異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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日本武尊様より評価9を頂きました!

そろそろパ皇戦に入ろうかなぁ…


33.サモアでは、戦場がメリークリスマス!(北連的倒置法)

──中央暦1638年12月24日午後2時、サモア・トゥトゥイラ島──

 

海流や気流のお陰か、はたまた神の悪戯か。サモアは転移前とほぼ変わらぬ気候を保っていた。

やや涼しく、やや湿度が下がったが12月も終わりに近付いたこの時期でも薄着で過ごす事が出来る。

故に、今日…クリスマス・イブの街並みにもアロハシャツを着た人々がクリスマスツリーの前で写真を撮り、SNSにアップロードしている。

 

「ディナー…いや、夜に誘うと露骨過ぎるし…何より色々早すぎるし…」

 

そんな街角をブツブツ呟きながら歩く男性の姿があった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ…ダメだ…直接言える気がしない…」

 

いきなり街角で頭を抱えてしゃがみこみ、通行人から奇異の視線を集めている人物…そう、ムーの若手戦術士官であるラッサンだ。

本来ムーから留学生が来るのは年明けからであるが、ラッサンとマイラス…あとマイラスに着いてきたラ・ツマサは、ムーには存在しないがロデニウス連邦では必需品となっている電子機器の取り扱いを学ぶ為に先立って来訪したのだ。

先に二人+一人が電子機器の取り扱いを覚えて、後々やってくる留学生達にロデニウス連邦での生活の仕方を指導する為だ。

だが、ラッサンにとってはそれより重大な事があった。

 

「どうやって……どうやって…逸仙さんを"クリスマスデート"に誘う…?」

 

そう、凡そ20日前に出会った女性…否、KAN-SENである逸仙についてであった。

サモアに到着したのは3日前、到着した時から何やら街並みに飾り付けが施されていたり、店先に赤い服に付け髭を付けた店員が立っていたりと以前とは様子が変わっていた。

何故かと指揮官に問いかけると、こんな答えが返ってきた。

 

──「クリスマスですよ。12月25日はとある祝い事で、皆でパーティーをしたりします。恋人と一緒に過ごしたりもしますし…あとは、その日に意中の異性をデートに誘ったり……ね?」

 

それを聞いたラ・ツマサの目の色が変わった事に気付いたが、それよりも重要な事があった。

指揮官がラッサンの方を見てニヤリと口角を上げ、彼にだけ聴こえるような小さな声で告げた。

 

──「止めはしませんよ。」

 

これは…公認を受けたのだろうか?

そうであるなら、障害の一つが無くなったとも言える。

だが…ラッサンには何よりも高い壁があった。

 

「そもそも…どうやって女性に話しかければいいんだ……っ!」

 

そう、ラッサンは異性との交遊がほとんど無かった。

士官学校は女性が少なかった挙げ句、勉学を優先しなければ退学もあり得る程厳しかったからだ。

そして、士官学校を出てからもグラ・バルカス帝国の脅威が囁かれるようになり異性交遊なぞ夢のまた夢であった。

それは友人であるマイラスも同じはずだったが、彼にはラ・ツマサというイレギュラーが現れた。

 

──「それじゃあ、私は主と一緒に街に行くから。」

 

今朝、そんな事を言ってマイラスを引き摺るようにして出掛けたラ・ツマサ。

やや困ったような…だが、まんざらでもなさそうなマイラスの表情を思い出した。

 

「羨ま……けしからん!」

 

勢い良く立ち上がり、天に向かって吠える。

そんなラッサンの様子に通行人からの冷たい視線が突き刺さるが、悲しいかな。恋は盲目とは男女は勿論、世界が変わっても同じなようだ。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

そんなマイラスに大柄な男性…指揮官が駆け寄ってくる。

額に汗が浮き、酸素を求めるように息を切らしている。

 

「うおっ…!フレッツァ殿?」

 

「はぁ…はぁ…一歩…下がって…」

 

回りが見えていなかったラッサンは指揮官の姿に驚くが、指揮官は挨拶もそこそこにラッサンの足元を指差す。

そこには、『雨水』と書かれた金属の蓋…マンホールがあった。

指揮官の様子に戸惑いつつ、一歩後ろに下がるラッサン。

 

──ゴリッ…ガコン

 

手慣れた様子で蓋を外し、マンホールに滑り込む指揮官。

蓋を閉めた瞬間、雑踏の中から一人の特徴的過ぎる少女が現れた。

 

「指揮官様ぁ~、何処に行かれたのですかぁ?」

 

甘ったるい幼い声、長い黒髪をツインテールにし赤い着物から大胆に覗く豊満過ぎる胸元は歩く度に揺れていた。

 

「あら、貴方は確かムーの…」

 

「あっ、はい。ムーの戦術士官、ラッサンです。」

 

『ヤバい』と有名なKAN-SENの一人、『大鳳』である。

 

「そうそう、ラッサンさんでしたわね~。そ・れ・で……指揮官様、お見掛けになりませんでしたぁ?」

 

大鳳のハイライトの無い深紅の瞳で見られると、心臓を鷲掴みにされるかのような錯覚を受ける。

 

「あ…えっ…と…」

 

これは教えるべきか?それとも黙っておくべきか?

