異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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351.女帝の海【4】

──中央歴1643年3月4日午後8時、ムー南東沖──

 

「何事か!」

 

長官公室にて海図上での海戦シミュレーションをしていたミレケネスだったが、慌てふためいた様子の当直からの呼び出しにより、夜戦艦橋へと足を踏み入れた。

 

「はっ!敵襲です。艦隊最前を征く第166警戒艦隊が"何らか"により攻撃を受け、壊滅状態に陥っております」

 

「なんだと?」

 

当直士官である副航海長からの報告を受けたミレケネスは怪訝な表情を浮かべると、早足で窓に歩み寄った。

 

「……第166警戒艦隊は何からどのような攻撃を受けている?」

 

艦隊の針路の先、水平線の向こう側がオレンジ色の光で明るくなっている。

警戒艦隊は優れた探知能力を持っているため一方的な攻撃を受けたとは考え難い。

しかし、副航海長からの返答はミレケネスの期待を裏切るものだった。

 

「それが…不明なんです」

 

「不明?不明とはなんだ?」

 

「はい。第166警戒艦隊所属の駆逐艦『ピルロ』からの通信によると"非常に小さな飛行物体の反応を捕捉した"とありましたが…ピルロはそれを最後に通信途絶となりました。以後、第166警戒艦隊所属艦からの通信は途絶、他艦隊も何らかの攻撃を受け、特に駆逐艦および軽巡洋艦が撃沈されているとの事です」

 

「小さな飛行物体…敵機では…ないか。警戒艦隊が航空機をそのように言い表すはずもないし、敵機ならば此方のレーダーでも捕捉出来る筈だ」

 

警戒艦隊が敵機を捕捉する事なく撃沈されたというのなら、敵潜水艦による攻撃であると推測出来るが、撃沈された艦が小型の飛行物体を捕捉したと言っていたのが腑に落ちない。

しかし、ミレケネスとて漫然と軍務を果たしてきた訳ではない。

これまでの経験から、ある一つの仮説を立てた。

 

「……魚雷艇か」

 

「は?」

 

「おそらく異世界国家軍は魚雷艇のようなボートに大型のロケット弾を搭載し、夜陰に紛れて警戒艦隊を攻撃したのだろう。木製の小型船ならばレーダーでは捉えにくく、ロケット弾による攻撃なら小さな飛行物体というのも納得出来る」

 

ミレケネスはかつてとある植民地に配備された巡洋艦の艦長であり、独立を求めてゲリラ戦を行っていた現地住民との戦いを経験しており、その際ゲリラがあり合わせの資材で組み上げた高速ボートに鉄パイプで作ったロケット弾を搭載した兵器を目にした事があった。

その経験から異世界国家軍も同様の高速襲撃艇を使っていると推測したのだ。

 

「な、なるほど…」

 

「デルンシャとパーラシュは昼戦艦橋だな?2人にも私の考えを伝えてくれ。もしかしたら此方にも同様の襲撃があるかもしれない。各艦にはレーダーのみならず目視で水上を監視するように通達せよ」

 

「はっ!」

 

ミレケネスの命令を受けた副航海長は通信士へ各艦への通達を指示し、艦内電話で昼戦艦橋に居る艦隊参謀デルンシャと艦長パーラシュへと呼びかけた。

しかしそんな時、新たな一報が場を大きく動揺させた。

 

「対空レーダーに反応!西方より未確認機が飛来しています!高度4000、距離120、…数100以上!?速度時速600!?」

 

「なんだと!?」

 

こんな夜間に100機以上もの航空機が飛来するという事は偵察ではないだろう。

間違いなく空襲…しかし、ミレケネスはどうも腑に落ちなかった。

 

「時速600キロだと?戦闘機が全速で飛んで…何をするつもりだ?」

 

艦隊を空襲するのならば魚雷を搭載した攻撃機か、爆弾を搭載した急降下爆撃機…このような夜間ならば雷撃も急降下爆撃も殆ど不可能である為、爆弾を満載した重爆撃機による絨毯爆撃が一般的だ。

しかし、レーダーで捉えた未確認機は攻撃機や爆撃機とは思えない速度で飛んでいる。

少なくともミレケネスが知る限りでは、600km/hも出せるのはクリーン状態の戦闘機だけだ。

 

