──中央歴1643年3月1日正午、セルコ城──
「なん…だと…?」
バンクスは謁見の間で呆然としていた。
何故ならば這々の体で帰還した竜騎士から"グ帝航空隊の全滅"という報告を受けたからであった。
「なんだと!?我が国の航空隊が全滅だと!?貴様らは何をしていたのだ!」
それを受けて同席したムルノウが怒声を張り上げるが、竜騎士は顔を青くしながら応える。
「は…はっ!しかしフィシャヌス側には恐るべき性能を持つ飛行機械が居り、アズールレーンの援軍もあったものでこのままでは我々も全滅を免れないと察した為……」
「貴様らの保身の為に我が同胞を見捨てたのか!」
「我々には期待していないと言ったのは貴殿ではありませんか!」
そんな言い合いをするムルノウと竜騎士を横目にバンクスは頭を抱える。
なんだかんだ言ってグ帝の戦力は大いに頼りに出来るものであったのだが、その一部部隊が全滅したとなればグ帝ありきで想定していた対ロデニウス戦略が瓦解してしまう。
それに加えて今回の作戦はリームに対する攻撃を頓挫させる為のもの…それが叶わない今、防衛の為に頭を捻る必要がある。
「陛下!ムルノウ殿!ご報告があります!」
謁見の間の扉を勢い良く開けて入ってきた通信士が顔を青くしながら声を張り上げ、言葉を続ける。
「哨戒騎よりヒルキガ沖東方150kmの海域にてアズールレーン艦隊発見との報告あり!」
「なっ…!もう来たのか!?」
アズールレーンの動きはバンクスの想定を上回るものであった。
しかし、本日正午より攻撃を開始するという通達があった以上、時間通りとも言える。
「数は!?」
「はっ、少なくとも戦艦6、空母2を擁した艦隊との事です。詳細は哨戒騎が撃墜されたため何とも…」
「せ、戦艦6に空母2!?バカな…ムーに戦力を送り込んで尚もそれほどの戦力を保持しているのか!?」
通信士からの返答にムルノウは驚愕する。
確かにスパイ活動によってアズールレーンはトーパ王国にある程度の艦隊戦力を駐留させている事は分かっていた。
しかし、戦艦6隻と空母2隻という戦力を持っているとはムー大陸が主戦場である現状も相まって夢にも思っていなかった。
「かっ…艦隊を出撃させろ!生き残ったワイバーンもアンタレスも全て出撃させるのだ!」
「はっ!」
泡を食って命令を下すバンクスと、それを受けて慌ただしく退室する通信士と竜騎士。
それを見て、ムルノウはワナワナと震えながら小さくこう述べた。
「リームに与えた兵器では力不足だ。こうなれば…」
謁見の間に広がる混乱に乗じ、ムルノウも退室して行った。
──同日、ヒルキガ沖東方150km──
《こちらチカロフ。接近していた未確認機はリーム王国のワイバーンだったわ。単騎だったし、哨戒任務中だったのでしょうね。既に撃墜したけど良かったかしら?》
「その対処で問題ありません。既に我々とリーム王国は戦争状態にあり、事前通告による攻撃開始時刻も過ぎていますから」
海上を25ノットの速度で西へ…つまりヒルキガへと疾走するトーパ王国駐留アズールレーン北方連合艦隊は鉢合わせたリームの哨戒騎を事も無さげに撃墜し、尚も進撃を続ける。
その陣容は以下の通りだ。
戦艦
・ソビエツキー・ソユーズ(旗艦)
・ソビエツカヤ・ベラルーシア
・カザン
空母
・チカロフ
・ヴォルガ
超巡
・クロンシュタット
重巡
・クルスク
・タリン
軽巡
・チャパエフ
・クイビシェフ
・ヴォロシーロフ
駆逐艦
・タシュケント
・ソオブラジーテリヌイ
・スヴィレピイ
・オグネヴォイ
・キエフ
という総勢16隻もの艦隊である。
因みにリームの哨戒騎は戦艦6隻と報告していたが、これはクロンシュタットとクルスク、タリンを誤認した故だ。
正直に言ってリームを潰す事を考えれば現状の半分…空母と軽巡、駆逐艦からなる小規模空母機動艦隊で十分だろう。
それを承知でこれほどの戦力を投入する理由とはスバリ"抑止力"である。
地域の安定を脅かす火事場泥棒のような真似をすれば、例え戦力を遠隔地に派遣していたとしても必ずやその野望を挫く…そして我々にはそれを可能とする力があると世界に知らしめる事で、他国にリームと同じ轍を踏ませない意図があるのだ。
《こちらヴォルガです。対レーダー攻撃隊を発艦させますが…大丈夫ですか?》
「ええ、ヴォルガ。対レーダーミサイルを搭載した攻撃機によりレーダー施設を破壊する予定に変わりはありません。その後、港湾施設並びに軍事施設に対して攻撃を開始します」
《たくさん人が傷付きますね…》
憂鬱そうなため息と共にヴォルガが呟く。
今回の作戦は短時間でリーム側の戦力を撃滅するべく、手始めに目となるレーダー施設を攻撃する事となっているのだが、このレーダー施設こそ王宮セルコ城なのだ。
アズールレーンは例え戦争相手であっても文民を殺傷する事は極力避ける事とする軍規があるのだが、今回のように市街地に近く文民が多数存在しているであろう建物が軍事施設化されているのならば、文民の犠牲もやむ無しとしている。
《ヴォルガ、あなたが気に病む事は無いわ。これは市街地のど真ん中に軍事施設を置いたリーム側の責任…所謂コラテラル・ダメージ、軍事目的のための致し方ない犠牲よ》
《チカロフの言う通りだ、ヴォルガよ。これで我々が攻撃を躊躇えば連中は市街地に兵器を置き、市民を盾にするような真似を繰り返すだろう。そうさせない為にも、心苦しいだろうがやるしかないのだ!》
チカロフの言葉にソビエツカヤ・ベラルーシアも同意し、ヴォルガを勇気づける。
それに感化されたのか、ヴォルガは意を決したように告げた。
《そうですね…分かりましたっ!せめて犠牲が少なく、早く終わるように努力しますっ!》
「決心はつきましたか?ではヴォルガ、先陣をお願いします。チカロフはその後、最大爆装を施した攻撃機を発艦させ、内陸部の軍事施設の攻撃を」
《了か……待って、直掩機が何か見付けたわ。これは…リーム王国の軍艦?駆逐艦より小さいようね。ソユーズ、攻撃機の兵装を対艦攻撃用に変更すべきかしら?》
チカロフからの報告を受け、ソユーズは僅かに逡巡する。
「……いえ、攻撃機はそのまま対地攻撃兵装のままで。兵装変更に時間をかければ予期せぬ事態が発生するかもしれません。敵艦は我々で対処します」
《了解。それじゃあヴォルガ、行くわよ》
《はいっ、行きますよ〜》
──ゴォォォォォォッ!
チカロフから30発の500ポンド爆弾、ヴォルガからはそれに加えて『AGM-45 シュライク』対レーダーミサイルを2発搭載したA-7が発艦し、西へ向かって飛び去る。
それを見送ったソユーズは通信を駆逐隊へと繋げた。
「タシュケント、話は聴いていましたね?あなた達にはこちらに向かってくる敵艦の迎撃をお願いします」
《分かったわ、ソユーズ。タシュケント達の力を見せ付けてやろうじゃない》
頼もしい返事と共に他の駆逐艦を伴って先行するタシュケントを見送ると、ソユーズは艦長席に座ると目を細めて西の水平線を見据えるのだった。
次回からは久々の海戦です