異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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黒髪大好き様より評価10を、東海様より評価7を頂きました!



パ皇編は色々やりたい事があるので、今までの投稿ペースは保てないかもしれませんねぇ…


対列強、或いはジャイアントキリング
35.狼煙


──中央暦1639年9月11日午前11時、ロデニウス連邦・マイハーク沖──

 

「あー、違う違う。いくら『イタクァの腕』があるにしても自然風を利用しなければ効率が悪いぞ。」

 

「「「「イエス、サー!」」」」

 

海風を受けて進む優美、かつ洗練されたシルエットを持つ帆船の上で男達が威勢の良い返事をする。

 

「改めて…よく分からん事になったな…」

 

甲板で帆が張られる様子を見上げる男。

そんな男の前に一人の船員が小走りでやって来て敬礼した。

 

「ヴァルハル特務大尉、行程は予定通りであります。この調子であればピカイアには17時には到着するでしょう。」

 

「よろしい。だが、気を抜くな。海の天候は変わりやすい。時化に飲まれてしまえば転覆するぞ。」

 

「イエス、サー!」

 

再び敬礼をして持ち場に戻る船員。

そう、この帆船の船長はパーパルディア皇国からロウリア王国に送り込まれた使者、ヴァルハルであった。

本来、ヴァルハルの仕事は本国に当たり障りの無い報告を送り『対パーパルディア包囲網』構築までの時間を稼ぐ事だったが…何せ暇だった。

適当な報告書を書き、パーパルディアに行く貨物船に報告書を預ける。それだけだ。

家でゴロゴロしている訳にもいかない。だから、指揮官に何か仕事が無いか?と聞いたのだが…

 

──「船とか…動かせるか?……知識はある?ならいいか。」

 

そんな事から、第四文明圏防衛軍アズールレーンの『特殊教育任務部隊』なる部隊の特務大尉とかいう肩書きを押し付けられたのだ。因みに今はシオス王国の海軍の訓練を行っている。

 

「この船もパーパルディアの戦列艦を凌駕している……やはり、ロデニウス連邦は…サモアは世界を変えうる存在となるだろうな。」

 

そう言ってヴァルハルはメインマストに背中を預ける。

この帆船は只の帆船ではない。

対パーパルディア戦を想定した仮想敵役…つまりアグレッサーを担う為と、魔導技術を研究するために建造した魔導フリゲート『アグレッサー級』である。

ヴァルハルが密かに持ち帰った『風神の涙』と『対魔弾鉄鋼式装甲』のサンプル、それを『蔵王重工』が中心となって解析した結果産み出された技術を利用したものだ。

解析に携わったKAN-SEN『扶桑』曰く、

 

──「『ミズホの神秘』に比べれば非常に単純なので複製や改良は容易でございます。」

 

との事らしい。

そうやって産み出された技術、一つは『イタクァの腕』。風神の涙を凌駕する出力と寿命を誇る魔導動力であり、これにより16ノットを叩き出す事が出来る。

だが、だめ押しとばかりに二つ目の技術『ダゴンの鰭』も搭載した。これはイタクァの腕を改良し、水流を制御する魔石だ。

これによって、喫水線下の水流を制御する事が出来るようになったため帆船としては驚異的な20ノットを記録した。

さらには、対魔弾鉄鋼式装甲を改良した『魔導強化FRP』で船体を作っている。

最新型の対魔弾鉄鋼式装甲より高い強度を持ち、軽く、腐食しない。というインチキじみた新素材だ。

これだけでもパーパルディアの魔導戦列艦を鼻で笑えるレベルだ。

 

だが、一番は武装だろう。

両舷合わせて24門の76mm後装式ライフル砲を搭載している。これだけでも最大射程8kmという魔導砲を圧倒する性能だ。

更にはアルタラス王国より提供された『風神の矢』を改良した『バイアクヘー』、『クトゥルヒ』を搭載している。

どちらも基本原理は同じだ。

『燃える三眼』と呼ばれる3つの赤い魔石の付いた望遠鏡で目標を指定すれば、その目標に向かって空中か水中を進んで行く。

バイアクヘーはイタクァの腕により高圧の風を、クトゥルヒはダゴンの鰭により高圧水流を吹き出して進む。更には、内部に仕込んだ『形代』と呼ばれる紙を人型に切り抜いたもので誘導しているらしい。

つまりは誘導兵器…要は『魔導ミサイル』とも言える兵器だ。或いはこう言った方が良いだろうか…『誘導魔光弾』と。

 

(まったく…ミリシアルですら保有していない誘導魔光弾を実用化するとは…科学技術のみならず、魔導技術まで列強を凌駕している…末恐ろしいな。)

 

ロデニウス連邦…いや、サモアの底知れぬ力に恐れを抱くヴァルハルを乗せ、船は青い海を進んで行く。

 

 

──同日、フェン王国首都アマノキ・王城──

 

天守閣にてフェン王国の王である剣王シハンが口を開いた。

 

「…パーパルディアと、戦争になるやもしれん。」

 

その言葉に集まった者がざわついた。

だが、シハンは言葉を続けた。

 

「しかし…最早、以前の我々ではない。ロデニウス連邦…アズールレーンより提供された兵器がある。」

 

天守閣の窓から港を見る。

そこには8隻のフリゲート…そう、ロデニウス連邦から提供されたアグレッサー級である。

元々は仮想敵役と魔導技術開発の為に建造されたアグレッサー級であるが、技術レベルが余りにも低い第三文明圏外にとっては"ちょうどいい"性能だった為、各国に貸与されているのだ。

 

「ですが、我々も十二分に使いこなせているとは言えませぬ。大使館にいらっしゃるお二方を通して、アズールレーンに援軍を要請致しましょう。」

 

千士長アインがシハンに進言する。

そう、アグレッサー級はパーパルディアの軍艦を凌駕する性能である。だが、フェン王国は火砲を用いた海戦の経験が未熟である。

ロデニウス連邦にて行われた研修も受けたが、国家存亡の危機を前にして不確定要素がある事は不味い。

 

「『飛鷹』殿と『隼鷹』殿だな?うむ、民の生死に関わる事だ。面子を気にしている場合ではない。…マグレブよ、大使館に行き援軍要請を頼む。」

 

「承知!」

 

シハンが王宮騎士長マグレブに指示を飛ばすと、マグレブは直ぐ様大使館に向かった。

それを満足そうに見送ると立ち上がり、従者に持たせていた刀を持つ。

 

「皆の者!援軍要請はしたが、我が国は我々で守らねばならぬ!パーパルディアの連中が攻めてくる迄に時間はある。それ迄、訓練をするぞ!」

 

「「「「応!!」」」」

 

集まった者がシハンに習い、自らの得物を手にして立ち上がる。

 

「チェストパーパルディア!」

 

「「「「チェストパーパルディア!!」」」」

 

チェストパーパルディアとはフェン王国の隠語で、「ぶち殺せ」の意である!




巨大九尾を召喚出来るぐらいだから、ミズホの神秘ってミ帝の魔導技術を凌駕しているのでは?

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