「未確認機、間もなく艦隊防空範囲に突入します!」

 

「友軍でない事は確実だ!防空範囲に入ったのなら対空射撃を開始せよ!」

 

目的は分からないが、ただ事ではないのは確かだ。

故に撃墜を命じたのだが…

 

──ゴォォォォォン……

 

「っ!?」

 

対空射撃が始まった瞬間に西方で轟音が響き、閃光が走った。

敵機を撃墜した…いや、違う。

航空機が撃墜されてもこれほどの爆発が起きるとは考え難い。

 

「駆逐艦『オルリス』より入電!重巡『ペルスヴァル』被弾!魚雷に誘爆した模様!」

 

「な…何が起きた…?」

 

酷く狼狽えるミレケネス。

そんな彼女を嘲笑うように、艦隊の西方では新たな爆発がいくつも発生したのだった。

 


 

──同日、ムー南東空域──

 

「これは…凄まじい艦隊だな。連中、ムーを焼け野原にするつもりか?」

 

ムー南部の飛行場より飛び立ったミリシアルのムー派遣軍陸上飛行隊を率いるオメガは新たな愛機となったエピクロスのコックピットで感嘆の言葉を漏らした。

本格量産型であるエピクロスには多目的レーダーが搭載されており、水上目標の捕捉が可能となっているのだが、コックピットコンソールの中央に置かれた円形のレーダースクリーンにはおびただしい数の反応が映し出されている。

 

「だがこれだけ居るなら実戦テストにはもってこいだ。各機、事前に打ち合わせした通りに頼むぞ」

 

《了解しました、オメガ飛行団長》

 

オメガ機と彼の部下、120機ものエピクロスには今回が初の実戦投入となる新兵器を搭載している。

それを使うため、オメガは部下からの返答を聞きつつスクリーンの左下に取り付けられたスイッチを捻った。

すると一瞬だけスクリーンにノイズが走り、何やら切り替わった事を示唆するが、一目見ただけではスクリーンに映っているものに変わりはない。

しかし、オメガはスイッチの上にあるスライダーを下げ、スクリーン表示を拡大させた。

 

「ふむ…では大きな反応と小さな反応、一つずつ狙うか」

 

大小の白い長方形で表示されたグ帝艦艇の反応を指先でタッチすると、それが赤く変色する。

 

「ロックオン…よし、頼むぞ…エレアゼノン、投下!」

 

──ガコンッ!

 

エピクロスの主翼下に吊り下げられた円筒状の物体が切り離され、闇夜に落ちて行く。

そうして落ちた円筒は途中で何かに操られたように90度回転すると目標となった艦艇に側面を向ける形で着水、その瞬間に高速回転を始め海面を走り始めると…

 

──ドゴォォォォンッ!

 

目標艦の舷側に衝突、大爆発を起こした。

これこそミリシアルの新兵器『エレアゼノン』だ。

本兵器は先のマグドラ群島海戦にて使用された海上走行自走爆雷ゼノンの航空機搭載型であり、1トンもあった炸薬量を700kgに削減し、内部に風神の涙を利用した姿勢制御ユニット、そして魔力探知型誘導装置を内蔵している。

これらとエピクロスに装備された魔力探知センサーを連動させる事により、エレアゼノンは指定された目標へ針路を変えながら爆速する事が出来るのだ。

しかもエピクロスの魔力探知センサーにはグ帝人捕虜を参考とした魔力パターンが記録されており、何故かグ帝人が持っている微弱かつ独特な魔力パターンを選別出来るため、乱戦となっても確実にグ帝人を探知出来る優れものである。

 

「よしっ、上手く作動したな。各機へ、攻撃を許可する。友人達の手助けをするぞ!」

 

オメガの言葉に応えるように、エピクロスが1小隊4機ずつエレアゼノンを投下する。

1機辺り2発を搭載しているため、正味240発…大型艦でさえも戦闘不能にし得る必中の破壊がグ帝艦隊へと襲い掛かったのだった。

 




今回のイベント、珍しくストーリーが2分割されているんですよね
それに加えてやたら大和の名前が出ますし…となれば後半のストーリーに大和が顔出しする可能性がありますね
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