──中央歴1643年1月30日午前11時、ムー王宮──
各国の報道機関が詰め掛けた謁見の間、そこに現れた指揮官の姿にフラッシュの雨が浴びせられる。
その真っ只中に敷かれたレッドカーペットを踏み締めるように一歩一歩ゆっくりと、歩く姿に報道陣は思わず圧倒されてしまった。
「ご機嫌麗しゅう、ラ・ムー国王陛下。ロデニウス連邦軍上級大将、アズールレーン総指揮官クリストファー・フレッツァ、馳せ参じました」
「よくぞおいで下さいました。フレッツァ上級大将。戦時下につき簡素なものとはなりますが、どうかご容赦頂きたい」
名乗り、深々と最敬礼した指揮官に対しラ・ムーは柔和な笑顔を浮かべて応えながらより近づくように手を差し出して促した。
「失礼致します」
再び深々と頭を下げ、今一度背筋を伸ばして胸を張り、ゆっくりと玉座の目の前まで歩み寄ると片膝をついて頭を垂れた。
「クリストファー・フレッツァ上級大将。貴殿は我が国の防衛力向上に大きく貢献し、今まさに行われている我が国に対する侵略戦争において歴史上稀に見る成果を残しました。ムー王室はこれを評価し…」
そう述べると、ラ・ムーの側に控えていた侍従長がシルクの包を解き、ラ・ムーがその中にあった長さ50cm程の短い杖を取り上げる。
「貴殿をムー国空軍元帥に任命する」
「拝命いたします」
そうしてラ・ムーが差し出した杖を捧げ持つように受け取る指揮官。
それをフィルムに焼き付けるべく、報道陣のフラッシュが一段と激しく瞬き始めた。
ここで疑問に思った者もいるかもしれない。
如何に同盟国の高官かつ、参加する軍事組織のトップとは言えど自国軍のトップに他国の人間を任命するというのはいったいどんな理屈なのだと。
これにはムー特有の事情がある。
というのもムーは地球からこの世界に転移してきており、転移して暫くは他大陸から渡ってきた侵略者とムー大陸を巡って戦っていた。
しかし、異世界側が火喰い鳥やワイバーンといった飛行生物の使役を始めると、地球出身故にそれらを扱う術を持たないムーは一時期オタハイトとその周辺しか領土が残らない程に追い詰められたのである。
そうやって存亡の危機にまで追い詰められたムー…さらに言えばムー王家は最終手段をとった。
それこそがムー王家が保有する宝物を報酬に、他国から火喰い鳥・ワイバーン使いを雇うというものだ。
結果としてそれは上手くいき、類稀な異世界の宝物に魅了された傭兵達が少なくない数集まったのである。
つまり、ムー初の空軍は傭兵部隊であり、伝統的に空軍元帥はムーの軍事力に良い影響を与えた外国人をムー王家が任命するという事になっているのだ。
それを踏まえればムーに対して数々の軍艦を譲渡し、ジェット機の開発技術を与え、対グ帝戦を支援する事を決定した指揮官は正に空軍元帥に任命するに相応しいだろう。
「ではフレッツァ空軍元帥、任命に際してのスピーチを」
「はっ」
ラ・ムーに促され、指揮官が登壇する。
すると報道陣はもちろん、参列者も彼の言葉を一字一句聴き逃さないように沈黙した。
「……皆さん。既にご存知の方、噂には聴いている方もいらっしゃると思いますが去る1月16日、我々アズールレーンとムー、ロデニウス連邦による合同作戦にてグラ・バルカス帝国皇太子の身柄を確保いたしました」
その言葉に会場が沸き上がる。
敵国の重要人物を捕らえたともなれば外交交渉で優位に立つ事が出来るし、何よりもグ帝の高い鼻をへし折ったという事実はムーの人々にとっては痛快なものだ。
そんな人々の喜びが落ち着くのを待ち、指揮官は言葉を続ける。
「そして私は皇太子と話し、グラ・バルカス帝国の内情を垣間見ました。率直に申し上げます。今、このムーの地にて対峙しているグラ・バルカス帝国は完全なる加害者ではありませんでした」
次に起きたのは動揺だった。
侵略者であるグ帝が完全なる加害者ではないとはどういった事なのか?人々のそういった疑問は続く言葉によって氷解する事となる。
「まず、グラ・バルカス帝国には近衛兵団と呼ばれる組織が存在します。そして連中こそが全ての元凶…他民族を劣等と蔑み、占領地の現地住民を虐殺し、記憶に新しい公開処刑を主導したのも近衛兵団なのです。加えて近衛兵団は軍を監督する立場であり、軍のあらゆる事柄に口を出し、場合によっては保有する独自の戦力を以て軍事行動を行っているようです。
さて…こんなにも独善的な組織が我が物顔で強権を振るう国が正常でしょうか?
