──中央歴1643年3月1日午前4時、マオ王国南西部──
《こちらマオ王国空軍、所属不明機に告ぐ。直ちに此方の指示に従い着陸せよ》
夜明け前の空を飛ぶ10機の輸送機と4機の戦闘機へマオ王国空軍からの魔信が届く。
しかし、どの機も反応する事なくひたすら南へ…リーム王国西部へと真っ直ぐ向かって行く。
もし、明るければ10機の輸送機にはアズールレーン、4機の戦闘機にはトーパ王国の識別マークが描かれている事が分かるだろう。
そう、この編隊はリーム王国内のグ帝飛行場を制圧する為に飛び立ったアズールレーンとトーパ王国の連合空挺部隊である。
《繰り返す、こちらマオ王国空軍……》
先程からマオ王国から警告を受けているが、これには理由がある。
というのもマオ王国は急激に力を付けたロデニウス連邦とアズールレーンに脅威を感じており、同盟を組んだり参加したりという事をしていなかった。
しかし、敵対という訳ではなく一定の距離を取りつつも官民学の交流はしているという形だ。
そんな関係であるため、有事の際でも領空に無断で立ち入る事は出来ないのだが、ロデニウス連邦からリーム王国にグ帝の飛行場があると知らされ、同地攻撃の為の領空侵入を打診されたマオ王国は「我が国はロデニウスにもグラ・バルカスにも味方しない。故に領空侵入は許可しない。だが夜間はワイバーンが飛べなくなり所属を確認出来ない以上、対空魔信探知機で探知した目標は問答無用で警告する」と回答したのである。
つまりは暗に領空侵入を容認したのだ。
マオ王国としてもグ帝の航空機が自国に攻撃を加える可能性があると想定しているのだろう。
「間もなく国境を…抜けたな」
1機の輸送機『C-130 ハーキュリーズ』の機内で腕時計を見ながら呟くガイ。
予定通りならもうこの時間にはマオ王国国境を越え、リーム王国に入っているはずだ。
「はっはっはー!同志ガイ、緊張しているようだな!」
「いっ…たぁ!!」
そんなガイの隣に座るガングートが彼の背をバシバシと叩く。
今回の作戦には複数名のKAN-SENが参加しており、ガングートはガイら空挺歩兵と同じくAKMを装備している。
もっとも、彼女はガイ達とは異なりパラシュート等は装備していないが…
「ダメよ、ガングート。そんなに叩いたら体を痛めちゃうわ」
ガングートを嗜めたのは向いの席に座る彼女の姉妹艦であるポルタヴァであった。
彼女もまた空挺歩兵として参加しており、その背にはパラシュートに代わって『RPG-7 ロケット擲弾発射器』とその弾頭を背負っている。
「はっはー!気合を入れただけだ、ポルタヴァよ!」
「うわっ…ちょっ…柔らか…いや酒臭!?」
頭をガングートの脇に抱えられ、柔らかな双丘が頬に当たるという何とも羨ましい状況のガイだが、強烈なアルコール臭のせいでそれどころでは無いようだ。
《間もなく目標地点です!降下準備!》
そんな風に騒いでいると、機内アナウンスが鳴り響いた。
時刻を確認すると午前5時を少し過ぎた辺り…予定通りだ。
「総員、装具確認!」
先程までの和やかな雰囲気から一変し、ガイはガングートをそっと振り払うと立ち上がり、大声で空挺隊員へ呼び掛けた。
すると全員が立ち上がり、機体後方を向いて並ぶと前に立つ者の装備を確認する。
「確認よし!ラインセット!」
全員が確認した事を見届けたガイの号令で機内に張られたワイヤーにスタティックラインを引っ掛け、何度か引いて外れない事を確認する。
《間もなく降下地点…到着まで10…》
「解放!」
機体側面のドアを開けると夜明け前の闇が広がっている。
正直ここに飛び込むのは躊躇われるが…
《9…8…》
「暗視装置装着!」
だが彼らには心強い装備がある。
それこそがガイの号令を受けて装着した暗視ゴーグルだ。
まるで2本のライフル用スコープを箱に装着したかのようなそれは微小な光を増幅して視界を確保するいわゆるスターライトスコープであり、視界は狭くなってしまうが暗闇でも服装や顔立ちが分かる程度の明るさは得られる。
《7…6…5…》
「ふぅー…」
開け放ったドアから地上を見下ろす。
高度は凡そ300m、速度は時速250km程度だろう。
近代的な固定翼機なら低空かつ低速の部類に入るが、人の身からすればあまりにも高く速い。
何度も訓練で降下しているが、緊張感は変わらない。
《4…3…》
「降下用意!」
《2…1…今!》
「行け行け!!」
ガイの号令と共に兵士が次々とドアから1秒間隔で飛び出し、暗闇にカーキ色のパラシュートの花を咲かせる。
C-130に搭乗する空挺隊員は約50名、機体の左右にあるドアから飛び降りるため、全員が降下するのには30秒もかからない。
「とうっ!」
全員が降下したのを見届け、ガイも降下する。
スタティックラインが引かれ、問題なくパラシュートが開いてゆっくりと彼を地上へと降ろして行くが…
「はーっはっはっは!」
「お先に失礼♪」
そんなガイの近くをガングートとポルタヴァが"自由落下"して行くのが見えた。
KAN-SENからしてみればこの程度の高さから飛び降りるのは家の2階から飛び降りるようなものらしいが…それでも見る側からすると肝が冷えて仕方ない。
「相変わらずスゴイな。…っと我々の"切り札"はどうだ?」
地上までの短い降下時間の最中に辺りを見回すと、4機のC-130が着陸しそうな程の超低空を飛びながら機体後部の開け放ったランプドアから3つの大きなパラシュートを出しており…
──ガーーッ!ガコンッ!
風を孕んだパラシュートに引かれるようにパレットに載せられた戦車が投下された。
これこそが空挺部隊の切り札『M551 シェリダン』だ。
そもそも空挺部隊は航空機に搭乗し、パラシュート降下するという性質上重火器を装備する事が出来ないため、十分に防護された陣地に対して手も足も出ない。
それを改善すべく開発されたのが本車だ。
小口径砲程度ならば防げる魔導合金装甲を持ち、152mmという大口径砲と同軸機銃及び砲塔上機銃を装備する本車は確かに本格的な戦車と戦うには心許ないが、空挺部隊が投入されるような戦場ともなれば頼もしい戦力となる。
「よっ…と!」
シェリダンが無事に着地したのを見届けたタイミングでガイも5点着地で見事に着地した。
「よし…集合急げ!敵が態勢を整える前に制圧するんだ!」
空挺部隊の戦力は歩兵200名とシェリダン4両。
十分な戦力ではあるが、もし敵が迎撃態勢を整えれば長期戦となり、逆に追い詰められてしまう。
(午前5時10分…日の出までには制圧を完了させる!)
そんな決意を固め、ガイは集合した部下を引き連れて飛行場へ向かって駆け出すのだった。
本作に登場するシェリダンですが、魔導合金の装甲を持っているので正面ならば新砲塔チハの47mmぐらいなら防げます
あとミサイル発射能力はオミットされています