──中央歴1643年3月1日午前4時、リーム王国西部──
「うう…あぁ…!」
ロデニウス連邦爆撃を断念し、命からがら逃げ帰ったアーリは魘され、ベッドから飛び起きた。
「はぁ…はぁ…クソッ!」
──ガシャンッ!
腹いせに枕元の水差しを投げて叩き割る。
結局、飛行場に辿り着いたのは深夜2時であった。
出撃した時は空を埋め尽くさんばかりの200機もの編隊だったが、帰還した時は12機…しかも損傷機が多く1機は着陸時にコントロールを失い滑走路に激突炎上、2機がそれぞれオーバーランとランディングギアの故障により胴体着陸となった。
故に現状、飛行場は2本あるグティマウン用滑走路全てが使用不能となっており、航空戦力は万が一に備えて配備しているアトリア型陸上戦闘機が4機のみ…ワイバーン程度ならば十分な戦力だが、グティマウンを容易く屠る戦闘機が相手となるとあまりにも頼りない戦力だ。
「おのれロデニウス連邦…私の経歴に傷を付けてタダで済むと思うなよ…!」
このままではアーリは簡単な作戦も遂行出来なかった無能として近衛兵団を追放されるだろう。
しかし、だからと言って手をこまねいているだけではいけない。
少しでもロデニウス連邦…そしてアズールレーンに損害を与え、対ムー戦線に寄与すればそれが評価され、温情が与えられるかもしれない。
そして何よりもやられたままというのは彼のプライドが許さなかった。
「第二案で行くか…」
そう言ってアーリは机に向い、諜報員が手に入れた─とは言ってもロデニウス連邦では当たり前に売っている─フィルアデス大陸の地図を広げる。
「この運河ならグティマウン1機でも十分な打撃を与えられる筈だ」
アーリが人差し指を押し付けたのは、フィルアデス大陸とグラメウス大陸を繋ぐ地峡…トーパ王国の運河だ。
ロデニウス大陸等が存在する大東洋には南から北へ流れ、グラメウス大陸にぶつかって東に流れる大海流が存在し、加えてフィルアデス大陸北部からムー大陸北部まで一直線に流れる大海流がある。
これを利用してフィルアデス大陸沿岸を北上し、運河を抜けて3大陸沿岸北部を通って西へ向かうというのがロデニウス連邦の対ムー支援航路の一つであり、ロデニウス・ムー間往路最速の航路である。
故に運河は戦略上の要衝となっており、もしこれが使用不能となればロデニウス連邦からの支援が遅れ、ムーは積極的な反攻作戦を行えないだろう。
(諜報部が調べた限りではロデニウスの輸送船はこの運河を使い、ムーへ向かっている。この運河を破壊すれば、ロデニウスは南側の航路を使うしかなくなる)
一応は南側…つまりアルタラス王国等を経由する航路もあるのだが、ロデニウス側からすると若干の問題がある。
というのも南回り航路はいくつもの島があり、それぞれ何かしらの国が治めているのだが、その内のいくつかの国はグ帝側、或いは中立となっているのだ。
グ帝はそれを利用し、軍門に下った国はもちろん、中立国の領海に潜水艦を潜ませ通商破壊に利用しており、特に中立国の領海に潜む潜水艦は護衛駆逐艦や哨戒機による探知が領海・領空侵犯に繋がるため、世界連合も頭を悩ませているのである。
故に運河を用いた北回り航路は重要なのだ。
(使えるグティマウンは…5機…2機に水門破壊用の1トン爆弾を搭載しよう。グティマウンなら1トン爆弾を22発搭載出来るから、水門も水路も破壊するには十分だ)
フィルアデス大陸北部海域、通称『黒北海』と大東洋は水位が違い、潮の満ち引きでその差は更に変わる事がある。
小型船ならばそのまま通り抜けられるが、大型輸送船や大型軍艦といった喫水が深い船舶の場合は水門を閉じ、水位を合わせる必要があるため、水門を破壊されてしまえば運河は機能不全となるだろう。
(残りには…機雷を搭載し、運河の周辺海域にばら撒くか。そうすれば復旧作業を遅延させる事が出来るし、トーパに停泊しているアズールレーン艦隊を封じ込める事が出来る。上手くすれば、反復出撃して爆撃でアズールレーン艦隊を撃破する事も出来るな)
ロデニウス連邦爆撃作戦は都市爆撃の後、主要港湾に対し機雷をばら撒く事で海上輸送を麻痺させる事を視野に入れていたため、飛行場の弾薬庫には航空機用の機雷も搬入されている。
しかも搬入された機雷は磁気、水圧、音響のいずれか、或いはそれらの組み合わせにより作動する信管を持ち、何度か反応しなければ作動しないようにも設定出来るため掃海は非常に難しい。
(あの機雷は帝国の技術の結集だ。劣等種では掃海なぞ不可能だろう。しかし…連中の戦闘機は厄介だな。ここは夜間爆撃に切り替えるか)
グティマウンには10機に1機の割合で対地レーダーを搭載した機がある。
これは地上の地形を読み取るものであり、雲の上からでも爆撃目標を探知する事が出来る他、夜間爆撃にも使用可能だ。
そして運良く運用可能な5機の中にレーダー搭載機が1機ある。
この1機を先導役とすれば、夜間爆撃は十分に可能だろう。
というより5機だけで敵の重要目標を叩くには、一般的に迎撃が難しいとされる夜間爆撃に頼る他無い。
(運河の破壊と機雷による海域封鎖、加えて艦隊撃滅となれば多少の温情は貰えるだろう。作戦部長の座からは降ろされるだろうが…)
──ゴンゴンゴンッ!
「なんだ!?」
具体的な作戦が決まり、若干の余裕が出たアーリであったが、乱暴なノックによって驚いてしまう。
「作戦部長、お目覚めでしたか!」
間髪入れずにドアを開けたのは、額に脂汗を浮かべた副官であった。
「なんだ、貴様か…ちょうどいい。今まさに第二案を考えついたところだ。トーパ王国の運河へ夜間爆撃を…」
拍子抜けしたようなアーリだったが、どのみち作戦は副官とも共有しなければならない。
手間が省けたとばかりに作戦を説明しようとしたが、彼の表情は直ぐに驚愕に染まる事となる。
「てっ、敵襲です!アズールレーン及びトーパ王国軍が飛行場近くに空挺降下!信じ難い事に複数の戦車も確認されています!」
「……はぁぁぁぁっ!?」
アーリは生き残る事が出来るのか…乞うご期待!