異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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346.蝙蝠の末路【6】

──中央歴1643年3月1日午後2時、セルコ城──

 

セルコ城の一角に増設されたグラ・バルカス帝国軍前進基地が管理するレーダー管制室。

そこではグ帝の兵士達が慌ただしく動いていた。

 

「レーダーに反応は!?」

「まだありません!」

「敵には空母が居る、間違いなく空襲が来るぞ!」

 

空母を含むアズールレーン艦隊発見の報を受けた彼らは空母艦載機による空襲を警戒し、レーダースコープに齧りつきながらヒルキガ上空を旋回する若干数のアンタレス改と無線でやり取りしている。

 

「ところでムルノウ司令はどちらに行かれたのだ?」

 

「はっ!高射砲の配置について直接指揮を執られるそうで…」

 

「そうか。ムルノウ司令はもともとは砲兵だったらしいからな。種類は違えど大砲の事なら任せた方がいいな」

 

兵士達がそんな言葉を交わしていた時だった。

 

《東方より敵機接近!低空を高速で飛んでくるぞ!》

 

「なんだと!?」

 

戦闘空中哨戒中のアンタレス改からの通信を受け、双眼鏡を東方に向ける。

すると通信の通り低空を…それこそ僅か高度50m付近を驚異的な速度で此方に向かってくる20程の機影が確認出来た。

 

──ゴオッ!

 

「うおっ!」

 

アンタレス改が急いで降下して迎撃しようとするも、敵機は降下により速度が乗った状態でも追い付けない程の速度でセルコ城を飛び越えた。

 

「なっ…なんたる速度だ!奴らはあんな戦闘機を…」

 

──ドゴォォォォンッ!

 

驚愕する兵士達であったが、レーダーが設置されていた尖塔から鳴り響く轟音と共に降り注いだ瓦礫に押し潰され、それ以上の言葉を続ける事は出来なかった。

そしてそれと同時に城の主であるバンクスもまた窮地に陥っていた。

 

「し、城が!」

 

尖塔が崩壊して行く様を王の間にある窓から見ていたバンクスは顔を青くして慌てふためいていた。

 

「宰相!アズールレーンは市街地への攻撃を忌避するのではなかったの!?」

 

「陛下、畏れながら申し上げますが…アズールレーンは確かに市街地への攻撃を忌避する傾向にあります。しかし、先の戦争によるデュロへの上陸作戦ではパーパルディア皇国軍が市街地に展開していたため、アズールレーンは市街地への砲爆撃を敢行しました。おそらくはグラ・バルカス帝国のレーダーが設置された事を受け、この城が軍事施設と判断されたと同時に市街地にも軍が展開していると判断されたのでは…」

 

「なんたる事だ!ならばここも…」

 

城を捨てるという考えが頭を過るバンクス。

しかし、残念ながらそれは遅すぎる判断だった。

 

──ゴオッ!…ドゴォォォォンッ!!

 

「うおぉぉぉぉ!?」

 

暴風のような音が響いた次の瞬間、突き上げるような衝撃と共に轟音が鳴り響き、城が崩壊を始めた。

 

「なっ…なん…!」

 

白亜の宮殿と渾名されるセルコ城を形作る白い石材が降り注ぎ、バンクスを悲鳴と共に瓦礫に埋めてしまったのであった。

 


 

──同日、グラ・バルカス帝国軍前進基地地下司令所──

 

ヒルキガの程近くにあるかつてセルコ城を建造する為に石材を切り出していた石切場。

小高い岩山をくり抜いて作られた前進基地の地下司令所には必死に冷静さを取り繕うムルノウが転がり込んで来た。

 

「状況は!?」

 

「はっ!セルコ城のレーダーに対してロケット弾攻撃が行われた後、低空爆撃が行われたようです。セルコ城は倒壊し、ヒルキガ近隣の軍事施設に対して爆撃が続いています」

 

見張りからの報告を受け、ムルノウは息を整え横一直線に開いた視察スリットからヒルキガ市街地を覗き見る。

 

──ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

低空を高速で飛行する敵機から爆弾が投下され、赤黒い爆煙が上がり、轟音と衝撃が響き渡る。

その光景を見たムルノウは絶望よりも驚愕を覚えた。

 

「バカな、あれは本当に艦載機か!?爆発の規模からしてあれは200kg級爆弾…それを何発落とした!?私の目がおかしくなってないなら20以上は落としたぞ!」

 

