異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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蒸し暑さで目が覚める時期になってきましたね
今年も暑くなりそうです


327.大使館の長い1日【2】

──中央歴1643年2月23日午前11時、ヒルキガ大使館街──

 

その日、リーム王国陸軍の銃士中隊は意気揚々といった足取りで通りを行進していた。

彼らは政変によって逃れてきた旧パーパルディア皇国の銃器技士達に開発させた、先進的な後装式かつライフリングを施した銃身を備える銃を装備する精鋭部隊として編成されたのだが、彼らが背負う銃はなんと驚いた事にボルトアクションライフルだ。

元々リーム王国が元パ皇技士に開発させていたのは、トリガーガードを回す事でネジを切った垂直閉鎖器を開け閉めする後装式ライフル…現実世界で言うところの『ファンガーソンライフル』に酷似したものであったのだが、開発中に状況が変わった。

それこそがグラ・バルカス帝国との密約である。

グ帝は世界征服の為、そして最大の脅威と目していた神聖ミリシアル帝国を挟撃すべく東方の大規模拠点を欲していたのだが、それに上手く合致したのが周辺国から孤立していたリーム王国だったのだ。

密かにリームに接触したグ帝は飛行場や潜水艦基地建設の為の土地と労働力と引き換えに旧式の歩兵用装備や軍用車、火砲に軍用機とそれらの消耗品を供与、訓練の為の軍事顧問を派遣する事を提案し、リームはそれを了承したのである。

結果としてリームに対してグ帝は6.5mmボルトアクションライフルと同じ弾薬を用いる機関銃、手榴弾、擲弾発射器、そして軍用トラックや歩兵砲、果ては翼内20mm機銃を廃した旧式のアンタレス04型・05型を供与したのだ。

グ帝からすれば予備役倉庫で眠っていた、或いはスクラップ送りな代物であるが、それでもこの世界の水準からすれば纏まった数があれば列強に躍り出る事も不可能ではない戦力である。

そんなリーム基準で最新鋭の装備を纏う銃士中隊を率いるのは同中隊長にして国王直属の大将軍『リバル・ヨールヴィーク』である。

 

「おほんっ!こちらは王下大将軍リバルである!ロデニウス連邦大使、及び大使館職員よ。貴様らには我が国に対するスパイ活動並びにテロ行為準備の容疑がかけられている。王城まで同行せよ」

 

リバルの目的、それはロデニウス大使達の確保である。

グ帝との密約によってリームはかなりの戦力を保有出来たが、それでも練度の面では不安が残る。

故に大使達を人質とする事で時間を稼ぎつつ練度向上、そしてあわよくば人質外交によりロデニウス連邦から技術を奪おうという算段があるのだ。

 

「リバル将軍、申し訳ないが拒否させてもらう。我々はスパイ行為もテロ行為にも心当たりがない。我々には外交特権があり、貴国には我々を逮捕する権限は無い。それより我が国の資産凍結と入出国禁止令を発令したのは如何なる判断か」

 

大使館を取り囲む高さ約3mのコンクリート壁と外界を繋ぐ鋼鉄製の大扉に取り付けられた人用の通用口の扉…に取り付けられた視察窓を開けてメカキがそう言って対応した。

 

「資産凍結と入出国禁止令に関しては内政に関わる為、貴国が干渉する権利はない。それよりも今すぐ扉を開け、大人しくしてもらおうか」

 

「断る。お引き取り願う」

 

「あくまでも拒否するのであれば実力行使に移るが?」

 

「やってみろ。もし大使館に対して強制立ち入りや攻撃を行えば、我が国に対する攻撃と見なす」

 

毅然としたメカキの言葉にリバルは思わずたじろいでしまう。

しかし、彼は自身のベルトに挿したリボルバー拳銃を指先で撫でるとそれから勇気を得たように言い返した。

 

「あくまでも拒否するか…ならば仕方ない。強制立ち入りだ!総員、ロデニウス連邦大使を確保!他は殺しても構わん!」

 

「バカめ…!」

 

リバルの命令に兵士達はハシゴを持って壁に駆け寄り、メカキは苦々しい表情を浮かべてトランシーバー片手に大使館へと駆け込む。

 

「リーム王国は大使館への強制立ち入り、並びに職員を殺害する意思を示した!これは明らかな敵対行為であり、これを以てリーム王国からの宣戦布告と見なす!トーパ王国駐留軍への救援を要請!我々は救援到着まで持ち堪えるぞ!」

 

《メカキ大使、撃ってもよろしいか!》

 

「ユミエ大使、頼みます!ですが決して無理はなさらないように!」

 

《承知!》

 

──ダンッ!

 

ハシゴを登って壁の上まで来たリーム兵が銃声と共に叩き落される。

それを見届けたメカキは大使館の正面出入り口を固く閉ざすと、2階まで駆け上がった。

 

「バリケードを!」

 

「はい!」

 

メカキの指示を受けて職員が手早く机や椅子、本棚といった物で階段や廊下にバリケードを築く。

それを横目にメカキは窓を開け、グリースガンの銃口をリーム兵が登って来ている壁へ向けた。

 

──パンッ!パンッ!

 

「がっ!」

 

乗り越えた瞬間を狙って発砲すると、リーム兵は肩を押さえてそのまま壁の内側に頭から落下、鈍い音がしてそのまま動かなくなってしまった。

 

《注意!手榴弾を投げて来ます!》

 

「了解!」

 

屋上の警備員から注意が届く。

すると壁を飛び越し、石ころのような物が建物前の広場に転がった。

 

──バァンッ!バァンッ!

 

転がった物体…手榴弾が炸裂し、爆音と共に舗装が抉れたが建物に届くどころか破片すら飛んでいない。

というのもリーム兵が投擲した手榴弾は爆発のエネルギーそのもので敵を殺傷するいわゆる攻撃型手榴弾だったのだ。

この攻撃型手榴弾は塹壕やトーチカ、室内といった閉鎖空間に立て籠もる敵には有効だが、開けた空間ではその利点を活かしきれない。

こういった場合には射線を切る為に発煙弾を使うか、せめて破片手榴弾を使うべきだが…しかしグ帝の軍事顧問はそういった使い分けまでは教えていないし、リーム兵はそういった判断が出来る程の練度も無い。

 

「グ帝め…面倒な連中に武器をくれてやったものだな。しかし…ん?」

 

ふとメカキは違和感を覚えた。

リーム兵が壁から離れ、他の建物の陰に隠れ始めたようだ。

 

「なんだ…諦めたか?」

 

だとすれば都合が良いが、どうも嫌な予感がする。

ここで中途半端に終わらせてしまえば、ロデニウス連邦を敵に回し、兵を失っただけになってしまうが…

 

「……ん?」

 

双眼鏡を覗いて様子を伺っていると大使館街の通りの端、大使館から距離500m程の場所にいくつかの人影が見えた。

 

「あれは…!」

 

細長い筒状の物体が先端をこちらに向けているのが見える。

それはメカキの予想が正しければ…

 

「速射砲だ!伏せろぉぉぉぉぉ!」

 

──ドンッ!

 

トランシーバーのプレストークボタンを押しながら叫ぶメカキ。

だが、それも虚しく撃ち出された砲弾は屋上に着弾したのであった。

 




あと娘を抱き上げてあやしたりするので地味に腰へのダメージが蓄積します
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