異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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話の流れ的に仕方ないんですが、あまりにもグ帝側がアホ過ぎるというか…まあこんな風にしか書けないんです


316.交渉のイロハ

──中央歴1643年1月30日午前10時、オタハイト──

 

「……」

 

その日、ムーの地に降り立ったグラ・バルカス帝国の外交官シエリアは呆然としていた。

 

(なっ…なんだこれは…?)

 

先の異世界連合国軍によるグラ・カバル皇太子拉致事件について皇太子の身柄引き渡しを要求すべく、ムーに渡った彼女の目には信じ難い光景が映し出されていた。

港には青い鎧を身に纏った巨人のような人型重機が整列し、道には帝国の物より洗練されているように見える自動車がひっきりなしに通行している。

そして振り返ればシエリア率いる外交団をここまで連れて来てくれた近衛兵団のヘルクレス級戦艦が停泊しているが、その両脇を固めるようにして誇らしげにムー国旗を掲げた見慣れぬ戦艦らしき艦2隻が彼女達を睥睨…2隻の内の1隻、後甲板に反り上がった飛行甲板らしき物を持つ艦の舳先には軍艦には似つかわしく無い少女が立っており、今にもシエリア達に飛び掛かって来そうな敵意を滲ませていた。

 

「シエリア様、どうされました…?」

 

「っ!な、何でもない。行くぞ」

 

もしかして帝国はいよいよ手の施しようがない過ちを犯しているのではないか?そんな考えが頭を巡っていたシエリアであったが、外交団の一員であったダラスからの言葉に応えながら頭を切り替える。

 

(そうだ!あんな巨人、ハリボテだ!自動車だって各地から寄せ集めたものだろうし、あの軍艦だって2隻程度では大した脅威ではない!)

 

自分へ必死にそう言い聞かせるシエリアは、ムー側から交渉の場に指定された港湾管理局の建物へと一団を引き連れて歩いて行く。

 

「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」

 

程なくして港湾管理局に到着したシエリア達を出迎えたのは、ムー外務省列強担当部課長のオーディグスだった。

彼はそれだけの短い挨拶をすると、シエリア達を一瞥しただけで背を向け、彼女達を先導するように歩き始める。

明らかに歓迎していない様子だ。

 

「貴様、我々バルカス人がわざわざ出向いているのだぞ。本来ならば貴様らがこちらにくるべきだというのに、なんだその無礼な態度は」

 

それに対して早々に痺れを切らしたのが、同行していた近衛兵団のエルザンだ。

しかし、オーディグスは涼しい顔をしてこう応えた。

 

「貴方がたが自身の民族に自信を持っている事はよく分かりました。しかし、民族の違いで能力が大きく違うとは思っていません。我々も、貴方がたも…同じ赤い血が流れている人間なのですから。それに…」

 

オーディグスが首を回し、横目でシエリア達を一瞥する。

 

「他民族を見下す事が優秀さの証だと言うのなら、我々は貴方がたが言うところの劣等種で構いませんよ」

 

冷たく、何処か見下したようなオーディグスの視線にエルザンは顔を真っ赤にして言い返そうとするが、その前に交渉の場である応接室へ到着した。

 

「こちらです。今回は我が国とロデニウス連邦、そしてアズールレーンの代表代理としてアズールレーンの高官が対応致します。どうぞご満足するまでお話下さい」

 

それだけ言うとオーディグスはさっさと廊下を進み、居なくなってしまった。

ここまであからさまにお粗末な対応をされているともなれば、最早怒りを通り越して殺意まで湧いてくる。

 

──バァンッ!

 

「この蛮族め、一回しか言わないぞ!即刻、カバル殿下の身柄を返還し、カバル殿下拉致に関わった者を全員引き渡せ!」

 

最近、何故か怒りっぽくなってしまったシエリアは苛立ちをそのままぶつけるようにして、応接室の扉をノックもせずに荒々しく開けながら要求を怒鳴り散らしたが…

 

「如何に敵と言えど礼節は重んじるべきよ。それとも…それほどまでに追い詰められているのかしら?」

 

そんなシエリアに怯みもせず、むしろ哀れむような言葉を述べたのは今回の交渉の連合国軍代表代理のフリードリヒ・デア・グローセであった。

 

「申し訳ないわね。ボウ…フレッツァ上級大将は外せない予定があるの」

 

「フレッツァ…あの先帝陛下の御顔を真似する不届き者か。ちょうどいい、今すぐ奴を呼び出せ!どうせ奴も殿下拉致に関わっているのだろう!」

 

指揮官の名が出た瞬間、エルザンが怒りを滲ませながらそう要求する。

 