帝国軍が保有する重爆撃機であっても200kg級爆弾は10発以下…それこそ近衛兵団にしか配備されていないグティマウンでもなければ20発以上は搭載出来ない。

だというのにアズールレーンはおそらくではあるが20発以上の200kg級爆弾を搭載出来る空母艦載機を保有している。

これは恐るべき事だ。

必死に飛行場を建設し、多数の人員を動員してやっと運用出来る重爆撃機よりも軽便に運用出来る空母艦載機が同じだけ、あるいはそれ以上の爆撃能力を持っているのなら、帝国の支配領域は常に重爆撃機の脅威に晒される…それは陸上戦力はもちろん、海上戦力にとっても心休まる事が無いに等しい。

 

──ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

「何たる事だ…おい、記録班!」

 

「はっ!」

 

「敵機の姿や動きを記録するのだ!そうすれば性能の予想や対抗策を見出だせるかもしれん。リームの連中は我々が情報を得る為の犠牲となってもらおう」

 

「了解しました!」

 

ムルノウからの命令を受け、記録班が各種カメラを構える。

そんな中、記録班の1人がムルノウに進言する。

 

「ムルノウ司令。レーダーを使用してもよろしいでしょうか?敵機の動きを記録すれば、敵の戦術分析に役立つかもしれません」

 

「なるほど、良い考えだ。よろしい、許可する」

 

「ありがとうございます。では警戒部隊へレーダーを起動するように要請します」

 

地下司令所の直上、地上部には擬装を施した牽引式の対空レーダーが設置されている。

探知距離は30km程度であるが、敵機の動きをプロットするには十分だ。

 

「レーダー起動確認。これは…低いですね。敵機は高度30m程度を飛行し速度は…時速600km以上!?」

 

「なんだと!?アズールレーンは帝国より優れた航空技術を持っているというのか!?しかもあれはおそらく爆撃機ないし攻撃機だ…戦闘機ともなれば…」

 

驚愕の表情を浮かべるムルノウ。

しかし、彼は更に驚愕する事となる。

 

「っ!て、敵機こちらに向かっています!」

 

「なんだと、偶然じゃないのか!?」

 

「1機だけが編隊から外れて向かって来ます!」

 

「バカな!」

 

地下司令所は先述した通り古い石切場を更にくり抜いて建造されており、表面には植物が生い茂り、司令所の存在を予見させる物は僅かに見える視察スリットしか無い。

地上からじっくり見なければ分からないそれを、高速で飛行する航空機から発見出来るとは考え難い。

 

「敵機、ロケット弾のような物を発射しました!数1!」

 

「1発だけだと?ロケット弾を1発だけ撃って何の意味がある!」

 

肩透かしを食らった気分だ。

命中精度が悪いロケット弾は数を撃つ物であり、1発だけ撃ったところで当たりはしないだろうし、何より視察スリットに飛び込まない限り有効弾とはならないだろう。

だが、彼らは信じ難い物を目にした。

 

──シュッ…ズガァァンッ!

 

「ま…曲がった!?」

 

そのまま地下司令所がある岩山を飛び越えるであろう弾道で飛翔したロケット弾は急激に沈み込むと頂上に直撃し、致命的な破砕音を響かせた。

 

「レーダー機能停止!アンテナが破損した模様!」

「ウソだろ!?奴らロケット弾でレーダーをピンポイントで攻撃したのか!?」

「あ、あり得ない!ロケット弾で精密攻撃は出来ないし、レーダーには擬装が施されていたんだぞ!」

 

他の者はよく見えていなかったらしいが、ムルノウはロケット弾がレーダーへ向かって軌道を変えた瞬間をはっきりと見ていた。

 

「なっ…まっ…まさか……」

 

とある可能性が思い当たり顔面蒼白となるムルノウ。

しかし、それを口にする前に最悪のニュースが飛び込んできた。

 

「海上に敵艦隊!せ、戦艦を含む大艦隊です!」

 

死人のような顔色で双眼鏡を覗き、海の方に視線を向けると網膜に黒鉄の巨艦が複数映し出される。

複数の戦艦が陸上から視認出来る程の距離に居る…それが何を意味するか理解した司令所の面々は自らの運命を悟ると共に、神に祈るのであった。

 

 

 

 




ちょっと駆け足気味ですが、リームにそんなに話を割いてもしょうがないですしね
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