私はマッセナが200連ぐらい出なくて資金とキューブを盛大に溶かしましたが、今では全員揃えられました
──中央歴1643年3月4日午前7時、ムー大陸南部マギカライヒ共同体沖──
「8時方向に帆船確認。二グラート連合の軍艦だと思われます。撃沈しますか?」
「放っておけ、どうせこちらに手出しは出来ん」
低く垂れ込めた暗雲の下、ややうねりがある海を行く艦隊を率いる戦艦『パルサー』の艦橋で同艦の艦長であるパーラシュと艦隊司令長官のミレケネスがそんな言葉を交わしていた。
「よろしいのですか?帆船とて我々の存在を通報する事は出来ますが…」
「構わん、来たとしても大半は帆船だ。我々の敵ではない」
「はっ、ではそのように…」
怪訝そうなパーラシュが下がる中、ミレケネスは艦橋の窓辺で仁王立ちを続ける。
彼女の表情は僅かながら苦々しいものが見え、何やら隠し事があるように見える。
(これで異世界国家は艦隊をこちらに差し向ける…そうなればカイザルの艦隊が必ずムーを…!)
パルサーと『クウェーサ』2隻のグレードアトラスター級戦艦を筆頭に、戦艦12隻、空母34隻、巡洋艦41隻、駆逐艦280隻、補給艦37隻に加えて先行する潜水艦77隻…総勢481隻もの大艦隊は大国であっても一夜にして灰燼に帰せられる程の戦力だ。
しかし、帝国海軍はこの艦隊を主力ではなく"囮"としていた。
というのもミレケネスはマグドラ群島で、カイザルはバルチスタ海での教訓から「異世界国家侮り難し」という認識を持っており、今回の作戦…即ちカバルを拉致した事に対する報復であるムーへの大攻勢では帝国の艦隊戦力を殆ど動員した1500隻もの艦隊を2つに分け、そのうちミレケネスが指揮する艦隊は異世界国家艦隊をムー大陸南方へ誘き出す為の囮を任されている。
ミレケネスの艦隊が上手く異世界国家艦隊を誘き出せれば直ぐ様カイザルの艦隊がムー大陸北方から手薄になっているであろうムーの主要都市へ向かい、陸軍と連携して一気呵成にムーを攻略する手筈だ。
そう言った作戦になっている為、ミレケネスとしては寧ろ見付かった方が都合が良い。
「ミレケネス様」
そんなミレケネスに対し、艦隊参謀の『デルンシャ・マクシム』が声を掛けた。
「デルンシャか、どうした?」
「敵は此方に来るでしょうか…先行した潜水艦隊からも敵艦隊発見の報告はありませんし…」
他の者に聴こえないように小さく述べるデルンシャ。
ミレケネス艦隊が囮であるという事はデルンシャを始めとした艦隊幕僚の他、やや先を行く先遣艦隊司令『アウロネス・ボンド』とその幕僚達にしか伝えられていない。
これはこれほどの艦隊を囮にしなければならない程敵は強大だと伝えてしまうと、士気に関わる為、あくまでもカイザル艦隊と連携してムーを両翼包囲すると表向には伝えてある。
「……カイザルから聞いたが異世界国家は潜水艦を捕捉し、撃沈せしめる手段を持っている可能性が高い。バルチスタ海では出撃した53隻の内20隻近くが消息を断つ…果たして事故で片付けられるかしら?」
「それは…」
「潜水艦隊に対してはその事を伝えた上で、水上航行は夜間に限定、潜水航行中であっても潜望鏡の使用は控えるように通達済み。だけど…」
帝国海軍の潜水艦は通商破壊はもちろん、水上艦隊に先行して予想戦闘海域に展開し、敵艦隊の動向を探る偵察、場合によっては能動的に動く機雷として敵艦隊への先制攻撃を行う事を期待されている。
故に潜水艦隊は主力艦隊に先んじて戦闘海域に展開し、また位置を探られない為に無線封鎖も行っている。
つまり水上艦隊からすれば潜水艦隊の安否は戦闘が一段落するまで分からないのだ。
