2025年も色々ありましたが、どうか今年もよろしくお願いします!
──中央歴1643年3月3日午前11時、アルー東方空域──
「エンジン再始動不可!」
「与圧システム機能停止!」
「速度、高度共に維持不可能!」
一番槍を受けたラッシルが乗る1番機は6つある内の2つのエンジンが破壊された事で大混乱に陥っていた。
レシプロ重爆としては誇張無しに世界最高の性能を持つグティマウンだが、その性能を発揮する為に余裕の無い設計となっている。
もちろんエンジンが1基停止したとしても大きな問題はないが、2基…しかも左翼の外側2基が停止したというのはかなり不味い。
グティマウンのエンジンは6000馬力もの出力を推進式で発揮するのだが、その高出力はエンジン停止による偏りが顕著に表れてしまい、超高高度を長く飛ぶ為の長い翼はテコの原理によって推力偏向をより悪化させてしまう為、1番機は常に強い左旋回の力がかかってしまっているのだ。
これを解消する為に右翼のエンジン出力を絞っている為、現在の1番機は実質双発機としてどうにか飛んでいる。
「爆弾投棄!このままでは墜落するぞ!」
「よろしいのですか!?」
「劣等種の攻撃で墜落する方が重大だ!飛べさえすればどうにでもなる!」
「はっ!」
そこに被弾による与圧システム機能の不具合も重なった事により、1番機は高度も速度も維持出来ずに編隊から落伍してしまった。
このままでは墜落は必至…故にラッシルは機を軽くする為に爆弾の投棄を命じた。
「現在高度は!?」
「高度9000…与圧システム機能停止により緩やかに高度4000まで降下します!」
緊急用の酸素マスクを装着しながらそう問い掛けたラッシルに対し、操縦士がそう応える。
与圧が無くなれば機内の空気が薄くなる事はもちろん、気温も下がってしまい命に関わる。
故に高度3000〜4000mまで高度を落とさなければならないが、この高度では敵戦闘機や対空砲の射程内だ。
ハリネズミのように防御銃座を備えたグティマウンと言えど油断は出来ない。
「総員、警戒を怠るな!劣等種の兵器で被弾した上に撃墜されては我々は帝国の汚点として歴史に刻まれてしまうぞ!」
そう乗組員に命じたラッシルは自身も見張りを行うべくコックピットの天井に設けられた天測用の半球窓から空を見上げる。
(な、なんなんだアレは…!?異世界の劣等種共がグティマウンと渡り合える戦闘機を保有しているなんて!)
敵戦闘機がこちらに来ないか警戒しているラッシルであるが、その目は遠くなりゆく味方編隊とその間をちょこまかと飛び回る敵戦闘機に釘付けとなっていた。
高度1万m以上の空気が薄い高空だと言うのにまるで水中を泳ぐ魚のように縦横無尽に敵戦闘機は飛び回り、次々とグティマウンを撃墜している。
近衛兵団でも排気タービンと2000馬力級エンジン、長大な主翼を備えた高高度戦闘機を配備し始めたばかりだが、今繰り広げられている敵戦闘機のような戦闘機動を行えばたちまち失速して大きく高度を失ってしまうだろう。
(いったいどんなエンジンと機体設計をしているのだ!?認めん…認めんぞ!劣等種が優等種たるバルカス民族より優れた技術を持っているなぞ認めん!)
近衛兵団員の例に漏れず民族主義に染まりきっているラッシルは異世界国家が帝国より優れた技術を持っているという事を認められず、顔を真っ赤にして現実逃避する。
しかし、そんな時彼に何とも都合が良い事が起きた。
「っ!あれは!?」
遥か高みで飛び回る敵戦闘機の内1機が防御銃座から放たれる曳光弾の火線に絡め取られた次の瞬間、敵戦闘機が火を噴いて小さな爆発を起こした。
「げ、撃墜した!は…ははは!見ろ、やはり帝国の技術は優秀ではないか!」
空に咲いたパラシュートを嘲りながら指差し、ラッシルは小さな勝利に酔いしれるのだった。
──同日、同空域──
──ヒュィィィィィッ!ドドドドッ!……ボンッ!