「貴方達、さっきから熱くなり過ぎよ?少しは冷静にならないと交渉にならない…貴方達がさっきから言っているのは命令ではなくて?」

 

グローセの言う通りだ。

カバルの身柄を返還してほしいのであればムーへの侵攻を止めるだとか、占領した国を解放するだとか、そういった異世界連合国軍にとって利になる条件を提示すべきである。

しかし、今のシエリア達はカバルの身柄返還を行った上で拉致作戦の関係者を引き渡せというものだ。

まさか拉致作戦の鮮やかな手際を讃えて歓待するとは思えない以上、間違いなくグ帝の顔に泥を塗った事に対する報復として処刑するつもりなのだろう。

 

「当然だろう。貴様らのような劣等種と交渉する意味は無い。貴様ら劣等種は大人しく我々優等種に従い、支配を受け入れれば良いのだ」

 

エルザンの言葉には流石のグローセも呆れ果ててしまう。

 

(これは…思ったより重症ね。捕虜収容所で接したグラ・バルカス帝国軍の兵士は普通だったのに…やはり近衛兵団、彼らこそがこの国の害…話し合いでどうにかなる相手ではないのなら、ボウヤの方針に従うしかないわね)

 

「ともかく、一刻も早くカバル殿下の身柄を返還するのだ!いいか?明日にでも殿下を…」

 

「残念だけど、カバル殿下はすでにムーにはいらっしゃらないわ。現在は私達の本拠地であるロデニウス大陸に滞在されているの。だけど安心して、キチンと貴賓用の待遇を…」

 

「なんだと!?」

 

ダラスの要求にグローセはそう応えるが、それに対して怒声を放ったのはエルザンであった。

 

「貴様らは殿下を危険な目に遭わせただけではなく、不快極まる蛮地へと向かわせたというのか!?おぉ…殿下になんなる苦難を…」

 

エルザンはそう言うが、現在のロデニウス連邦はサモアから齎された技術により2010〜20年代の地球先進国と変わらない生活水準にあり、グ帝本土よりも遥かに進んでいる。

正直言って、グ帝で暮らすよりもロデニウス連邦の捕虜収容所の方が快適なぐらいだ。

 

「やはり貴様らには言葉より力で分からせた方がいいらしい…帝国は貴様ら異世界国家に対し、カバル殿下を拉致した事への懲罰として大規模無差別攻撃を行う!」

 

「……」

 

エルザンの宣言に対し、グローセは無言だ。

別に怯えた訳ではない。

というのも戦略軍所属のU-2偵察機がムー大陸全体を常に巡回しており、レイフォル各地でグ帝軍の動きが活発となっている事を発見し、それに基づいてグ帝による大規模攻撃が近い事を予想していたのだ。

つまりはエルザンの脅しは単なる答え合わせでしかないのだが、彼はグローセの沈黙を怯えと受け取ったのか、やや機嫌を良くして言葉を続ける。

 

「ふん、ようやく帝国の力を理解したようだな。何、我々とて慈悲はある。先の要求を飲めば、ロデニウス連邦への侵攻作戦は最後にしてやろう。ムーとミリシアルが蹂躙される様を見て、帝国の軍門に下る決断をする時間ぐらいは与えてやろう。しかし、ともかくとしてフレッツァとか言う男は許せん。あの無礼者はどこだ」

 

「……」

 

エルザンの問い掛けなぞ聴こえていないかのように流し目で柱時計を確認する。

時刻は10時55分…いい時間だ。

 

──ピッ

 

ロデニウス連邦からの輸入品である液晶テレビを点けて、ムーの公共放送にチャンネルを合わせる。

シエリア達は壁に掛かっていた黒い板がテレビだった事、手に収まる程に小さなリモコンで遠隔操作出来る事に目を丸くして驚いていたが、それよりも彼女を驚かせたのは番組の内容であった。

 

『これより、30年ぶりとなる空軍元帥叙任式が開式されます。この歴史的な瞬間に国内外の報道機関が…あっ、登場されました!あちらが新空軍元帥の…』

 

キャスターの言葉に合わせ、ムー王宮の謁見の間の大扉にカメラが向けられた。

衛兵が開いた扉の先、そこには無数の勲章を着けた礼服姿の…

 

『ロデニウス連邦上級大将にしてアズールレーン総指揮官、クリストファー・フレッツァ氏です』

 

今まさにエルザンから激しい敵意を向けられている指揮官の姿があった。

 




今日はちょっと早いですが娘のお宮参り(一ヶ月参り)に行って来ました
月日が経つのは早いもんです
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