そんな事を考えている内に、無意識に視線がマンホールに向いたのだろう。大鳳がラッサンの足元に視線を移す。

 

「指揮官様ったら、いけずなんですからぁ~。うふふ…指揮官様ぁ~今年のクリスマスこそ、大鳳と性の6時間を…」

 

大鳳がマンホールの蓋に手を掛けた瞬間……

 

──ガコン!

 

「ハァーイ、大鳳!」

 

「アアアアアアアアアアアルバコアァァァァァァァア!?」

 

長い金髪に、平たい体つきを紐のような水着で申し訳程度に隠したKAN-SEN、『アルバコア』が姿を現した。

精神的に脆い大鳳…そんな彼女のトラウマであるアルバコアが驚かせてきたのだ。

するとどうなるか?

 

「ありゃ?大鳳~?」

 

「……」

 

マンホールの前で蓋に手を掛けようとした体勢のまま固まり、気絶していた。

そんな大鳳をよそに、指揮官がアルバコアの両脇を抱き抱えてマンホールから出てきた。

 

「赤城は天城に、愛宕はお化け屋敷に、隼鷹はフェンへ委託…今年も乗りきったか…」

 

「毎年毎年、大変だね~。この色男~このこの~」

 

「馬鹿野郎、ダモクレスの剣がダース単位であるようなもんだ。……あ、これ大鳳に渡しておいてくれ。」

 

そう言って、長方形の箱をアルバコアに渡す指揮官。

 

「オッケーオッケー。ところで私には?」

 

「明日な。」

 

「ならオッケー。」

 

満足そうに頷くアルバコアに手を振ると、ラッサンの背中を軽く叩く。

 

「少し、話しましょう。」

 

「話し…ですか?」

 

歩き出した指揮官の後を追うラッサン。

暫く無言で歩いていたが、ふと指揮官が口を開いた。

 

「KAN-SENは、戦う為に生まれた存在です。我々人間とは違う…生まれながらに戦う力を持った兵器です。」

 

「…はい、前にそのように教えて頂きましたね。」

 

そう、KAN-SENは根本的に人間とは違う存在だ。

見た目は美女美少女であるが、その本質は兵器である。

 

「あの…フレッツァ殿は、止めないと仰いましたが…それは…どういう…」

 

「好きなんでしょう?逸仙が、バレバレですよ。」

 

ドキリ、と心臓が早鐘を打った。

 

「ですが…よろしいのですか?」

 

「何が?」

 

「い…いえ…彼女はKAN-SENなのでしょう?ロデニウス連邦の戦力の一人です。そんな彼女を…」

 

「ほう、口説き落とす自信があると?」

 

「あっ…いやっ…」

 

慌てふためくラッサンに、指揮官は口角を上げた微かな笑みを浮かべる。

 

「ラッサン殿、私はKAN-SENが幸せならそれでいいんです。」

 

「幸せ…ですか?」

 

ラッサンの言葉に頷き、指揮官は言葉を続ける。

 

「兵器として生まれた…それでも、人の姿、人の言葉…そして、人の心を持っているんです。だから、戦う事以外の道を示してやりたい。いつか…いつか、戦いの無い世の中になった時、KAN-SENが"人"として生きられるようにしてやりたいんですよ。……まあ、自分の考えを押し付けてるだけですがね。」

 

肩を竦めて自嘲気味に話す。

 

「だから…止めないと?」

 

「そうですよ。……まあ、ラッサン殿にその覚悟があればの話…」

 

「指揮官様ぁ~!」

 

「…ヤベッ!」

 

背後からあの甘ったるい声が聴こえた瞬間、指揮官が走り出した。

 

「ともかく、やるなら幸せにしてやって下さいよ!指揮官との約束だ!」

 

ちょっとビックリするぐらいの速さで走り去る指揮官、それを追う大鳳…その髪には紅い羽をあしらった簪が差し込まれていた。

そんな二人の背中を見送り、ラッサンは無意識に拳を握り締めた。

 

「……勇気、出してみるか!」

 

胸を張り、歩き出した。




あと1話ぐらい挟んで、兵器紹介を書いてからのパ皇戦ですかねぇ…

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