「しかし、如何に異世界国家が潜水艦への対抗手段を持っているとしても70を超える潜水艦を殲滅する事は出来ません。半数が失われたとて敵艦隊にとっては大きな脅威となるでしょう」
「私もそう思う。一定数が生き残れば異世界国家の艦隊はそれなりの被害を被るだろうし、そうなれば我々だけでも撃滅出来るかもしれない。唯一の気掛かりはミリシアルの空中戦艦とやらだが…」
「しかし、あの空中戦艦はミリシアルにとって奥の手の筈…主力であれば各地に姿を見せているでしょう。加えてこの艦が空中戦艦を撃沈せしめた事からミリシアルは投入を躊躇う筈です」
自信満々にパーラシュがそう述べる。
「そうだな、この艦隊にはパルサーの"妹"も居る。ミリシアルも気軽に手出しは出来んだろう」
やや肩の力を抜いてそう応えたミレケネスは再び海原を見つめる。
暗くうねる広大な海…その先に存在するであろう敵を思う彼女が僅かに震えているのは武者震いかはたまた恐怖なのか…
──同日、同海域──
ミレケネス艦隊の最後尾、補給艦といくらかの駆逐艦からなる艦隊の背後を潜望鏡が見つめている。
補給艦はもちろん、護衛である駆逐艦もまさか背後に潜水艦が居るとは夢にも思っていないらしく気付く気配は無い。
そうこうしている内に潜望鏡は海中に引っ込み、艦隊が発する音を頼りに追跡を再開した。
「グラ・バルカス帝国艦隊、依然として針路東のまま。本日も本艦は原子力にて航行中…っと。代わり映えしない航海日誌だけど、指揮官さんに怒られないかなぁ…?」
ミレケネス艦隊を追跡する潜水艦、その艦内で不安げに溢したのはユニオン所属の潜水艦『ノーチラス』だ。
彼女はゴールデン・フリース作戦、いわゆるカバル拉致作戦の直後から数人の仲間と共にレイフォリア及びパガンダ島周辺にてグ帝艦隊の動きを監視しており、グ帝艦隊出撃後は仲間と分かれてミレケネス艦隊の追跡と監視を行っている。
「ん〜…これだけじゃ殺風景ですし、原子炉の様子でも見ておきましょう」
思案した後、そう結論を出したノーチラスは航海日誌を置くと司令室から出て艦尾の方へ向かう。
彼女は『ナーワル級』と呼ばれるユニオンの中でも古株の潜水艦であり、水中速力は8ノット、水上速力も僅か17ノットであり浮上してようやく商船に追い付く程度しかない。
だというのに彼女は16ノット程度で巡航するミレケネス艦隊を付かず離れずの位置で潜水航行のまま追跡している。
本来ならばあり得ないのだが、ノーチラス自身が言ったように彼女は原子炉を搭載したⅡ型艤装に改修されているのだ。
「えっと…制御棒よし、炉内温度よし、蒸気圧力もよし、冷却状況もよし。……うん、異常はありませんね」
艦尾にある原子炉から伸びる配管に取り付けられた計器類を確認し、満足げな笑みを浮かべるノーチラス。
彼女は同じくⅡ型艤装を受領したアルバコアと共にロデニウスにて新型潜水艦開発の為のテストに協力していたのだが、グ帝との開戦を受けて実戦投入の為の改装を受けたのち、先述通りの任務に就いていた。
Ⅱ型艤装、原子力潜水艦として生まれ変わった彼女の性能は正に圧巻と言うしかない。
水中速力23ノットという速度はもちろん、これまで搭載していた試験型原子炉とバックアップ用のディーゼルエンジンを撤去し実用型原子炉とする事で潜航可能時間と航続距離の大幅な向上を実現している。
そのお陰で彼女は任務開始時から現在に至るまで浮上する事なく任務を遂行中だ。
「あっ、魚雷の点検もしないと。使う時に不発になったら嫌ですからねっ」
カンレキに刻まれた嫌な記憶を振り払うように、ノーチラスは真反対である艦首へ向かうのだった。
そういえばアンカレッジの着せ替え…あれヤバくないですか?
よく実装出来たな…