異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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最近ようやく涼しくなってきたかと思えば、やっぱり昼間は暑いですねぇ…


353.女帝の海【6】

──中央歴1643年3月5日午前7時、ムー南東沖──

 

「なんだあれは?」

 

ミレケネス艦隊の先鋒を務める先遣艦隊旗艦クウェーサに座乗するアウロネスは水平線から垂直に立ち昇る白煙の尾を怪訝な表情で眺めていた。

 

「まさか昨夜のロケット弾攻撃と同種の兵器か?」

 

ミレケネスを以てして聡明な男と評されているアウロネスは極めて冷静に状況を判断する。

 

「各艦へ、敵はロケット弾による攻撃を行っていると思われる。この距離かつ、明るさなら回避は容易だろう。衝突及び漂流者を巻き込まぬように回避せよ」

 

アウロネスは昨夜のロケット弾攻撃…つまりロデニウス海軍ミサイル艇によるミサイル攻撃はレーダーに映りにくい小型高速艇による肉薄攻撃を夜間に行われた事で被害が続出したと考えており、夜が明けて彼我の距離が開いているのならば問題なく回避出来ると考えていた。

 

「しかし…この反応は例の空中戦艦か。艦載機の出撃を急がせろ。800kg爆弾の直撃ならば有効打になり得るはずだ」

 

それよりもアウロネスが脅威と捉えていたのはレーダーに映る巨大飛行物体…ミリシアルの空中戦艦ことパル・キマイラである。

バルチスタ沖海戦におけるパル・キマイラの暴れっぷりはアウロネスも聞き及んでおり、対抗策を編み出すための会議にも出席していた。

その結果編み出されたのが、敵高角砲の射程外からの大型爆弾による水平爆撃だ。

リゲル型雷撃機ならば800kg爆弾、シリウス型爆撃機ならば500kg爆弾を搭載出来る為、高度3000m以上から水平爆撃を行えば有効打を与えられると想定された為、アウロネスはそれを実行すべく艦載機の発進を急がせている。

 

──ヒュゥゥゥゥゥゥゥ…

 

「ん?」

 

不気味な風切り音を耳にしたアウロネスは反射的に空に目を向ける。

するとそこには此方に向かって落下してくる数十の細長い飛翔体の姿があった。

 

「ロケット弾か。射程と投射量は中々のようだが、艦隊戦では使えん」

 

少しばかり回避すればそれだけで事足りる。

そう考えたアウロネスは直ぐに興味を無くしたように遥か遠くに薄っすらと姿が見える空中戦艦に意識を向けたが…

 

──ドゴッ!

 

「っ!?」

 

致命的な破壊音が右舷方向より聴こえた。

被弾…否、クウェーサの右舷で寄り添うように航行していたペガスス級空母『ケルベロス』の甲板中央が噴火したように炎を噴き出している。

 

「なっ…まさか直撃したのか!?なんと運が悪い!」

 

この時アウロネスは回避した先に偶然ロケット弾が飛んできて直撃を食らったと思っていた。

しかし、彼の予想は最悪の形で裏切られる事となる。

 

──ドゴォォォォンッ!

 

「じゅ、重巡『パタス』被弾!あぁっ!駆逐艦『リンデルト』…軽空母『シャラシュカ』…ダメです!被弾艦が多すぎて…」

 

「馬鹿な!ロケット弾だぞ!?あんなに離れていて何故こんなに直撃するのだ!」

 

アウロネスは未だにただのロケット弾だと思っているが、読者諸兄がご存知の通り艦隊に飛来しているのはミリシアルが威信を懸けて開発した対艦誘導弾ウルティマⅡ型だ。

800kgの弾頭がマッハ2以上という速度で落下し、目標を追尾するのだから直撃が頻発する事も、大型艦が致命的な損傷を受けるのも当然の話と言える。

しかし、まさか技術力で劣ると思い込んでいる異世界国家が誘導兵器なんて空想科学の代物を実用化しているとは考えていないアウロネスは、次々と被弾し轟沈、あるいは大火災を起こす味方艦の有様に狼狽えるしか出来ない。

 

──ドゴォォォォンッ!

