異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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kanakuto様より評価8を頂きました!

魔導技術…欲しいよね?


36.開戦直前?

──中央暦1639年9月17日午後2時、パーパルディア皇国皇都エストシラント・第三外務局──

 

「はぁ~…」

 

パーパルディア皇国において文明圏外国に対する外交を行う第三外務局、その局長室で一人の男がため息をついていた。

その男の名はカイオス、第三外務局の局長である。そんな彼が憂いを乗せた、ため息をついているのには理由があった。

 

(口を開けば奴隷、資源、領土…えぇい!醜い豚共め!)

 

結論から言えば、カイオスは皇国の…正確には、皇族と貴族のやり方に失望していた。

無理な拡大政策により皇国では有りとあらゆる物が不足傾向にあった。

無理な労働により奴隷は直ぐに使い物にならなくなり、新たな奴隷を求めて他国を侵略する。すると、占領地を維持する為の戦力が必要となり皇国民から兵士を募る。

そうすれば必要な兵器や食糧が増え、それらを生産するための奴隷を求めて他国を侵略する…そんな悪循環に陥っていた。

その結論、負傷兵や戦死者に対する恩給すらもマトモに払えなくなっていた。

 

(皇国の為に命を懸けた兵士に払う物も払わず、自分たちだけは毎日のように酒宴か!)

 

カイオスはその現状を憂い、少しでも力になろうと私財をなげうって負傷兵や戦死者の遺族対して個人的に援助を行っていた。

だが、そんなカイオスの思いなぞ知ったこっちゃない、とばかりに貴族から奴隷の催促がきたのだ。

 

「だが……フェンも強気だったな…もしや、ヴァルハルの企みに噛んでいるのか…?」

 

そう、カイオスはヴァルハルの企みを知っていた。

とは言っても、ヴァルハルと組んでいる訳ではない。私兵として抱えている隠密が、ヴァルハルが風神の涙等を密輸しようとしている事を察知したのだ。

最初は、小金を稼ぐ為の密輸か?と思ったのだが、懇意にしている商人からの話によれば違うらしい。

どうやら、謎の勢力がロデニウス大陸で活動しており、ヴァルハルはそれに協力しているらしい。しかも、ロデニウス大陸では大量の魔導砲や銃が配備されているようだ。

これはチャンスだ。そうカイオスは考えた。

力に酔って破滅へ歩む皇国に必要なのは、出血という冷水だ。

第三文明圏最強という立場が皇国の現状に繋がっているのであれば、皇国の立場を脅かす国家を作ればいい。

ヴァルハルが何故、そのような事をしているかは不明であるしロデニウス大陸で活動している勢力についても不明だ。

だが、皇国の目を覚まさせる為にはヴァルハルの企みに便乗するのが一番だ。

 

(もし…ヴァルハルの企みが成功すれば、拡大派の勢いを削げるかもしれん。そうなれば、政争を引き起こし政治の目を国内に向けさせる事も出来る。)

 

そんな事を考えながら、奴隷献上を断ったフェン王国に対する懲罰攻撃を許可する書類にサインをした。

何をするにしても、今は目立った事は出来ない。

心苦しさを覚えながら、局員を呼んで書類を渡した。

 

 

──中央暦1639年9月25日午前9時、フェン王国首都アマノキ──

 

今日はフェン王国にて5年に1度行われる『軍祭』の日である。

本来は第三文明圏外の国家が自国の軍船や兵士を派遣し、軍の力を見せ付ける事で他国を牽制する目的で開催されていたものだ。

だが、今回からは趣旨が変更された。

 

「おぉ、貴官はアワン王国の…」

 

「そういう貴官はネーツ公国の…」

 

二人の男性が握手を交わして、係留された船を見上げる。

 

「貴国の船は…船首の形状が変わっていますな?」

 

「ええ…我が国の周辺海域は寒く、波が凍りますので温熱の魔石を搭載しているのですよ。」

 

「なるほど…確かに、船首が凍りついてしまっては航行に支障が出ますな。」

 

そう、他国との交流に重きを置くようになった。

新兵器を扱う為のロデニウス連邦での研修。その際に、"学友"となった各国の武官や兵士達は研修中に交流を深めていたのだ。

その為、このような場では和気藹々とした雰囲気であり、合同演習や技術交流等が活発となり第三文明圏外国同士での結束が強まっていた。

 

「しかし、文明国も勿体無い事をしましたなぁ…アグレッサー級やロデニウスの兵器があればパーパルディアには負けないというのに…」

 

「軍祭を蛮族の祭り、と言っていましたからね。今更出てくる事も無いのでしょう。……そう言えば、文明国が来ているらしいですよ。」

 

「と、いうと…まさかリーム王国ですかな?」

 

「まさか。連中は、我々を見下してプライドを保っているような国ですよ。…パンドーラ大魔法公国らしいです。」

 

「パンドーラ?…何故、パーパルディアの属国が?」

 

「まあ、パンドーラはパーパルディアから脅されて属国になりましたからね。反パーパルディア感情の強さは我々より強い。」

 

「なるほど…パンドーラも形振り構ってはいられないと…」

 

アワン王国とネーツ公国の武官が話している岸壁から少し離れた桟橋、そこに黒いマント姿の女性が居た。

 

「す…すごい…これがロデニウス連邦の魔導船…」

 

彼女の名はプニェタカナ、パンドーラ大魔法公国の若手武官である。

パンドーラ大魔法公国はその名前の通り魔法…つまり魔導技術に優れた国家である。

その魔導技術は列強国であるパーパルディア皇国より優れてはいるものの、如何せん純粋な軍事力では劣っていた。

それゆえ、軍事圧力を掛けられ属国化された。それからというもの、パンドーラ大魔法公国のトップはパーパルディア皇国から派遣された公爵であり、パーパルディアから命令されて様々な魔導技術を開発させられているのだ。

だが、それを良しとしない者も数多く存在する。その一人が彼女、プニェタカナなのだ。

 

「とんでもない技術…船体は…木でも金属でもない…」

 

彼女が何故、パンドーラから遠く離れたフェン王国で開催されている軍祭にやって来たのか。

それは今年の初め頃、アルタラス王国に魔石の買い付けに向かう船に乗った時に激しい時化に巻き込まれた。

どうにか乗り越えはしたのだが、船はマストが折れて航行が不可能な状態になってしまった。

魔信によりアルタラス王国に曳航を要請した結果、救援にきたのがロデニウス連邦からアルタラス王国に提供されていたアグレッサー級フリゲートだった。

そのフリゲートは明らかに其処らの魔導船を凌駕する速度でやって来ると、こちらの船を軽々と曳航していったのだ。

後に、アルタラス海軍の兵士に聞いた所で出てきた名前がロデニウス連邦であった。そして、ロデニウス連邦がフェン王国で開催される軍祭に参加する事を聞き出した。

 

(この魔導船を作る技術があれば…属国から抜け出せるかもしれない!どうにかしてロデニウス連邦に接触しなければ…)

 

プニェタカナが決意した瞬間だった。

 

──ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

港にサイレンが鳴り響いた。




プニェタカナは魔法より関節技の方が得意らしいですよ

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