──中央歴1643年3月4日午前7時、ムー国境北側──
──ブロロォォォンッ!
レイフォルから国境を越えムーへと侵攻する車列、グラ・バルカス帝国陸軍第8軍団を中核とするムー侵攻軍だ。
戦車500輛、装甲車1200輛、自走砲300輛、トラック3000輛、牽引砲600門…加えて陸軍航空隊400機による航空支援まである史上最大規模と言っても過言ではない大戦力はムーの首都であるオタハイトを目指し、進撃していた。
「今日中には湖畔の街を占領したいところだな…」
侵攻軍の中枢、大型指揮車の中で総司令官であるガオグゲルは地図を広げながらそう呟いた。
ムーの北側にはいくつかの大きな河が流れており、その内で一番大きくムー大陸第二位の大河『ムンダル川』は内陸部の山脈から流れ出た細い川がいくつも合流し、大陸北東へと流れ出ている。
そんなムンダル川は途中で川幅が大きく膨み水深が急激に深くなっている箇所が5か所存在し、これらはムー五大湖として呼ばれているのだ。
そしてガオグゲルが狙っているのは五大湖の内最も上流にあり、ムンダル川の名付け元となった湖『ムンダル湖』である。
面積約700平方km、平均水深50mと琵琶湖より若干広く深い湖はムーの内陸から沿岸部に通じる水運網の起点であり、湖畔の街『ムンダーラ』は精密機器の製造拠点となっている。
それらの事情についてはガオグゲルも情報収集で把握しており、このムンダーラを抑えればムーの経済に大きな打撃を与える事が出来る上に、上手くいけば輸送船を鹵獲し、ムンダル川流域に迅速に部隊を送り込む事が出来るだろう。
「ボーグが連れ帰った兵が言うにはムーの戦車は中々に手強いらしいが…連中の目はバルクルス基地に向いている。まさか我々が遥か北側から攻めてくるとは思ってもいないだろう」
無論、ただ単に大部隊を越境させるだけでは待ち伏せ攻撃により損害を被る事になるだろう。
しかし、ガオグゲルはそれを踏まえてバルクルス基地にとある仕掛けを施していた。
それこそがズバリ"囮"だ。
今回の大規模侵攻に向けてバルクルス基地には丸太やベニヤ板で作った戦車や大砲のデコイを大量に配備させ、敵の目を欺いているのである。
そんなガオグゲルの目論見は見事的中し、敵は度重なる航空偵察を行い、偵察兵はアルーに敵戦車が集結している事を掴んでいた。
如何に強力な戦車があろうと、バルクルス基地から数百kmも離れたこの地まで瞬時にやってくる事は不可能だろう。
「奴らが駆け付ける前に街を占領すれば現地民を盾にして攻撃を防げる筈だ。もうじき先遣隊がムンダーラに到着する筈だが…」
腕時計を確認するガオグゲル。
日の出前に帝国陸軍の主力中戦車ハウンドの改良型『ハウンドⅡ』20輛を先遣隊としてムンダーラに送り込んでいる。
敵戦車がアルーに集結している以上、20輛もの…しかも47mm高初速砲を装備したハウンドⅡが奇襲を行えば多少の敵戦車が居たとしても撃破する事は容易いだろう。
《こ、こちら先遣隊!司令部、応答を願う!》
「こちら司令部だ。首尾はどうだ?」
そんな時、先遣隊から通信が入った。
慌てた様子だが、おそらくは敵戦車が居たのだろう。
しかし、20輛ものハウンドⅡならば多少の被害は出るかもしれないが勝てない相手ではないだろう。
そんな事を考えていたが、ガオグゲルの予想は最悪の形で裏切られた。
《敵爆撃機に襲撃されている!敵爆撃機は大口径砲を搭載しこちらに向かっ…ドンッ!!ザーーー…》
轟音を最後に無線機からはノイズが流れるのみとなった。
他の周波数に切り替えて呼びかけても応答は一切無い。
「敵爆撃機だと…?不味い!航空隊、敵爆撃機が来る!至急迎撃を!」
顔を青くして後方に設置した野戦飛行場へと航空支援を要請するガオグゲル。
これより彼らは先遣隊が味わった地獄を味わう事となるのである。
──同日、ムー北側国境上空──
──ブゥゥゥゥゥン…
グ帝陸軍先遣隊を襲撃した敵爆撃機こと、ムー空軍所属『B-25』の4機編隊が高度1000m以下という低高度をグ帝陸軍本隊に向かって飛んでいた。
「戦車が20輛…本隊はどれほどか」
小隊長である『オルバン・ジムリー』は眼下で過ぎ去る撃破されたグ帝戦車を一瞥しながら呟いた。
彼らが駆るB-25は以前、ラ・ムーの誕生日にスクラップという名目で贈られた物であるが、ムー人達は本機を戦力化するに伴い"特別な改修"を行ったのである。
「……見えた、あれが敵部隊の先頭だ!なんて数だ…これを素通りさせたらムーが焼け野原になるぞ…主砲用意!」
「主砲用意!」
オルバンの命令を受け、爆撃手席で待機していた乗組員が復唱する。
「撃て!」
──ドンッ!ドンッ!ドンッ!
