異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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先日、第一子が誕生しました
これから忙しくなるので更新が遅くなるかもしれませんが、気を長くして待っていただけると幸いです


311.鷹の心臓

──中央歴1643年1月23日午前11時、東部戦線参謀司令本部──

 

「これはどういう事だぁ!!」

 

午前8時から始まった緊急会議から3時間も経つというのに、顔を真っ赤にした近衛兵団武装隊長官アミズの気勢は衰える事を知らない。

 

「何故!帝国の支配地域でカバル殿下が専用機ごと誘拐されるという事態が起きるのだ!」

 

「アミズ長官、これはですね…」

 

「えぇい、黙れ!陸猿の弁明に何の意味がある!貴様らの無能を隠す為に敵を過大評価する手にはうんざりだ!」

 

そして先程からガオグゲルが事の次第を説明しようとするが、アミズは陸軍が悪いの一点張りだ。

いや、正確には始めはちゃんと説明をしてアミズもそれを聞いていたのだが、近衛兵団が誇る最新鋭戦闘機アトリアと、それを駆るエリートパイロットが瞬く間に殲滅され、あろうことかカバルが専用機ごと誘拐されるという大失態を演じたという事実を飲み込めずに陸軍に責任転嫁し始めたのである。

 

「……」

 

これにはガオグゲルも閉口…というより呆れ果てている。

そもそも今回の皇太子護衛任務は近衛兵団主導で行うと一方的に通達され、万が一の対処に関しても「陸軍は信用出来ない」という事で各訪問先は通常の警戒体制しか許されていなかったのだ。

だというのに陸軍が無能だと言われるのは理不尽極まる。

 

「こうなれば報復だ!劣等種共の主要都市に対して大規模無差別爆撃を行い、奴らにカバル殿下を拐った事に対する懲罰を与える!」

 

「アミズ長官、お言葉ですがそれをすれば異世界人を逆撫でし、懲罰に対する報復としてカバル殿下のお命が危うくなるでしょう。ここは慎重になるべきかと…」

 

額に青筋を立て過激な言葉を吐くアミズに、緊急会議に参加していたカイザルが待ったをかける。

確かにカイザルの言う通り、感情のままに報復をすればさらなる報復を招き、最悪の場合にはカバルの処刑という結末を迎えるだろう。

そのうえ、カイザルは異世界国家が自分達の想像を遥かに上回る軍事技術を持っている事を実感しており、下手に敵国へ爆撃すれば返り討ちにされかねないと危惧しているのだ。

 

「ふん、軍神も鈍ったものだな。だが確かに貴様の言うことにも一理ある。ここは外交交渉で時間を稼ぎつつ、懲罰攻撃の準備を進めるとするか」

 

「それがよろしいかと」

 

「うむ、懲罰攻撃の際には貴様ら軍部も戦力を供出するように。よいな」

 

それだけ言うとアミズはガオグゲルに嘲笑を含んだ視線を向けると、側近を侍らせて肩で風を切らせながら会議室から出ていってしまった。

なんとも一方的な振る舞いであるが、近衛兵団…特にアミズを始めとした幹部連中はいつもこうだ。

そうしてなし崩し的に会議終了となった会議室からはポツポツと人が出て行き、最終的にはガオグゲルとカイザルが残るのみとなった。

 

「ふぅー…」

 

「ガオグゲル将軍、貴官も大変だな」

 

「お気遣い感謝します。カイザル長官」

 

アミズ達の足音が聴こえなくなったのを見計らい、カイザルがガオグゲルへ労いの言葉をかける。

海軍は比較的マシとはいえ、同じ近衛兵団に振り回される立場にあるものとして、労わずにはいられなかった。

 

「聞くに貴官の軍団は敵の超高速機を撃墜したそうではないか。残骸などは…」

 

「ご察しの通り近衛兵団に持っていかれましたが…」

 

ガオグゲルは一旦言葉を切り、辺りを見回して自分達以外に誰も居ない事を確認する。

 

「……敵パイロットの武器を鹵獲出来ました。中々に興味深い銃ですよ」

 

「ほう」

 

カイザルとしては歩兵が扱う銃には余り興味は無いが、ガオグゲル程の将軍がそう言うのであればかなりの物なのだろう。

 

「まず驚くべき事に件の銃は小型ライフルといった出で立ちなのですが、初弾以降はボルトの操作が不要なのです」

 