 

「うわっ!ケルベロスが…!」

 

炎を噴き出しながら徐々に傾斜していたケルベロスだったが、とうとう大爆発を起こした。

用意していた爆弾に誘爆したのか、はたまた航空燃料に引火したのか、ボイラーに海水が流入して水蒸気爆発を起こしたのか…あるいはその全てが起きたのか、ともあれケルベロスは一気に傾斜してそのまま沈みながら転覆してしまった。

 

「な…なんたる事だ…いったい何が起きて…」

 

「ひ、飛翔体接近!」

 

「回避しろ!取舵いっぱい!」

 

呆然とするアウロネスを嘲笑うようにクウェーサにも攻撃が降りかかる。

見張りの報告を受け、艦長が取舵を命令した。

沈みゆくケルベロスと同艦から投げ出された乗組員に衝突しない為の判断だったが、それが彼らの生死を分かつ事となる。

 

──ドゴォォォォンッ!!

 

「うおぇぉぉっ!?」

 

艦の後部から轟く致命的な破壊音…凄まじい揺れの中、アウロネスは反射的に艦後部を確認する。

 

「なっ…!?」

 

グレードアトラスター級はボイラーを12基搭載しており、それらが排出する排気を逃がす為に巨大な2本の煙突を有しているが、その内の前方側の煙突がめくれ上がっており、今にも千切れて海に落ちそうだ。

垂直に近い斜め上方向から左舷側に突入したウルティマⅡ型の弾頭が煙突に直撃したのである。

もし回避運動を取らなければ艦橋に直撃し、アウロネス達は無事では済まなかっただろう。

しかし、被弾したという事はクウェーサは無事ではないという事だ。

 

「機関室より入電!第3及び第4機関室ボイラー、タービン破損!加えて蒸気管破損により第2機関室への立ち入りが困難との事です!」

 

「なんだとぉ!?」

 

その報告はアウロネス達を青褪めさせるのに十分なものであった。

グレードアトラスター級は4軸推進…つまり4つのスクリュープロペラを持っているのだが、それぞれのスクリューは蒸気タービンと3つのボイラーがセットとなった機関室によって動かされている。

そしてそのボイラーと繋がる煙突にはスリットが開いた装甲が備わり、万が一煙突に砲弾や爆弾が飛び込んでもボイラーに直撃しないような工夫がなされている。

しかし、ウルティマⅡ型の弾頭は煙突内装甲の想定を上回る速度と重量であり、煙突内装甲を貫徹し、右舷側2つの機関室の間に侵入、炸裂してボイラーやタービンを破壊したのだ。

更にその破壊の余波によって左舷側の第2機関室内を通る調理用蒸気配管が破裂し、機関室内に高温の蒸気が噴出して機関員が立ち入る事が出来なくなってしまった。

つまり、現在のクウェーサは左舷側2基、右舷側1基のスクリューが不動となりたった1基のスクリューでしか航行出来なくなったのだ。

 

「速力、15ノットに低下!第1スクリューのみの推進ですので舵の効きが著しく悪化します!」

 

先述した通り、現在のクウェーサは最も右舷側にあるスクリューだけで推進力を補っている。

つまり艦は常に左に曲がろうとする力が加わり、真っ直ぐ航行するには面舵を取り続けなければならない。

しかも速力も全力の半分…速力も低下し、運動性も著しく制限されたのでは自慢の46cm砲も役に立たないだろう。

 

「バカな…こんなバカな事があるか!」

 

慌てふためく艦長達であるが、アウロネスも同様だ。

いったいどのような兵器が向けられているのか全く分からず、行く手にはバルチスタ沖海戦にて多数の帝国海軍艦艇を一方的に撃沈した空中戦艦の姿もある。

どう考えても絶望的な状況に彼は思わず天を仰ぐが、それと同時に見張りから更なる絶望を呼ぶ報告が飛んできた。

 

「く、空中戦艦急速接近!本艦に向かって来ます!」

 

最早アウロネスはその場に崩れ落ちぬよう、気を張るのが精一杯であった。

 




交流宿舎に大鳳が追加されましたが、なんで初手からネグリジェなんだ…あれ部屋着なのか…
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