

「また近い内に会う事になるさ」

 

そんな声に指揮官は手をヒラヒラさせ、次なる予定へと向かうのだった。

 




もうそろそろ妻の出産予定日でちょっと緊張しています
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