異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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とりあえず今回でミリシアルのあれこれは一段落ですね
次回からはムー大陸でのあれこれに軸足を移します


315.運の尽き

──中央歴1643年1月19日午後2時、アルビオン城中庭──

 

アルビオン城の中庭、そこは専属の庭師によって整えられた木々や草花が白亜の城の中に鮮やかな緑を添えていた。

そんな中庭の一角、簡素な東屋の側には小さな鉢植えが並んだ棚があり、城の主であるミリシアル8世が剪定バサミを片手に鉢植えに植わっている小さな木を剪定していた。

 

「……ふむ、これで良かろう」

 

小さな木が植わった鉢植え…盆栽の手入れをしていたミリシアル8世は一段落ついたのか、一歩下がって樹形を確認すると満足気な表情を浮かべた。

この盆栽、実はアズールレーンから友好の印としてミリシアル8世に献上された樹齢500年の松である。

元々個人的な趣味として園芸を嗜んでいたミリシアル8世はこの盆栽の素晴らしさに感服、更には小さな鉢で小さな自然を再現する盆栽の奥深さに魅了された事で彼は盆栽を新たな趣味とし、ロデニウス連邦から盆栽に関する書籍を取り寄せたりしているのだが…それはまた別の話だ。

 

「ようやく終わったか、耳長の酋長よ。貴様の趣味はなんとも呑気なものだな」

 

「テュポーン…君はいい加減、礼儀というものを学んでくれないかね?」

 

盆栽の手入れを終えて東屋へやって来たミリシアル8世を出迎えたのは魔帝KAN-SENテュポーンと、彼女の指揮官となってしまったメテオスであった。

2人はミリシアル8世から直々に呼び出され、この場に居るのだが…テュポーンは相変わらず太々しい態度で赤ワインを飲み、メテオスはそんな彼女に半ば諦めた様子だ。

 

「よい、待たせたのはこちらだ」

 

一方のミリシアル8世はそんなテュポーンに憤る様子は無い。

むしろ永きに渡って敬われる立場である彼にとって、遠慮なく接してくる彼女の態度は新鮮なものである為だ。

 

「それで、陛下。私を呼び出したという事は…」

 

「うむ。此度のムー支援部隊にそなたが艦長を務めるパル・キマイラ2号機、そしてテュポーンを加えようと考えておる。良いか?」

 

「だろうな。むしろ我が居なければあの艦隊を遠征させる事は出来んだろう」

 

今回、ムーを支援すべく派遣される艦隊はそれなりの規模であり、新鋭艦や新装備も多数存在する。

そういった艦が損傷したりした際、技術体系が異なるムーでは修理や整備が出来ない為、いちいちミリシアル本国に帰還せねばならない。

そうなればせっかく展開した艦隊戦力が目減りしてしまい、万が一の事態に対処出来ない可能性がある。

そこで白羽の矢が立ったのがテュポーンだ。

元々が魔帝が建造した工作艦である彼女は魔帝の技術を源流とするミリシアル艦艇に対する整備と修理はお手の物であり、なおかつ彼女の整備能力はミリシアル本土の中規模軍港に匹敵するものがある。

しかもパル・キマイラの整備にも対応しているともなれば派遣部隊に加わらせない理由が無い。

 

「拝命しました。このメテオス、陛下のご期待に応えるべく専心誠意努力致します」

 

「良かろう。我も異世界から来た連中がどう戦うか見物したいのでな。貴様の口車に乗ってやろう」

 

畏まった態度で了承するメテオスと、何だかんだ言いながら了承したテュポーン。

そんな真逆な態度の2人を見て、ミリシアル8世は頼もしさを覚えつつ頷くのであった。

 


 

──中央歴1643年1月22日午前9時、カルトアルパス港──

 

「オーライ!オーライ!…ストップ!」

「そのままゆっくり降ろせ!」

「えっと…C19…C19船は…」

 