「つまり…」

 

「はい、半自動小銃だったのです。まさかムーが半自動小銃の開発に成功していたとは…」

 

「帝国でも近衛兵団にしか配備されていない半自動小銃を配備しているとは驚きだ。これは白兵戦ともなれば苦しい戦いとなるのではないか?」

 

半自動小銃、つまりセミオートライフルはボルトアクションライフルと比べて時間あたりの火力が2〜3倍にもなるとされている。

そうなれば歩兵同士の戦いでは、帝国側が圧倒的に不利となってしまうであろう。

 

「はい、ですので我々も対抗する為に半自動小銃の開発と配備を進めねばなりませんが…」

 

「"彼ら"の口出しか」

 

「そこは上手くするしかないでしょう。……さて、あまり残っていても怪しまれるだけです。私はこれにて」

 

「うむ。ガオグゲル将軍、武運を祈る」

 


 

──同日、先進技術実験室──

 

最先端兵器の開発と鹵獲した敵兵器の解析を行う先進技術実験室。

近衛兵団によって無理やり傘下にさせられて以降、彼らは近衛兵団が軍部に対して優位に立つ為に様々な無茶を押し付けられてきた。

そして今回もまた、近衛兵団からの無茶振りである。

 

「どうだ、解析は終わったか?」

 

先進技術実験室のレイフォリア分室に姿を現したのは、アミズであった。

彼は横柄な態度を隠そうともせず、巨大な円筒形の物体の前に居る技術者に問いかけた。

 

「申し訳ありません、アミズ長官。まだ基本的な作動原理を推測出来たばかりで、本格的な解析はまだ始まっていません」

 

アミズに応えたのは、分室の室長である『カンダル・カマイセ』であった。

 

「ふむ、まあ仕方あるまい。私もこのような"エンジン"を見たのは初めてだからな。それで、作動原理はどうなんだ?」

 

アミズもまた巨大な円筒形の物体の前に立ち、それを眺める。

それはバルクルス基地にて撃墜されたムー空軍のアクアホークのエンジン、J52ジェットエンジンであった。

撃墜されたアクアホークはパイロット救助後に機密保持の為にAH-1の攻撃によって徹底的に破壊されたのだが、アクアホークの整備性の良さが悪い方に活きてしまった。

というのもアクアホーク、ひいては原型とはなったA-4は数本のボルトを外すだけでエンジンを取り外す事が出来るのであるが、被弾時にそのボルトがダメージを受けてしまい、墜落時の衝撃でボルトが破断してエンジンが脱落、近場にあった塹壕に転がり込んでしまったのだ。

故にAH-1のパイロットはそれに気付かず、エンジンの破壊が出来なかったのである。

 

「まずこのエンジンですが、大まかに分けて3つの要素で構成されています。1つ目は取り入れた空気を圧縮する圧縮部、2つ目はその圧縮した空気と燃料を混ぜ合わせて燃焼させる燃焼部、3つ目は燃焼ガスを受け止めて圧縮部を作動させるタービン部…この3つです」

 

「ほう…」

 

「あくまで推測ですが、このエンジンは燃焼ガスを後方に吹き出し、その反作用で推力を得ているのでしょう」

 

「なるほど。それで、このエンジンはどうなんだ?我々が使うエンジンよりも優れているのか?」

 

「それは…」

 

カンダルは迷っていた。

技術者としてジェットエンジンの優れた推力と、それから生み出される搭載機の圧倒的速度性能を予測出来るのだが、それを馬鹿正直に言ってしまえばアミズの機嫌を損ねてしまいかねない。

故にカンダルは慎重に言葉を選んで発言した。

 

「本エンジンは正直に言ってかなりの推力を発揮出来ると思われます。しかし、大量の燃料を燃焼させる為に燃費が非常に悪いのではないでしょうか。ですので国境に近いバルクルス基地への攻撃でしか使えなかった…と思われます」

 

「そうか…よし、カンダル君。このエンジンを改良した物を開発し、当該エンジンを搭載した戦闘機を作るのだ。予算は私の権限で取り付ける。無論、燃費は改善するのだぞ」

 

「は、はい。畏まりました…」

 

思ったよりも面倒な事態になってしまった…そんな事を思いながら、カンダルはぎこちなく敬礼するのだった。

 




子育てって大変ですねぇ…
世のお父さんお母さん方はこんな大変な思いをしていたのか…
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