地平線まで伸びるような車列の先頭へ向かってB-25の機首下面から伸びた砲身から砲弾が放たれた。
そう、ムーはB-25にアズールレーンから購入した『ボフォース40mm機関砲』を機首下面に装備し、爆弾倉を機関砲用の弾薬庫に改造したのである。
これによりB-25は爆装能力を失ったが、機首同軸の機関砲により移動目標をピンポイントで攻撃する能力を得た事で、対戦車襲撃機として比類なき戦力となったのだ。
──ボンッ!
車列の先頭に居た戦車、ハウンドⅠは斜め上から天板に40mm砲弾が直撃、貫通し砲弾が内部で炸裂した事で乗員が致命傷を受け、動きを止めた。
それを目の当たりにしたグ帝側には一気に混乱が広がった。
ただでさえ陸上部隊は空からの攻撃に弱い、しかも敵機は爆弾を落として飛び去る訳ではなく、直ぐ様反転して戦車の弱点である上面を攻撃するのだからグ帝側としては悪い冗談としか思えないだろう。
──ドンッ!ドンッ!ドンッ!
そんな戦車襲撃機が4機、代わる代わる攻撃をしてくるのだ。
最早グ帝部隊は逃げ惑う事しか出来ない。
──カンッ…カンッ…
「ん?」
機体の下面から何やら金属音がする。
それを確かめるべく視線を下に向けると、辛くも生き残った先頭部隊の戦車が砲塔上に装備した機銃で対空射撃を行っていた。
現在、B-25は200mという低空を低速で飛行しており、機体そのものも大柄であるため被弾しやすいと言えるだろう。
しかし、敵地上部隊からの対空射撃を受ける事はムーとしても織り込み済みだ。
機体下面はほぼ全面に8mm級機関銃に耐えられるアルミ装甲を貼り付けており、コックピット周辺や各所銃座は対13mm級機関銃装甲を、燃料タンクは防弾かつ防漏ゴムを装備している為、20mm以上の機関砲でも用いなければ有効打を与える事は難しいだろう。
「豆鉄砲だ、気にするな。それより攻撃だ。此方の弾薬がある限り敵戦車を攻撃するんだ」
「隊長、そろそろ敵の迎撃機が来てもおかしくない頃合いです。大丈夫でしょうか?」
戦意に満ちたオルバンの言葉に対し、通信士がそう問い掛ける。
彼らはグ帝側の通信を傍受…つまりガオグゲルが野戦飛行場に対して発した迎撃要請を掴んでおり、それによって間も無く敵戦闘機が飛来すると予想しているのだ。
「確かに気がかりだが…」
如何にB-25が装甲を強化しているとは言え、それは飛行性能を極端に損なわない程度であるため、四方八方から戦闘機により攻撃されれば撃墜されてしまうだろう。
しかし、オルバンはそれも想定済みだ。
「我々には心強い…新しい友人が居るじゃないか」
そう言ったオルバンは不敵な笑みを浮かべながら、人差し指を上に向けたのだった。
あ、今のうちに言っておきますが、陸戦だからってKAN-SENが出ないとは限らないので悪しからず