「よし、また撃墜したぞ!」
主戦場からやや離れた空域ではフェン王国空軍の小隊が編隊から離れたグティマウンの追撃を行っていた。
「しかしこの弾幕は中々に厄介だな…アズールレーンやトーパ王国との演習で相手にしたB-52やらTu-95にはあんなに機銃は装備されていなかったが…」
無数の防御銃座を持つグティマウンから放たれる弾幕を前にすると強気に突っ込む勇気が削がれてしまう。
しかし、だからと言って弱気になるのは武士の恥だ。
「ふぅー…よしっ!」
今一度覚悟を決めたアインはバレルロールしながら宙返りすると、編隊に戻ろうとするグティマウンと相対した。
──ドドドドッ!ドドドドッ!ドドドドッ!
「よし、やはり正面は手薄!」
グティマウンが正面に向けられる銃座は胴体左右前方と胴体下面前方の物しかなく、特に正面斜め上は胴体上面銃座の射角のせいで前方へは30度以下の俯角がとれないため、そこが手薄なのだ。
「食らうがいい!」
──ドドドドッ!
主翼下に懸架された30mm機関砲を搭載したガンポッドをバースト射撃し、数発の機関砲弾をグティマウンの機首へと叩き込む。
──ボンッ!ボンッ!
大威力の30mm弾が複数直撃したグティマウンは与圧キャビンが破裂し、炸裂した機関砲弾は破片によって乗組員を殺傷した。
特に操縦士及び副操縦士は即死であったのだろう。
コントロールを失ったグティマウンは大きくバンクするとそのまま横転し、その負荷に耐えきれなかった長大な主翼がぽっきりと折れて殆ど細長い胴体だけとなって急速に墜落してしまう。
「ガンポッドはこれで弾切れ、増槽も空だな…下方、よし。注意、ムラマサ1兵装投棄!」
空になったとしてもガンポッドはもちろん、増槽も可能な限り持ち帰るのが望ましいが今はそんな余裕は無い。
少しでも身軽になる為に投棄を決断し、投棄した兵装が味方に当たらないよう無線で注意喚起を行った。
──ガコンッ!
高速飛行に適した細長い流線型のガンポッドと増槽が2基ずつパイロンから切離され、落下する。
これで重量も空気抵抗も大きく減り身軽となった。
後は固定武装の30mm機関砲が2門、各125発だがこれでも少なくないグティマウンを撃墜出来る筈だ。
《む、ムラマサ3!被弾した!被弾した!火災発生…!》
「クラマ、どうした!?」
気を取り直して再度攻撃を仕掛けようとしたアインであったが、無線から鳴り響いた緊急報告を受けて攻撃を中止した。
《敵爆撃機の防御銃座に…ボンッ!うわっ!?火災が…》
「報告は後だ!今は脱出を優先しろ!」
《はっ、申し訳ありません!》
部下であり、小隊内で最も若い『クラマ』の機を探してみれば胴体から火を噴いてヨタヨタと飛ぶ機が見えた。
あれではエンジンも無事ではないだろう。
下手をすればそのまま爆発してしまうかもしれないが、そうなる前にクラマは射出座席で脱出出来たようだ。
キャノピーが外れた次の瞬間には座席がロケットモーターで飛び上がり、墜落してゆく機から十分離れた位置でパラシュートが開いた。
「…ふぅ、無事なようだな」
遠目に見えるクラマは大きく手を振って此方に無事をアピールしている。
あれなら大した怪我も無いだろう。
「各機へ、ムラマサ3が撃墜され脱出した。流れ弾と衝突に可能な限り注意してくれ」
ほっと胸を撫で下ろしたアインは他の味方機への注意喚起を行うと改めてグティマウンへの攻撃を開始するのだった。
今年はグ帝編に一区切りつけるのを目標に頑張りたいですね
あと今年こそアズレンに大和を…