──中央歴1643年1月25日午後4時、レインボーヤード捕虜収容所──
新幹線を使い旧ロウリア王国東部の駅に到着した後、貨客列車に揺られる事2時間程度…内陸部に存在する捕虜収容所にカバルが到着したのは日が傾いてからであった。
「ここが捕虜収容所か…」
カバルは捕虜収容所という物を見た事は無いが、それでもこの収容所は帝国の物よりも先進的に見える。
様々な色で塗られ数字が描かれた金属製らしき長方形の箱にはいくつかの窓があり、それが3つ積み上がった物が綺麗に舗装された道路の脇にズラッと並んでいた。
「あれは…あの鉄の箱に帝国臣民が?」
「はい。あれは我が国にて海上輸送等に多く用いられる輸送コンテナと同じ規格で製造された簡易住宅でして、このような捕虜収容所の他、兵士の宿舎や災害時の避難所、一部ではホテルとして利用されております。この収容所では長さ6m、幅2.4m、高さ2.5mのコンテナを半分に区切り、全員に個室を与えています」
「個室!?それはすごい…」
「フェルド、私はこういった物には詳しくないのだが、そんなに驚く事なのか?」
「えー…例えば帝国の刑務所は10人で1部屋です。個室どころか衝立すら無い、自分一人で過ごせるような環境ではありません。おそらく類似の施設ではもっとも恵まれているかと…」
ヤゴウの言葉を聞いたカバルの問い掛けにフェルドは刑務所を例に挙げる。
フェルドは捕虜収容所の状況も知ってはいるが、カバルにはショッキングな内容であるため敢えて刑務所を出したのだ。
「フェルド殿が仰る通り、本収容所は快適性と捕虜の尊厳を第一に考えております。流石にコスト的な面で妥協はありますが、トイレやシャワーといった衛生設備は十分な数を用意して自由に使えるようにしてありますし、食事は栄養士により必要なカロリーや栄養を十分に摂取出来るように考えられた献立を1日3食用意しています」
「どうしてそこまで…我が国は戦争相手なのだぞ?」
カバルが知る戦争は敵には容赦しない、謂わば絶滅戦争と言っても良いようなものである。
しかし、ロデニウスは敵であるはずのグ帝捕虜に対して快適な住環境を与えている。
そんな疑問に対し、ヤゴウはにこやかに答えた。
「我が国は戦争というものは外交の失敗で勃発する事態であり、実際に銃火を交える将兵にはそういった責任は無いと考えております。故に捕虜とした敵国の将兵を劣悪な環境に置く事は冤罪で刑務所に収監すると同意義であり、国家として許されない行いだという価値観を持っております。もちろん、あまりにも反抗的な言動を繰り返すのであれば独房に収容する場合もありますが…」
「なんと理性的な…」
ヤゴウの言葉を聞いてカバルは深く感服する。
民族主義が蔓延る帝国においてカバルもバルカス人こそが至高、他民族は知能が低い野蛮人だと教えられてきたが、この収容所を見るととてもそうは思えない。
近衛兵団に見せてやりたいものだ。
「しかし、捕虜をただ無為に過ごさせている訳ではないのだろう?貴国の発展具合と先進的価値観はよく分かったが、それでもこんな快適な収容所をタダで使わせているとは思えない」
フェルドの疑問にも一理ある。
収容所の運営に必要な費用は国庫から捻出しているだろうし、働き盛りの若者を遊ばせておくよりも労働力として使った方が効率的だ。
現に帝国の収容所では捕虜に対して鉱山労働や鉄道敷設のような危険な仕事を課している。
帝国が植民地にて素早く都市を建設出来るのも、そういった給料も命の保証も不要な捕虜の労働によるものなのだ。
「はい、フェルド殿のご想像通り本収容所では捕虜に対して原則的に労働を義務付けています」
「ぐ、具体的には…?」
こんなにも快適な設備を与えているのだから、その見返りにさぞかし厳しい労働をさせられているのだろう。
やや怖気づきながらカバルが問い掛けると、ヤゴウは事も無さげに答えた。
