令和にBRS!?
──中央歴1643年2月23日午前11時、リーム王国沖公海上──
──バタバタバタバタバタバタバタ…
「救助部隊、ヨシ。いつでも出発出来るよ」
リーム王国領海に程近い公海上、そこに展開したアズールレーンのトーパ王国駐留艦隊の即応分艦隊所属の空母『アドミラル・ナヒーモフ』は自身の飛行甲板上でローターを回転させて出撃命令を待つ4機の大型ヘリコプターの姿を横目に、分艦隊旗艦『キーロフ』へ伝達した。
《同志ナヒーモフ、リーム王国はロデニウス連邦大使館に対して本格的な攻撃を行なっている。最早一刻の猶予も無い。直ちに救助ヘリ部隊を出撃させ、同部隊援護のため戦闘機部隊を出撃させよ。ただし、救助対象は大使館街のど真ん中だ。第三国の大使館への被害は厳に注意せよ》
「了解、同志キーロフ。救助部隊には私も同行するから大丈夫」
「ナヒーモフ殿!こちらに!」
「うん、今行く」
救助ヘリ…『CH-47C チヌーク』のランプドアに立つガイがナヒーモフに呼び掛け、彼女は尻尾のように腰から生えたケーブルをゆらゆらと揺らしながら、チヌークへと早足で歩み寄る。
今回、救助部隊を輸送し、大使館職員を収容する為に4機のチヌークが動員されているのだが、チヌークは1機あたり50人程を収容出来る。
つまり4機のチヌークで200人を収容出来るのであるが…それはいくらなんでも過剰だ。
しかし、これには理由がある。
4機の内2機が救助者収容用であり、不測の事態に備えて2機体制となっているが、残り2機は武装と装甲を施した『ACH-47』仕様なのだ。
機首下部には40mm自動擲弾銃、胴体左右に増設されたスタブウイングには20mm機関砲、そしてドアガンとしてコックピット後方のキャビンドアとランプドアに北方連合製汎用機関銃『PK』を装備している、いわばガンシップ型だ。
本機は輸送型が救助者収容前或いは最中に地上を掃討し、救助活動を支援する為、2機が動員された。
「出撃して。すぐに私の艦載機を出すから」
「了解、発艦!発艦だ!」
ナヒーモフの言葉を受け、ガイが指示を出すとACH-47を先頭にチヌークが次々と発艦する。
チヌークの巡航速度は280km/h程度…分艦隊からヒルキガまでは凡そ200kmほど離れているため、1時間もせずに辿り着く筈だが、リームの哨戒網を迂回せねばならないため2時間は必要だ。
「1300…間に合えばいいけど」
「間に合わせるんです。必ず…!」
窓から海面を見下ろしながら呟くナヒーモフに、祈りにも似た決意を口にするガイ。
──ゴォォォォォォォ…
そんな救助部隊を乗せたチヌークをナヒーモフの艦載機であるF-8、8機が追い越して行った。
──同日、ロデニウス連邦大使館──
──タタタタタッ!タタタタタッ!
「ダメだ!扉が突破された!」
「上に上がってくるぞ!」
「階段を塞げ!椅子でも机でも持ってくるんだ!」
「クソッ…弾が心許ないな…」
現在のロデニウス大使館は危機的状況にあった。
幸い死者こそ出てはいないが、多勢に無勢は如何ともし難い。
数に任せて塀を登ってこられればメカキ達では対象は難しく、制圧射撃まで加われば狙いを付ける事なぞ不可能である。
「全員、3階まで退却だ!階段にバリケードを!」
グリースガンのマガジンを交換しながら他の職員に指示を出すメカキ。
これが最後のマガジン…しかもメカキ自身も跳弾によって脚を負傷し、壁に寄りかかってどうにか歩けるという状況だ。
「くっ…救助は…救助はまだか!」
リームの目的はメカキの身柄確保、つまり他の大使館職員や他国の大使・領事に関しては殺しても構わないと考えている。
ここで降伏すれば、抵抗したとしてメカキ以外は間違いなく処刑されるだろう。
それを回避するには救助部隊の到着まで持ち堪えなければならないが…
──ドンッ!