否!断じて否である!」
これまでの丁寧な口調から一転し、声を荒げる指揮官。
その気迫に人々は気圧されてしまう。
「民族主義を標榜し、他民族を侮蔑するような国に征服されれば民族浄化によって民族は絶滅してしまう!もし、近衛兵団が率いるグラ・バルカス帝国がムーの地を蹂躙すれば、ムーという国も、ムー人という民族も口にするのも悍ましい手段によって消失してしまう!
私は…我々はそれを良しとしない!
よって、ここに宣言する!」
ダンッと演台を両手で力強く叩くと、鋭い眼光でムー公共放送のカメラを見据えた。
「我々、アズールレーンは悪辣なる近衛兵団とその傀儡達を糾弾し、実力を以てこれらを排除する!
そして世界に平和を齎し、グラ・バルカス帝国を愚かなる民族主義より解放するのだ!」
拳を握り、天に掲げながら宣言する指揮官に人々が熱狂する。
近衛兵団という分かりやすい"悪"に立ち向かうという勧善懲悪なシナリオは人々の心を揺さぶり、大いに士気を高揚させたのだ。
「そして何よりも前線で戦う兵士諸君!君達の勇猛さ、世界の平和を守り、愚かなる民族主義者達に虐げられるグラ・バルカス帝国の人々を解放した事は永く語り継がれる事であろう!
君達が高潔に戦う為に我々は手を惜しまない!戦艦、空母、超音速機、誘導弾、戦車、重砲…弾薬も、糧食も、十分な休息も!全てを君達に満足行くまで与えよう!
君達はただ残虐非道なる近衛兵団を罰し、連中に虐げられている全ての人々を解放するのだ!
君達は……子々孫々と語り継がれる解放の英雄となるのだ!」
この任命式はムー全土のみならず、世界のニュースの帯域を間借りして全世界に中継されている。
無論、アズールレーン参加国の軍事施設にも放映されており、これを観た兵士達の中には近衛兵団=悪という図式が出来上がり、近衛兵団を打倒する事が自分達の使命であると理解した。
無論、そんなに単純な話ではないが末端の兵士達に単純明快な目標を提示する事は士気の面でも効果的だ。
更に指揮官達上層部は捕虜収容所の兵士達、バルチスタ海戦における遭難者救助での一時休戦、カバルとフェルドの振る舞いからグ帝の中にも理性的な者は少なくなく、近衛兵団という国内を民族主義で染め上げている元凶さえ取り除けばグ帝の国内世論は継戦派と停戦派に分断されるであろうと予想しており、それが実現すればムーへの侵攻を食い止めるというアズールレーンの戦略目標は達成されるであろう。
言ってしまえば指揮官はこのスピーチで近衛兵団は絶対悪と言い切る事で、末端の兵士に至るまで戦略目標達成のための目標を示したのである。
「だが、君達に重ねて願いたい!
どうか、自分達の子や孫に恥ずる事無き高潔な振る舞いを、軍紀を遵守した戦いを期待する!」
そう締め括った指揮官のスピーチは、万雷の拍手によって幕を閉じたのであった。
そういえば原作ってもう更新されないんですかねぇ…
まあ、拙作は最早原作の用語と流れを拝借した別物な感じですが