その日、カルトアルパス港には大勢の人々…ミリシアルのムー支援統合軍の兵士達でごった返していた。

ある者は鉄道から荷物を降ろすフォークリフトを誘導し、ある者はクレーンに指示を出し、ある者は自身が乗り込む輸送船を探して港を右往左往している。

 

「"青の騎士"が通るぞ!道を開けろー!」

 

そんな中、一際目立つ一団があった。

ヘルメットを被ったような半球の頭に大きさの異なる3つのカメラアイに鎧のような魔導合金製装甲、全体的に明るい青で塗られており、装甲の縁には金の装飾が施された姿…その色合いはミリシアル国旗を模しているようだ。

そんな正に青の騎士といった風体の全高4m少しあるそれは、肩にシールドをマウントしていたり、海軍の魔光砲を流用した大型ライフルを持ち、2列に並んで通りを行進していた。

そう、この青の騎士こそミリシアルのアーマードトルーパー、スパルタクスだ。

 

「ミリシアル万歳!皇帝陛下万歳!」

「侵略者をやっつけろ!」

「ムーを助けてやってくれ!」

 

大通りの両脇には市民が詰め掛け、港へ向かう兵士達やスパルタクスの列をミリシアル国旗とムー国旗を振りながら見送っている。

まさしく国を挙げてムーを支援するという世論が形成されているのだろう。

そんな中、一人の浮浪者が路地裏からそのパレードじみた出征風景を見て…いや、焦りを含んだ表情で見つめていた。

 

(なっ…なんだあの巨人は!?ミリシアルはこれを戦場に投入するのか!?)

 

その浮浪者の名はアルド…そう、およそ一ヶ月前にトーパ王国にて諜報活動を行っていたグ帝情報局の諜報員である。

彼はトーパ王国での諜報活動を終えた後、帰還の途上で軽くミリシアルの様子を伺ってみたのだが…目の当たりにしたのが"コレ"だ。

 

──ゴォォォォォォ…

 

「っ!?」

 

呆然とするアルドだったが、空に響く轟音に身を竦めた。

その轟音の正体はミリシアルの新型主力戦闘機エピクロス…その高い機体剛性を見せつけるかのように800km/hもの速度を出しながら、アクロバティックな機動をして見せた。

 

「あれが我が国の新型か!」

「すごい…今までの天の浮船より速いぞ!」

「流石は神聖帝国だぁ…」

 

市民達はエピクロスの勇ましい姿に感嘆しているが、アルドは心穏やかではなかった。

 

(なっ…アンタレスより速く、運動性も引けを取らない…不味いぞ…!あんな兵器がムーに渡れば我が国は…) 

 

「おい」

 

「!?」

 

突如として背後から声をかけられ、勢いよく振り向くアルド。

次の瞬間、鳩尾に硬い棍棒のような物が打ち付けられ、彼は強い痛みと共に声を出す間も無くその場に膝から崩れ落ちた。

 

「がっ……!?かっ……は……!?」

 

「不用心だな、グラ・バルカス帝国。バレないとでも思ったか?」

 

歪み視界でアルドが目にしたのは、ロングコートを着て帽子を目深に被った男であった。

 

「貴様らの動きは我が国に上陸した時から把握している。…我々を舐めていたな」

 

アルドを襲撃したのはミリシアルの諜報機関『ICI』の諜報員であった。

アルドは諜報局が借り受けている潜水艦にてミリシアルへと上陸したのであるが、ICIはそれを察知してアルドを泳がせていたのである。

 

「まあお陰で貴様らの諜報の手口は分かった。これからは我が国の防諜に役立て…おっと」

 

「がっ…!」

 

「まだまだ貴様には聞く事がある。まあ、命までは取らんが覚悟しておけよ」

 

隠し持っていた毒薬で自身を口封じしようとしたが、諜報員はそれを察知してアルドの手を踏み付け阻止してしまった。

 

(クソッ…ここまでか…)

 

もはや打つ手は無い…そう悟ったアルドは痛みによってそのまま意識を失ってしまったのであった。




最近暖かい…というより暑いですねぇ
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