「奴ら…本当に私を生け捕りにする気があるのか?」
どうにか3階まで登ったメカキは大きな爆発音を聴いた。
おそらくリーム兵がバリケードを破壊する為に手榴弾を使ったのだろう。
もしかしたら、3階まで上がってくれば所構わず手榴弾を投げてくるかもしれない。
「屋上まで上がるべきか……?」
更に距離を取らなければ危ういと考えたメカキは更に上へ行こうと考えたが、銃声に混ざって何やら違う音が聴こえてきた。
「………まさか!」
干した絨毯から埃を叩き出しているかのような音と、洞窟へ強風が吹き込んでいるような音…脚の痛みも忘れ、メカキは屋上へ繋がる階段を駆け上がった。
「メカキ大使!」
「ユミエ大使!その目は…」
「大丈夫です。それよりアレを!」
屋上で狙撃をしていたユミエ達と合流を果たしたが、彼女は自身の怪我を痛がる素振りも見せずに北東の空を指差した。
「……来た!」
曇り空の中、4つの黒点がこちらに向かって来るのが見える。
それはすぐに何かが分かるほどまでに近付いてきた。
《待たせて申し訳ない。屋上に居るので全員か?》
「いいや、来てくれたのなら文句は無いさ。……ここに居るので全員だ」
《了解、収容前に人払いをする。伏せていてくれ》
チヌークのパイロットからの通信に応えつつ、ユミエ達に伏せるように指示する。
すると、大使館の周辺を旋回していたACH-47がリーム兵へ襲い掛かった。
──ドドドドドドドッ!ドドドドドドドッ!
スタブウイングの20mm機関砲とドアガンのPKが火を吹き、大使館周辺に展開していたリーム兵に破壊の雨を降らせる。
装甲車両を撃破する事を想定している20mm弾が直撃すれば人間なぞ血霧となり、長い銃身より放たれる7.62mmフルサイズ弾は四肢を千切り飛ばすだけの威力がある。
そんな圧倒的破壊力に晒されたリーム兵は原型を留めぬ程に破壊され、運良く生き残った者も小銃を手放して逃げ出してしまう。
──ボンッ!ボンッ!ボンッ!
頑丈なコンクリート製の大使館に侵入していた者は弾丸の雨から逃れられたが、機首の自動擲弾銃から放たれた多目的榴弾が窓を突き破り室内で炸裂、爆圧と破片によってリーム兵達は戦闘力を喪失した。
「メカキ大使!」
「迎えに来たよ」
屋上で伏せていたメカキ達であったが、リーム兵が混乱状態になったのを見計らって低空をホバリングし始めたチヌークの開け放たれたランプドアから呼び掛けるガイとナヒーモフの姿を見て中腰となった。
「屋上の縁にランプを着けます!手を貸すので乗って下さい!」
ガイの言葉と共にチヌークは位置を調整するとランプドアの端を屋上の胸壁に乗せる形でホバリングする。
「ありがとう!ユミエ大使、レディーファーストです」
「心配は無用…と言いたい所ですが、痛みが酷くなってきました。お言葉に甘えます」
そう言ってガイの手を取り、チヌークに乗り込むユミエ。
その後も各国の領事、ロデニウス大使館職員の順に次々と乗り込み、最後にメカキが乗り込んだ。
「上がれ!敵の迎撃が来るぞ!皆さん、転ばないようにご注意を!」
ガイの指示と共にチヌークが上昇し、護衛でもあるACH-47と合流して北東へと向かう。
「レーダーに反応があったよ。リームの迎撃機だね」
「やはりリームはグ帝から戦闘機を…!」
目を細め、ランプドアから西の空を睨みつけるナヒーモフの言葉に、衛生兵から治療を受けるメカキが苦々しい表情をする。
しかし、ナヒーモフは余裕たっぷりだ。
「大丈夫。追い付かれる前に全部撃墜するから」
とりあえず大使館の下りは次回で終わりです