「主に民生品の工場にて働いてもらっています。歯ブラシや文具の工場が近くにあるので、そちらでライン作業や検品、箱詰めといった作業が主です。他にも石炭採掘もありますが、露天掘りですので坑道作業のような危険はありませんし…あぁ、あと収容所内の厚生施設内の売店や床屋で働いている方もいらっしゃいますね」
「そ、それだけか?」
「はい。当初は兵器工場で働いてもらおうと議論されましたが、捕虜の精神衛生的に悪いだろうとの結論になりまして、民生品工場に変更となりました。もちろん、働いた分は給料が出ますし、給料は収容所内の売店で使う事が出来ます」
「……本当にこの国は進んでいるな」
「えぇ、まったくです」
カバルもフェルドも帝国の在り方を恥じる程に感服していた。
特にカバルは帝国が世界統一を成し遂げれば全ての人々が帝国の優れた技術の恩恵を受け、世界は平和かつ豊かになると信じていたため、帝国より遥かに…技術も価値観も先進的なロデニウス連邦こそが世界の中心となるべきではないか?とさえ思い始めていた。
「では、これより実際に収容されている捕虜の皆さんにお会いして頂きます。皆さんは厚生施設2階の体育館に集合しておりますので」
そう言ってヤゴウはカバルとフェルドを待機させていた憲兵隊のジープに乗せると、収容所の中央にある厚生施設の建物へ向かうのだった。
──同日、レインボーヤード捕虜収容所厚生施設──
「殿下、こちらです」
「う、うむ…」
売店や床屋、運動用具貸し出し窓口等がある厚生施設の2階…そこは雨天時の運動や、週に1回の映画上映に使われる体育館があるのだが、その出入り口でカバルは立ち止まっていた。
遠く離れた異国に囚われている帝国臣民がどのように暮らしているかを見届けるのは皇族の義務だ、と言って収容所の視察を強く要望したのだが、いざその時になると尻込みしてしまう。
戦友が死に、自分達が捕虜となったのは帝国の責任だ。
そう責められるかもしれない。
しかし、帝国が起こした戦争は皇族の責任に違いない。
それを胸に刻んだカバルは、意を決して扉を開いた。
「殿下!?」
「ほ、本当に殿下だ!」
「いらして下さったんですね!」
だが、カバルを出迎えたのは歓迎ムードの帝国兵達だった。
彼らは初めて生で見るカバルの姿に歓喜し、わざわざ収容所まで来てくれた彼に深い感謝を捧げているようだ。
「す…すまない!帝国が始めた戦争のせいで諸君らに不自由な思いを…」
「殿下!」
頭を下げて謝罪するカバルへ、一歩前に出た兵士が声をかける。
「お言葉を遮り申し訳ありません。私は海軍の攻撃機パイロットのケルと申します。今は収容所の自治会長をしていますので、代表して申しあげますが…私達はこの戦争は近衛兵団の連中のせいだと思っています。殿下は私達軍人に寄り添って下さったではありませんか。現に今も…だからこそ、殿下に感謝こそすれ恨む事なんてありえません」
「赦して…くれるのか?」
「赦すもなにも…最初から殿下の責任だとは思っていません。なあ、皆!」
「そうだ、そうだ!」
「全部あの黒服のせいだ!」
「殿下の責任ではありませんよ!」
ケルの言葉に同意する声が次々と上がる。
彼らも近衛兵団の横暴には辟易しており、以前から近衛兵団縮小と軍部の名誉回復を目指してきたカバルに対する好感度は捕虜となってからも変わらなかった。
「そうか…ありがとう…」
目を潤ませ、ケルの手をしっかりと握るカバル。
そんな中、ヤゴウがやや気不味そうに口を開いた。
「あー…この後は殿下たっての希望で本日はコチラに宿泊する事となっております。皆さんも明日は特別休暇となっておりますし、どうか心行くまで交流なさって下さい」
「ああ、心から感謝する。…諸君、今宵は是非とも今までの話を聞かせてくれ!」
ヤゴウに感謝を述べたカバルは、兵士達と目線を合わせるように床に座ると、彼らと収容所での暮らしについて言葉を交わすのであった。
願わくば他の召喚二次も盛り上がってほしいですねぇ…