異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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新イベントの情報が出てきましたね!
どうやらロイヤルイベントのようですが…クイーン・エリザベス(空母)は…流石に無理ですね


323,弾丸列車

──中央歴1643年1月25日午前9時、ニューマイハーク駅──

 

ニューマイハークは東西南北中央の5つの行政区に分かれており、その内の北区は他の都市との交通を担う区である。

バスターミナルや路面電車の車両基地、そして大陸横断・縦断鉄道の始発点であるニューマイハーク駅もこの北区に存在する。

 

「くぁぁぁ…」

 

「殿下、見苦しいですよ」

 

そのニューマイハーク駅の応接室で待機するカバルは大欠伸をし、それをフェルドに咎められていた。

 

「あぁ、すまない。少し寝不足で…」

 

「まったく…知識を得るのは良い事ですが、体調管理の為にも十分な睡眠を取りませんと」

 

というカバルは昨日はニューマイハークの街並みとビルの建設現場、そして排水処理施設を見学したのだが建設現場と排水処理施設にて渡されたパンフレットや、道中で購入した書籍を読み込んでいた為、殆ど眠れていないのだ。

 

「いや、そうは言うがこの地の建築技術は素晴らしいものばかりだ。特に低層建築物に使われる3Dプリント建築…同規模の建築物と比べて必要な人員は1割、必要日数は半分以下、それに伴いコストも大幅に削減出来る。この国では木造建築を好む者が多いから大々的に使われてはいないようだが、帝国に導入すれば不足している一般住宅や小規模集合住宅の問題を解決出来るぞ」

 

カバルの言う通り、グラ・バルカス帝国において住宅問題は年々深刻さを増している。

というのも地方では危険な鉱山労働か軍隊が主であり、早死にせずにそれなりの収入が欲しければ都市部の工場や建設現場、サービス業で働くしかない。

しかも昨今の戦争の影響で建設現場で働けるような若い男は徴兵され、軍需工場増設の為に少ない人手も奪われている為、住宅建築は死に体である。

そういう訳で労働者の流入と新規の住宅建築がほぼストップしている影響で家賃が高騰し、今では地方の平均年収の2〜5倍あるような労働者ですら家賃の高さのせいでホームレス同然の暮らしをしているのだ。

しかし、3Dプリント建築を導入すればそれも改善出来る可能性がある。

もっとも、現状を鑑みればそれは夢物語でしかないのだが…

 

「それに排水処理施設も素晴らしい。微生物の働きで本当にあんなに透き通った…魚が住めるほどの水質になるとはな」

 

「同意します。近ごろは都市部の水辺が酷い悪臭で包まれております。私が若い頃は港で釣りをしていましたが、今ではクラゲも居ない有様です」

 

カバルの言葉にフェルドも同意する。

フェルドが幼い頃のラグナは石積の防波堤や波止場を備えた港があり、彼はその港で今は亡き父と魚を釣り、亡き母が調理した煮魚に舌鼓を打っていたものだ。

しかし、現在のラグナの海には魚は居ない…居たとしてもゴミや汚物が浮かび、悪臭を放つ泡立った海から釣り上げた魚なぞ触るのも憚られる。

 

「それに排水処理施設では興味深い話を聞けたな。工場・鉱山排水に含まれる有害物質による人体への影響…我が国の鉱山や工場が排水をどう処理しているか分からないが、少なくともこの国より徹底はしていないだろう」 

 

カバルの脳裏に浮かんだのは、排水処理施設にて渡されたパンフレットにあった工業排水の影響をマウスを使って実験したコラムであった。

水銀やカドニウム、鉛といった工業排水に多く含まれる重金属を混入させた餌を食べたマウスは神経障害や骨格の不全が多く見られ、それは子や孫の代まで続くという。

それを知ったカバルは帝国の未来を憂いた。

現状の排水・排気処理をロクにしていない帝国の工業では将来、マウスで行われた実験が帝国臣民で起きる可能性が高い。

もしそうなれば帝国は病人だらけとなり、発展どころか衰退へ一直線だろう。

それを防ぐ為にも公害予防の為の法整備は不可欠だが…

 

「しかし殿下、もはや帝国の大企業は議員や近衛兵団への多額の献金によって政治に深く関わっています。そんな大企業が利益に繋がらない公害対策に乗り出すでしょうか?」

 

「…確かに。もう帝国は根本から改革する必要が…」

 

──コンコンコンッ

 

帝国に巣食う拝金主義を憂いていたカバルだったが、応接室のドアがノックされた。

 

「…どうぞ」

 

それに対してフェルドはカバルに確認を取り、ノックの主に入室を許可する。

 

「お待たせ致しました。殿下がご乗車頂く車両が準備出来ましたので、ご案内致します」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

ノックの主、ヤゴウの言葉にカバルは一転してウキウキした様子で立ち上がれる。

 

「本日は殿下のご要望にお応えし、旧ロウリア王国東部にあります捕虜収容所の視察となります。距離にして約1000kmとなりますが、殿下にご乗車頂く車両であれば午後2時頃には到着致します」

 

「話に聞く『新幹線』とやらだな。時速300kmもの速度で運行出来るらしいが…」

 

「我が国の高速鉄道でも時速170kmが限界です。それより遥かに速いとは…」

 

ヤゴウの先導でプラットフォームまで向かうカバルとフェルド。

今回彼らが乗車するのは特別便だけあって、駅構内には警備員以外誰も居ない。

故にカバルは気兼ねなく停車中の車両を観察する事が出来た。

 

「おぉ…これが…」

 

それはまるで列車というよりも航空機を思わせる姿をしていた。

前方に長く伸びた鼻先に、流線型ボディに溶け込むように寝たフロントガラス。

客室自体も滑らかに成形されており、エンジンと翼を取り付ければそのまま空を飛べそうだ。

 

「はい、こちらが我が国最新鋭の高速鉄道車両である新幹線『N700系』となります」

 

「すごい…これなら離れた都市を結ぶのに飛行機を使わずに済むな」

 

感嘆したようにカバルはそう呟く。

帝国において離れた都市…特に内陸部に向かう場合、夜行列車に揺られるか大枚叩いて飛行機を使うのが一般的だ。

一応、平野が多い植民地ならば高速鉄道という選択肢もあるが、高速鉄道の運賃を考えればもう少し出して飛行機を使うか、節約して夜行列車を使った方が良い。

しかし、ロデニウス連邦の新幹線は下手な飛行機よりも速く、運賃も在来線より高いとは言え時間短縮を考えれば十分選択肢に入る程度だ。

 

「しかし地上で時速300kmか…この国はその内、地上でも超音速を発揮するだろうな」

 

「ははは、地上で超音速は衝撃波や騒音の問題もありますし、空気の密度が高いせいでほぼ不可能との事です。暫くは時速300km前後が限界でしょう。…おっと、足元にお気を付け下さい」

 

フェルドの言葉ににこやかに答えつつ、ヤゴウは彼らを伴って新幹線に乗り込むのだった。

 




娘の夜泣きで毎日ほんのり寝不足です
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