異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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とりあえず今回でロデニウス防空戦は一区切りです



335.超空の巨星【5】

──中央歴1643年2月28日午後4時、ロデニウス大陸北部沖上空──

 

──ドゴォンッ!

 

《被弾した!火災が…火が…火がぁぁぁぁ!》  

《やめろ!来るな!来る……》

《援護を…援護を頼っ…うわぁぁぁあ!?》

 

「何機やられたんだ!?えぇい…ロデニウスの戦闘機は化け物か!?作戦部長、撤退しますがよろしいですね!?」

 

「くっ…」

 

次々と撃墜されるグティマウン。

数はすでに100機を大幅に割り、その生き残りも全てが爆弾を投棄済みだ。

もうこうなってはロデニウスの都市を焼き払う事なぞ不可能…命懸けの遊覧飛行を楽しみたいのなら別だが、ここは速やかに撤退すべきだろう。

それはアーリも痛いほどに理解しているのか、副官の進言に悔しそうに顔を歪めながら頷いた。

 

「撤退だ!」

 

「はっ!全機撤退!リーム基地まで撤退せよ!」

 

副官からの命令を通信士が各機に伝達する。

すると待っていましたとばかりに生き残り達は直ぐ様反転し、来た方へ引き返して行く。

グティマウンは強力なエンジンと機体剛性により、その図体からは想像出来ない程に運動性を持つ。

尤も、戦闘機並みとまではいかないが双発爆撃機にやや劣る程度と言える。

 

──グオォォォォォォ…

 

エンジンを唸らせ、45°バンクで急旋回するグティマウン。

爆弾を捨て、燃料も半分近く消費している為、その旋回は中々のものだ。

 

──キンッ!キンッ!キンッ!

 

「うわぁっ!?」

 

嫌な金属音が機内に鳴り響き、敵機が風防を掠めるほどの近さで直上を通り過ぎて行った。

おそらく後方上空から緩降下しながら射撃されたのだろうが、運良く着弾角度が浅かったため、機体表面を弾丸が滑って弾いたのだろう。

しかし、その運が何時まで続くか分からない以上、一刻も早く逃げるに限る。

 

「…そ、そうだ!戦果記録カメラだ!」

 

「何を言っているんですか!?今さらカメラなんて…」

 

「我々の作戦は失敗した…ならばせめて敵の情報を持ち帰るのだ!」

 

ふと思い出したようにアーリは爆撃手席に搭載している戦果記録カメラを使うように指示した。

もともとは爆撃の前中後を撮影する事で戦果を評価し、プロパガンダに使う為の物であったが、爆撃が不可能になった以上は敵戦闘機の情報を得る為に使うのが一番だろう。

 

──カシャッ!カシャッ!カシャッ!

 

何度もシャッターが切られ、前方を飛ぶ敵機の姿が撮影される。

それと同時にビデオカメラも回されており、動画でも記録された。

機体形状や動きをより詳しく分析すれば対抗策が見つかるかもしれないし、何より取り入れられる点があれば帝国の航空機技術をより発展させられるかもしれない。

しかし、それは無事に帰還出来ればの話だ。

 

──バスッ!バスッ!

 

「うっ…そ、操縦が!」

 

機体の後方で何やら破壊音が響くと同時に、操縦士が冷や汗を垂らす。

慌てて機内電話で尾部銃座に確認するが…

 

「おい、どうした!?」

 

《サーーー……》

 

しかし、帰ってくるのは不通を知らせるホワイトノイズのみ。

どうやら別の敵機の攻撃が尾部銃座に直撃し、乗員と共に機内電話や尾翼の操縦系を破壊したらしい。

 

「クソッ…クソクソクソッ!私はバルカス民族だぞ!こんな…こんな異世界の地で劣等種に殺されるなぞぉぉぉぉぉっ!!」

 

生き汚さもここまでくればある意味感服である。

そしてついにここでアーリへツキが回ってきたようだ。

 

「……?なん…だ?攻撃が…」

 

機長席の肘掛けを叩いて苛立ちと死への恐怖を発散していたが、先程から攻撃が止まっている事に気付いた。

いや、攻撃だけではない。

敵機の姿を確認してみれば、こちらに尻を向けて引き返しているではないか。

 

「はぁぁぁ〜……」

 

燃料切れなのか弾切れなのか…なにはともあれ助かったのは事実だ。

西日に照らされた機内でアーリは深いため息をついたのだった。

 


 

──同日、同空域──

 

「5つ!」

 

──ダダダダッ!ダダダダッ!

 

撤退を始めたグティマウンだが、ムーラは逃がすまいと射撃を加える。

しかし、角度が悪かったせいか跳弾してしまった。

 

「チッ…当たりどころが…」

 

《総員、撤退だ。間もなく作戦空域外だ》

 

再度攻撃にかかろうとするが、マールパティマからの通信が入った。

 

「もうそこまで…」

 

通信を受けてムーラはパイロットスーツの太ももに括り付けられた海図を確認する。

その海図は大部分が海であるが、その北側には二つの島が描かれていた。

フェン王国とガハラ神国だ。

しかし、2カ国ともロデニウス連邦の同盟国であり、有事の際は領空に自由に立ち入れる協定を結んでいるのだが、両国の上空で撃墜してしまうと地上に被害が及ぶ可能性がある。

加えてフェン王国は豊かな漁業と水産加工工場によって経済発展しており、現在も沿岸漁業を行っているため海上への被害も考慮しなければならない。

故に今回の迎撃戦闘ではフェンとガハラの領空では戦闘を行わないと規定されたのだ。

 

「……潮時か」

 

計器盤の燃料計と技術の残弾数を確認する。

燃料は帰りを考えればギリギリであり、機銃も残弾は心許ない。

口惜しいが、帰還せねばならないだろう。

 

「援軍を要請し、空戦禁止空域から出た瞬間に攻撃するというのは?」

 

《ダメだ。そうなれば本土の防空体制に穴が開く》

 

基地には連邦空軍が採用している3機種の戦闘機の最後の1機種である『F-4KE』が待機している。

この機体は海軍で採用されているF-4Kの機首を延長してM61バルカンを固定装備としたり、後席にも操縦装置を追加したりといった変更を加えたものであり、対空・対地両用の現代で言うマルチロール機だ。

強力な戦力ではあるが、現在はMig-25とF-5が出撃中であるため予備戦力として待機中である。

 

「だよな…了解。撤退に移る。総員、撤退だ!」

 

《まあ、随分と撃墜出来たから連中はもう同じような作戦は出来ないだろう。本土を護るという目的は果たせたさ》

 

「だな」

 

南へ向かっていく機内でムーラは戦闘の緊張から解き放たれたかのように肩の力を抜いた。

 

後に『ロデニウス北部防空戦』と名付けられたこの戦いは各国に"戦略爆撃を行う際は護衛戦闘機を必ず随伴させるべし"という教訓を残し、この戦いに参加したムーラは一度の戦闘で13機を撃墜した事で世界屈指のエースパイロットの名声を得たのであった。




次回は原作には無い戦いを描いていきますので、どうぞお楽しみに!
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